高等学校化学II/不確定性原理と化学結合

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発展的事項[編集]

化学結合における不確定性原理[編集]

(この節は高校レベルを超える説明なので、数回ほど読んでも理解できないなら、この節を終わらして、次の節や次のページへと読み進んでください。)

正弦波などの波の波形は、形が途切れていないし、尖ってもいないので、連続的である。しかし、一般に、波長の異なる正弦波を重ねると、波形がだんだん尖ってくる。(波長が2種類の場合は、いわゆる「うなり」という現象で、「うなり」は高校物理でも扱う。)

とても多数の種類の波長の波を重ねると、波形は非常に鋭く尖り、まるでパルス波形のような尖った離散的な性質の強い波形になってくる。 このような現象を、波の不確定性などという。

さて、人間にとって粒子に見える1個の電子は、実は多くの波長が重なって、粒子としての存在を留めているのに近い状態にある。たとえるなら、パルス波の尖った部分を、1個の粒子として認識しているようなものである。

注目しているある1個の電子以外が、なんらかの外部の要因によって、その1個の電子が狭い場所に閉じ込められようとすると、波長の長い波は狭い場所には入れないから、電子を構成する波長の種類が減ってしまう。すると、その結果、正弦波としての性質が強まってしまい、広がろうとする。 その結果、電子の位置を決定しようとすると、電子が広がろうとするため、電子の速度(より正確には電子の運動量)が増えてしまい、結局、電子の位置は、完全に正確には決定できなく測定限界が存在するという物理法則が知られている。 (ただし原子の位置の測定値に、多少の誤差が伴っても良いなら、位置を測定できる。)

電子の速度を測定しようとした場合も、同様に、測定限界が存在することが知られている。

このような現象を、電子の不確定性と言い、電子等の原子規模の粒子には、このような不確定性があるという法則を、ハイゼンベルグの不確定性原理という。ハイゼンベルグとは提唱者の物理学者の名前である。

俗には、「電子は、原子サイズでは波と粒子との性質を持つ。」というが、より正しく言うと、そもそも人間の生活のサイズでも、多くの種類の波長の正弦波が足し合わされて(数学的には、単なる足し算)、合成波になると、合成の元となった波形の周波数(または波長)の種類が多いほど、しだいにパルス状に波形が尖る現象がある。つまり、合成波が尖るほど、その合成の元となった周波数の種類が増える。(ただし、同じ周波数の波を足しあわせても、波形は尖っていかない。合成波の波形を尖らすには、ちがう周波数の波を足しあわせていく必要がある。)

いっぽう、合成のもととなった周波数が少なくなると、尖らなくなる。

そして、波形の尖った状態を「粒子的」あるいは「離散的」とみなすと、これが不確定性原理についての数学的な背景思想に近づいていく。

つまり、粒子とは、合成波の尖ったような状態にすぎない、とも、数学的には見なせるわけだ。

この現象のように、粒子と波は、なにも排反的な現象ではない。

合成波がとがって粒子的である場合を、位置が限定的であるとみなそう。すると、たんに合成波では、位置と周波数は、同時には限定できない、というだけの現象が、数学的にみた場合の、不確定性の現象である。

電子の不確定性原理とは、たんに原子サイズでは、人間サイズでは無視していた「正弦波の不確定性」という数学的な定理が、原子サイズで電子を取り扱う際には無視できなくなるという物理現象および物理法則である。


原子の周囲での電子軌道の説明図を書籍などで調べると、電子の分布が広がって描かれていたり、電子の軌道を「電子雲」などと呼んだりするのは、不確定性のため、一箇所や一直線上には電子軌道は存在できないからである。

電子雲と振動・波動[編集]

電子の、さまざまな軌道のパターン

電子雲の形も、方向に、さまざまなパターンがある。市販の参考書や資料集などを見ても、s軌道とかp軌道とか、なんだか色々と掛かれている。物理っぽく言うと、これは、じつは、3次元の「振動」(しんどう)のパターンなのだ。(もっと正確にいうと、数学的には電子雲は複素数をつかって表されるので、6次元(3×2=6 。 xyzの3次元方向を、各方向につき、実数軸と虚数軸で2倍されるので。)の振動になる。そして、次元が3次元を超えるので、もはや振動の様子を図に表すことはできない。)

シュレーディンガー方程式は、複素数をもちいて表される。このシュレーディンガー方程式をある境界条件をつけて解くと、s軌道やp軌道などに相当する解が得られるのである。


さて、高校の物理で習う弦の振動は、1次元の波である。高校の原子物理で習う物質波の波も、円周として扱うので、1次元として扱える。

2次元の振動とは、太鼓の膜の振動のようなパターンである。膜は2次元なので、振動波形は360°ぶん1回転すると、波形が元に戻るという周期的な条件を持っている。

(※ ウィキペディアに「膜振動」の画像が無いので、外部のサイトで画像を探して見てきてください。)

2次元の振動には、このような周期的な条件があるため、さまざまなパターンの波形がある。

電子雲の振動パターンに限らず、実は、肉眼で見れる太鼓の膜のような2次元の振動でも、さまざまな振動パターンがある。

周囲を固定した膜の振動の例。2次元の振動の例である。
2次元の振動の例では、理論上はこのような振動も可能である。

高校の物理では、水面の波で、二次元の波をあつかうことは、あるかもしれない。 しかし高校物理で、二次元の「振動」(「波動」ではなく)をあつかうことは、まず無いはずだ。


