労働基準法第3条

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コンメンタール労働基準法

条文[編集]

(均等待遇)

第3条  
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

解説[編集]

この条文では国籍や信条、社会的身分を理由とした労働条件の差別的取り扱いを禁止しているが、性別による差別的取り扱いは禁止されていない。
したがって、性別による労働条件の差別的取り扱いを行ったとしても、法3条違反とはならない。
性別による差別的取り扱いの禁止は、第4条において、賃金について定められており、また、他の労働条件については男女雇用機会均等法にて差別的取り扱いを禁止されている。

国籍[編集]

各々の国籍による差別はもちろん、二重国籍者や無国籍者に対する差別的取り扱いも法3条違反となる。

信条[編集]

特定の宗教に対する信仰や政治的信念などを持っているからと言って、そのこと自体を理由に差別的取り扱いを行うことは禁止されている。
ただし、これらの信念に基づいて起こした行為が、職場における秩序や企業倫理を乱し、または企業の正常な運営を妨げる場合、その行為に対する懲戒処分を科すことは法第3条違反にはならない。

社会的身分[編集]

この条文で言う「社会的身分」とは、生来的な地位のことを言う。
これは、例えば特定地域の出身であること、また、人種などによる労働条件の差別は許されない、ということである。
なお、正社員と臨時社員(派遣社員など)、職員と工員、また、職務上の役職(部長や課長など)などは、ここでいう社会的身分にあたらない。したがって、職務上の地位によって待遇が違うのは、この条文に違反することにはならない。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 解雇確認等請求(最高裁判決 昭和30年11月22日) 憲法第14条
    従業員の解雇が単なる信条を理由とする解雇でないと認められた事例
    連合軍占領下における紡績会社の共産党員である従業員の解雇が、その従業員の企業の生産を阻害すべき具体的言動を根拠とするものであつて、解雇当時の事情の下でこれを単なる抽象的危虞に基く解雇として非難することができないものと認められる場合には、かかる解雇をもつて共産党員であることもしくは単に共産主義を信奉すること自体を理由とするものということはできない。
  2. 健康文化会解雇(東京地方裁判所判決 昭和44年12月24日)
    使用者による解雇が、思想、信条を理由とし労働基準法3条等に違反し無効であるとした事例
    健文が日本共産党の方針にもとずきその事業を遂行することを存立目的とし、同党員又はその同調者であることを従業員の資格要件とすることが労働契約の内容となつている等の、特別事情の顕れない本件においては、右のような政治的信条の故の差別的取扱たる解雇の意思表示は、労働基準法3条に違反し、公の秩序に反する事項を目的としたもので、その効力を生じない。
    • 健康文化会(健文)は、勤労者の生活及び健康並びに医学の向上に寄与することを目的として設立され、東京母子病院を設置して経営している医療法人財団であるが、その理事の大多数、及びその従業員をもつて組織する健康文化会労働組合の執行部の中心人物は、日本共産党員であり、健文は同党の方針を基礎として運営されてきた、いわゆる日本共産党系列の医療法人である。本事件は、そこに勤務する原告が、党の方針と対立した結果、解雇を宣告されたという事例。
  3. 三元貿易解雇(東京地方裁判所判決 昭和45年01月30日)
    労働基準法3条が適用される労使の関係において労働者の信条の自由の保障が制限される場合
    労働基準法3条が適用される労使の関係においても、企業の存続、発展という要請と労働基準法が志向する個別的労働関係における労働者保護の理念とが調和する合理的範囲内で労働者の信条の自由の保障が制限される場合がある。
    • 憲法14条1項の定める法の前の平等、信条による差別待遇の禁止は、本来、国家権力が、個人の信条によつて労働関係(その他政治関係、社会関係)において国民を差別して取扱つてはならないことを定めたものであるから、私人相互間の法律関係に憲法14条が直接的な効力を及ぼすものではない。ところが、労働基準法3条は、右憲法的公序に副つて使用者は、労働者の信条を理由に解雇その他の差別待遇をなしてはならない旨規定している。したがつて、労使たる私人相互間の法律関係においては、一応、使用者は、労働者をその信条を理由として解雇することはできず、かゝる解雇は無効となる。しかしながら、憲法14条の直接効を受ける分野においても、例えば、国家公務員の身分関係の如き特別権力関係においては、国家公務員が全体の奉仕者であることから生じる中立性の保持或いは身分の保障のためという公務員制度上の要請と憲法の志向する民主主義国家における基本的人権不可侵の理念とが調和する合理的範囲内において、国家公務員の信条の自由の保障が制限される。これと同じような考え方から、労働基準法3条が適用される労使の関係においても、企業の存続、発展という要請と労働基準法が志向する個別的労働関係における労働者保護の理念とが調和する合理的範囲内で労働者の信条の自由の保障が制限される場合があることは肯定しなければならない。
    • 抽象的にいえば、右基準(企業の存続、発展という要請と労働基準法が志向する個別的労働関係における労働者保護の理念とが調和する合理的範囲)は、労働者の有する信条の表現ないしは信条に基く行為が企業の運営を著るしく阻害することであるとするのが相当である。そしてその具体的な適用に当つては、労働者の信条の内容、企業の目的が右信条と矛盾する特殊性、労働者の企業内における地位、信条の表現方法、表現時期、場所等諸般の事情を考量した上、労働者の信条の表現が企業の運営を著るしく阻害する場合に、企業としては当該労働者を排除する等差別的取扱をすることが合法化されると考えるべきである。
