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日本国憲法第39条

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条文

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【遡及処罰の禁止、二重処罰の禁止】

第39条
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

解説

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ウィキペディア日本国憲法第39条の記事があります。

遡及処罰の禁止

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罪刑法定主義第31条)の派生原理の一つ。
昭和25年4月26日最高裁判決における真野毅裁判官の補足意見より
  1. 事後立法禁止は、本来固有の意味においては用語そのものが自称しているように、立法権に対する制限であり、従つてこの禁止に反する立法はすべて無効となるべきものである。人類の歴史において罪刑法定主義がまだ確立しなかつた昔には、ある人のある行為に対して、裁判によつて刑事上の責任を問う手続を採らず、直接立法によつて刑罰を科する野蛮な不合理な方法が採られた実例が少くはない(Bill of attainder)。そして、また過去の行為に対し裁判上遡及適用するため、権力者に好都合な法律を事後に制定し、裁判の形式によつて政敵などを不合理に処罰した実例もまた乏しくはない。かかる過去の行為に遡及する立法が、固有の事後法(Ex post facto law)である。立法権に関する米国憲法第1条は、その9項3号において「Bill of attainder又はEx post facto lawを制定することはできない」と定め、その10項1号において「何れの州と雖も、Bill of attainder又はEx post facto lawを制定することはできない」と規定し、立法作用として固有の事後法の制定すなわち事後立法を禁止し、この禁止に反する法律を無効としている。
  2. 事後立法禁止の意義は、漸次立法作用に対する禁止という固有のもの(Ex post facto legislation)から転化して、司法作用に対する刑罰法規遡及適用の禁止(エキス・ポスト・フアクト・ビーナライゼーシヨン)すなわち刑罰法規不遡及の原則をも含む広い意義に用いられるようになつて来た。固有の事後立法禁止は、かかる法律を違憲無効とするものであるが、刑罰法規不遡及の原則は、その刑罰法規の適憲有効を前提としつゝ裁判の面においてその法規の遡及的適用を禁止せんとするものである。
  3. 本条項の趣旨は、以下のものを含む。
    1. 実行のときに適法であつた行為に対して、これを処罰する遡及効のある刑罰法規を制定することの禁止(立法権に対するもの)
    2. 実行のときに適法であつた行為に対して、事後に制定された刑罰法規を遡及的に適用する場合たると否とを問わず、処罰の裁判をすることの禁止(司法権に対するもの)
    3. 実行のときに可罰性があつた行為(従つて適法でなかつた行為)に対して、実行のときに定められていた刑をさらに加重する遡及効のある刑罰法規を制定することの禁止(立法権に対するもの)
    4. 実行のときに可罰性があつた行為に対して、事後に制定された刑罰法規を遡及的に適用する場合たると否とを問はず、実行のときに定められていた刑よりさらに重い処罰の裁判をすることの禁止(司法権に対するもの)

