コンテンツにスキップ

民法第774条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

条文[編集]

(嫡出の否認)

第774条
  1. 第772条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。
  2. 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。
  3. 第1項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
  4. 第772条第3項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
  5. 前項の規定による否認権を行使し、第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者は、第1項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。

改正経緯[編集]

2022年改正にて以下の条文から改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。

第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

改正理由[編集]

2022年改正前は嫡出であることを否認する権利は夫のみが有し、夫以外の第三者が主張することはできないのが原則であり、その出訴期間についても,民法第777条により,否認権者が子の出生を知った時から1年以内と厳格な制限があった。
これは、民法第772条で推定される父子関係を早期に確定し,子の地位を安定させ,家庭の平穏を守るためとされ、また,夫のみが否認権者とされていることについては,夫は、妻が懐胎した子との生物学上の父子関係について判断できる立場に通常はあること、また、その夫が嫡出否認の訴えを提起することなく提訴期間を経過した場合には,夫は父としての責任を自覚し、夫による子の養育を期待することができると考えられたことによるものと考えられる。
しかしながら、夫のDVなどにより、離婚の手続きを経ずに夫の元を逃れた妻が別の男性との間に子ができた場合において、夫が嫡出否認をしないと嫡出推定が機能してしまうため、出生届を出さず子どもが無戸籍になるケースが相次いでいるなどの問題があり、「嫡出否認の権利を夫のみに認めるのは憲法違反である」との主張もあった[1]。2022年改正にあたって、生まれた子について出生届の提出がされることを確保し、無戸籍者が発生することを防止する観点からは、母による出生届の提出を確保することが重要であり、そのためには、嫡出推定を受ける夫以外の者の子を出産した女性が、自らのイニシアティブで父子関係を否定する方法を認めることが有益であると考えられ、また、嫡出否認の訴えの出訴権者が父に限られていることに対しては、推定される父と生物学上の父が一致しない場合に生じ得る問題は多様であるにもかかわらず、父の意思のみによって否認することができるとするだけでは、適切な解決を図ることができない場合があるとの考察から、子の立場に立った否認権を認めることが有益であると判断され、改正されるに至った[2]

解説[編集]

夫は婚姻の状況から、子の嫡出が推定されるが、当然、婚姻という法的な状況が即ち実際の父子関係を決めるわけではないため、子の父は嫡出を否認することができる。これは、明治民法の規定(旧・民法第822条)がそのまま戦後の民法改正においても、受け継がれていた。2022年改正で嫡出の推定(第772条)の局面が拡大したことにともない、否認の要件が拡充された。
父子関係を否定の機能を有する法制度として、判例により認められた「親子関係不存在確認の訴え」があるが、民法第772条の嫡出の推定を受ける子については、親子関係不存在確認の訴えではなく嫡出否認の訴えによらなければならない。

否認権者[編集]

  1. 夫が死亡した場合(人事訴訟法第41条)や成年被後見人の場合(人事訴訟法第14条)には、法定の利害関係人等が訴訟の当事者となることができる。
  2. 子(第1項 2022年改正により追加)
    子による否認は、出生から3年の間に行わなければならないので(出訴期間 第777条)、必然的に権利の行使は「親権を行う」母、親権を行う養親又は未成年後見人が行うこととなる(第2項)。
    ただし、父との同居期間が3年を下回る場合には、子は21歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができるため(第778条の2)、本人自身による権利の行使もある。
  3. 母(第3項 2022年改正により追加)
    第2項により「親権を行う母」は子の否認権を行使することができるため、本項に定められる母は「親権を行わない母」となろう。
    父や親権を有する者等が否認しない時などに、自身の権利として否認することができるが、子の利益を害する時は否認権を行使できない。父等が否認しないのは、父としての養育等の義務を負う意思の発現であり、その能力があると認められ、一方で否認を求める母にその能力がないのであれば、否認を認めないことが、子の養育には利益となる趣旨である。第2項にこの制限が記されていないのは、「親権」「後見」が、当然に子の利益に資することを前提とするものであるからである。
  4. 前夫 - 子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(第4項 2022年改正により追加)
    嫡出推定は及ばないが、子の父以外で母の妊娠中に婚姻関係にあった者は、自分の実子である場合もあり、固有の否認権を有する。ただし、「親権を行わない母」同様、子の利益を害する時は否認権を行使できない。
    否認権を行使して、その結果、民法第772条第3項及び第4項により子の父となった時、当該前夫は自ら否認をなすことができない。自らが父になる意思がないのに、他の当事者が行使しない否認権を行使することは却って法的な安定を損なうだけとなるからである。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 認知請求(最高裁判決 昭和44年05月29日)
    婚姻解消後300日以内に出生した子が嫡出の推定を受けないとされた事例
    離婚による婚姻解消後300日以内に出生した子であつても、母とその夫とが、離婚の届出に先だち約2年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、夫婦の実態が失われていた場合には、民法772条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。

参考文献[編集]

  • 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分)
  • 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁

参考[編集]

明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第738条に継承された。

禁治産者カ婚姻ヲ為スニハ其後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス

[編集]

  1. ^ なお、最高裁判所は令和2年2月5日判決で、国会の立法裁量に委ねられるべき事項であり違憲ではないとした(日本経済新聞(令和2年2月7日)『嫡出否認「夫のみ」合憲が確定 最高裁が上告退ける』)。
  2. ^ 法務省 法制審議会民法(親子法制)部会第3回会議(令和元年10月15日開催)

前条:
民法第773条
(父を定めることを目的とする訴え)
民法
第4編 親族

第3章 親子

第1節 実子
次条:
民法第775条
(嫡出否認の訴え)
このページ「民法第774条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。