会社法第423条
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法学>民事法>商法>会社法>コンメンタール会社法>第2編 株式会社 (コンメンタール会社法)>第2編第4章 機関 (コンメンタール会社法)
条文
[編集]- 第423条
- 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
- 取締役又は執行役が第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第356条第1項第1号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
- 第356条第1項第2号又は第3号(これらの規定を第419条第2項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
- 前項の規定は、第356条第1項第2号又は第3号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。
改正経緯
[編集]2019年改正にて、第1項の「以下この款において」を「以下この章において」と改正。
解説
[編集]「役員等」の会社に対する法定責任を定めた規定である。
- 会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)
- 会社法第419条(執行役の監査委員に対する報告義務等)
関連条文
[編集]- 会社法第348条(業務の執行)
- 会社法第426条(取締役等による免除に関する定款の定め)
- 会社法第427条(責任限定契約)
- 会社法第428条(取締役が自己のためにした取引に関する特則)
- 会社法第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
- 会社法第847条(責任追及等の訴え)
参照条文
[編集]判例
[編集]- 株主代位請求(最高裁判決 昭和51年03月23日)商法第266条1項(現・本条)
- 株式会社の取締役の法令違反行為が故意又は過失に基づかない場合と会社に対する責任の有無
- 株式会社の取締役の法令又は定款に違反する行為が故意又は過失に基づかない場合には、取締役は、右行為により会社が被つた損害につき責任を負わない。
- 株式会社の取締役が法令又は定款に違反する行為をしたとして、商法266条1項の規定によりその責任を追及するには、右違反行為につき取締役の故意又は過失を必要とするものと解するのを相当とする。したがつて、被上告人がD電機の取締役として取締役会において他の取締役とともに本件新株発行につき株主総会の特別決議を経ないまま、E証券及びF証券に買取引受けをさせる決議をし、それを実行しても、被上告人において、故意はもとより、右行為が法令違反になるとの認識を欠いたことに過失がなかつたから、被上告人に損害賠償責任がないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
- 時価発行増資に関する既存株主が株価の低減に対し取締役に損害賠償を請求した事案
- 普通株式を発行し、その株式が証券取引所に上場されている株式会社が額面普通株式を株主以外の第三者に対し、いわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、この見地からする発行価額は、旧株の時価と等しくなければならないのであつて、このようにすれば、旧株主の利益を害することはないが、新株を消化し、資本調達の目的を達成するための見地からは、原則として発行価額を右より多少低額にする必要があり、この要請を全く無視することもできない。そこで、この場合における公正価額は、新株の発行価額決定前の当該会社旧株の価格、右株価の騰落習性、従来の売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、当該新株の発行数、株式市況の動向、これから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達の目的を達成するという利益との調和の中に求められるべきものである。
- 右(時価発行増資における売出価格の設定過程)のように、両証券会社が具申した意見による価額及び被上告人と他の取締役が協議して算出した一応の価額は、客観的資料に基づいて前記考慮要因が斟酌されているとみることができ、そこで採られている算定方法は、前記公正発行価額の趣旨に照らし、一応合理的であるというを妨げず、かつ、右を総合勘案して取締役会において決定された価額は、右決定直前の旧株の株価に近接しているということができ、このような場合、右価額は、特別の事情のない限り、一応公正な価額であると解するのを相当とし、右価額が当該新株を買取引受けによつて引き受ける証券業者が具申した意見を参考にして決定されたとの前記事実も、右の意見の合理性が肯定できる以上、それだけで右の判断を異にすべき理由にはならない。そして、他に特別の事情を認めるに足りる事実関係のない本件においては、本件発行価額は、一応公正な価額であるということができる。
- 時価発行増資に関する既存株主が株価の低減に対し取締役に損害賠償を請求した事案
- 株式会社の取締役が法令又は定款に違反する行為をしたとして、商法266条1項の規定によりその責任を追及するには、右違反行為につき取締役の故意又は過失を必要とするものと解するのを相当とする。したがつて、被上告人がD電機の取締役として取締役会において他の取締役とともに本件新株発行につき株主総会の特別決議を経ないまま、E証券及びF証券に買取引受けをさせる決議をし、それを実行しても、被上告人において、故意はもとより、右行為が法令違反になるとの認識を欠いたことに過失がなかつたから、被上告人に損害賠償責任がないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
- 取締役の責任追及(最高裁判決 平成5年09月09日)商法(昭和56年法第律第74号による改正前のもの)第210条(現・会社法第155条),商法第254条3項(現・会社法第330条),商法第266条1項5号(現・本条),民法第415条,民法第644条
- 会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法210条
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することは、商法210条にいう自己株式の取得に当たる。
