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刑法第54条

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条文

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(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)

第54条
  1. 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
  2. 第49条第2項の規定は、前項の場合にも、適用する。

解説

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①1個の行為が数個の罪名に抵触する場合(観念的競合・一所為数法)と②2個の行為が目的・手段、または原因・結果と言う関係がある場合(牽連犯)、一罪として取り扱うこと(科刑上一罪)が定められる。
ただし、第49条2項による没収は併科されうる。
科刑上一罪の場合、包括一罪の場合と異なり、それぞれの罪の事実を訴因として認定するとともに、これに対して罰状の適用を示す必要がある。
「最も重い刑により処断する」という場合、「重い罪の刑」ということではなく、各々の罪の法定刑の重いものが適用されるということである(最高裁判決昭和28年4月14日)。

判例

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観念的競合

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観念的競合
  1. 傷害致死、傷害、業務上横領(最高裁判決 昭和26年09月25日)刑法第204条,刑法第205条
    毒物であるメチルアルコールをBが飲用として多数に販売することを知りながらBに売却した事例
    1. 傷害罪における傷害の意義と、中毒による全身倦怠、膝蓋健反射亢進
      原判決がAに対する傷害として認定した中毒による全身倦怠、膝蓋健反射亢進は人の生活機能の障害を惹起したものであり、これ等は傷害罪にいわゆる傷害に当る。
    2. メチール入ドラム罐を売渡した行為により数人に対し夫々傷害致死、傷害の結果を生ぜしめた場合の罪数
      原判決のメチール入ドラム罐をBに売渡したため右メチールアルコールが被告人不知の間に順次被害者に飲用された判示犯罪行為の態様から見て、傷害致死、傷害の各所為は所論の如く一所為数法の関係と見るのが相当である。
  2. 傷害、公務執行妨害、外国人登録令違反(最高裁判決 昭和28年4月14日)
    1. 刑法第54条第1項前段の法意
      刑法第54条第1項前段の一個の行為が数個の罪名に触れる場合に「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と規定しているのはその数個の罪名中もつとも重い刑を定めている法条によつて処断するという趣旨と共に他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むと解するのが相当である。
    2. 公務執行妨害罪と傷害罪が刑法第54条第1項前段の関係にある場合に傷害罪所定の罰金刑で処断することは適法か
      公務執行妨害罪と傷害罪が刑法第54条第1項前段の関係にある場合に傷害罪所定の罰金刑で処断するのは刑法第54条第1項前段の規定の解釈を誤つたもので違法である。
  3. 監禁(最高裁判決 昭和28年06月17日)刑法第35条,労働組合法第(昭和20年法第律51号)1条,憲法第28条,憲法第32条,旧刑訴法第360条1項
    1. 人を逮捕し、引き続き監禁した場合の擬律
      人を不法に逮捕し引き続き監禁した場合には、刑法第220条第1項の一罪が成立する。
      • 人を、逮捕し監禁したときは、逮捕罪と監禁罪との各別の二罪が成立し、牽連犯又は連続犯となるものではなく、これを包括的に観察して刑法220条1項の単純な一罪が成立するものと解すべきものである。
    2. 同時に同一場所に数人を監禁した行為と罪数
      同時に同一場所において別個の人を監禁したときは、一個の行為で被害者の数に応じた数個の監禁の罪名に触れる。
  4. 騒擾、建造物侵入、職務強要、銃砲等所持禁止令違反、公務執行妨害、傷害、外国人登録法違反(最高裁判決昭和35年12月8日)刑法第106条
    1. 騒擾罪における暴行の意義
      騒擾罪における暴行は、物に対する有契力の行使を含む。
    2. 騒擾罪と他の罪名に触れる暴行脅迫
