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労働基準法第89条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

労働基準法

条文

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(作成及び届出の義務)

第89条  
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
  1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  2. 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  3の2. 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  1. 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  2. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  3. 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  4. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  5. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  6. 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
  7. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

解説

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就業規則
「就業規則」の法規範性
元々判例において、慣習として法規範性が認められていたが(最判昭和43年12月25日)、2007年(平成19年)制定労働契約法にて法定された。
第9号「制裁(懲戒)」の限界
労働契約法第15条及び同法第16条により制限される。

参照条文

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  • 労働契約法第7条 
    労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
  • 労働契約法第9条 
    使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
  • 労働契約法第10条
    使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
  • 労働契約法第12条
    就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
  • 労働契約法第13条
    就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
  • 労働契約法第15条
    使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
  • 労働契約法第16条
    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

判例

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  1. 解雇無効確認等請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)
    1. 従業員の金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なわれる所持品検査が許されるための要件と従業員の検査の受忍義務
      使用者がその従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならず、このようなものとしての所持品検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれるときは、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。
    2. 私鉄の電車運転士が脱靴を伴う靴の中の検査を拒否したことを理由とする懲戒解雇が違法でないとされた事例
      私鉄の使用者が、「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない。」との就業規則の条項に基づき、組合と協議のうえ、電車運転士ら乗務員一同に対し、脱靴が自然に行なわれるよう配慮して、靴の中の検査を実施しようとした等判示事実関係のもとにおいては、当該乗務員は右検査に応ずる義務があり、この場合、被検査者の一人が脱靴を拒否したことを理由とする懲戒解雇は違法ではない。
  2. 就業規則の改正無効確認請求(最高裁判決 昭和43年12月25日)労働基準法第93条(2007年改正前の条文、同年制定労働契約法第12条に継承),民法第92条
    1. 労働者に不利益な労働条件を一方的に課する就業規則の作成または変更の許否
      使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によつて、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである。
    2. 55歳停年制をあらたに定めた就業規則の改正が有効とされた事例
      従来停年制のなかつた主任以上の職にある被用者に対して、使用者会社がその就業規則であらたに55歳の停年制を定めた場合において、同会社の般職種の被用者の停年が50歳と定められており、また、右改正にかかる規則条項において、被解雇者に対する再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによつて生ずる苛酷な結果を緩和する途が講ぜられている等判示の事情があるときは、右改正条項は、同条項の改正後ただちにその適用によつて解雇されることに上なる被用者に対しても、その同意の有無にかかわらず、効力を有するものと解すべきである。
    3. 就業規則の法的性質
      就業規則は、当該事業場内での社会的規範であるだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきである。
  3. 雇傭関係存続確認請求(通称 横浜ゴム平塚製作所懲戒解雇)(最高裁判決 昭和45年07月28日)
    夜半他人の居宅に故なく入り込み住居侵入罪として処罰されたことが懲戒解雇事由にあたらないとされた事例
    会社が、企業運営の刷新を図るため従業員に対し職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた時期に、従業員が、午後11時20分頃他人の居宅に故なく入り込み、住居侵入罪として処罰されたとしても、右行為が会社の業務等に関係のない私生活の範囲内で行なわれたものであり、その受けた刑罰は罰金2500円の程度にとどまり、会社における職務上の地位も単なる工員であるにすぎなかつた等原判示の事情のもとにおいては、右行為は、「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した」という右会社の就業規則に定める懲戒解雇事由にはあたらない。
    • 犯罪行為を理由とする懲戒解雇適用のメルクマール
      • 賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となる被上告人の右行為は、
        1. 会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行なわれたものであること、(犯罪の就業業務との関連性
          • 松本正雄裁判官反対意見より
            「私生活の範囲内で行なわれたものである」場合には、軽軽しく懲戒解雇に関する規定を適用すべきではなく、その規定の適用にあたつては客観的合理的に解釈しなければならない。右規定を適用するにあたつて客観的合理的な解釈をする場合には具体的事案にそくして、私生活の範囲内で行なわれたものであつても、その行為の性質、その行為が犯罪であれば犯罪の性質、事業の性質、事業が当面する情況等を慎重に考慮すべきであつて、それによつて解釈上、異つた結論が出てくることがある。
            被上告人の犯行は許しがたい破廉恥罪であり、上告会社はタイヤー等のゴム製品を販売する著名会社であつて、会社のイメージからいつても、従業員のモラルは会社の営業に直接、間接に大きな影響があることは否定することができない。したがつて、被上告人の本件犯行の影響の及ぶところは、会社の組織、業務等に関係がないとはいえない。
        2. 被上告人の受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まつたこと、(犯罪の重大性