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式の売買により損失を被った場合と乙会社に生じる損害
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、乙会社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額を乙会社に生じた損害として、賠償の責めに任ずる。
- 会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法210条
- 取締役損失補填責任追及請求控訴及び共同訴訟参加事件(最高裁判決 平成12年7月7日)商法第266条1項5号(現・本条)・商法267条、民訴法40条1項
- 商法266条1項5号にいう「法令」の意義
- 会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定に会社をして違反させることとなる取締役の行為と商法266条1項5号にいう法令違反行為
- 取締役が会社をして会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定に違反させることとなる行為をしたときは、右行為が取締役の受任者としての義務を一般的に定める規定に違反することになるか否かを問うまでもなく、商法266条1項5号にいう法令に違反する行為をしたときに該当する。
- 複数の株主が共同して追行する株主代表訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴をした場合に上訴をしなかった者の上訴審における地位
- 複数の株主が共同して追行する株主代表訴訟において、共同訴訟人である株主の一部の者が上訴をした場合、上訴をしなかった者は、上訴人にはならない。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成18年4月10日)(1につき)商法254条3項,商法254条ノ3,商法266条1項5号,民法644条 (2につき)商法294条ノ2,商法266条1項2号
- いわゆる仕手筋として知られるAが大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合においてAの要求に応じて巨額の金員を交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について過失を否定することができないとされた事例
- いわゆる仕手筋として知られるAが,大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合において,売却を取りやめてもらうためAの要求に応じて約300億円という巨額の金員を融資金の名目で交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について,Aの言動に対して警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないという事情の下では,やむを得なかったものとしてその過失を否定することはできない。
- 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為と商法294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為
- 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,商法294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為に当たる。
- いわゆる仕手筋として知られるAが大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合においてAの要求に応じて巨額の金員を交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について過失を否定することができないとされた事例
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年1月28日)商法254条3項,商法254条ノ3,商法266条1項5号,民法644条,会社法423条1項
- 銀行が,第三者割当増資を計画する企業から新株引受先として予定された当該企業の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
- A銀行が,第三者割当増資を計画するB社から,発行する新株の相当部分を引き受ける予定のB社の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,次の1.〜4.など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが上記求めに応じて融資を決定したことは,当該融資が,A銀行が当時採用していた企業育成路線の一環としてされたものであったとしても,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
- 当該融資は,引受予定のB社の新株を担保とし,弁済期に当該株式を売却した代金で融資金の返済を受けることを予定したもので,保証人となるB社代表者の資産も大部分はB社の株式であり,債権の回収は専らB社の業績及び株価の動向のみに依存するものであった。
- 当該融資の額は200億円近い巨額のものであった。
- 新株発行後のB社の発行済株式総数に占める担保株式の割合等に照らし,融資先が弁済期に担保株式を一斉に売却すれば株価が暴落するおそれがあることは容易に推測できた。
- A銀行が以前に行った調査において,B社につき,財務内容が極めて不透明であり,借入金が過大で財務内容は良好とはいえないとの報告がされていた。
- A銀行が,第三者割当増資を計画するB社から,発行する新株の相当部分を引き受ける予定のB社の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,次の1.〜4.など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが上記求めに応じて融資を決定したことは,当該融資が,A銀行が当時採用していた企業育成路線の一環としてされたものであったとしても,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
