行政事件訴訟法第30条

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法学コンメンタール行政事件訴訟法

条文[編集]

裁量処分の取消し)

第30条
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

解説[編集]

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 原野売渡処分無効確認請求(最高裁判決 昭和42年4月7日)行政事件訴訟法第3条民訴法225条(現第134条)
    裁量処分の無効確認訴訟における無効事由の主張・立証責任
    行政庁の裁量に任された行政処分の無効確認を求める訴訟においては、その無効確認を求める者において、行政庁が右行政処分をするにあたつてした裁量権の行使がその範囲をこえまたは濫用にわたり、しかも、当該瑕疵が重大かつ明白であることを主張および立証することを要する。
  2. 行政処分取消請求(最高裁判決 昭和48年9月14日)地方公務員法第28条
    1. 地方公務員法28条に基づく分限処分と任命権者の裁量権
      地方公務員法28条に基づく分限処分は、任命権者の純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいてされた場合、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して処分理由の有無が判断された場合、あるいは、その判断が合理性をもつものとして許容される限度を超えた場合には、裁量権の行使を誤つたものとして違法となる。
    2. 地方公務員法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」の意義
      地方公務員法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解すべきである。
    3. 地方公務員法28条1項3号該当を理由とする分限処分が降任である場合の任命権者の裁量権
      地方公務員法28条1項3号に該当することを理由とする分限処分が降任である場合には、それが免職である場合に比して、適格性の有無についての任命権者の裁量的判断の余地を比較的広く認めても差支えない。
  3. 行政処分無効確認等、附帯(最高裁判決 昭和52年12月20日) 国家公務員法98条1項/同(昭和40年法律第69号にる改正前のもの)5項、国家公務員法(昭和40年法律第69号にる改正前のもの)82条国家公務員法(昭和40年法律第69号にる改正前のもの)84条国家公務員法(昭和40年法律第69号にる改正前のもの)101条1項、人事院規則14-1(昭和24年5月9日施行)3項
    1. 職員の行為が国家公務員法(昭和40年法律第69号による改正前のもの)98条5項に違反する場合と同法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項違反
      職員の行為が(昭和40年法律第69号による改正前のもの)98条5項に違反する場合と同法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項の違反となることを妨げられない。
    2. 公務員に対する懲戒処分の適否に関する裁判所の審査
      裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである。
    3. 争議行為等の禁止規定違反などを理由としてされた税関職員に対する懲戒免職処分が裁量権の範囲を超えこれを濫用したものとはいえないとされた事例
      勤務時間内の職場集会、繁忙期における怠業、超過勤務の一せい拒否等の争議行為に参加しあるいはこれをあおりそそのかしたことが国家公務員法の争議行為等の禁止規定に違反するなどの理由でされた税関職員に対する懲戒免職処分は、右職場集会が公共性の極めて強い税関におけるもので職場離脱が職場全体で行われ当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたこと、右怠業が業務処理の妨害行為を伴いその遅延により業者に迷惑を及ぼしたこと、右超過勤務の一せい拒否が職場全体に及び業者からも抗議が出ていたこと、職員に処分の前歴があることなど判示のような事情のもとでは、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。
  4. 伊方発電所原子炉設置許可処分取消(最高裁判決 平成4年10月29日)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和52年法第律第80号による改正前のもの)23条,核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和52年法第律第80号による改正前のもの)第24条,民訴法185条(現第247条
    1. 原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法
      原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであつて、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
    2. 原子炉設置許可処分の取消訴訟における主張・立証
      原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟においては、右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものであるが、被告行政庁の側において、まず、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。
    3. 原子炉設置許可の段階における安全審査の対象
      原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解すべきである。
  5. 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件(最高裁判決 平成11年7月19日)道路運送法第9条1項,道路運送法第9条2項1号
    一般乗用旅客自動車運送事業者の道路運送法9条1項に基づく運賃変更の認可申請を却下した地方運輸局長の処分にその裁量権を逸脱し又はこれを濫用した違法はないとされた事例
    平成元年4月1日の消費税法の適用の際に消費税を転嫁するための運賃変更の認可申請をせず、その後も同業他社と同様の運賃変更の認可申請をしなかったため、同業他社の運賃との間に14.2パーセントの格差が生じていた一般乗用旅客自動車運送事業者が、平成3年3月29日、道路運送法9条1項に基づき、消費税転嫁分として3パーセントの値上げを内容とする運賃変更の認可申請をしたところ、地方運輸局長が、右事業者の提出した原価計算書その他の書類に基づき、右申請に係る運賃の変更が同条2項1号の基準に適合するか否かを昭和48年7月26日付け自旅第273号自動車局長依命通達別紙(2)の「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃原価算定基準」に準拠して個別に審査しようとして、右事業者に対して右原価計算書に記載された原価計算の算定根拠等について説明を求めたにもかかわらず、右事業者が運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで右算定根拠等を明らかにしなかったため、地方運輸局長において右事業者の提出した書類によっては右事業者の採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかったなど判示の事実関係の下においては、地方運輸局長がした右申請を却下する旨の処分には、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はない。

前条:
第29条
(執行停止に関する規定の準用)
行政事件訴訟法
第2章 抗告訴訟
第1節 取消訴訟
次条:
第31条
(特別の事情による請求の棄却)
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