民法第722条

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法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権

条文[編集]

損害賠償の方法及び過失相殺

第722条
  1. 第417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
  2. 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

解説[編集]

1項[編集]

  • 第417条(損害賠償の方法)

不法行為においては原状回復ではなく金銭賠償が原則であることを規定している。名誉毀損の場合は例外的に原状回復としての謝罪広告等の請求が認められている(723条)。

2項[編集]

本項は不法行為における過失相殺について定める。すなわち、「被害者に過失があったとき」には、それを勘案して、加害者の賠償責任を減額することが可能であるとする。

過失相殺については、債務不履行と異なり、その相殺は義務的ではない。

民法第416条の損害賠償の範囲の規定については、この条文に準用規定が存在せず問題になるが、通説はこれも不法行為に類推されると解している。ただし、これを否定する見解もある。否定説の根拠は、416条は予見可能性の有無で損害賠償の範囲を決めているが、偶発性の高い不法行為には予見可能性の要求は妥当でない点にある。

「被害者に過失があったとき」という要件について解釈の余地がある。

過失相殺能力[編集]

被害者に過失を認めるためには、被害者の事理弁識能力を前提とする。たとえば、幼児が突然道路に飛び出したために交通事故に遭ったとしても、幼児には事理弁識能力がないから、幼児の過失を認めて過失相殺することはできない。

未成年者が、事理弁識能力を具えていれば足り、行為能力を具えていることを要しない。(損害賠償等請求 最高裁判例 昭和39年06月24日)

被害者側の過失[編集]

条文上は「被害者に過失があったとき」としているが、判例はこれを拡張し、被害者「側」に過失があったときにも過失相殺を認めている。たとえば息子の運転する車に母親が同乗しており、別の車と衝突して母親が傷害を負った場合に、「被害者側の過失」の法理によれば運転者たる息子に過失があれば、これと加害者の過失とを相殺することができるとされている。判例は「被害者側」たる者を「被害者と身分上ないし生活関係上一体をなす」者と定義している(損害賠償請求 最判昭和34年11月26日)。

被害者たる幼児を監護していた保母の監護上の過失は、被害者の過失にあたらない(慰藉料請求 最判昭和42年06月27日)。

2項の類推適用[編集]

被害者の素因[編集]

被害者側の身体的、心因的素因によって通常より被害が拡大した場合には、これを考慮して賠償額を減額することがある。もっとも「素因」は「過失」ではないので本条の直接適用ではなく類推適用といえる。過失相殺ではなく相当因果関係の判断のなかで被害者の素因を考慮する構成もある。

被害者の素因の法理は、被害者自身に直接の帰責性がないにもかかわらず賠償額を減額するものであるから、その適用には慎重であるべきであるとする学説もある。

好意関係[編集]

たとえば、好意で車に同乗させた結果、運転者の過失によって事故に遭い、同乗者が被害を負った場合などに、本条を類推適用し、通常の損害賠償に比べて賠償額を減額すべきであるという考え方である。自動車事故の判例でこの法理を認めるものが多い。また、預かっていた近所の子供が目を離した間に水死したケースにつき、この法理を用いて賠償額の減額を認めた判例はよく知られている(津地判昭和58年2月25日)。

損益相殺[編集]

不法行為によって損害を被った被害者が、同じ原因によって利益を受けた場合、この利益を損害から控除する場合がある。これを損益相殺という。

生命保険
被害者が死亡した場合に遺族が受け取る生命保険金は、損益相殺の対象にならないとされる。これは、生命保険金がもともと保険料の対価であり、不法行為と同じ原因から生じた利益とはいえないからである。
損害保険
物が損害を被った場合には被害者が損害保険金を受け取ることがある。この損害保険金は、損益相殺の対象にはならないとされる。これも、保険料の対価という性質を有するためである。もっとも、損害保険には保険代位(商法622条1項)が認められており、保険会社は支払った保険金について被害者の加害者に対する損害賠償請求権を獲得する。このため、被害者は事実上、利益の二重取りはできないことになる。
年金保険
年金受給者が死亡した場合、逸失利益は年金受給額によって算定される。一方、遺族は遺族年金を受け取ることができる。判例はこの場合に損益相殺を認め、逸失利益から遺族年金分を控除すべきだとしている(最大判平成5年3月24日)。ただし、控除される額は「支給を受けることが確定した」額に限られる。
労災保険
勤務中に不法行為の被害を受けた場合、被害者には労災保険から給付がなされる。この労災保険についても、損益相殺の対象とすることが認められている。

過失相殺と損益相殺の適用順序[編集]

過失相殺と損益相殺が競合する場合、まず過失相殺し、次に損益相殺すべきであるというのが判例の見解である(最判平成元年4月11日)。

参照条文[編集]

判例[編集]



前条:
民法第721条
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
民法

第3編 債権
第5章 不法行為
第2節 遺言の方式

次条:
民法第723条
(名誉毀損における原状回復)
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