借地借家法
ここでは、借地借家法について扱います。
対象
[編集]借地借家法は、平成3年10月4日に成立し、平成4年8月1日から施行されている法律であり、それまでの土地や建物の賃借人の保護のための法律である、建物保護ニ関スル法律、借地法、借家法の内容を統合し、これらに代わるものとして制定されました。
借地借家法は借地と建物賃貸借を対象とした民法の特別法です。借地とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権(借地借家法第2条1号)であり、借地借家法では、地上権と賃借権とを同様に扱っています。借地といえるためには建物の所有を目的とするものであることが必要であり、例えば駐車場としての利用を目的とした土地の賃借権は借地権ではなく、借地借家法の適用はありません。どのような場合に建物所有目的といえるかについて、所有を目的とするとは、借地人の借地しようの主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を言うものとされており(最判昭和42年12月5日民集21巻10号2545頁)、契約内容や実際の使用形態、利用目的などによって判断されることとなります。この昭和42年判例では、ゴルフ練習場の事務所用の建物について、土地をゴルフ練習場に利用するための従たる目的に過ぎないから建物所有目的でないされています。一方、自動車教習所の経営のためには校舎や事務室などの建物が不可欠であるとして、建物所有の目的が肯定された判例(最判昭和58年9月9日判時1092号59頁)もあります。
また建物については、借家との名称となっていますが全ての建物賃貸借が借地借家法の適用対象とされており、それが居住用のものであるか事業用のものであるかを問わず、また居住と関係のない、店舗や事務所、工場、倉庫などの建物賃貸借についても借地借家法による規制の対象となります。なおあくまで賃貸借であり、使用貸借は借地借家法の対象とはなりません。
借地
[編集]対抗力
[編集]賃貸借の頁で扱ったように、民法の規定によれば、賃借権はその登記を備えることで第三者への対抗力を持ちます。しかし賃借権の登記がなされるのは稀であり、借地借家法は賃借権が対抗力を備える場合を拡張しています。
借地については、借地権の登記がなされていなくとも、借地上の建物の登記があれば、借地権者は借地の譲受人などの第三者に対し、借地権を対抗することができます(借地借家法第10条1項)。
そこで、原則として、まず借地上に建物が存在していることが必要となります。ただし一旦建築された建物が滅失した場合については例外規定がおかれています(借地借家法第10条2項)。借地が二筆以上に分かれている場合、登記された建物が存在する土地についてのみ借地権を対抗できるというのが判例(最判昭和40年6月29日民集19巻4号1027頁など)です。また、建物所有者と借地権者とが同一であることも必要です。借地権者が借地上に登記された建物を所有しておれば、当該土地の所有権に利害関係を持つ者は、建物の登記名義によってその名義人が建物の所有することが出来る借地権を有することを推知でき、借地利用権限それ自体の登記なしに対抗力を認めても第三者に不測の損害を被らせる虞はないと考えられています。
建物について借地権者と異なる家族名義の登記がなされる場合や、譲渡担保が設定され譲渡担保権者に所有権移転登記をしたような場合がありますが、借地権がその登記なくして対抗力を有するためには、建物所有者と建物名義人が一致していることも必要とされています(最大判昭和41年4月27日民集20巻4号870頁(同居同姓の長男名義)、最判昭和47年6月22日民集26巻5号1051頁(妻名義)、最判平成元年2月7日判時1319号102頁(担保権者名義)において対抗力を否定)。他人名義の建物登記であれば、自己の建物所有権すら第三者に対抗できないのであるから、まして借地権については第三者に対抗できないと考えられたのです。もっとも学説では、同居の親族名義であるような場合については対抗力を認めるのが妥当との見解や、より一般的に異なる名義であってもそこに借地権が存在することはわかるとして対抗力を認める見解も有力です。
なお、建物登記がなく第三者に対抗できない場合であっても、そのことを奇貨として借地権設定者が実質的に同一人と見ることができるような者に土地所有権を譲渡し、土地の明け渡しを求めた場合などにおいては、権利濫用としてそれが否定されることがあります(最判昭和38年5月24日民集17巻5号639頁)。
存続期間と更新
[編集]借地権の存続期間については、最短で30年と定められています(借地借家法第3条)。そこで30年未満の期間を定めた場合には期間は30年となり、30年以上の期間を定めた場合にのみその合意した期間となります。最初の更新後の期間は最短20年であり、その後の更新後の期間は最短10年となります(借地借家法第4条)。
また、一定の場合には契約が更新されたものとみなす制度を採用しており、これを法定更新と言います(なお民法は更新の「推定」です)。法定更新は、借地借家法5条において定められており、1項は、「借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。」と定め、また2項は、「借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。」と定めています。
