民法第612条
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法学>民事法>民法>コンメンタール民法>第3編 債権 (コンメンタール民法)
条文
[編集](賃借権の譲渡及び転貸の制限)
- 第612条
- 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
- 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
解説
[編集]賃借人による賃借権の無断譲渡及び無断転貸の禁止と、違反行為がなされた場合の賃貸人の解除権について規定している。
転貸自体は、賃貸人の想定していた賃借人の用法と異なる用法に用いられることであるので賃貸人の承諾を要することは十分な理由があるが、一方で、賃料の支払いに不安がない限り、転貸による利用そのものは、賃貸人にとって不利益なものであるとは限らないため、転貸の事実のみをもって解除することに判例が制限を設け、転貸が転貸人に対する背信的行為と認められる場合、解除できるものとした(最判昭和28年09月25日)。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和26年05月31日)
- 賃借権の譲渡または転貸を承諾しない家屋の賃貸人は賃貸借契約を解除せずに譲受人または転借人に対し明渡を求め得るか
- 賃借権の譲渡または転貸を承諾しない家屋の賃貸人は、賃借契約を解除しなくても、譲受人または転借人に対しその明渡を求めることができる。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和28年09月25日)
- 賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物を使用させたときは賃貸人は常に契約を解除しうるか
- 賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない、建物を建設しても差支ないものと信じたような、特段の事情があるときは、賃貸人は契約を解除することはできない。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決昭和31年7月20日)民事訴訟法第115条(現・民事訴訟法第115条)
- 判決の反射的効力を認めたことが違法とされた一事例
- 土地の適法な転借人およびその者からその所有の地上建物を賃借する者等は、賃借人の土地明渡義務が判決により確定されている場合においても、これがために当然賃貸人の土地明渡の請求を拒みえないものと解すべきではない。
- 第三者異議等(最高裁判決 昭和36年12月21日)民法第601条
- 賃借人の債務不履行による賃貸借解除と転貸借の終了。
- 賃貸借の終了によつて転貸借は当然にその効力を失うものではないが、賃借人の債務不履行により賃貸借が解除された場合には、その結果転貸人としての義務に履行不能を生じ、よつて転貸借は右賃貸借の終了と同時に終了に帰する。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和37年03月29日)民法第541条、民法第613条
- 賃料延滞による賃貸借の解除と転借人に対する催告の要否
- 適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
- 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和39年12月25日)
- 土地賃借権の無断譲渡につき賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるものとはいえないとされた事例。
- 土地賃借人たる甲会社が右土地上に建築所有する建物を映画興行に使用中、経営不振のため著名な映画会社である乙会社と合併する話が持ち上つてはいたが、未だその話合が具体的にまとまらないうちに、甲会社が賃貸人に無断で乙会社に右建物を売り渡すとともにその敷地の賃借権をも譲渡した場合に、賃貸人がこれを理由として賃貸借契約を解除したときは、その際判示のような事情があり、また、その後乙会社が甲会社を吸収合併したとしても、右賃借権の譲渡につき背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるものとして、右解除を無効とすることはできない。
- 建物収去土地明渡請求 (最高裁判決昭和40年05月04日) 民法第370条,民法第87条2項,民法第423条
- 土地貸借人が該地上の建物に設定した抵当権の効力は当該土地の賃借権に及ぶか。
- 土地賃借人が該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。
- 地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の明渡を請求できるか。
- 前項の場合には、賃借人は、賃貸人において右賃借権の移転を承諾しないときであつても、競落人に対し、土地所有者たる賃貸人に代位して右土地の明渡を請求することはできない
- 土地貸借人が該地上の建物に設定した抵当権の効力は当該土地の賃借権に及ぶか。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和40年12月17日)
- 賃借地上の建物が買戻特約付で第三者に売り渡された場合において右建物の敷地について賃借権の譲渡または転貸がなされなかつたものと解された事例。
- 土地賃借人が、第三者に対し、借地上の建物を買戻特約付で売り渡した場合において、当該売買が、実質上、第三者の債権担保の目的でなされたものであり、終局的確定的に権利を転移する趣旨のものでなく、かつ、買戻権がなお土地賃借人に留保されており、また、土地賃借人が前記建物売買後も引き続きその使用を許容されていた判示の事情のもとにおいては、右建物の敷地について民法第612条にいう賃借権の譲渡または転貸がなされなかつたものと解するのが相当である。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和41年01月27日)
- 無断転貸を背信行為と認めるに足りないとする特段の事情の存否に関する主張・立証責任。
- 賃借地の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張・立証すべきである。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和44年02月18日)
