日本国憲法第81条
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条文
[編集]【違憲審査制、憲法に関する終審裁判所】
- 第81条
- 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
解説
[編集]第98条に定める憲法の最高法規性に基づき、裁判所(最高裁判所に限らず)は裁判(=司法権の行使)において一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する(違憲審査制)。
最高裁判所は、法令等に関して憲法の適合/不適合に関する終審裁判所であり、憲法判断に関しては、下級裁判所を終審とすることはできない。逆に、憲法判断に関するものでない場合は、法律によって終審裁判所を下級裁判所とすることができる。また、この限りにおいて審級制度の構築も法律で定めることができ、三審制も必ずしも保障されるものではない。
最高裁判所判決により違憲とされた立法
[編集]- 尊属殺人重罰規定(第14条違反 昭和48年4月4日判決、w:尊属殺法定刑違憲事件)
- 薬事法距離制限規定(第22条違反 昭和50年4月30日判決、w:薬局距離制限事件)
- 衆議院議員定数配分規定 その1(第14条、第44条違反 昭和51年04月14日判決)
- 衆議院議員定数配分規定 その2(第14条、第44条違反 昭和60年7月17日判決)
- 森林法共有林分割制限規定(第29条違反 昭和62年04月22日判決、w:森林法共有林事件)
- 郵便法免責規定(第17条違反 平成14年9月11日判決、w:郵便法事件)
- 在外邦人の選挙権制限規定(第15条違反 平成17年9月14日判決、w:在外日本人選挙権訴訟)
- 非嫡出子の国籍取得制限規定(第14条、第44条違反 平成20年6月4日判決、w:婚外子国籍訴訟)
- 非嫡出子の法定相続分規定(第14条違反 平成25年9月4日判決、w:婚外子相続差別訴訟)
- 女性の再婚禁止期間規定(第14条、第24条違反 平成27年12月16日判決、w:婚外子相続差別訴訟)
- 在外邦人の国民審査権制限規定(第15条違反 令和4年5月25日判決、w:在外日本人国民審査権訴訟)
- 性別変更要件の生殖機能喪失規定(第13条違反 令和5年10月25日決定、w:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律#生殖不能要件(4号要件))
- 優生保護法優生規定(第13条、第14条違反 令和6年7月3日判決、w:優生保護法#上告審・最高裁判所)
参照条文
[編集]- 日本国憲法第98条第1項【憲法の最高法規性】
判例
[編集]- 強盗、建造物侵入(最高裁判決昭和23年3月10日)
- 刑訴応急措置法第13条第2項の合憲性
- 上告審において原審の事実認定の可否及び刑の量定の当否を判断するには自ら事実審査をしなければならない。盖刑の軽重は犯況、情状等に付き詳細の審査をしなければ之れを定めることが出来ないものだからである。故に原審の事実認定乃至刑の量定に対する批難を上告の理由として認めるか否かは上告審においても事実審査をすることにするかどうかの問題となり、結局審級制の問題に帰着する。刑訴応急措置法第13条第2項が刑訴法第412条乃至第414条の規定を適用しない旨を定めたのは畢竟審級制度の問題として実体上の事実審査は第二審を以て打切り上告審においてはこれをしないことにする趣旨に出たものである。而して憲法は審級制度を如何にすべきかに付ては第81条以外何等規定する処がないから此の点以外の審級制度は立法を以て適宜に之れを定むべきものである。従つて刑訴応急措置法第13条第2項が前記の如く事実審査を第二審限りとし刑事訴訟法第412条乃至第414条の規定を適用しないことにしたからと云つてこれを憲法違反なりとすることは出来ない。故に右規定が違憲であることを主張しこれを前提として原審の刑の量定を攻撃せんとする論旨は上告の理由とならない。
- 物価統制令違反(最高裁判決昭和23年7月19日)/食糧管理法違反(最高裁判決同日)
- 審級制度
- 最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事件が終審としてその事物管轄に属すべきことは、憲法上要請されているところであるが(第81条)その他の刑事、民事、行政事件の裁判権及び審級制度については、憲法は法律の適当に定めるところに一任したものと解すべきである。そして、最高裁判所は必ずしも常に訴訟の終審たる上告審のみを担任すべきものとは限らない。外国の事例も示すように時に第一審を掌ることも差支えない(裁判所法第8条参照)。又必ずしも常に最高裁判所のみが終審たる上告審の全部を担任すべきものとは限らない。他の下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることも差支えない。わが国の過去においても下級裁判所たる控訴院が上告の一部を取扱つた事例もあり、又現在においても下級裁判所たる高等裁判所が地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告について裁判権を有している(裁判所法第16条)。その間における法律解釈統一の問題は、他におのずから解釈の方法が幾らも存在し得る。
- 食糧管理法違反(最高裁判決 昭和23年12月1日)
- 違憲の主張のあつた法令を適用するに当り特に判断を明示しなかつた場合と憲法適合の判断判示の有無
