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民法第94条

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虚偽表示 から転送)

法学民事法民法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

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条文

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虚偽表示

第94条
  1. 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
  2. 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

解説

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94条1項

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相手方と通謀してした虚偽の意思表示は「無効とする」と規定する。無効な法律行為は、119条に規定されるとおり、「効力を生じない」し追認もできない。 法律行為の無効の立証責任は意思表示をした者が負う。

94条2項

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通謀虚偽表示の無効は善意の第三者には対抗できないと規定する。したがって、94条1項の意思表示は、当事者間及び第三者との関係では無効だが、善意の第三者との関係では有効であるとみなされることになる。

たとえば、AとBが通謀してA所有の不動産をBに売却し、所有権移転登記も済ませたとする。この売買契約はAB間では無効である(94条1項)。しかし、Bが事情を知らないCにこの不動産をさらに転売した場合、Aは、AB間の売買契約が無効であることをCに対して主張できない。これをCの側から見ると、AB間では無効であるはずの売買契約が、善意のCにとっては有効であるとみなされ、A→B→Cという物権変動が生じることになる。(AもBも、Cに対してはA→Bの物権変動の無効を主張できない、というのが、94条2項の意味)

「第三者」の範囲

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「第三者」の意味を文理解釈すると、「当事者以外のすべての者」であるということになる。しかし、94条2項の趣旨が真の所有者の犠牲において虚偽の外観を信頼した者を保護する点にある以上、それではあまりに広すぎることになる。よって「第三者」の範囲は限定的に解釈されている。

典型的には、上記の例でいうCのように、仮装売買の目的物の転得者が「第三者」であるとされる。

悪意の第三者からの善意の転得者は、「善意の第三者」に当たるとされる(最高裁判所第二小法廷判決 昭和45年07月24日)。たとえば、AB間に虚偽の売買があり、Bから目的物を譲渡されたCが悪意だったとすれば、Cは保護されないが、Cからさらに目的物を譲渡されたDは、善意であれば保護される。

代理行為で代理人と相手方での通謀虚偽表示の場合は、本人は善意であっても「第三者」の地位を取得しない(101条1項)。

「善意」の意義

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「善意」とは、消極的不知を意味する語であるが、ここでは虚偽表示を知らないことである。「善意」の立証責任は虚偽表示による無効を争う者がおう。 しかし、有力説は無過失を要求する。この説は、信頼した外観の存在を第三者が証明すれば無過失が推定される(事実上の推定)とする。

94条2項の類推適用

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94条2項は、当事者間に虚偽の意思表示があったことを前提とする。しかし、判例によって、当事者間に虚偽の意思表示がなかった場合にもこの条文を類推適用する判例法理が生まれている。

94条2項の類推適用が必要になる理由は、不動産には動産と異なり即時取得(192条)の規定がないからである。すなわち、動産には取引の安全を確保するため、192条によって、権利の外観を信頼した者には、取引行為によって所有権を有効に取得させるという規定が置かれている。これと同様の保護を不動産の場合にも与える必要から、94条2項を類推適用する法理が生まれた。

類推適用における「第三者」の要件

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ただし、94条2項の類推適用で保護される「第三者」と認められるためには、通謀虚偽表示の第三者の場合とは異なる要件が必要とされるのが一般的であり、またその要件も学説上対立がある。

  • 善意・悪意:第三者は「善意」であることを必要とする説が一般的である。
  • 過失の有無:第三者は「無過失」であることを要するとする説と、過失があっても保護されるとする説がある。「無過失」を主張する説は192条の要件とのバランスを根拠とする。
  • 登記の有無:第三者は登記を要するとする説と、ACの関係は前主・後主の関係だから必要ないとする説がある。
  • 仮装譲渡人の主観的要件:意思表示がないことを前提にしているが、虚偽の意思表示に等しい何らかの帰責性を要求する説が一般的である。

