刑法第181条
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条文
[編集](不同意わいせつ等致死傷)
- 第181条
- 第176条【不同意わいせつ罪】若しくは第179条第1項の罪【監護者わいせつ罪】又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の拘禁刑に処する。
- 第177条【不同意性交等罪】若しくは第179条第2項の罪【監護者性交等罪】又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の拘禁刑に処する。
改正経緯
[編集]2023年改正
[編集]改正前は以下の条項が規定されていたが、刑法第178条「準強制わいせつ及び準強制性交等罪」の削除により改正された。
- 第176条、第178条第1項若しくは第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
- 第177条、第178条第2項若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。
2022年改正
[編集]2022年、以下のとおり改正(施行日2025年6月1日)。
- (改正前)懲役
- (改正後)拘禁刑
2017年改正
[編集]2017年改正により、以下の条項から改正。
- 第176条若しくは第178条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
- 第177条若しくは第178条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は5年以上の懲役に処する。
- 第178条の2の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。
(改正ポイント)
- 致死傷機会の犯罪に「監護者わいせつ及び監護者性交等」を追加(第1項及び第2項)。
- 強制性交等致死傷(旧・強姦等致死傷)の、致死傷機会である犯罪の法定刑下限が3年の有期懲役から5年に引き上げられたことに伴う、法定刑下限の5年の有期懲役から6年への引き上げ(第2項)。
- 刑法第178条の2(集団強姦等)が削除されたことに伴う第3項の削除。
解説
[編集]- 本罪の論点
- 不同意性交等/わいせつに着手し、被害者を死亡させた後に性交等又はわいせつ行為にあたる行為をした場合、本罪が成立するか。
- 旧判例は、死者に対してわいせつ行為等が成立しない(侵害すべき性的自由が存在しない)ことから、殺人罪又は傷害致死罪のみの成立とし本罪の成立を否定していたが、最高裁判決昭和36年8月17日により、姦淫行為まで全体を1個の行為と観念し、本罪の成立を認めた。学説においては、旧判例を支持するものもある[1]。
- 犯罪行為前から殺人の故意をもって不同意性交等/わいせつに着手し被害者を死亡させた場合又は不同意性交等/わいせつ行為(未遂も含む)の後に証拠隠滅等の目的で被害者を殺害した場合、本罪の規定だけを適用すれば足りるか。
- 本罪の法定刑には死刑が含まれておらず、結果的加重犯としての致死の結果は殺人の故意がないことを前提としていると想定され、殺人の故意がある場合に殺人罪の適用を排除するのは妥当ではない。判例(大審院判決大正4年12月11日、最高裁判決昭和31年10月25日 等)・通説とも殺人罪の規定も適用すべきとしており、この場合、第10条により殺人罪の方が第54条における重い犯罪と評価される。
- 不同意性交等/わいせつに着手し、被害者を死亡させた後に性交等又はわいせつ行為にあたる行為をした場合、本罪が成立するか。
参照条文
[編集]- 刑法第241条(強盗・不同意性交等及び同致死)
判例
[編集]- 大審院判決大正4年12月11日(刑録21.2088)
- 殺意を有しつつ、暴行により女子を性交し死亡させた場合、強姦致死罪と殺人罪の観念的競合が成立する。
- 殺人、強姦致死、強姦、窃盗(最高裁決定昭和23年11月16日刑集2巻12号1535頁)
- 強姦行為の未遂と強姦致死罪の既遂[2]
- およそ婦女を姦淫する為の手段として用いた暴行の結果その婦女を死亡させたときは、姦淫行為の既遂たると未遂たるとを問わず、強姦致死罪が成立し、婦女の死亡後、これを姦するが如き行為は、右強姦致死罪の成立に何等のかかわりはない。
- 強姦致傷、不法第監禁(最高裁判決昭和24年7月12日)
- 強姦に際し婦女に傷害の結果を与えた行為の擬律[2]
- 強姦に際し婦女に傷害の結果を与えれば姦淫が未遂であつても強姦致傷罪の既遂となり、強姦致傷罪の未遂【未遂罪は法定されていない】という観念を容れることはできない。
- 強姦の共謀者中傷害の結果について認識を欠く者と強姦致傷罪の成立
- 被告人等は同女を強姦しようと共謀して判示犯行をとげたのであり、そして強姦致傷罪は結果的加重犯であつて、暴行脅迫により姦淫をする意志があれば、傷害を与えることについて認識がなくとも同罪は成立するのであるから共謀者全員が強姦致死罪の共同正犯として責を負わなければならない。
- 二人以上共謀して暴行傷害を為した場合と刑法第207条(同時傷害)の適用の有無
- 刑法第207条は数人が共謀することなくして暴行をなし人を傷害した場合に関する規定であつて二人以上共謀して暴行をなし人を傷害した場合に適用はない、従って被告人等が共謀して強姦をなし且つ傷害を與えた本件に同条の適用のないことは明白である。
- 強姦致傷の被害者が告訴を取下げた場合と公訴棄却の裁判の有無