そして、3次元(より正確には複素数のため6次元)の振動の具体例が、原子の周囲での電子の軌道なのだ。そして、その電子の振動のありかたを示す方程式が、理系の大学などで習うシュレーディンガーの方程式である。


1次元の弦では、固定端の弦では、端部は固定され、弦は束縛されていた。2次元の膜でも、太鼓の膜のように、膜の端は固定されて、膜は束縛されている。3次元の電子雲では、原子核の陽子による静電気力などの束縛が、固定端の代わりをして、電子雲を束縛する。

電気には、電気エネルギーというエネルギーがあった。ところで、電気は、電子雲というように、振動でもある。

そもそも弦の振動にも、当然ながらエネルギーは存在する。エネルギーとは、他のものを動かせる能力のことである。ギターの弦をかなでると音がするのも、弦の振動にはエネルギーがあって、その弦の振動が空気をふるわせるからである。

弦だって、運動している。ギターの弦などで、音をかなでれば、振動して動いている弦が目に見える。 振動だって、運動の一種である。しかし、弦の振動のもつ運動エネルギーの計算は、高校物理では扱わない。

高校生は、まだ2次元以上の「振動」を扱えるための数学を習ってない。大学で、そのような数学を習うことになる。そのような2次元以上の振動を扱える数学とは、偏微分・重積分や、直交座標から円柱座標・球座標への座標系への変換と、座標系を変換したときの物理学の微分方程式の変換、ついでに、そのように微分方程式を座標変換して導かれるベッセル関数やルシャンドル関数などといった数学である。


コマの運動とスピンの類推
日本の独楽

そして高校生は、物理の学力も、これからも鍛えつづける必要がある。高校の物理では、コマの回転運動は、あつかえない。コマとは、民芸品の、あのコマである。

コマを回すと、手をはなしても、しばらく回りつづける。手元にコマがなければ、コインを回すなどして、代用しても良いだろう。

さて、このコマの回転のような実験事実があり、コマのように広く知られた民芸品になっていても、高校物理では、回転運動の保存法則は、あつかえない。

ちなみに、このような、回転運動の保存法則を、「角運動量保存の法則」(かくうんどうりょう ほぞん の ほうそく)という。当然、角運動量(かくうんどうりょう)という物理量も、存在している。

電子雲などのように、3次元の振動・波動では、角運動量の計算をおこなう必要がある。

そもそも、高校で習う波にも、たとえば水面波のような波にも、じつは運動量はある。くわしめの、大学受験用の物理参考書などを何冊か読み込めば、ふつうの波の運動量の計算についても書いてあるかもしれない。

このように、ふつうの波や振動にも、エネルギーや運動量があるのだから、当然、電子雲にも、エネルギーや運動量がある。

化学の仕事をめざす高校生は、高校物理も身につけるの必要がある。このように化学は、物理学とも密接に関わっている。化学であつかう物理は、けっして電気や原子や熱の分野だけではない。力学も、大学の化学では使うのだ。だから、けっして「力学は化学とは無関係」などとは勘違いしないようにいよう。

分子軌道[編集]

同心円的なシンプルな2次元の膜の振動の例。化学結合でいうs軌道は、このようなシンプルな振動モードに対応する。
2次元の振動の例では、理論上はこのような振動も可能である。p軌道やd軌道などは、このような複雑な振動モードに対応する。

高校化学の発展項目などで、「s軌道」とか「p軌道」とかを習ったと思うが、あれはどうやって導出するかというと、シュレーディンガー方程式を解くと、方程式の解の解釈として、「s軌道」などのような概念が必要になるのである。

で、結局、「s軌道」「p軌道」とかは何なのかを結論から話すと、高校物理でいう、固有振動のモードである。高校物理では「弦の振動」などといった単元で、「基本振動」とか「3倍振動」とかの固有振動のモードを習ったと思う。

シュレーディンガー方程式を解くと、固有振動のモードのような解が出て来るのである。

1倍振動とか3倍振動やn倍振動などに対応して、「s1軌道」とか「s2軌道」のような物理量が導出できるのである。

で、化学結合は3次元的(より正確には複素数のため6次元)な振動の結果なので、前の節の平面の振動で説明した例のように、(シュレーディンガー方程式を解いた結果の)化学結合の振動解では、同心球的なシンプルな振動解のほかに、複雑な振動解の理論的には存在する。この同心的ではない複雑な振動解が、p軌道やd軌道などである。

いっぽう、s軌道は、同心球的な解である。

で、この「s軌道」とか「p軌道」のn倍振動などのモード数(を整数倍したものが)が、周期表のそれぞれの電子殻の最大価電子数に、うまいこと比例してるのである。


高校物理では「弦の振動」は波動・振動の現象であり、粒子ではなかった。

いっぽう、価電子は個数を「1個」とか「2個」とか数えられるので、あきらかに粒子である。

しかし、いま私達は、さっき学んだばかりの知識として、シュレーディンガー方程式の解についての固有振動モードが、電子殻の最大価電子数に対応する事を知った。

考えてみれば、量子力学を知った後の後知恵(あとぢえ)であるが、高校物理の弦の振動ですら「基本振動(1倍振動)」とか「3倍振動」とか、たとい振動現象であっても、「1」とか「3」とか整数的に数えられるのであり、連続的な現象と離散的な現象とが『振動・波動』現象では共存してるのである。