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民法第899条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法コンメンタール民法第5編 相続 (コンメンタール民法)

条文

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(共同相続の効力)

第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

解説

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以下、本条の由来である明治民法第1003条に関する、梅謙次郎『民法要義』の該当箇所より作成。

本条は、各共同相続人の権利及び義務を定めたものである。本条の規定によれば、その各自は相続分に関して被相続人の権利義務を承継すべきものとされている。したがって、所有権について、Aの相続分が1/2であるならば、半分の共有権を取得し、3000万円の債権について、Bのの相続分が1/3であるならば、1000万円の債権を取得するはずであり、この例で、1500万円の債務があれば、Aは750万円、Bは500万円の義務を負うべきとなる。
相続財産は相続人の共有であるので(第898条)、債権債務もまた相続人の共有であり、相続分の範囲内で、その一部を取得又は弁済等をが禁じられるか
民法第427条の規定によれば、数人の共同債権者又は共同債権者がある場合、各債権者又は各債務者に分割された債権債務が存在すため、債権債務を共有する場合、法理上は常に債権者又は債務者の頭数に等しい債権債務が成立しており、財産権、特に物権の共有と趣旨を異にする部分がある。故に、本条に規定することで、各相続人個々に債権を取得し債務を負担しるものとしている(相続財産を一個の財団と見ない)。
ただし、遺産分割までは、各々の相続人に個別に分割を請求する権利を認めるものではない。
共同相続人は、債権者に対して連帯してその義務を負担する要があるか否か
本条は共同相続人間に連帯がないことを明示する。
被相続人の債権を取得した者(相続債権者)が、被相続人が複数あるために権利が分割されて各々に対しその持分に応じて請求しなければならない煩雑さがあり、相続人中に無資力の者がいて、そのために回収ができない虞もある。すなわち、債務者が一人であれば、その一人について監督し、危険があれば相応の処分を行い権利を保全することができるにもかかわらず、債務者が数人に別れたことにより、同時に監督することが困難で、相続人の中に無資力の者を出し、一部又は全部の債権が回収できないという事態も想定し得る。そのため、立法論として、相続人の連帯とし、相続債権者を保護する考えもありうる。
しかしながら、債権者の保護の観点で「財産分離」が手当てされ、かつ、債務が弁済期にある場合は法律は多くの方法によって債権者を保護しているため、債権者として注意を怠っていなければ損失を被ることは稀であろう。一方で、相続人は自ら進んで債務を引き受けたわけではなく、相続の結果、債務者の地位を得た者であるため、被相続人が負担していなかった義務を負担させることは、当を得ていない。被相続人が通常の債務を負担したのに、相続人は連帯債務を負担したものとすれば、相続によって債務の性質を変えるものである(当事者が拡大することにより保証人が拡大することとなる)
各相続人は、権利については一部のみを取得する一方で義務についてのみ連帯責任を負い、相続債権者に向かっては全部の義務を負担すべきものとするのは
もし、相続人の一人が債務の全部を弁済し、他の相続人が求償に応じないと言うことがあれば、負担した相続人は法律によって保証された遺留分を侵害される結果となる可能性がある。故に本条においては相続人間の連帯を認めないものとした。

参照条文

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判例

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  1. 損害賠償請求 (最高裁判決 昭和29年04月08日)民法第427条民法第898条
    相続財産たる金銭その他の可分債権と共同相続人の分割承継
    相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。
  2. 貸金請求(最高裁判決 昭和34年06月19日)民法第427条民法第432条民法第898条
    連帯債務の相続。
    連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。
  3. 保管金返還(最高裁判決 平成4年04月10日)民法第898条,民法第907条
    相続人が遺産分割前に遺産である金銭を保管している他の相続人に対して自己の相続分相当の金銭の支払を請求することの可否
    相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない。
  4. 所有権移転登記手続等,更正登記手続等請求事件(最高裁判決 平成16年04月20日)民法第427条,民法第898条,民法第907条
    相続財産である可分債権につき共同相続人の1人がその相続分を超えて債権を行使した場合に他の共同相続人が不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることの可否
     共同相続人甲が相続財産中の可分債権につき権限なく自己の相続分以外の債権を行使した場合には,他の共同相続人乙は,甲に対し,侵害された自己の相続分につき,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる。
  5. 預金払戻,不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成17年07月11日)民法第478条
    銀行が相続財産である預金債権の全額を共同相続人の一部に払い戻した場合について他の共同相続人にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても当該銀行には民法第703条所定の「損失」が発生するものとされた事例
    甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということもできないことなど判示の事情の下においては,甲銀行が戊にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても,甲銀行には民法第703条所定の「損失」が発生したものというべきである。
  6. 預託金返還請求事件(最高裁判決 平成17年09月08日)民法第88条2項,民法第89条2項,民法第427条民法第601条民法第896条民法第898条民法第900条民法第907条民法第909条
    共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力
    相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,その帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けない。

参考

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明治民法において、本条には母の財産に関する親権の辞退に関する以下の規定があった。戦後改正において、母のみならず父も含めた同様「親権又は管理権の辞任」として民法第837条に継承された。
親権ヲ行フ母ハ財産ノ管理ヲ辞スルコトヲ得

前条:
民法第898条
(共同相続の効力)
民法
第5編 相続

第3章 相続の効力

第1節 総則
次条:
民法第899条の2
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
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