刑事訴訟法第335条
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法学>コンメンタール>コンメンタール刑事訴訟法=コンメンタール刑事訴訟法/改訂
条文
[編集](有罪の判決)
- 第335条
- 有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
- 法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。
改正経緯
[編集]旧・刑事訴訟法第360条を継承する。
- 有罪の言渡を為すには罪と為るべき事実及証拠に依り之を認められたる理由を説明し法定の適用を示すべし
- 法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は刑の加重減免の原由たる事実上の主張ありたるときは之に対する判断を示すべし
解説
[編集]参照条文
[編集]判例
[編集]- 公文書偽造、収賄(最高裁判決昭和23年5月5日)憲法第37条
- 刑事訴訟法第360条第2項(現本条第2項)の法意
- 控訴の唯一の理由とこれに対する判断の要否
- 控訴の唯一の理由であればどんな主張でも必ずこれに對する判断を判文中に明示しなければならないという法規も法理も存在しない。されば控訴審が罪の成立に何等影響の無い事柄に付き判断を示さなかつたことは仮令それが控訴の唯一の理由であつたとしても少しも違法ではない、無論違憲などいう問題ではない。
- 憲法第37条第1項にいう「公平な裁判所の裁判」の意義
- 憲法第37条の「公平な裁判所の裁判」というのは構成其他において偏頗の惧なき裁判所の裁判という意味である。かかる裁判所の裁判である以上個々の事件において法律の誤解又は事実の誤認等により偶々被告人に不利益な裁判がなされてもそれが一々同条に触れる違憲の裁判になるというものではない。されば本件判決裁判所が構成其他において偏頗の惧ある裁判所であつたことが主張立証せられない限り仮令原判決に所論の様な法律の誤解、事実の誤認又は記録調査の不充分等があつたと仮定しても同条違反の裁判とはいえない。
- 強盗、殺人未遂(最高裁判決昭和22年12月4日)刑法60条
- 共犯行為の判示方法
- 共媒の上犯罪を実行した場合には、共犯者の一人が行為の実行を全然分担しなくともその責に任ずべきものであるから判決に共犯者各自の行動を一々判示するの必要はない。
- 強盗、窃盗(最高裁判決昭和23年7月20日)刑法60条,刑法236条
- 共謀の事実についての判示の程度
- 論旨は何日何処で誰々との間に如何なる通謀をしたかの事実理由を判決に明示しなければならないというのであるが、共謀の日時場所は必ずしも判決に明示する必要はなく誰々の間に本件犯行の共謀があつたかは判文自体より明らかであり且第一審相被告人等と被告人との間に主従関係があるとか、対等関係でないとかの事実は、原審では認めないのであるからことさらに対等関係で共謀した旨を説示しなくとも所論の如き違法はない。
- 脅迫されて犯行現場の近くに立つていたとの主張と刑訴第360条第2項
- 強盗犯人から、犯行を共にするよう誘われ、これを拒んだところ、匕首で脅迫されたので、やむを得ず犯行の現場近くで立つていたとの主張は、刑訴法第360条第2項の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」にあたらない。
- 共謀の日時場所の判示の要否
- 数人共謀して犯罪を犯した場合に、共謀をした日時場所は、必ずしも判示する必要はない。
- 共同正犯に対し刑法第60条の適用を判文に明示することの当否
- 原判決において刑法第60条を適用した旨を判文上明示しなかつたことは所論の通りである。しかし原判決は第一審相被告人等と被告人とは本件犯行について共謀したものと認定し、且其共謀に基いて被告人は見張をした事実を認定したのであり。意思連絡のもとに強盗の見張をしたのであるから、本件犯行の共同正犯であると断じたものである従つて刑法第60条を適用した旨を判文上明示しなくとも、同条を適用した趣旨であることはおのづから明白であるから、所論の如き違法はない。
