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民法第488条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

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(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)

第488条
  1. 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
  2. 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
  3. 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
  4. 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第1項又は第2項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
    1. 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
    2. 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
    3. 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
    4. 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

改正経緯

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2017年改正により、改正前第489条を吸収し以下のとおり改正。

  1. 見出し
    • (改正前)弁済の充当の指定
    • (改正後)同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当
  2. 第1項
    • (改正前)弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは
    • (改正後)弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)
  3. 第4項
    改正前、第489条(法定充当)を文言変更なく取り込み。

解説

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本条から民法第491条までは、「弁済の充当」について定める。

弁済の充当とは、債務者が同一債権者に対して同種の数個の債務を負担しており、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りない場合に、いずれの債務に弁済をあてて債権を消滅させるかという問題をいう。

充当の順は以下のとおりである。

  1. 弁済の充当の順序に関する合意があるとき
    その順序に従う。(民法第490条
  2. 合意がない場合
    1. 元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(民法第489条
      費用→利息→元本 の順で充当する。
      • 費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない場合
        以下(2-2)による。
    2. その他の場合(民法第488条
      1. 弁済者が指定
      2. 弁済者の指定がなければ、受領者が指定、但し、弁済者は異議を申し立てられる。
        • 弁済者が異議を述べると弁済者が指定するのではなく法定充当になる(通説)。2-2-1で指定しないので、その機会を喪失したと解すべき。
      3. 受領者の指定がない、又は弁済者が異議を申し立てた場合は、以下の順による(法定充当)。
        1. 弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるもの
          • 履行遅滞の発生を回避する。
        2. 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いもの
          • 「債務者のために弁済の利益が多いもの」とは、より多額の担保のついた債務である(通説)。
            (例) 優先する債務>劣後する債務
            • 利息付き債務>無利息債務 - さらに、利率の大小で序列される。
            • 単独債務>連帯債務
            • 抵当権等物的担保権付きの債務>無担保債務
            各事情を総合的に評価し判断(判例 最判昭和29年7月16日民集8-7-1350。一般に担保付き債権は無担保のものより金利が低いなど、各事情が相反する場合も多い)。
        3. 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきもの
        4. さらに、弁済期も同一な場合は、各債務の額に応じる。

参照条文

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相殺の充当

判例

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  1. 不当利得請求事件(最高裁判決 平成15年07月18日)利息制限法第1条1項,利息制限法第2条,利息制限法第3条,民法第136条2項,旧・民法第489条(現本条),旧・民法第491条(現・民法第489条
    同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
    同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条(旧)及び491条(旧)の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。
  2. 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件(最高裁判決 平成19年02月13日)利息制限法第1条1項
    貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否
    貸主と借主との間で継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1の貸付けに係る過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されない。
  3. 損害賠償等請求事件(最高裁判決 平成19年06月07日)利息制限法第1条1項
    カードの利用による継続的な金銭の貸付けを予定した基本契約が同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には弁済当時他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例
    同一の貸主と借主との間でカードを利用して継続的に金銭の貸付けとその返済が繰り返されることを予定した基本契約が締結されており,同契約には,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算するなどの条項があって,これに基づく債務の弁済が借入金の全体に対して行われるものと解されるという事情の下においては,上記基本契約は,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
  4. 不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成19年07月19日)利息制限法第1条1項
    同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずに切替え及び貸増しとしてされた多数回の貸付けに係る金銭消費貸借契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例
    同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずにされた多数回の金銭の貸付けが,1度の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており,その1度の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり,上記各貸付けは1個の連続した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては,各貸付けに係る金銭消費貸借契約は,各貸付けに基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
  5. 不当利得返還等請求事件(最高裁判決 平成20年01月18日)利息制限法第1条1項
    1. 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否
      同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されない。
    2. 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合
      同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において,下記の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。
      第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等
  6. 不当利得金返還等請求事件(最高裁判決 平成22年03月25日)地方自治法第242条の2第1項4号
    市が,職員の福利厚生のための事業を委託している社団法人に支払った補給金のうち退職した職員に対する退会給付金等の給付に充てられた部分につき,同法人に対し不当利得金の返還請求権を有していた場合において,同法人から退会給付金制度の廃止により不要となった補給金を清算する趣旨で支払われた金員を上記不当利得金の返還債務に充当する旨の市と同法人との間の合意により,上記不当利得金の返還請求権が消滅するとされた事例
    市が,職員の福利厚生のための事業を委託している社団法人に支払った補給金のうち退職した職員に対する退会給付金等の給付に充てられた部分につき,同法人に対し不当利得金の返還請求権を有していた場合において,同法人から退会給付金制度の廃止により不要となった補給金を清算する趣旨で支払われた金員を上記不当利得金の返還債務に充当する旨の市と同法人との間の合意が,債権の放棄を内容とするものとして議会の議決を要するとはいえず,公序良俗に反するともいえないなど判示の事情の下では,上記合意により上記不当利得金の返還請求権は消滅する。

前条:
民法第487条
(債権証書の返還請求)
民法
第3編 債権

第1章 総則
第6節 債権の消滅

第1款 弁済
次条:
民法第489条
(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
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