    • 若し、労働者の信条の表現が企業の運営を阻害しているとの具体的事実がないならば、労働者の信条の表現が、単に抽象的に企業の特殊性と矛盾しているとか、企業の経営者の信条と異なるとか、両者の属する宗教団体、政党その他の政治団体或いは経済団体その他の団体が異るからというが如き事由では、それらの事柄が労働契約の内容となつている場合と然らざる場合とを問わず、使用者が労働者を解雇その他差別待遇をすることは違法であり、そのような行為は公序に反するものとして無効である。
  4. 労働契約関係存在確認請求(三菱樹脂事件 最高裁判決 昭和48年12月12日) 憲法第14条憲法第19条民法第1条民法第90条,労働基準法第2章
    1. 憲法の私人間効力
    2. 特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか
      企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
    3. 雇入れと労働基準法3条
      労働基準法3条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。
    4. 企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否
      労働者を雇い入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。
    5. 試用期間中に企業者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約に基づく留保解約権の行使が許される場合
      企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである。
  5. 退職金返還(最高裁判決  昭和52年08月09日)労働基準法第16条労働基準法第24条民法第90条
    同業他社への転職者に対する退職金の支給額を一般の退職の場合の半額と定めた退職金規定の効力
    原審確定の事実関係のもとにおいては、会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限し、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給する退職金の額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることは、労働基準法3条、16条、24条及び民法90条に違反しない。
    • 本退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべき。
  6. 雇用関係確認、貸金支払(通称 大日本印刷採用内定取消)(最高裁判決 昭和54年07月20日)
    1. 大学卒業予定者の採用内定により、就労の始期を大学卒業直後とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例
      大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレツトの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
    2. 留保解約権に基づく大学卒業予定者採用内定の取消事由
      企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
    3. 留保解約権に基づく大学卒業予定者採用内定の取消が解約権の濫用にあたるとして無効とされた事例
      企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になつて、右不適格性を打ち消す材料が出なかつたとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。
  7. 神戸弘陵学園高校雇用契約更新拒絶(最高裁判決 平成2年06月05日)
    試用期間付雇用契約に関して留保解約権の行使が許される場合について
    解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。
  8. 管理職選考受験資格確認等請求事件(最高裁判決  平成17年01月26日)憲法第14条1項,労働基準法第112条,地方公務員法(平成10年法律第112号による改正前のもの)58条3項,地方公務員法第13条地方公務員法第17条地方公務員法第19条
    1. 地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法3条,憲法14条1項
      地方公共団体が,公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。
    2. 東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法3条,憲法14条1項に違反しないとされた事例
      東京都が管理職に昇任すれば公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員に就任することがあることを当然の前提として任用管理を行う管理職の任用制度を設けていたなど判示の事情の下では,職員が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた東京都の措置は,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。

前条:
労働基準法第2条
(労働条件の決定)
労働基準法
第1章 総則
次条:
労働基準法第4条
(男女同一賃金の原則)
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