民法第786条

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条文[編集]

認知に対する反対の事実の主張)

第786条
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。

改正経緯[編集]

2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。

本条は、生物学上の父子関係がないにもかかわらず認知がなされた場合には、真実と異なる(認知に対して反対の事実)ため無効を主張しうる旨を定めたもので(但し、形成無効であり、無効判決を要する:大審院判決大正11年3月27日)、明治民法第834条の規定をそのまま継承したものである。時期に関わらず、いつでも主張することができ、主張が可能な者は「子その他の利害関係人」であり、利害関係人には認知をした本人も含まれると解されていた(判例1参照)。
しかしながら、認知者との間に生物学上の父子関係がない場合は、広く利害関係人からいつでも認知無効の訴えを提起され、父子関係が否定されるおそれがあり、子の地位がいつまでも安定しない結果となっており、嫡出否認の否認権者及び否認期間について厳格な制限が設けられている嫡出子との均衡を欠くとして、これらの規律を見直し、認知無効の訴えについても、提訴権者や提訴期間について制限を設けることが必要であるとの見解から[1]、2022年改正において、以下のとおり改正された。
  1. 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(民法第783条第1項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から7年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第3号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
    1. 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時
    2. 認知をした者 認知の時
    3. 子の母 子の母が認知を知った時
  2. 子は、その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは、前項(第1号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、21歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない。
  3. 前項の規定は、同項に規定する子の法定代理人が第1項の認知の無効の訴えを提起する場合には、適用しない。
  4. 第1項及び第2項の規定により認知が無効とされた場合であっても、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。

解説[編集]

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 認知無効,離婚等請求本訴,損害賠償請求反訴事件(最高裁判決 平成26年1月14日)
    認知者が血縁上の父子関係がないことを理由に認知の無効を主張することの可否
    認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができ,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異ならない。

参考文献[編集]

  • 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分)
  • 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁

参考[編集]

明治民法において、本条には婚姻届の受理に関する以下の規定があった。趣旨は、民法第740条に継承された。

戸籍吏ハ婚姻カ第七百四十一条第一項、第七百四十四条第一項、第七百五十条第一項、第七百五十四条第一項、第七百六十五条乃至第七百七十三条及ヒ前条第二項ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス但婚姻カ第七百四十一条第一項又ハ第七百五十条第一項ノ規定ニ違反スル場合ニ於テ戸籍吏カ注意ヲ為シタルニ拘ハラス当事者カ其届出ヲ為サント欲スルトキハ此限ニ在ラス

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  1. ^ 法制審議会民法(親子法制)部会第12回(令和2年11月24日開催※)

前条:
民法第785条
(認知の取消しの禁止)
民法
第4編 親族

第3章 親子

第1節 実子
次条:
民法第787条
(認知の訴え)
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