      騒擾罪の成立要素である暴行、脅迫は、他の罪名に触れない程度のもので足り、その暴行、脅迫が他の罪名に触れる場合には、その行為は一面騒擾罪を成立せしむると同時に他の罪名に触れるものと解すべきである。
    3. 騒擾罪における暴行又は脅迫と認められる場合
      騒擾罪は、群集による集団犯罪であるから、その暴行又は脅迫は集合した多衆の共同意思に出たもの、いわば集団そのものの暴行又は脅迫と認められる場合であることを要するが、その多衆すべての者が現実に暴行脅迫を行うことは必要でなく、群集の集団として暴行脅迫を加えるという認識のあることが必要なのである。
  5. 道路交通法違反、業務上過失致死(最高裁決定 昭和49年5月29日) 刑法第45条
    1. 刑法54条1項前段にいう1個の行為の意義
      刑法54条1項前段にいう1個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合をいう。
    2. 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法65条、117条の2第1号の酒酔い運転の所為と業務上過失致死の所為との罪数
      酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和45年法律第86号による改正前のもの)65条【酒気帯び運転等の禁止】、117条の2第1号【酒気帯び運転等への罰則】の酒酔い運転の所為と業務上過失致死の所為とは、酒に酔つた状態で運転したことが右過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく、併合罪の関係にある。
  6. 集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例違反、道路交通法違反(徳島市公安条例事件 最高裁判決 昭和50年9月10日) 昭和27年徳島市条例3号(集団行進及び集団示威運動に関する条例 ;以下「集団行進等に関する徳島県条例」と記す)3条3号,集団行進等に関する徳島県条例5条, 道路交通法77条1項4号,道路交通法77条3項,道路交通法119条1項13号,徳島県道路交通施行細則(昭和47年徳島県公安委員会規則1号による改正前のもの)11条3号,憲法31条刑法54条1項前段
    集団行進等に関する徳島県条例3条3号、5条の集団行進者に交通秩序の維持に違反する行為をするようにせん動した所為と道路交通法77条1項4号、3項、119条1項13号、徳島県道路交通施行細則11条3号の警察署長の付した道路使用許可条件に違反してだ行進をした所為との罪数
    被告人が、先頭集団直近の隊列外に位置して、だ行進をしたり、笛を吹いたり、両腕を前後に振って合図する等して、集団行進者にだ行進をさせるよう刺激を与え、集団行進者がだ行進をするようせん動した場合において、集団行進等に関する徳島県条例3条3号、5条の集団行進者が交通秩序の維持に反する行為をするようにせん動した所為と、道路交通法77条1項4号、3項、119条1項13号、徳島県道路交通施行細則11条3号の警察署長の付した道路使用許可条件に違反してだ行進をした所為とは、観念的競合の関係にある。
  7. 常習累犯窃盗(最高裁判決 昭和55年12月23日)
    常習累犯窃盗の罪と窃盗の着手に至らない窃盗目的の住居侵入の罪との罪数関係
    窃盗を目的とする住居侵入の罪は、窃盗の着手にまで至らなかつた場合にも、盗犯等の防止及び処分に関する法第律第3条の常習累犯窃盗の罪と一罪の関係にある。
  8. 有線電機通信法違反、業務妨害、各同教唆(最高裁決定昭和61年2月3日)刑法第233条、有線電気通信妨害罪第21条(現.同法第13条
    マジツクホンと称する電気機器を電話回線に取り付けた行為と有線電気通信妨害罪及び偽計業務妨害罪の成否並びにその罪数関係
    マジツクホンと称する電気機器を電話回線に取り付け、応答信号の送出を妨げるとともに、発信側電話の度数計器の作動を不能にした行為は、有線電気通信妨害罪及び偽計業務妨害罪に当たり、両罪は観念的競合の関係にある。
  9. 現住建造物等放火被告事件(最高裁判所第三小法廷決定平成29年12月19日)
    現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を量刑上考慮することの可否
    現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を,その法定刑の枠内で,量刑上考慮することは許される。
    現住建造物等放火に伴う死傷については、本来的一罪として現住建造物等放火罪に包含されているものであり、同罪の量刑において別に訴因として当該死傷を明示する必要はない。
    本放火と死傷は観念的競合の関係にない。詳細は第108条判例欄参照