- 被告人等の行為が強姦致傷罪を構成する場合にはたとい被害者が告訴を取下げたとしても所論親告罪でない本件において公訴を棄却すべき理由はない。
- 現行法では論点とならない。
- 被告人等の行為が強姦致傷罪を構成する場合にはたとい被害者が告訴を取下げたとしても所論親告罪でない本件において公訴を棄却すべき理由はない。
- 共犯者が順次同一人を強姦した所為は単純一罪でなく連続犯(刑法第55条;廃止)であるとする上告理由の適否
- 被告人等は原審相被告人等と共謀して同一機会に被害者を順次に強姦したのであるから、被告人等は自分の姦淫行為の外他の被告人等の姦淫行為についても共同正犯として責を負わなければならない。かような場合は一人で数回姦淫した場合と同様、連続犯となるという考え方もあると思はれるが数人が同一の機会に同一人を姦淫したのであつても全体を単一犯罪と見られないことはない。所論のように本件は連続犯と見るべきものであるとしても結局一罪として処罰されることになるのであるから、原判決が単一罪として処罰したのと同一結果となるわけであつて原判決に影響を及ぼさないから、破毀の理由とならない。
- 不法監禁罪と強姦致傷罪とを併合罪として処罰した判決と牽連犯の成否
- 不法監禁罪と強姦致傷罪とは、たまたま手段結果の関係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人等の犯した不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯ではない。從つて右二罪を併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤つたものではない。
- 刑法第177条の法意
- 論旨は刑法第177条の法意は13歳以上の婦女を強姦した場合は、強姦の為め処女膜裂傷の結果を生じても之れを放任行為となし、強姦罪が成立するだけであつて強姦致傷罪は成立しないという趣旨であると主張する。しかし強姦に際して婦女の身体の如何なる部分に傷害を与えても強姦致傷罪は成立するのである。
- 数名共謀による強姦致傷罪と共犯者の一人の犯行の中止
- 甲が他の数名の者と同一帰女を強姦しようと共謀し、右数名の者が同女を強いて姦淫し、因つて同女に傷害の結果を与えたときは、甲が自己の意思により姦淫することを中止したとしても、甲は他の共犯者と同様強姦致傷罪の共同正犯の責を負い、中止未遂とはならない。
- 強姦に際し婦女に傷害の結果を与えた行為の擬律[2]
- 強姦致傷、窃盗(最高裁判決昭和25年3月15日)
- 強姦して処女膜裂傷を生ぜしめた場合と刑法第181条の罪の成立
- 処女を強姦して処女膜裂傷を生ぜしめたときは、刑法第181条の強姦致傷罪が成立する。
- 強姦致死、殺人(最高裁判決昭和31年10月25日)
- 強姦致死、殺人(最高裁判決昭和36年8月17日)
- 強姦の目的で暴行を加え婦女を死亡させた後の姦淫行為
- 婦女を強姦する目的で暴行を加えその婦女を死亡させ、その直後姦淫したときは、姦淫行為が婦女の死亡後であるとしてもこれを包括して強姦致死罪と解すべきである。
- 強姦致傷、住居侵入(最高裁決定昭和43年9月17日)
- 姦淫の手段である暴行により傷害を負わせた場合と強姦致傷罪の成立
- 婦女に対する姦淫行為自体によりその婦女に傷害を負わせた場合ばかりでなく、姦淫の手段である暴行によつて傷害を負わせた場合でも、刑法第181条の強姦致傷罪が成立する。
- 強姦致傷(最高裁決定昭和46年9月22日刑集25巻6号769頁)
- 強姦と被害者の負傷との間に因果関係が認められた事例
- 被害者の傷害が、共犯者の一名によつて強姦された後、さらに他の共犯者らによって強姦されることの危険を感じた被害者が、詐言を用いてその場をのがれ、暗夜人里離れた地理不案内な田舎道を数100m逃走し救助を求めるに際し、転倒などして受けたものである場合には、右傷害は強姦によって生じたものというを妨げない。
- 強制性交された被害者が逃走する途中で転倒して負傷した(松原90事例14:;浅田131:新たな暴行)
- 住居侵入,強制わいせつ致傷,傷害被告事件(最高裁決定平成20年1月22日刑集62巻1号1頁)刑法第178条1項
- 準強制わいせつ行為をした者が,わいせつな行為を行う意思を喪失した後に,逃走するため被害者に暴行を加えて傷害を負わせた場合について,強制わいせつ致傷罪が成立するとされた事例
- 就寝中の被害者にわいせつな行為をした者が,覚せいした被害者から着衣をつかまれるなどされてわいせつな行為を行う意思を喪失した後に,その場から逃走するため,被害者を引きずるなどした暴行は、上記準強制わいせつ行為に随伴するものであり、これによって被害者に傷害を負わせた場合には,強制わいせつ致傷罪が成立する。
- Xが熟睡中のAの陰部を手指でもてあそんでいたところ、Aが目を醒ましXのTシャツの背部を掴み、Xが逃走するためAを引きずるなどしたため、Aは中指挫創等の傷害を負った(松原90事例15;浅田131:疑問とする)
脚注
[編集]
- ^ 平野『刑法概説』(東京大学出版会)p.181
- ^ 2.0 2.1 現代語改正前は「第176条乃至第179条の罪を犯し、因って人を死傷に致らしめる者は無期、または3年以上の懲役に処す」とあり、「未遂」時の扱いを定めていなかったため、姦淫又は猥褻行為自体が未遂で致死傷となった場合に本条が適用になるかが論点のひとつであり、判例・学説とも当然適用としており、現代語改正時に明定された。
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