- 所論の如く裁判所は、法令に対する憲法審査権を有し、若しある法令の全部又は一部が、憲法に適しないと認めるときはこれを無効として其適用を拒否することができると共に、有罪の言渡をなすにはその理由において、必ず法令の適用を示すべき義務あるものであるから、当事者においてある法令が憲法に適合しない旨を主張した場合に、裁判所が有罪判決の理由中に其法令の適用を挙示したときは、其法令は憲法に適合するものであるとの判断を示したものに外ならならと見るを相当とする。従つて原審における所論の主張に対し、特に憲法に適合する旨の判断を積極的に表明しなかつたとしても、所論の如く判断を示さない違法があると言い得ない。
- 食糧管理法違反(最高裁判決 昭和25年2月1日)
- 下級裁判所の違憲審査権と憲法第81条文
- 憲法は国の最高法規であつてその条文規に反する法律命令等はその効力を有せず、裁判官は憲法及び法律に拘束せられ、また憲法を尊重し擁護する義務を負うことは憲法の明定するところである。従つて、裁判官が。具体的訴訟事件に法令を適用するに当り、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によつて裁判官に課せられた職務と職権であつて、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であることを問わない。憲法第81条文は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であつて下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもつているものではない。それ故、原審が所論の憲法適否の判断をしたことはもとより適法であるのみでなく、原審は憲法適否の判断を受くるために最高裁判所に移送すべきであるとの所論は、全く独断と云うの外はない。
- 日本国憲法に違反する行政処分取消請求(警察予備隊違憲訴訟 最高裁判決 昭和27年10月8日)
- 具体的事件を離れて最高裁判所は抽象的に法律命令等の合憲性を判断できるか
- 最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない。
- 現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。
- 衆議院解散無効確認請求(最高裁判決 昭和28年4月15日)
- 日本国憲法第81条と最高裁判所の性格
- 憲法第81条は、最高裁判所が違憲審査を固有の権限とする始審にして終審である憲法裁判所たる性格をも併有すべきことを規定したものではない。
- 現行法制の下にあつては、ただ純然たる司法裁判所だけが設置せられているのであつて、いわゆる違憲審査権なるものも、下級審たると上級審たるとを問わず、司法裁判所が当事者間に存する具体的な法律上の争訟について審判をなすため必要な範囲において行使せられるに過ぎない。すなわち憲法81条は単に違憲審査を固有の権限とする始審にして終審である憲法裁判所たる性格をも併有すべきことを規定したものと解すべきではない。
- 家屋収去・土地明渡請求(最高裁判決 昭和29年10月13日)旧民事訴訟法第393条(現・民事訴訟法第311条)、裁判所法第16条
- 民訴第393条および裁判所法第16条第3号の規定の合憲性
- 民訴第393条および裁判所法第16条第3号の規定は憲法第32条、第76条、第81条のいずれにも違反しない。
- 最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする事件が終審としてその事物管轄に属すべきことは憲法上要請されているところであるが(憲法81条)、その他の事件の審級制度については法律の定めるところに委されていると解すべきであるから、下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることと定めるか否かは審級制度に関する立法の問題であつて、なんらわが憲法の制限するところでないと解することは、当裁判所大法廷のすでにくりかえし判示するところである。従つてこの趣旨からいつて、簡易裁判所を第一審とする民事事件の上告審を高等裁判所とすることを定めた民訴393条及び裁判所法16条3号の規定は、なんら憲法32条同76条同81条のいずれにも反するものではない。
- 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反(砂川事件 最高裁判決 昭和34年12月16日) - 詳細は憲法第98条判例節参照
- 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下安保条約と略す。)と司法裁判所の司法審査権
- 安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが、違憲であるか否の法的判断は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査に原則としてなじまない性質のものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。
- 土地賃貸借契約等無効確認請求(最高裁判決 昭和35年2月10日)憲法第14条、憲法第29条(→判例)
- 当該法律関係と直接関係のない規則またはその属する法律全体の違憲性を理由とする違憲主張の適否。