- 共謀の事実についての判示の程度
- 殺人未遂、放火(最高裁判決昭和24年1月20日)
- 青酸加里を入れて炊いたため黄色を呈し臭気を放つている米飯は何人もこれを食べることは絶対にないという実験則の有無
- 青酸加里を入れて炊いた本件米飯が黄色を呈し臭気を放つているからといつて何人もこれを食べることは絶対にないと断定することは実験則上これを肯認し得ない。
- 殺人罪に関する不能犯の主張と旧刑訴法第360条第2項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由タル事実上ノ主張」
- かかる不能犯の主張は行為と結果との因果関係を不能なりとするものであるから行為の外結果の発生を犯罪の積極的構成要件とする本件殺人罪においては結局罪となるべき事実を否定する主張に帰着する。されば旧刑訴法第360条第2項にいわゆる「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」換言すれば、犯罪構成要件以外の事実であつてその事実あるがため法律上犯罪不成立に帰すべき原由たる事実上の主張に該当しない。
- 青酸加里を入れて炊いたため黄色を呈し臭気を放つている米飯は何人もこれを食べることは絶対にないという実験則の有無
- 強盗、窃盗、強盗幇助、賍物牙保(最高裁判決昭和25年4月20日)刑法第60条
- 共謀共同正犯における共謀者の責任
- 共謀共同正犯は、単なる教唆や従犯と異なり、共謀者が共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用してその意思を実行に移すものであり、犯罪の予備、着手、実行、未遂、中止、結果等はすべて共謀者同一体として観察すべきもので、強盜を共謀した者は、自ら実行行為を分担しなくとも、他の共謀者の実行した強盜行為の責を免れない。
- 共謀共同正犯の判示として各共謀者が実行行為をしたか否かを明示することの要否
- 共謀共同正犯にかかる犯罪事実を判決に摘示するにあたり、各共謀者が実行行為をしたか否かを明示することは、必ずしも必要でない。
- 共謀共同正犯における共謀者の責任
- 傷害致死(最高裁判決 昭和26年09月20日)
- 傷害致死罪の成立と致死の結果の予見の要否
- 傷害致死罪の成立には傷害と死亡、との間の因果関係の存在を必要とするにとどまり、致死の結果についての予見は必要としないのであるから、原判決が所論傷害の結果たる致死の予見について判示しなかつたからといつて、原判決には所論理由不備の違法は存しない。
- 傷害致死、特別公務員暴行(最高裁判決 昭和27年12月25日)旧刑訴法360条1項,旧刑訴法410条19号,刑法205条
- 判決に理由不備の違法がある一事例
- 一定の時に被害者に脳出血による何らかの身体的症状の生じたことを前提として被害者の受傷と死亡との時間的間隔を判定した場合に、右身体的症状を生じたことを認定するための証拠が明らかにその証拠の趣旨と矛盾し、かつ他にこれを認定するにたる証拠のない判決には理由不備の違法がある。
- 監禁(最高裁判決 昭和28年06月17日)
- 逮捕監禁の所為が単純一罪として起訴されているとき、監禁の事実のみを有罪とする場合の判示方 ―逮捕の点についても説示することを要するか―
- 逮捕監禁の所為ありとして起訴され若しくは公判に付された場合に、裁判所が単に監禁の事実だけを認め、逮捕の事実は認められないとしたときは、逮捕の点は単純一罪の一部に過ぎないから、認められた監禁の事実だけを判決に判示し、これについて処断すれば足り、逮捕の点は判決主文において無罪を言渡すべきではなく、その理由中においても、必ずしも罪として認めない理由を判示する必要はない。
- 恐喝、傷害、窃盗(最高裁判決昭和32年7月16日)刑法第47条
- 法定刑(懲役刑)を同じくするが種類を異にする数個の犯罪を併合加重する場合と法令適用の判示方
- 窃盗、傷害(懲役刑選択)、恐喝の三罪につき併合罪の加重をする場合、いずれの罪を最も重いと認めて加重をしたかを明示しなくとも、必ずしも違法ではない。
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