高等学校化学I/発展項目

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参考: ナノメートルの測定の歴史[編集]

(※ 高校範囲外)

そもそも、ナノメートルなどの長さの測定方法は、どういうものだろうか。この節では、その歴史を話す。物理Iの回折格子(かいせつ こうし)などの知識が必要である。

ドイツのレンズの研磨工だったフラウンホーファーが、回折格子(かいせつ こうし)を作るために細い針金を用いた加工装置を製作し、その加工機で製作された回折格子を用いて、光の波長の測定をし始めたのが、研究の始まりである。1821年にフラウンホーファーは、1cmあたり格子を130本も並べた回折格子を製作した。[1]

また、1870年にはアメリカのラザフォードがスペキュラムという合金を用いた反射型の回折格子を製作し(このスペキュラム合金は光の反射性が高い)、これによって1mmあたり700本もの格子のある回折格子を製作した。

より高精度な波長測定が、のちの時代の物理学者マイケルソンによって、干渉計(かんしょうけい)というものを用いて(相対性理論の入門書によく出てくる装置である。高校生は、まだ相対性理論を習ってないので、気にしなくてよい。)、干渉計の反射鏡を精密ネジで細かく動かすことにより、高精度な波長測定器をつくり、この測定器によってカドミウムの赤色スペクトル線を測定し、結果の波長は643.84696nmだった。マイケルソンの測定方法は、赤色スペクトル光の波長を、当時のメートル原器と比較することで測定した。[2]

なお、現代でも、研究用として干渉計を用いた波長測定器が用いられている。メートル原器は、マイケルソンの実験の当時は長さのおおもとの標準だったが、1960年に クリプトン86原子のスペクトル線の波長を用いた定義に変更され、1983年に真空中の光の速さを用いた現在の定義に変更されました(2019年にも変更されましたが、実質的な定義は同じで基礎となる物理定数の位置づけに変化がありました)。

メートルの定義
真空中の光の速さ c を単位 m s−1 で表したときに、その数値を 299792458 と定めることによって定義される。
ここで、秒はセシウム周波数 ∆νCs によって定義される

近年の精密なアボガドロ定数の測定のさい、シリコン球の密度を測る必要があるが、そのさい、シリコン球の大きさの長さ(単位:メートル)を測る必要があり、そのシリコン球の大きさの測定精度をナノメートル精度で測る必要がある。そのさい、このような原理を応用したレーザー干渉計(レーザーかんしょうけい)が用いられている。

註:2019年、単位諮問委員会 (CCU)はアボガドロ定数 NA の定義値を 6.02214076×1023 毎モル(mol−1) とし、これによりアボガドロ数に不正確さはなくなりました。

電子雲[編集]

電子の、さまざまな軌道のパターン
(※ 電子雲そのものについては、検定教科書でも発展項目として扱われ、高校の範囲内。)

電子雲の形も、方向に、さまざまなパターンがある。市販の参考書や資料集などを見ても、s軌道とかp軌道とか、なんだか色々と掛かれている。物理っぽく言うと、これは、じつは、3次元の「振動」(しんどう)のパターンなのだ。

高校の物理で習う弦の振動は、1次元の波である。高校の原子物理で習う物質波の波も、円周として扱うので、1次元として扱える。

2次元の振動とは、太鼓の膜の振動のようなパターンである。膜は2次元なので、振動波形は360°ぶん1回転すると、波形が元に戻るという周期的な条件を持っている。

(※ ウィキペディアに「膜振動」の画像が無いので、外部のサイトで画像を探して見てきてください。)

2次元の振動には、このような周期的な条件があるため、さまざまなパターンの波形がある。

電子雲の振動パターンに限らず、実は、肉眼で見られる太鼓の膜のような2次元の振動でも、さまざまな振動パターンがある。

周囲を固定した膜の振動の例。2次元の振動の例である。

高校の物理では、水面の波で、二次元の波をあつかうことは、あるかもしれない。 しかし高校物理で、二次元の「振動」(「波動」ではなく)をあつかうことは、まず無いはずだ。


そして、3次元の振動の具体例が、原子の周囲での電子の軌道なのだ。そして、その電子の振動のありかたを示す方程式が、理系の大学などで習うシュレーディンガーの方程式である。


1次元の弦では、固定端の弦では、端部は固定され、弦は束縛されていた。2次元の膜でも、太鼓の膜のように、膜の端は固定されて、膜は束縛されている。3次元の電子雲では、原子核の陽子による静電気力などの束縛が、固定端の代わりをして、電子雲を束縛する。

電気には、電気エネルギーというエネルギーがあった。ところで、電気は、電子雲というように、振動でもある。

そもそも弦の振動にも、当然ながらエネルギーは存在する。エネルギーとは、他のものを動かせる能力のことである。ギターの弦をかなでると音がするのも、弦の振動にはエネルギーがあって、その弦の振動が空気をふるわせるからである。

弦だって、運動している。ギターの弦などで、音をかなでれば、振動して動いている弦が目に見える。 振動だって、運動の一種である。しかし、弦の振動のもつ運動エネルギーの計算は、高校物理では扱わない。

高校生は、まだ2次元以上の「振動」を扱えるための数学を習ってない。大学で、そのような数学を習うことになる。そのような2次元以上の振動を扱える数学とは、偏微分・重積分や、直交座標から円柱座標・球座標への座標系への変換と、座標系を変換したときの物理学の微分方程式の変換、ついでに、そのように微分方程式を座標変換して導かれるベッセル関数やルシャンドル関数などといった数学である。

日本の独楽

そして高校生は、物理の学力も、これからも鍛えつづける必要がある。高校の物理では、コマの回転運動は、あつかえない。コマとは、民芸品の、あのコマである。

コマを回すと、手をはなしても、しばらく回りつづける。手元にコマがなければ、コインを回すなどして、代用しても良いだろう。

さて、このコマの回転のような実験事実があり、コマのように広く知られた民芸品になっていても、高校物理では、回転運動の保存法則は、あつかえない。

ちなみに、このような、回転運動の保存法則を、「角運動量保存の法則」(かくうんどうりょう ほぞん の ほうそく)という。当然、角運動量(かくうんどうりょう)という物理量も、存在している。

電子雲などのように、3次元の振動・波動では、角運動量の計算をおこなう必要がある。

そもそも、高校で習う波にも、たとえば水面波のような波にも、じつは運動量はある。くわしめの、大学受験用の物理参考書などを何冊か読み込めば、ふつうの波の運動量の計算についても書いてあるかもしれない。

このように、ふつうの波や振動にも、エネルギーや運動量があるのだから、当然、電子雲にも、エネルギーや運動量がある。

化学の仕事をめざす高校生は、高校物理も身につけるの必要がある。このように化学は、物理学とも密接に関わっている。化学であつかう物理は、けっして電気や原子や熱の分野だけではない。力学も、大学の化学では使うのだ。だから、けっして「力学は化学とは無関係」などとは勘違いしないようにいよう。

  1. ^ 『現代総合科学教育大系 SOPHIA21 第7巻 運動とエネルギー』、講談社、発行:昭和59年4月21日第一刷発行発行
  2. ^ 川上親考ほか『新図詳エリア教科辞典 物理』、学研、発行:1994年3月10日新改訂版第一刷、P.244 および P.233