二重処罰の禁止

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一事不再理

参照条文

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判例

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遡及処罰の禁止

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  1. 賭場開帳図利(最高裁判決 昭和25年4月26日)
    旧法事件に対する刑訴応急措置法第13条第2項の適用と憲法第39条との關係
    単に上告理由の一部を制限したに過ぎない訴訟手続に関する刑訴応急措置法第13条第2項の規定を適用して、その制定前の行為を審判することは、たといそれが行為時の手続法よりも多少被告人に不利益であるとしても、憲法第39条にいわゆる「何人も、実行の時に適法であつた行為……については、刑事上の責任を問はれない」との法則の趣旨を類推すべき場合と認むべきではない。従つて所論憲法に違反するものと云うことはできぬ。
    • 補足意見より
      憲法39条前段の規定は実行の時に適法であつた行為に対する事後立法を禁止する趣旨のものであるが右の禁止は、過去の適法行為に適用すべき行為規範たる刑事の実体法規に関するものであつて、性質上将来の訴訟行為に適用さるべき手続規範たる刑事訴訟立法を制限するものでない。
      • (真野毅裁判官の補足意見における上記補足意見に対する寸評)
        刑事の実体法にのみ関すると解するのは、純然たる大陸法的、ドイツ法的の従来の考え方である。米国の事後立法禁止は特殊な訴訟法的なものについても適用があるとする種々の判例があり又その変せんもある。今直ちに訴訟手続法はいかに被告人に不利益に変更しても憲法39条に違反しないとたやすく概括的に断定し去ることは、少くとも甚だ早計であり且つ基本的人権のため立法の慎重さを期せしめるゆえんではない。
  2. 昭和25年政令第325号違反(w:平和のこえ事件 最高裁判決 昭和28年7月22日)日本国憲法第21条
    所謂「アカハタ及びその後継紙、同類紙の発行停止に関する指令」についての昭和25年政令第325号違反被告事件は講和条約発効後は免訴すべきか
    所謂「アカハタ及びその後継紙、同類紙の発行停止に関する指令」についての昭和25年政令第325号違反被告事件は、講和条約発効後においては刑の廃止があつたものとして免訴すべきである。
    (状況等)
    • 連合国最高司令官は、降伏条項を実施するためには、日本国憲法にかかわりなく法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり、日本官庁の職員に対し指令を発してこれを遵守実施せしめることを得ていた。
    • このような基本関係に基き「政府ハポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ連合国最高司令官ノ為ス要求ニ係ル事項ヲ実施スル為、特ニ必要アル場合ニ於テハ命令ヲ以テ所要ノ定ヲ為シ及必要ナル罰則ヲ設クルコトヲ得」という緊急勅令第542号が、昭和20年9月20日に制定された。この勅令は前記基本関係に基き、連合国最高司令官の為す要求に係る事項を実施する必要上制定されたものであるから、日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものと認めなければならない。
    • 本件で問題となつている昭和25年政令325号「占領目的阻害行為処罰令」は、前記勅令542号等に基き「連合国最高司令官の為す要求に係る事項を実施する為」制定せられた命令(ポツダム命令)であつて、その制定当時においてはこれまた前同様に憲法外における法的効力を有するものと言うべきである。
    • 本件に必要な関係を有する範囲においては、政令325号は「占領目的に有害な行為」をした者に対して刑罰を科する罰則を設けたものである。そして、その「占領目的に有害な行為」の実質は、一般的・概括的な規準に従つて解釈上定められると言うのではなく、この政令自体の中において「占領目的に有害な行為」とは、以下のとおり列挙的・限定的に定められている。
      (イ)連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為
      (ロ)その指令を施行するために連合国占領軍の軍、軍団又は師団の各司令官の発する命令の趣旨に反する行為
      (ハ)その指令を履行するために日本国政府の発する法令に違反する行為
    • この政令325号の罰則は、その犯罪行為の実質的内容を政令自体において直接的・自給自足的に特定することなく、いわば抽象的な形式的内容に過ぎない「連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為」という表現をもつて、ただ間接的・他依存的犯罪行為の実質的内容を特定し得べからしめたものに過ぎない。言いかえれば、まず連合国最高司令官の指令の存在とその内容を探求することによつてのみ、間接的に政令325号の犯罪構成要件の具体的な実質的内容は、初めて特定せられ明らかならしめられるものである。
