刑法第238条
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条文
[編集](事後強盗)
- 第238条
- 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
解説
[編集]- 趣旨と効果:
- 刑事学観点(窃盗後に暴行・脅迫が加えられることが多い)からの「人身の安全の保護」(大谷251)または「実質的に見て暴行・脅迫によって財物を得たと評価しうる」(西田=橋爪210、山中317など)から、強盗と同じく処断するという趣旨/法定刑のみでなく、他の罰条(たとえば240条・241条)との関係でも強盗として処理する」(西田=橋爪211)
- 主体:「窃盗」=窃盗犯人
- 強盗も含むか?(肯定説:平野法セ213号52、山口333/否定説:大谷251、前田207、高橋292、山中319など)
- 未遂も含むか?:窃盗既遂犯人/窃盗未遂犯人:窃盗」には窃盗未遂犯も含まれ、事後強盗未遂罪とは窃盗が未遂に終わった場合をいう(窃盗が既遂で暴行・脅迫が未遂の場合を含むとする説もある)。ドイツの強盗的窃盗罪において窃盗が既遂の場合しか処罰されないのに日本の事後強盗罪において窃盗が未遂の場合にも処罰される理由は、ドイツの場合窃取した目的物の占有を保持するための暴行・脅迫を処罰する趣旨で強盗的窃盗罪が規定されているのに対して、日本の場合それだけでなく「逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するため」の暴行・脅迫を処罰する趣旨で事後強盗罪が規定されているからである。
- 目的:①財物の取り返し防止/②逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅
- 目的の達成:不要(大判昭和7・6・9刑集23巻1頁)/「刑法第238条の規定は窃盜が財物の取還を拒ぎ又は逮捕を免かれ若しくは罪跡を湮滅する為暴行又は脅迫を加へた以上被害者において財産を取還せんとし又は加害者を逮捕せんとする行爲を爲したと否とに拘はらず強盜を以つて論ずる趣旨であると解するのが妥当である」(最判昭和22・11・29刑集1巻40頁→目的が現認できる状況が必要(曽根、中山=松宮148)
- 行為:窃盗後の暴行・脅迫
- 時間的・場所的接着性: 以下のような判例・裁判例がある。
- ① 広島高判昭28・5・27判特31号15頁:窃盗犯人Xが、窃盗の現場から逃走し、30分後、1km離れた場所で、現場からの電話連絡で駆けつけた被害者Vに対して財物の奪還阻止目的で暴行を加えた。
- ② 最決平14・2・14刑集56巻2号86頁 :XがA方で指輪を窃取後、犯行現場の真上の天井裏に潜んでいたが、窃取の約1時間後に帰宅したAに察知され、犯行の約3時間後に通報により駆けつけた警察官Bに発見され、逮捕を免れるためにナイフでBに切りつけた。
- ③ 千葉地木更津支判昭53・3・16判時903号109頁 :Xが自宅でAと一緒に酒を飲み、Aが寝入った後に、Aの背広から財布を窃取し、その後間もなく、窃盗の罪責を隠滅するためAに対する殺意を抱いたが、友人らが来訪したため、友人らが帰った後、窃盗から約11時間後にAを殺害した。
- ④ 最判平16・12・10刑集58巻9号1047頁:Xが、A方で財布等を窃取し、だれからも発見、追跡されることなく、自転車で1km離れた公園まで行ったが、盗んだ現金を確認したところ3万円しかなかったため、再度A方に入ろうとして、最初の窃盗の約30分後にA方の玄関を開けようとしたところ、家人Bに見つかり、逮捕を免れるためにナイフでBを脅迫した。
- ⑤ 東京高判昭27・6・26判特34号86頁:窃盗犯人Xが、窃盗現場から200m離れた道路上で、犯行とは無関係に職務質問されそうになったことから逮捕を免れるために暴行した。
- ⑥ 最決昭54・11・19刑集33巻7号710頁:Xは、事務所等に忍び込んで窃盗を働き、もし発見されたら脅迫を加えて盗品の取還を防ぎ、逮捕を免れようと考えて、登山ナイフや模造拳銃を所持して徘徊した。
- ⑦ 最決昭和34・3・23刑集13巻3号391頁
- ⑧京都地判昭和51・10・15判月8巻9=10号431頁