        3. 上告会社における被上告人の職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでない(当該従業員の会社における地位
        ことなど原判示の諸事情を勘案すれば、被上告人の右行為が、上告会社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。
  4. 丸住製紙懲戒解雇(高松高等裁判所判決 昭和46年02月25日)
  5. 退職金支払、民訴198条2項に基づく損害賠償申立(最高裁判決 平成1年09月07日)労働基準法第89条1項(昭和62年法第律第99号による改正前のもの),労働基準法第93条, 民訴198条2項→現.民事訴訟法第260条(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
    就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合において退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者の退職金額が右就業規則を補充するものとして届け出られた退職金協定の支給基準により確定すべきものとされた事例
    就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合、右就業規則を補充するものとして所轄労働基準監督署長に届け出られた退職金協定の支給基準は、就業規則の一部となつているものであつて、退職金協定が有効期間の満了により失効しても当然には効力を失わず、退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者については、右支給基準により退職金額を確定すべきである。
  6. 懲戒戒告処分無効確認(通称 目黒電報電話局戒告)(最高裁判決  昭和61年03月13日) 日本電信電話公社法33条,日本電信電話公社法34条1項,日本電信電話公社法34条2項,労働基準法第34条3項
    日本電信電話公社(昭和59年法律第85号日本電信電話株式会社法附則11条による廃止前の日本電信電話公社法に基づき設立されたもの)がその職員に対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命じた業務命令が有効であるとしてこれに違反したことを理由とする戒告処分が適法であるとされた事例
    日本電信電話公社(昭和59年法律第85号日本電信電話株式会社法附則11条による廃止前の日本電信電話公社法に基づき設立されたもの)が健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対し二週間の入院を要する頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命ずる業務命令を発した場合において、右職員に労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があり、右検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を有するなど判示の事情があるときは、右業務命令は有効であり、これに違反したことを理由とする戒告処分は適法である。
  7. 退職金支払、民事訴訟法第198条第2項に基づく損害賠償申立(最高裁判決 平成元年09月07日)労働基準法第89条1項(昭和62年法第律第99号による改正前のもの)
    就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合において退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者の退職金額が右就業規則を補充するものとして届け出られた退職金協定の支給基準により確定すべきものとされた事例
    就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合、右就業規則を補充するものとして所轄労働基準監督署長に届け出られた退職金協定の支給基準は、就業規則の一部となつているものであつて、退職金協定が有効期間の満了により失効しても当然には効力を失わず、退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者については、右支給基準により退職金額を確定すべきである。
  8. 解雇予告手当等請求本訴,損害賠償請求反訴,損害賠償等請求事件(最高裁判決  平成15年10月10日)労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)106条労働基準法第93条
    労働契約法第10条
    1. 使用者による労働者の懲戒と就業規則の懲戒に関する定めの要否
      使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。
    2. 就業規則に拘束力を生ずるための要件
      就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
  9. 労働契約上の地位確認等請求,民訴法第260条2項の申立て事件(最高裁判決 平成18年10月06日)
    従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例
    従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなど判示の事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効である。
  10. 地位確認等請求事件(最高裁判決 平成24年04月27日)労働契約法第15条労働契約法第16条
    従業員の欠勤が就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分が無効であるとされた事例
    従業員が,被害妄想など何らかの精神的な不調のために,実際には事実として存在しないにもかかわらず,約3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を子細に監視している加害者集団が職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを行っているとの認識を有しており,上記嫌がらせにより業務に支障が生じており上記情報が外部に漏えいされる危険もあると考えて,自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で,有給休暇を全て取得した後,約40日間にわたり欠勤を続けたなど判示の事情の下では,上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとはいえず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分は無効である。
  11. 懲戒処分無効確認等請求事件(最高裁判決 平成27年2月26日)労働契約法第15条
    職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例
    会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は,次の1.~4.など判示の事情の下では,懲戒権を濫用したものとはいえず,有効である。
    1. 上記男性従業員らは,
      1. うち1名が,女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし,
      2. 他の1名が,当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら,女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなど,同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。
    2. 上記会社は,職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け,その防止のため,従業員らに対し,禁止文書を周知させ,研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており,上記男性従業員らは,上記の研修を受けていただけでなく,管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。
    3. 上記1.-1.及び-2.の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは,上記各行為が一因となって,上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。
    4. 上記出勤停止の期間は,上記1.-1.の1名につき30日,同-2.の1名につき10日であった。

前条:
労働基準法第88条
(補償に関する細目)
労働基準法
第9章 就業規則
次条:
労働基準法第90条
(作成の手続)
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