牽連犯

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牽連犯
  1. 強姦致傷、不法第監禁(最高裁判決 昭和24年07月12日)
    不法監禁罪と強姦致傷罪とを併合罪として処罰した判決と牽連犯の成否
    不法監禁罪と強姦致傷罪とは、たまたま手段結果の関係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人等の犯した不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯ではない。從つて右二罪を併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤つたものではない。
  2. 強盗殺人未遂、銃砲等保持禁止令違反(最高裁判決 昭和24年12月21日)
    牽連犯の意義と罪数−銃砲等所持禁止令違反と強盗殺人未遂は牽連犯となるか
    複数の罪に問われる場合、その罪質が互いに手段や結果の関係にある場合に限り、牽連犯として、それらを一つの罪として処罰することができる。銃砲所持禁止令違反と強盗殺人未遂罪は、必ずしも手段や結果の関係にあるわけではないため、これらの罪が牽連犯になることはない
    • 牽連犯は元来数罪の成立があるのであるが、法律がこれを処断上一罪として取扱うこととした所以は、その数罪間にその罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという關係があり、しかも具体的にも犯人がかゝる關係においてその数罪を実行したような場合にあつてはこれを一罪としてその最も重き罪につき定めた刑を以て処断すれば、それによつて軽き罪に対する処罰をも充し得るのを通例とするから、犯行目的の単一性をも考慮して、もはや数罪としてこれを処断するの必要なきものと認めたことによるものである。従つて数罪が牽連犯となるためには犯人が主観的にその一方を他方の手段又は結果の関係において実行したというだけでは足らず、その数罪間にその罪質上通例手段結果の関係が存在すべきものたることを必要とするのである。然るに所論銃砲等所持禁止令違反の罪と強盗殺人未遂罪とは、必ずしもその罪質上通常手段又は結果の関係あるべきものとは認め得ないのであるから、たとえ、本件において被告人が所論強盗殺人未遂罪実行の手段として匕首不法所持罪を犯したものとしても、その一事だけで右両面の罪を牽連犯とみることはできない。
  3. 殺人(最高裁決定 昭和29年5月27日)
    一個の住居侵入行為と三個の殺人行為とがそれぞれ牽連犯の関係にある場合とその擬律
    一個の住居侵入行為と三個の殺人行為とがそれぞれ牽連犯の関係にある場合には、刑法第54条第1項後段、第10条を適用し一罪としてその最も重き刑に従い処断すべきものである。
    • 「かすがい現象」の事例
  4. 傷害、公務執行妨害(最高裁判決 昭和32年7月18日)
    1. 牽連犯の要件
      牽連犯が成立するためには犯人が主観的に数罪の一方を他方の手段または結果の関係において実行したというだけでは足りず、その数罪間にその罪質上通常手段結果の関係が存在することを必要とする。
    2. 強盗傷人とならない一事例
      前夜岡山県下で強盗を行つて得た賍物を舟で運搬し、翌晩神戸で陸揚げしようとする際巡査に発見され、逮捕を免れるため暴行を加え、これを傷害した所為は、強盗傷人ではなく、強盗と公務執行妨害、傷害との罪が成立する。(牽連犯成立を否定)
  5. 有印私文書偽造、同行使、有印公文書偽造、同行使、詐欺、背任、公正証書原本不実記載、同行使、業務上横領(最高裁判所第二小法廷決定昭和42年8月28日)
    公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との関係
    甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登記官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登記済権利証を示して、抵当権設定登記を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯となる。
  6. 有印公文書偽造、同行使、道路交通法違反(最高裁判所大法廷判決昭和44年6月18日)刑法45条刑法155条刑法158条道路交通法95条
    牽連犯を構成する二罪の中間に別罪の確定裁判が介在する場合と刑法54条の適用
    牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法54条の適用がある。 (少数意見がある。)
    • ①昭和40年1月28日有印公文書である福岡県公安委員会作成名義の大型自動車運転免許証1通を偽造した事実(第155条-公文書等偽造が成立)と②昭和42年10月22日から同年12月1日までの間19回にわたり、タクシー運転手として営業用普通自動車を運転した際右偽造運転免許証を携帯行使した事実(本条-偽造公文書行使が成立)との間に昭和41年1月26日宣告、同年2月10日確定の窃盗、有印私文書偽造、同行使罪による懲役一年の確定裁判があった事例。
      • 牽連犯はその数罪間に罪質上通例その一方が他方の手段または結果となる関係があり、しかも具体的に犯人がかかる関係においてその数罪を実行した場合(上記判例参照)に科刑上とくに一罪として取り扱うこととしたものであるから、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法54条の適用があるものと解するのが相当である。
        • 長部謹吾裁判官意見
          刑法は、第1編総則第9章として併合罪の題名のもとに45条から54条までの規定を設けている。これらの規定の順序構成をみれば、刑法は犯人が数個の犯罪を犯した場合には、これを併合罪として46条以下の規定に従い処理すべきことを原則としていることは明白である。犯罪の手段または結果となる行為にして他の罪名に触れるときも、それぞれが犯罪を構成する数罪となり、45条以下の併合罪として処理されるべきものであるが、刑法は特にその数罪の主観的客観的な緊密性に着目して、54条により処断上の一罪として、併合罪処理の例外としたものと解すべきである。したがつて、もし牽連犯となる犯罪と結果となる犯罪との中間に他の犯罪の確定裁判が介在する場合には、確定裁判前に犯された手となるべき手段となる犯罪は、確定裁判の際に同時に審判さるべきものとして、45条後段の適用を受け、結果となる犯罪は、右確定裁判を受ける際同時に審判されることは不能であつたのであるから、別個独立の刑を受けるべきものとなり、両者は牽連犯として一罪の取扱を受ける利益を有しないものというべきである。
  7. みのしろ金目的拐取、拐取者みのしろ金取得等、監禁(最高裁決定 昭和58年09月27日)
    みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が被拐取者を監禁しみのしろ金を要求した場合の罪数関係
    みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪とみのしろ金要求罪とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にある。
  8. 業務上過失致死、同傷害(最高裁決定 昭和63年02月29日)
    結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合の公訴時効
    結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合につき公訴時効完成の有無を判定するに当たつては、その全部を一体として観察すべきであり、最終の結果が生じたときから起算して同罪の公訴時効期間が経過していない以上、その全体について公訴時効は未完成である。

前条:
刑法第53条
(拘留及び科料の併科)
刑法
第1編 総則
第9章 併合罪
次条:
刑法第55条 - 削除(連続犯)
刑法第56条(再犯)
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