民法第541条
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法学>民事法>民法>コンメンタール民法>第3編 債権 (コンメンタール民法)
条文
[編集](催告による解除)
- 第541条
- 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
改正経緯
[編集]2017年改正により、但書を追加。また、見出しを「履行遅滞等による解除権」から「催告による解除」に改正。
付随的義務違反等の軽微な義務違反が解除原因とはならないとする判例法理(最判昭和36年11月21日民集15巻10号2507頁等)に基づき、一定の事由がある場合には解除をすることができない旨の阻却要件を付加した。
解説
[編集]債務不履行のうち、履行遅滞の場合における、法定解除権の成立要件を定めている。
要件
[編集]履行遅滞
[編集]- 履行遅滞の要件
- 履行が可能であるが、履行しないこと
- 履行が不能な場合は原始的不能または後発的不能の問題になる。後発的不能の場合は、債権者に帰責事由がある場合(543条)を除いて法定解除権が発生する。
- 履行期の徒過(412条)
- 違法性
相当の期間を定めた催告
[編集]- 「相当の期間」がどの程度の長さかについては取引慣行によって定めるべきとされる。
- 履行の準備をしている者が、履行するために必要な期間であり、一般的に2~3日。
相当期間内に履行がないこと
[編集]期間内に履行があった場合には解除権は発生しない。
効果
[編集]- 法定解除権が発生する。解除権の行使は相手方に対する意思表示によってする(540条1項)。
- 解除の効果については545条に規定があり、相互に原状回復義務が発生するとともに、損害が発生した場合は損害賠償請求権も発生する。
継続的契約への適用
[編集]賃貸借契約の場合に本条の適否が問題とされる。同じく継続的契約である雇用契約に近づけて考える見解(628条類推説)も有力であるが、判例は541条を適用しつつ信頼関係破壊法理により修正する。
参照条文
[編集]判例
[編集]- 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和29年07月27日)民法第533条
- 反対給付の提供をしないでした催告にもとづく解除の効力
- 双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和31年12月06日)
- 催告後相当期間の経過後にした解除の効力
- 債務者が履行の催告に応じない場合に、債権者が催告のときから相当期間を経過した後にした解除の意思表示は、催告期間が相当であつたかどうかにかかわりなく、有効である。
- 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和35年12月09日)
- 調停申立の取下と調停申立による催告の効力。
- 調停申立が取り下げられても、その調停申立による催告の効力は当然には消滅しない。
- 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和36年06月22日)民法第533条
- 契約解除と同時履行の関係に立つ反対給付の履行の提供の時期。
- 双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。
- 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和36年11月21日)
- いわゆる附随的義務の不履行と契約の解除。
- 当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和37年03月29日)民法第612条,民法第613条
- 賃料延滞による賃貸借の解除と転借人に対する催告の要否
- 適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
- 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和44年05月30日)民法第1条2項
- 賃料延滞を理由とする無催告解除が信義に反し許されないとされた事例
- 土地賃貸人が、2ケ月分合計3000円の賃料の延滞を理由として、無催告解除の特約に基づき、賃借人に対し、右2ヶ月目の賃料の履行期を徒過した翌日に、賃貸借契約解除の意思表示を発信した場合において、賃借人が賃借以来これまで11年余の間賃料の支払を怠つたことがなく、右賃料延滞は、賃貸人の娘婿が賃借土地に隣接する賃貸人所有の土地上に建物の建築工事を始め、賃借土地から公道へ至る通行に支障を来たさせて賃借人の生活を妨害したことに端を発した当事者間の紛争に基因するものであり、賃貸人が、右妨害を止める配慮をせず、かえつて右紛争に関する和解のための第三者のあつせんが行なわれている間にこれを無視して右解除の意思表示をしたものである等の事情があるときは、右解除は、信義に反し、その効果を生じないものと解すべきである。
- 建物収去土地明渡等(最高裁判決 昭和56年06月16日)民法第166条1項
- 継続した地代不払を一括して一個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効の起算点
- 継続した地代不払を一括して一個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効は、最後の地代の支払期日が経過した時から進行する。
- 建物明渡等(最高裁判決 昭和59年12月13日)公営住宅法第22条,民法第601条
- 公営住宅の明渡請求と信頼関係の法理の適用
- 公営住宅の入居者が公営住宅法22条1項所定の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときは、事業主体の長がした明渡請求は効力を生じない。
- 更正登記手続等(最高裁判決 平成1年02月09日)民法第907条、民法第909条
- 遺産分割協議と民法541条による解除の可否
- 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法541条によつて右協議を解除することができない。
- 遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきである。
- 損害賠償等(最高裁判決 平成8年11月12日) 民法第3編第2章契約
- 同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することのできる場合
- 同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者は、法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができる。
- いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合にその要素たる債務である屋内プールの完成の遅延を理由として買主が右売買契約を民法541条により解除することができるとされた事例
- 同一当事者間でいわゆるリゾートマンションの区分所有権の売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合において、区分所有権の得喪と会員たる地位の得喪とが密接に関連付けられているなど判示の事実関係の下においては、屋内プールの完成の遅延という会員権契約の要素たる債務の履行遅滞を理由として、区分所有権の買主は、民法541条により右売買契約を解除することができる。
- 同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することのできる場合
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