そこで、存続期間満了にあたり借地権者から更新請求がなされ、その際借地上に建物がある場合や、借地権が存続期間満了後も借地権者がその使用を継続し、建物も存続している場合には原則として更新がされ、ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときには、更新がなされないこととなります。そして、借地権設定者が異議を述べて更新を拒絶するためには、正当事由が必要です(借地借家法第6条)。借地借家法6条では、正当事由の有無の判断要素として以下のものを挙げています。
- 借地権設定者および借地権者が土地の使用を必要とする事情
- 借地に関する従前の経過。例えば借地期間の長さや債務不履行の有無、程度、借地権設定者の態度など。
- 土地の利用状況。例えば借地上の建物の規模や構造、借地の利用形態など。
- 借地権設定者が土地の明渡しの条件として、あるいは土地の明渡しの引き換えに財産上の給付をする旨の申出をした場合のその申出(立退料)。
そして、このような正当事由の有無は借地権設定者が異議を申し立てたときを基準として判断されます(最判平成6年10月25日民集48巻7号1303頁)。また、4.の立退料の提供はあくまで正当事由を補完するものに過ぎず、他に正当の事由となる事実が存在することを前提としたものであり、多額の立退料の支払いを申し出たとしても、他の正当事由の内容となる事実がない場合には、更新拒絶は認められません。
また、立退料については、裁判所は異議を述べた後に申し出られた金額を考慮に入れて、異議を述べた時点での当該異議についての正当事由を判断することができるものとされており(最判平成3年3月22日民集45巻3号293頁)、異議を述べた後の立退料の申し出やその増額も考慮されます。なお、裁判所は借地権設定者の申し出た額を越える相当な立退料の支払いを条件として、借地権者に明け渡しを命じることもできます(最判昭和46年11月25日民集25巻8号1343頁)。
ただし、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、借地借家法3条は適用されません(借地借家法第25条)。そこで、一時使用目的と認められるためには、単に短期の期間が合意されたというだけでは足りないものと考えられます。判例(最判昭和45年7月21日民集24巻7号1091頁)では、その対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要するものとしています。
建物買取請求権
[編集]更新がなされなかった場合、借地権者は、借地権設定者に対して地上建物および借地権者が権原によって土地に付属させた物の時価での買取を請求することができます(借地借家法第13条1項)。これは形成権であり、借地権者の一方的意思表示により、売買契約が成立したのと同様の法律効果が生じることになります(大判昭和11年5月26日民集15巻998頁、最判昭和42年9月14日民集21巻7号1791頁など)。これは、建物が取り壊されることによる社会的損失を防ぎ、借地権者に建物の残存価値を取得する機会を与えるため定められたものです。売買契約が成立したこととなる結果、建物の明渡しと建物代金の支払いは同時履行の関係となり、またその敷地についても留置権が認められます。そこで、借地権者は建物代金が支払われるまで借地を留置することができます。
もっとも、残存期間を超えて存続するべき建物が無断再築がなされた場合には、裁判所は代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与でき(借地借家法13条2項)、この場合にはその限度で代金支払が後履行となるため同時履行の抗弁権ないし留置権がその限度で縮減することとなります。また、借地権者の債務不履行によって契約が解除された場合については、建物買取請求権は認められません(最判昭和35年2月9日民集14巻1号108頁)。
定期借地権
[編集]定期借地権とは、契約期間の更新がなく、約定の期間が経過すれば必ず土地の返還がなされる借地権のことです。旧借地法による一律の強い存続保証は、一方で一旦土地を貸すと返ってこないという恐れを生じさせ、借地の供給に対する萎縮や借地権価格の高騰を生じさせたと考えられました。そこで、更新のない借地権を認め、これによって借地の供給量を増加させ、様々な経済的要請に応じることを目的に、借地借家法において定期借地権の制度が導入されました。定期借地権には以下の三種類があります。
- 一般定期借地権(借地借家法第22条)
- 50年以上の存続期間を定め、建物買取請求権を排除する特約をつけて設定される借地権です。存続期間終了時には借地を更地に戻して返還しなければなりません。またこの種の定期借地権の設定は、書面によらなければなりません。
- 事業用定期借地権等(借地借家法第23条)