    • この罰則は、その本質において全く最高司令官の占領目的達成のための手段たるに過ぎないものであるから、占領状態の継続ないし最高司令官の存続を前提としてのみ、その存在の価値と意義を有するに過ぎないものと言うべきである。別の言葉でいえば、この罰則は、その本質上占領状態の終了従つて最高司令官そのものの解消と共に、当然その効力を失うべきものであると言わなければならない。
  3. 地方公務員法違反(最高裁判決 平成8年11月18日)
    行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為を処罰することと憲法39条
    行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても、これを処罰することは憲法39条に違反しない。
    • 河合伸一裁判官の補足意見
      判例、ことに最高裁判所が示した法解釈は、下級審裁判所に対し事実上の強い拘束力を及ぼしているのであり、国民も、それを前提として自己の行動を定めることが多いと思われる。この現実に照らすと、最高裁判所の判例を信頼し、適法であると信じて行為した者を、事情の如何を問わずすべて処罰するとすることには問題があるといわざるを得ない。しかし、そこで問題にすべきは、所論のいうような行為後の判例の「遡及的適用」の許否ではなく、行為時の判例に対する国民の信頼の保護如何である。私は、判例を信頼し、それゆえに自己の行為が適法であると信じたことに相当な理由のある者については、犯罪を行う意思、すなわち、故意を欠くと解する余地があると考える。もっとも、違法性の錯誤は故意を阻却しないというのが当審の判例であるが(最高裁昭和23年(れ)第202号同年7月14日大法廷判決・刑集2巻8号889頁最高裁昭和24年(れ)第2276号同25年11月28日第三小法廷判決・刑集4巻12号2463頁等)、私は、少なくとも右に述べた範囲ではこれを再検討すべきであり、そうすることによって、個々の事案に応じた適切な処理も可能となる。
  4. 強盗殺人被告事件(最高裁判決 平成27年12月3日)日本国憲法第31条, 刑訴法250条1項
    公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置を定めた同法附則3条2項と憲法39条,31条
    公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置として,同改正法律施行の際公訴時効が完成していない罪について改正後の刑訴法250条1項を適用する旨を定めた同改正法律附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨にも反しない。
    • 公訴時効制度の趣旨は,時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。本法は,その趣旨を実現するため,人を死亡させた罪であって,死刑に当たるものについて公訴時効を廃止し,懲役又は禁錮の刑に当たるものについて公訴時効期間を延長したにすぎず,行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。そして,本法附則3条2項は,本法施行の際公訴時効が完成していない罪について本法による改正後の刑訴法250条1項を適用するとしたものであるから,被疑者・被告人となり得る者につき既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない。
  5. 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,徳島県青少年健全育成条例違反,東京都青少年の健全な育成に関する条例違反被告事件(最高裁判決 令和2年3月10日)
    強制わいせつ罪等を非親告罪とした「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)の経過措置を定めた同法附則2条2項と憲法39条
    強制わいせつ罪等を非親告罪とした「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)の経過措置として,同法により非親告罪とされた罪であって同法の施行前に犯したものについて,同法の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,同法の施行後は,告訴がなくても公訴を提起することができるとした同法附則2条2項は,憲法39条及びその趣旨に反しない。
    • 親告罪は,一定の犯罪について,犯人の訴追・処罰に関する被害者意思の尊重の観点から,告訴を公訴提起の要件としたものであり,親告罪であった犯罪を非親告罪とする本法は,行為時点における当該行為の違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。そして,本法附則2条2項は,本法の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,本法の施行前の行為についても非親告罪として扱うこととしたものであり,被疑者・被告人となり得る者につき既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない。

