民法第742条
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(婚姻の無効 から転送)
条文
[編集](婚姻の無効)
- 第742条
- 婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
- 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
- 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。
解説
[編集]無効である婚姻について定める。日本の婚姻制度は、厳格な法律婚かつ形式婚なので、婚姻届が受理されない限り婚姻の効果は生じないが、逆に、婚姻届が受理される(≒戸籍が書き換えられる)と婚姻が成立していることとなる。婚姻の無効は、この場合であっても、「取消しうる婚姻」と異なり、婚姻の効果を生じさせない制度である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第778条)がそのまま受け継がれている。
要件
[編集]- 当事者間に婚姻をする意思がないとき
- 当事者の一方にでも、「婚姻をする意思」が無ければ無効。
- 「婚姻をする意思」とは、「婚姻の届出をし、戸籍を構成する」と言う意思ではなく、「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」を言う(実質的意思説)。
- (判例)
- 「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。(最高裁判決 昭和44年10月31日 婚姻無効確認本訴並びに反訴請求)
- 協議離婚の届出に関する判例の準用。
- 「詐欺又は強迫による婚姻(第747条)」は、意思の形成過程の問題であるため無効ではなく、婚姻は有効で取消しうるものである。しかしながら、「強迫」の度合いにより恐怖による同意であるならば無効としうるのではないか。
- 仮装婚・偽装結婚
- 「婚姻の実質的意思」がないのに、婚姻の効果を得るために婚姻の届出をした場合、無効となる。
- 婚外子に関して嫡出の要件を得させるために婚姻を届け出た。
- 外国人に在留資格を得させるため婚姻を届け出た。
- 「婚姻の実質的意思」がないのに、婚姻の効果を得るために婚姻の届出をした場合、無効となる。
- 現行法において「同性婚」を明確に禁じた法令はないが、法慣習上認められておらず、係員の過失等により届出が受理されたとしても「婚姻する意思」がないものとされ、本条により無効であるとされる(佐賀家裁審判平成11年1月7日家庭裁判月報51巻6号71頁)。
- (判例)
- 婚姻の届出をしないとき
- 当事者間に婚姻をする意思があったとしても、届出がなされない限り、婚姻としての有効性を問うことはできない。そもそも、婚姻は届出後に概念されるものであるから、本号が争われる局面は想定しがたい。
効果
[編集]婚姻は無効であるので、婚姻期間中に得られた効果は全て無効になる。
- 婚姻期間中の子に「嫡出の推定」は及ばない。
- 相手方死亡の時期に関わらず、相続人とならない。
無効の手続
[編集]- 「人事訴訟」における、婚姻無効確認の訴えなど。
- 人事訴訟なので、確定判決は対世効を有する。
- 提起期間に制限はなく、婚姻中いつでも訴えを起こしうる。遺産分割調停において、争われることがあり、この場合、婚姻の無効は当事者一方(場合によっては双方)の死後においても争われうる。
- 利害関係のある第三者も当事者適格がある。(最高裁判決 昭和34年7月3日 婚姻無効確認_婚姻無効確認の訴を提起し得べき第三者)
無効の追認
[編集]無効原因が存在する間は、婚姻が有効となることはないが、一方が他方が知らないうちに婚姻を届出ていたが、婚姻自体は当事者の意思に反しないときは、追認により届出時に遡って婚姻が有効になる。
- (判例)最高裁判決 昭和47年07月25日 婚姻無効確認請求
- 事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となる。
- 追認により婚姻届出の意思の欠缺が補完されること、追認による遡及効を認めることが当事者の意思に沿い実質的生活関係を重視する身分関係の本質に適合すること及び第三者の利害が害されるおそれが乏しいことを理由とする。
参照条文
[編集]- 民法第739条(婚姻の届出)
判例
[編集]- 離婚届出無効確認請求(最高裁判決 昭和34年08月07日)民法第763条、民法第764条、民法第802条
- 協議離婚届出書作成後の飜意と届出の効力。
- 合意により協議離婚届書を作成した一方の当事者が、届出を相手方に委託した後、協議離婚を飜意し、右飜意を市役所戸籍係員に表示しており、相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意思を有しないことが明確であるときは、相手方に対する飜意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、協議離婚届出が無効でないとはいえない。
- 婚姻無効確認請求(最高裁判決昭和44年4月3日)民法第739条、(民法第3条の2)
- 婚姻の届書が受理された当時本人が意識を失つていた場合と婚姻の届出の効力
- 事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。
- 本件婚姻届がE(夫婦の一方)の意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同人と上告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書が当該係官に受理されるまでの間に同人が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたとしても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効に成立したものと解すべきである。
参考
[編集]明治民法において、本条には以下の規定があった。
- 離籍セラレタル家族ハ一家ヲ創立ス他家ニ入リタル後復籍ヲ拒マレタル者カ離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ亦同シ
- 離籍又は他家に入り復籍を拒否された者が離婚・離縁により他家を離れた場合、新たな家(戸籍)を創設する。
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