- 銀行が,積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となって破たんに直面した企業に対し,同企業を数か月延命させる目的で追加融資を実行した場合において,追加融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
- A銀行が,新興企業育成路線に基づく積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となり破たんに直面するに至ったB社に対し,もはやB社の存続が不可能であるとの認識を前提に,B社がA銀行から資金の融資を受けて継続中の大規模なリゾート開発事業が完成する予定の数か月後までB社を延命させる目的でそれに必要な資金409億円の追加融資を実行した場合において,次の1.〜3.など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが追加融資を決定したことは,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
- 追加融資に際し新たに担保を設定した不動産等の担保価値は到底追加融資相当額に見合うものではなく,追加融資の大部分は当初から回収の見込みがなかった。
- 上記事業は,完成したとしてもその採算性が疑わしく,中長期的にも,上記事業を独立して継続させることにより追加融資に見合う額の債権回収が期待できたということはできない。
- B社を数か月間延命させたとしても,それにより関連企業の連鎖倒産を避けられたとも,B社に多額の資金を融資していた信用組合が破たんしてA銀行に支援要請が来る事態を回避できたとも考え難い。
- A銀行が,新興企業育成路線に基づく積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となり破たんに直面するに至ったB社に対し,もはやB社の存続が不可能であるとの認識を前提に,B社がA銀行から資金の融資を受けて継続中の大規模なリゾート開発事業が完成する予定の数か月後までB社を延命させる目的でそれに必要な資金409億円の追加融資を実行した場合において,次の1.〜3.など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが追加融資を決定したことは,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
- 銀行が,第三者割当増資を計画する企業から新株引受先として予定された当該企業の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
- 商法違反被告事件(最高裁決定 平成21年11月9日)商法第486条1項(現・会社法第960条),
- 銀行の代表取締役頭取が,実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し,客観性を持った再建・整理計画もないまま,赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したことが,特別背任罪における取締役としての任務違背に当たるとされた事例
- 会社法第960条#判例参照
- 銀行の取締役が負うべき注意義務については,一般の株式会社取締役と同様に,受任者の善管注意義務(民法644条)及び忠実義務(改正前商法254条の3,現・会社法355条)を基本としつつも,いわゆる経営判断の原則が適用される余地がある。しかし,銀行業が広く預金者から資金を集め,これを原資として企業等に融資することを本質とする免許事業であること,銀行の取締役は金融取引の専門家であり,その知識経験を活用して融資業務を行うことが期待されていること,万一銀行経営が破たんし,あるいは危機にひんした場合には預金者及び融資先を始めとして社会一般に広範かつ深刻な混乱を生じさせること等を考慮すれば,融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され,所論がいう経営判断の原則が適用される余地はそれだけ限定的なものにとどまるといわざるを得ない。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成22年7月15日)会社法330条,会社法355条,会社法423条1項,会社法847条,民法644条
- A社が事業再編計画の一環としてB社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,A社の取締役に上記株式の買取価格の決定について善管注意義務違反はないとされた事例
- 不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業等を展開するA社が,事業再編計画の一環としてB社を完全子会社とする目的で同社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,次の1.〜3.など判示の事情の下では,株式交換に備えて算定された上記株式の評価額が1株当たり6561円ないし1万9090円であったとしても,上記株式の買取価格をB社の設立時の株式の払込金額を基準として1株当たり5万円とする決定をしたことについて,A社の取締役が取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。
- B社の株主には,A社が事業の遂行上重要であると考えていた上記フランチャイズ事業の加盟店等が含まれる。
- 非上場株式である上記株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるB社の企業価値の増加も期待できた。
- 上記の決定に至る過程で,A社の役付取締役全員により構成される経営会議において検討がされ,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践された。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成26年1月30日)
- 取締役の会社に対する損害賠償債務が履行遅滞となる時期
- 取締役の会社に対する損害賠償債務は,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
- 商法266条1項5号に基づく取締役の会社に対する損害賠償債務は,期限の定めのない債務(なお、商行為によって生じた債務又はこれに準ずるものと解さない)であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
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