- 賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲受または転借が賃貸人に対抗できる場合とその主張・立証責任
- 賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡または転貸が行なわれた場合であつても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、譲受人または転借人は、譲受または転借をもつて、賃貸人に対抗することができ、右の特段の事情については、譲受人または転借人において主張・立証責任を負う。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和45年12月11日)
- 土地賃借権の無断譲渡が背信行為にあたらない場合における賃借権譲渡人の地位
- 土地賃借権の無断譲渡につき、これを賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため、賃貸人が右無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除することができない場合には、譲受人のみが賃借人となり、譲渡人たる前賃借人は、賃貸借契約関係から離脱し、特段の意思表示がないかぎり、賃貸人に対して契約上の債務を負わないものと解するのが相当である。
- 建物所有権確認等請求(最高裁判決 昭和47年03月09日)
- 賃借地上にある建物の売主と敷地賃借権譲渡の承諾取得義務
- 賃借地上にある建物の売買契約が締結された場合においては、特別の事情のないかぎり、売主は、買主に対し、その建物の敷地の賃借権をも譲渡したものであつて、それに伴い、その賃借権譲渡につき賃貸人の承諾を得る義務を負うものと解すべきである。
- 建物明渡(最高裁判決 昭和53年06月29日)民事訴訟法第644条、競売法25条
- 賃貸中の不動産に対する競売開始決定後賃貸人のした賃借権譲渡の承諾と譲受人の競落人に対する地位
- 賃貸中の不動産に対する競売開始決定の差押の効力発生後賃貸人のした賃借権譲渡の承諾は、特段の事情のない限り、右差押の効力によつて禁止される処分行為にあたらず、譲受人は、賃借権の取得をもつて競落人に対抗することができる。
- 建物収去土地明渡(最高裁判決 平成8年10月14日)
- 小規模で閉鎖的な有限会社における実質的な経営者の交代と民法612条にいう賃借権の譲渡
- 賃借人である小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、そのことは、民法612条にいう賃借権の譲渡に当たらない。
- 建物賃料等請求本訴、保証金返還請求反訴(最高裁判決 平成9年02月25日)民法第601条
- 賃借人の債務不履行による賃貸借の解除と賃貸人の承諾のある転貸借の帰すう
- 賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する。
- 建物収去土地明渡等、建物収去土地明渡(最高裁判決 平成9年07月17日) 民法第369条
- 借地上の建物の譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用収益をする場合と民法612条にいう賃借権の譲渡又は転貸
- 借地上の建物につき借地人から譲渡担保権の設定を受けた者が、建物の引渡しを受けて使用又は収益をする場合には、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法612条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当である。
- 建物明渡等請求事件 (最高裁判決 平成14年03月28日)民法第1条2項,借地借家法第34条
- 事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないとされた事例
- ビルの賃貸,管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において,賃貸人が,賃借人にその知識,経験等を活用してビルを第三者に転貸し収益を上げさせることによって,自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに,賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的として賃貸借契約を締結し,賃借人が第三者に転貸することを賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること,当該ビルの貸室の転借人及び再転借人が,上記のような目的の下に賃貸借契約が締結され転貸及び再転貸の承諾がされることを前提として,転貸借契約及び再転貸借契約を締結し,再転借人が現にその貸室を占有していることなど判示の事実関係があるときは,賃貸人は,信義則上,賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。
- 土地明渡請求事件(最高裁判決 平成17年03月10日)民法第597条1項,民法第616条
- 土地の無断転貸をした賃借人が賃貸人に対し転借人が不法に投棄した産業廃棄物を賃貸借契約終了時に撤去すべき義務を負うとされた事例
- 土地の賃借人が同土地を無断で転貸し,転借人が同土地に産業廃棄物を不法に投棄したという事実関係の下では,賃借人は,賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務として,上記産業廃棄物を撤去すべき義務を負う
- 不動産の賃借人は,賃貸借契約上の義務に違反する行為により生じた賃借目的物の毀損について,賃貸借契約終了時に原状回復義務を負う。
- 原審における「産業廃棄物の本件土地への投棄は,専ら転借人が単独で行った犯罪行為であるから,賃借人は,転借人へ無断転貸をしたものの,このような犯罪行為である産業廃棄物の投棄についてまで,賃貸借契約の解除に伴う原状回復義務として責任を負うものではない」旨の判断を覆した。
- 不動産の賃借人は,賃貸借契約上の義務に違反する行為により生じた賃借目的物の毀損について,賃貸借契約終了時に原状回復義務を負う。
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