- ある法規(例えば農地法第20条)の適用される法律関係(例えば同条第1項の知事の不許可処分)の違憲を主張するのに、その法規の属する法律中当該法律関係と直接関係のない法規(例えば同法第3条)またはその法律全体(例えば農地法)の違憲性を理由とすることは、上告理由として許されない。
- ある法律関係の違憲であるか否かはこれに適用される当該法規の違憲なりや否やの判断に即すべきものであり、その埒外において当該法律関係に何ら関係のない法規の憲法上の効力を云為し、あるいは、それら法規の属する法律全体の違憲性に論及して当該法律関係の違憲無効を主張するが如きは上告理由として許されないところであると解すべきである。
- 衆議院議員資格並びに歳費請求(苫米地事件 最高裁判決 昭和35年6月8日)
- 衆議院解散の効力に関する裁判所の審査権限。
- 衆議院解散の効力は、訴訟の前提問題としても、裁判所の審査権限の外にある。
- 本件解散無効に関する主要の争点は、本件解散は憲法69条に該当する場合でないのに単に憲法7条に依拠して行われたが故に無効であるかどうか、本件解散に関しては憲法7条所定の内閣の助言と承認が適法に為されたかどうかの点にあることはあきらかである。しかし、現実に行われた衆議院の解散が、その依拠する憲法の条章について適用を誤つたが故に、法律上無効であるかどうか、これを行うにつき憲法上必要とせられる内閣の助言と承認に瑕疵があつたが故に無効であるかどうかのごときことは裁判所の審査権に服しないものと解すべきである。
- 直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。
- 地方自治法に基く警察予算支出禁止(最高裁判決 昭和37年3月7日)
- 法令審査権と国会の両院における法律制定の議事手続
- 裁判所の法令審査権は、国会の両院における法律制定の議事手続の適否には及ばないと解すべきである。
- 両院において議決を経たものとされ適法な手続によつて公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない。
- 地方公務員法違反(最高裁判決 昭和44年4月2日)
- 地方公務員法37条及び61条4号の合憲性
- 地方公務員法37条は憲法28条に、地方公務員法61条4号は憲法28条、31条、18条に違反しない。
- 法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべきものであつて、この見地からすれば、これらの規定の表現にのみ拘泥して、直ちに違憲と断定する見解は採ることができない。すなわち、地公法は地方公務員の争議行為を一般的に禁止し、かつ、あおり行為等を一律的に処罰すべきものと定めているのであるが、これらの規定についても、その元来の狙いを洞察し労働基本権を尊重し保障している憲法の趣旨と調和しうるように解釈するときは、これらの規定の表現にかかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様についても、さらにまた、処罰の対象とされるべきあおり行為等の態様や範囲についても、おのずから合理的な限界の存することが承認されるはずである。かように、一見、一切の争議行為を禁止し、一切のあおり行為等を処罰の対象としているように見える地公法の前示各規定も、右のような合理的な解釈(合理的限定解釈)によつて、規制の限界が認められるのであるから、その規定の表現のみをみて、直ちにこれを違憲無効の規定であるとする所論主張は採用することができない。
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反(石油価格カルテル刑事事件 最高裁判決 昭和59年02月24日)
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成27年12月16日)民法第733条,国家賠償法第1条
- 立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合
- 法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがある。
- 国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとされた事例
- 平成20年当時において国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことは,(1)同項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分が合理性を欠くに至ったのが昭和22年民法改正後の医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等によるものであり,(2)平成7年には国会が同条を改廃しなかったことにつき直ちにその立法不作為が違法となる例外的な場合に当たると解する余地のないことは明らかであるとの最高裁判所第三小法廷の判断が示され,(3)その後も上記部分について違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかったなど判示の事情の下では,上記部分が違憲であることが国会にとって明白であったということは困難であり,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
- 立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合
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