関連条文

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判例

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  1. 登記抹消請求(最高裁判所第二小法廷昭和41年03月18日)
    民法第94条第2項の類推適用を認めた事例
    未登記の建物の所有者甲が、乙にその所有権を移転する意思がないのに、乙の承諾を得て、右建物について乙名義の所有権保存登記を経由したときは、民法第94条第2項を類推適用して、甲は、乙が右建物の所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三者に対抗することができないものと解すべきである。
  2. 共有持分権移転登記手続等請求(最高裁判所第二小法廷判決 昭和42年10月31日)
    民法第九四条第二項の善意の第三者が不動産の所有権取得登記をする前に処分禁止の仮処分登記がされた場合の法律関係
     甲が乙に不動産を仮装譲渡し、丙が善意で乙からこれを譲りうけた場合であつても、丙が所有権取得登記をする前に、甲からの譲受人丁が乙を債務者とし該不動産について処分禁止の仮処分登記を経ていたときは、丙はその所有権取得を丁に対抗することができない。
  3. 土地所有権移転登記手続請求 (最高裁判所第三小法廷昭和44年05月27日)民法第177条
    甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合に甲は丙に対して登記の欠缺を主張することができるか
    甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し、丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合においては、甲は、丙に対して、登記の欠缺を主張して右不動産の所有権の取得を否定することはできない。
  4. 所有権確認等請求(最高裁判所第二小法廷判決 昭和45年07月24日)
    1. 不動産の所有者が他人名義を使用して不実の登記を経由した場合における民法94条2項の類推適用
      不動産の所有者甲が、乙にその所有権を移転する意思がないのに、乙名義を使用して他からの所有権移転登記を受けたときは、右登記について乙の承諾がない場合においても、民法94条2項を類推適用して、甲は、乙が不動産の所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三者に対抗することができないものと解すべきである。
    2. 民法94条2項にいう善意の第三者
      民法94条2項にいう第三者とは、虚偽表示の当事者またはその一般承継人以外の者であつて、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者をいい、甲乙間における虚偽表示の相手方乙との間で右表示の目的につき直接取引関係に立つた丙が悪意の場合でも、丙からの転得者丁が善意であるときは、丁は同条項にいう善意の第三者にあたる。
  5. 占有妨害排除家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和45年09月22日)
    不実の所有権移転登記が所有者の承認のもとに存続せしめられていたものとして民法94条2項を類推適用すべきものとされた事例
    不動産の所有者甲が、その不知の間に甲から乙に対する不実の所有権移転登記の経由されたことを知りながら、経費の都合や、のちに乙と結婚して同居するようになつた関係から、抹消登記手続を四年余にわたつて見送り、その間に甲において他から金融を受けた際にもその債務を担保するため乙所有名義のまま右不動産に対する根抵当権設定登記が経由されたような事情がある場合には、民法94条2項を類推適用し、甲は、不動産の所有権が乙に移転していないことをもつて、その後にこれを乙から買受けた善意の第三者丙に対抗することができないものと解すべきである。
  6. 第三者異議(最高裁判決 昭和48年06月28日)
    未登記建物の所有者においてその建物が固定資産課税台帳上他人の所有名義で登録されていることを承認していた場合と民法94条2項の類推適用
    未登記建物の所有者は、その建物が固定資産課税台帳上他人の所有名義で登録されていることを知りながら、これを明示または黙示に承認していた場合には、民法94条2項の類推適用により、右名義人が所有権を有しないことを善意の第三者に対抗することができない。
  7. 請求異議等請求(最高裁判決 昭和50年04月25日)
    民法94条2項にいう善意の第三者
    民法94条にいう第三者とは、虚偽表示の当事者又はその一般承継人以外の者であつて、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者をいい、甲乙間における虚偽表示の相手方乙との間で右表示の目的につき直接取引関係に立つた丙が悪意であつても、丙からの転得者丁が善意であるときは、丁は同条項にいう善意の第三者にあたる。
  8. 土地建物所有権移転登記抹消登記手続(最高裁判例 昭和55年09月11日)民法第376条1項,旧不動産登記法第146条1項
    民法第94条2項所定の第三者の善意の判定時期
    民法第94条2項所定の第三者の善意の存否は、同条項の適用の対象となるべき法律関係ごとに当該法律関係につき第三者が利害関係を有するに至つた時期を基準として決すべきである。
  9. 所有権移転登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決 平成18年02月23日)民法第110条
    不実の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があるとして民法94条2項,110条を類推適用すべきものとされた事例
    不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていた甲が,Xから交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき甲への不実の所有権移転登記を了した場合において,Xが,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたって甲に預けたままにし,甲の言うままに上記印鑑登録証明書を交付した上,甲がXの面前で登記申請書にXの実印を押捺したのにその内容を確認したり使途を問いただしたりすることなく漫然とこれを見ていたなど判示の事情の下では,Xには,不実の所有権移転登記がされたことについて自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があり,Xは,民法94条2項,110条の類推適用により,甲から当該不動産を買い受けた善意無過失のYに対し,甲が当該不動産の所有権を取得していないことを主張することができない。

前条:
民法第93条
(心裡留保)
民法
第1編 総則

第5章 法律行為

第2節 意思表示
次条:
民法第95条
(錯誤)
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