民法第717条
法学>民事法>民法>コンメンタール民法>第3編 債権 (コンメンタール民法)
条文
[編集](土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
- 第717条
- 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
- 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
- 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
解説
[編集]土地の工作物等の占有者・所有者が負担する不法行為責任についての規定である。
要件
[編集]土地の工作物
[編集]土地の上に人工的に設置された物をいう。建物や道路などが代表的である。鉄道や電柱、塀なども含まれる。植物など天然のものはこれに含まれないことになるが、2項で「竹木」にも準用すると特に規定している。
設置又は保存の瑕疵
[編集]瑕疵とは、工作物が本来有しているべき安全性を欠いていることをいう。瑕疵は故意・過失によって生じたことを必要としない。
損害の発生
[編集]因果関係
[編集]前提として、瑕疵と損害の間に事実的因果関係があることを必要とする。瑕疵がなくても損害が生じていた場合には因果関係は否定される。瑕疵と不可抗力(地震など)が統合して損害をもたらした場合には相当因果関係の問題になる。
免責事由
[編集]- 占有者
- 占有者は、「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」には賠償責任を免れる。「必要な注意」をしたことの立証責任は占有者にある。つまり中間責任が定められている。
- 所有者
- 占有者が責任を免れた場合には、所有者が賠償責任を負う。この賠償責任には免責事由がない。つまり無過失責任が定められている。
特別法による修正
[編集]国家賠償法第2条1項 は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」とする。すなわち、国・公共団体には免責事由がなく、無過失責任が定められている。
効果
[編集]損害賠償責任
[編集]占有者または所有者が損害賠償責任を負う。損害賠償の範囲については第709条を参照。また、被害者の過失が加わって損害が生じた場合、過失相殺(第722条第2項)の適用もある。
求償権
[編集]第3項にいう「損害の原因について他にその責任を負う者があるとき」とは、具体的には、前所有者や、工作物の設置を請負った者に瑕疵の原因があるときを想定している。これらの者に対しては、717条に基づいて直接責任を追及することができないので、占有者または所有者が賠償したあとで求償することを認めたものである。なお、前所有者や工作物請負人は被害者に対する直接の不法行為責任を負う可能性が全くないわけではなく、第709条に基づく一般不法行為が成立する可能性は残る。
参照条文
[編集]- 民法第709条(不法行為による損害賠償)
- 国家賠償法第2条
- 建物の区分所有等に関する法律第9条(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
判例
[編集]- 慰藉料等損害賠償請求(最高裁判決 昭和31年12月18日)
- いわゆる接収建物の賃借人たる国と民法第717条にいう占有者
- 国が連合国占領軍の接収通知に応じ、建物をその所有者から賃借してこれを同軍の使用に供した場合には、国はその建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害につき、民法第717条にいう占有者としてその責に任ずべきである。
- 本条の占有者は直接占有者と間接占有者のいずれかを問わない。
- 損害賠償並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和37年4月26日)民法第711条,労働者災害補償保険法第12条第1項4号,労働者災害補償保険法第12条第1項第5号,労働基準法第79条,労働基準法第80条,労働基準法第84条第2項
- 民法第717条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当するとされた事例
- 炭坑の坑口附近に設置された捲上機の一部をなし、炭車を坑口に捲き上げるために使用される原判ワイヤロープ(原判決引用の第一審判決理由参照)は、民法第717条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当する。
- 損害賠償並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和37年11月8日)
- 電気工作物に瑕疵があるとされた事例。
- 3500ボルト以下の高圧架空送電線のゴム被覆が破損していたため感電事故が生じた場合、行政上の取締規定からは右電線にゴム被覆を用いることが必要でなく、また、終戦後の国内物資の欠乏からその電力会社管下の破損したゴム被覆高圧送電線を全部完全なものに取り替えることは極めて困難な状況にあつても、事故現場の電線の修補することが絶対不可能でないかぎりは、右送電線を所有する電力会社は、右事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和46年4月23日)
- 踏切道の軌道施設に保安設備を欠く場合と民法717条の責任
- 土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる。
- 踏切道の軌道施設に設置上のかしがあるとされた事例
- 電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過しようとする電車の運転者が、踏切上にある歩行者を最遠距離において発見してただちに急停車の措置をとつても、踏切を越える地点でなければ停止できないほど見通しが悪いうえ、一日につき、換算交通量700人程度、列車回数504回にのぼり、過去においても数度に及ぶ電車と通行人との接触事故があつたという事情のある場合には、少なくとも右踏切に警報機を設置していなかつたことは、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあつたものというべきである。
- 踏切道の軌道施設に保安設備を欠く場合と民法717条の責任
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