- 事業用定期借地権等は、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権であり、居住用の建物を目的とすることはできません。借地権の存続期間は10年以上50年未満であることが必要です。30年以上50年未満の存続期間を定めた場合は、9条及び16条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、また13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができます(同条1項)。10年以上30年未満の場合には、3条から8条、13条及び18条の規定は適用されません(同条2項)。この事業用借地契約は公正証書によってなされなければなりません(同条3項)。なお、平成19年12月31日までの事業用定期借地権の存続期間は10年以上20年以下であり、これについては旧法の適用があります。
- 建物譲渡特約付借地権(借地借家法第24条)
- 期間満了時に、借地上にある建物を相当の対価でもって借地権設定者に売却するとの特約を付した借地権です。存続期間は30年以上です(同条1項)。
条件等の変更
[編集]借地条件については原則として当事者の自由ですが、借地契約は長期間に渡るものであり、当初の予定と異なる事情の変更によって、借地条件が実情に合わないこととなることが考えられます。そこで借地借家法では、借地条件の変更についての規定を置き、問題の解決を図っています。
- 地代等増減請求権
- 地代が付相当な水準のまま維持されるという不都合を回避するため、借地借家法では、一定期間地代を増額しないという特約がある場合を除き、土地に対する租税等の増減、地価の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動、あるいは近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となった場合に、地代の改定を求める当事者の一方的意思表示によって、地代額を将来に向かって相当な金額に改定する権利が定められています(借地借家法第11条1項)。これを地代等増減請求権といい、これは従前の地代等が不相当となったことを要件とする形成権です(大判昭和7年1月13日民集11巻7頁)。そこで、地代等を増減する意思表示が相手方に到達した日から、将来に向かって増減の効果が生じることとなります。
- もっとも、相手方の利益を保護するため、相当と認める地代の支払い・請求ができることが定められています。それによると、借地権設定者から地代の増額請求がなされた場合、借地権者は増額を正当とする裁判が確定するまでの間は、相当と認める額の地代を支払えば足ります。これにより借地権者は履行遅滞に陥らず、借地権設定者が受け取りを拒絶すればこれを供託することができます。ただし、地代を改定する裁判が確定した際に、既に支払った額に不足があるときには、借地権者はその不足額に年1割の利息を付して支払わなければなりません(借地借家法第11条2項)。また逆に、借地権者から地代の減額請求がなされた場合には、借地権設定者は相当と認める額の地代の支払いを請求することができます。ただし地代を改定する裁判が確定したときに、請求した地代がこれを超過しているとき、借地権設定者はその超過額に年1割の受領時からの利息を付して返還しなければなりません(借地借家法第11条3項)。
- 増改築禁止特約
- 借地契約において、増改築の禁止や制限を内容とする条項が設けられる場合があります。このような特約も有効なものですが、土地の利用上相当とすべき増改築について当事者間に協議が整わないとき、裁判所は借地権者の申し立てによりその増改築について、承諾に変わる許可を与えることができます(借地借家法第17条1項)。
- 借地権の譲渡・転貸
- 賃貸人の承諾なしに不動産賃借権が譲渡・転貸された場合、賃貸借の頁で扱ったように、賃貸人は原則として賃貸借契約を解除できます。しかし、その第三者に賃借権を譲渡し、あるいは転貸をしても借地権設定者にとって不利になる虞がないにもかかわらず、借地権設定者が承諾をしないときには、裁判所は借地権者の申し立てにより承諾に代わる許可与えることができます(借地借家法第19条1項)。
借家
[編集]対抗力
[編集]建物賃借権は、賃借権の登記がない場合であっても、建物の引渡しがあったときには、その後にその建物について物権を取得したものに対抗できます(借地借家法第31条1項)。これは、建物の占有移転という事実に建物賃借権の公示の機能があると考え、賃借人の保護を図るためのものです。
存続期間と更新
[編集]民法は、賃貸借期間の上限を20年と定めています(民法第604条)が、借地借家法第29条2項は建物賃貸借についてこの規定を適用しないものとしており、存続期間を20年以上と定めることも可能となっています。
また、借地借家法では、建物賃貸借についても法定更新の制度を定め、更新拒絶の際には正当事由を必要としています。
存続期間の定めのある建物賃貸借契約では、当事者が期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、相手方に対して更新しない旨の通知、または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法第26条1項本文)。また、例えこのような通知がなされたとしても、賃借人が期間満了後も建物の使用を継続し、賃貸人がこれに遅滞なく異議を述べなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法第26条2項)。法定更新が認められた場合、更新後の賃貸借は期間の定めのないものとなります(借地借家法第26条1項但書)。そして、更新拒絶をする場合には、正当事由が必要です(借地借家法第28条)。