二重処罰の禁止

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  1. 強盗、詐欺(最高裁判決 昭和24年12月21日)刑法第56条,刑法第57条
    再犯加重の合憲性
    刑法第56条・第57条の再犯加重の規定は第56条の所定の再犯者であるという事に基いて、新に犯した罪に対する法定刑を加重し、重い刑罰を科し得べきことを是認したに過ぎないもので、前科に対する確定判決を動かしたり、或は前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨のものではないから所論憲法第39条の規定に反するものではない。従つて右刑法の規定が違憲であることを前提とする論旨はいずれも理由がない。
  2. 昭和22年勅令第1号違反、衆議院議員選挙法違反(最高裁判決 昭和25年9月27日)刑事訴訟法第351条
    一事不再理の原則――検察官の上訴と憲法第39条にいわゆる「二重の危険」
    元来一時不再理の原則は、何人も同じ犯行について、二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険に曝さるべきものではないという根本思想に基くことは言うをまたぬ。そして、その危険とは、同一の事件においては、訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態と見るを相当とする。されば、一審の手続も控訴審の手続もまた、上告審のそれも同じ事件においては、継続せる一つの危険の各部分たるにすぎないのである。従つて同じ事件においては、いかなる段階においても唯一の危険があるのみであつて、そこには二重危険(ダブル、ジエバーディ)ないし二度危険(トワイス、ジエバーディ)というものは存在しない。それ故に、下級審における無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険に曝すものでもなく、従ってまた憲法第39条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでもないと言わなければならぬ。
  3. 私文書偽造、同行使、詐欺未遂、横領(最高裁判決 昭和29年7月2日)弁護士法56条,弁護士法57条,弁護士法68条,刑訴法337条1号
    1. 弁護士法に規定する懲戒は刑罰か
      弁護士法に規定する懲戒は刑罰ではない。
    2. 弁護士法に規定する懲戒と憲法第39条
      被告人が弁護士法に規定する懲戒を受けた後、さらに同一事実に基いて刑事訴追を受け有罪判決を言い渡されたとしても、憲法第39条後段に違反しない。
  4. 法人税額更正決定取消等請求(最高裁判決 昭和33年4月30日)法人税法(昭和22年法律28号。昭和25年法律72号による改正前のもの)43条,法人税法(昭和22年法律28号。昭和25年法律72号による改正前のもの)48条
    法人税法(昭和22年法律28号。昭和25年法律72号による改正前のもの)第43条の追徴税と罰金とを併科することは憲法第39条に違反するか
    法人税法第43条の追徴税と罰金とを併科することは、憲法第39条に違反しない
    • 法43条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定の已むを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて、過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止し、以つて納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であると解すべきである。法が追徴税を行政機関の行政手続により租税の形式により課すべきものとしたことは追徴税を課せらるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法39条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当である
  5. 業務上横領(最高裁判決 昭和35年11月01日)日本国憲法第92条,地方公務員法第29条,地方自治法第154条
    地方公務員法による懲戒を受けたものを処罰することと憲法第92条。
    地方公共団体の職員が地方公務員法に規定する懲戒を受けた後、更に同一事実に基づいて刑事訴追を受け、有罪の判決を言渡されたとしても、憲法第92条に違反するものではない。
  6. 刑の執行猶予言渡取消請求事件についてした即時抗告棄却の決定に対する抗告(最高裁決定 昭和42年3月8日)刑法第26条
    刑法第26条第2号による刑の執行猶予の言渡の取消は憲法第39条後段に違反するか
    刑法第26条第2号による刑の執行猶予の言渡の取消は、憲法第39条後段に違反しない。
    • 刑の執行猶予の判決は、刑の執行猶予を継続するのにふさわしくない法定の事由が存在するに至り又はその存在することが明らかになつた場合には、その言渡を取り消して刑の執行をすべきものとして、刑の執行を一定期間猶予するという内容の判決であるから、右の法定事由が存在するに至り又は存在することが明らかになつたため、刑の執行猶予の言渡が取り消されることになつたとしても、それは、刑の執行猶予の判決に内在するものとして予定されていたことが実現したというだけのことであつて、処罰はあくまで一回あるだけであり、同一の犯罪について重ねて処罰するものではない。
  7. 所得税法違反(最高裁判決 昭和45年9月11日)国税通則法68条,所得税法(昭和40年法律33号による改正前のもの)69条
    国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科することと憲法39条
    同一の租税逋脱行為について国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科しても、憲法39条に違反しない。
    • 国税通則法68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、または仮装する方法によつて行なわれた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せられるもので、これによつてかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もつて徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするものと解すべきであつて、それゆえ、同一の租税逋脱行為について重加算税のほかに刑罰を科しても憲法三九条に違反するものでない。

前条:
日本国憲法第38条
【不利益供述の不強要、自白の証拠能力】
日本国憲法
第3章 国民の権利及び義務
次条:
日本国憲法第40条
【刑事補償】
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