- 暴行・脅迫が窃盗行為と時間的・場所的に接着した機会に行われたために、被害者等による財物の取り返し、犯人の逮捕の可能性が存在し、あるいは証人となる被害者や目撃者が近くにいる状況があることが必要(中山=松宮149頁)
- 暴行・脅迫の程度:強盗罪と同程度(山口233)
- 暴行・脅迫の相手方:窃盗の被害者に限定されない
- 未遂と予備:事後強盗の未遂→窃盗未遂(判例・通説)
- 事後強盗の予備
- 判例:最決昭和54・11・19刑集33巻7号710頁(肯定説)
- 学説:
- ・肯定説(団藤598、大谷265、前田218、井田306、西田=橋爪217[改説]、山口236[疑問も留保])
- ・否定説(大塚237、内田284、曾根136、中森127、中山=松宮161):実質的には窃盗予備の処罰
- 「条件的な目的の強固さという主観的基準に傾くおそれ」(中山=松宮161頁)
- 共犯:
- 事後強盗の共犯
- ・身分犯説
- ・・構成的身分犯説(大阪高判昭和62・7・17判時1253号141頁[傍論]、前田):事後強盗の共犯
- ・・加減的身分犯説(東京地判昭和60・3・19判時1172号155頁;新潟地判昭和42・12・5下刑集9巻12号1548頁、大谷、曾根、松宮):暴行・脅迫の共犯
- ・結合犯説(中森128、山中324、山口238、西田=橋爪218)
- ・・承継的共犯肯定説:事後強盗の共犯
- ・・否定説:暴行脅迫の共犯
- 罪数:
- 強盗後の事後強盗: 東京高判昭和54・6・22東高刑特報30巻6号91頁(高橋293頁注39):全体として236条の強盗一罪 →主体
参照条文
[編集]- 刑法第243条(未遂罪)
- 未遂は、罰する。
- 盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(盗犯等防止法)第2条
- 常習として左の各号の方法に依り刑法<略>第238条<略>の罪又は其の未遂罪を犯したる者に対し<略>強盗を以て論ずべきときは7年以上の有期拘禁刑に処す
- 兇器を携帯して犯したるとき
- 2人以上現場に於て共同して犯したるとき
- 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入して犯したるとき
- 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入して犯したるとき
- 常習として左の各号の方法に依り刑法<略>第238条<略>の罪又は其の未遂罪を犯したる者に対し<略>強盗を以て論ずべきときは7年以上の有期拘禁刑に処す
- 盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第3条
- 常習として前条【盗犯等防止法第2条】に掲げたる刑法各条の罪又は其の未遂罪を犯したる者にして其の行為前10年内に此等の罪又は此等の罪と他の罪との併合罪に付3回以上6月の拘禁刑以上の刑の執行を受け又は其の執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例に依る
判例
[編集]- 窃盜、住居侵入、強盗傷人(最高裁判所判決 昭和33年10月31日)刑法240条,刑訴法213条,刑訴法214条
- 刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる事例。
- 窃盗犯人が現行犯として被害者に逮捕せられ警察官に引き渡されるまでの間に、逮捕状態を脱するため暴行をすることも、刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる
- 強盗致傷、窃盜(最高裁判所判決 昭和34年3月23日)刑訴法213条,刑訴法214条
- 刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる事例。
- 窃盗犯人が、進行中の電車内で現行犯として車掌に逮捕され、約5分経過後到着駅ホームを警察官に引渡のため連行されている際に、逃走を企て右車掌に暴行したときは、刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる。
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