存続期間の定めのない建物賃貸借契約では、賃借人はいつでも解約申入れをすることができ、その場合申入れの日から3ヶ月を経過することで賃貸借契約は終了します(民法第617条2号)。しかし賃貸人からの申入れについては借地借家法が特別の規定を定めており、賃貸人の解約申入れの日から6ヶ月を経過することによって終了するものとされています(借地借家法第27条1項)。また、解約申入れには正当事由が必要であり(借地借家法第28条)、解約申入れがあり、かつ正当事由が認められる場合であっても、賃借人が期間満了後も縦者の使用を継続し、賃貸人がこれに遅滞なく異議を述べなかったときは、やはり従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法第27条2項による借地借家法第26条2項・3項の準用)。
造作買取請求権
[編集]建物賃貸借契約が終了した場合、建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作があるときは、賃借人は賃貸人に対して、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができます(借地借家法第33条)。これは形成権であり、賃借人の一方的意思表示により、相手方との間に売買契約が成立した場合と同様の効果が生じます。もっとも、この規定は任意規定であり、これを特約により排除することができます(借地借家法第37条に借地借家法33条は含まれていません)。
判例(大判昭和7年9月30日民集11巻1859頁、最判昭和29年7月22日民集8巻7号1425頁)は、買取代金との同時履行関係に立つのは造作の引渡しであって建物の引渡しではないとして、造作買取代金の支払いと建物明渡しとは同時履行関係に立たないと判示しています。
定期建物賃貸借
[編集]建物賃貸借については特に期間制限なく、建物賃貸借契約について一定の期間を定め、契約の更新がないとの特約をすることができます。ただし、定期建物賃貸借契約は公正証書によるなど書面で行わなければならず(借地借家法第38条1項)、かつ契約前に賃貸人は契約の更新がないことを記した書面を建物賃借人に交付して説明をしなければなりません(借地借家法第38条2項・3項)。さらに、期間が1年以上である場合、賃貸人は期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、賃借人に期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければなりません。この通知が遅れた場合、通知の日から6ヶ月経過後に契約の終了を主張できることとなります(借地借家法第38条4項)。
定期建物賃貸借においては賃借人も自由に解約申入れをすることはできず、ただ、居住の用に供する建物の賃貸借(床面積が二百平方メートル未満のもの)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときには、賃借人は建物の賃貸借の解約の申入れをすることができます(借地借家法第38条5項)。
賃料増減請求権
[編集]建物賃貸借においても、借地の賃料増減請求権と同様の賃料増減請求権が定められています(借地借家法第32条)。
サブリース
[編集]サブリースの定義について一定のものがあるわけではありませんが、概ね、不動産会社等がビルの所有者からビルを一括して借り、それを転貸借するという取引形態であり、ビル所有者は自らテナント募集などの事務・ビル管理を行うことなく安定した収益を上げ、不動産会社等は転貸料と賃借料の差額から収益を得るというものです。この際、土地の所有者は不動産会社などの勧めに従ってビルを建設して、これを不動産会社に賃貸することも多く、ビル建設の資金として不動産会社側から一定の金銭が支払われることもあります。そして、このようなサブリースでは、賃料を一定期間経過ごとに自動的に増額する、賃料自動増額特約が締結されることもあります。地価が上昇し、賃料も上昇していたときには所有者と不動産会社の双方が利潤を上げることができましたが、バブル崩壊後の不動産価値の下落とそれに伴う賃料の下落によって、問題が生じています。
このようなサブリースも賃貸借であり、借地借家法の適用があると考えられます(最判平成15年10月21日民集57巻9号1213頁、最判平成16年11月8日判時1883号52頁など)。しかし、このような場合に不動産会社との間で結んだ賃料自動増額特約の効力や賃料減額請求権の可否について、見解の対立があります。
一つの見解は、あくまで借地借家法第32条1項は強行規定であってこれと異なる契約に効力は認められず、たとえ賃料を自動的に増額する、あるいは減額しないといった契約が結ばれていたとしても、賃借人は賃料減額請求権を有しているという見解です。これに対して、契約締結時に賃借人が自らリスクを負担するものとしていたのであれば、特別の保護は必要なく、賃料自動増額特約の効力を認めるべきとの見解も主張されています。判例では、借地借家法第32条1項を強行法規とした上で、衡平の見地に照らし、契約締結時の事情として賃料が決定された経緯や賃料自動増額特約が付された事情なども考慮して、賃料減額請求の当否や相当賃料額が判断するものとされています。