民法第587条
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法学>民事法>コンメンタール民法>第3編 債権 (コンメンタール民法)>民法第587条
条文
[編集](消費貸借)
- 第587条
- 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
解説
[編集]- 典型契約のひとつ、消費貸借契約について定めている。
- 「種類、品質及び数量の同じ物」とは、契約の目的物が不特定物であることを意味する。特定物を目的とする使用貸借との違いである。ローマ法の時代は、播種用の種などが意識されていたが、現在は金銭貸借とほぼ同意義である。
- ローマ法の伝統から、無償が原則であり、特約がない限り利息を請求することはできない。現実的な規定とは言い難いが、当事者に利息の特約を意識させるという機能は有していると言える。なお、商法では金銭の消費貸借の場合、特約がなくても当然に利息を請求することができる。
- 「金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」とは、消費貸借契約が要物契約であることを示す。つまり契約の成立には借主が目的物を受け取ることが必要である。これも、実際の取り扱いと乖離していたため、2017年の改正民法(2020年4月1日施行)で第587条の2が新設され、書面による消費貸借契約は契約の成立に物の交付が不要な諾成契約とされた。
- 契約成立後は借主の返却義務のみが残り、貸主は何ら義務を負わないことから片務契約である。
- 要件事実
- 当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約し
- 相手方から金銭その他の物を受け取ること
参照条文
[編集]判例
[編集]- 貸金請求(最高裁判決 昭和29年08月31日)民法第90条,民法第708条
- 消費貸借成立のいきさつに不法の点があつた場合における貸金返還請求と民法第90条および第708条の適用の有無
- 消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第90条および第708条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。
- 当初、貸主は借主と、不法な密輸を企てたが思いとどまり出資を拒絶、借主に懇願され経費の一部として金銭を貸与した。借主はこれを遊蕩に消費、返済を求めると不法の原因により給付された金銭であるとし返済を拒否した事案。
- 契約金(最高裁判決 平成5年07月20日)民法第91条
- 甲乙丙三者間で乙所有の冷蔵庫を乙から丙を経て甲へ順次売却し更に甲が乙に割賦販売する形式でされた甲乙間の合意が消費貸借契約又は諾成的消費貸借契約であるとされた事例
- 甲乙丙の三者間で乙所有の冷凍冷蔵庫を乙から丙を経て甲へ順次売却し更に甲が乙に割賦販売する旨の合意がされた場合において、右合意が甲が乙に金融を得させる目的でされたものであり、右三者間では右冷蔵庫の所有権を真に移転する意思がなく、丙は甲から売買代金名義で受領した金員と同額の金員を乙に交付することを約したにすぎないなど判示の事情があるときは、甲乙間の合意は、右金額を元本としてその元利金を割賦販売代金の形式で返還する趣旨の甲の乙に対する消費貸借契約又は諾成的消費貸借契約である。
- 「リースバック契約」-現在所有している物品(主に固定資産など)に相当するものを他に売って、そこからリースするという金融取引
- 根抵当権抹消登記手続等請求事件(最高裁判決 平成18年06月12日)民法第1条2項,民法第415条,民法第709条
- 建築会社の担当者と共に顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を説明した銀行の担当者に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることについての説明義務違反等がないとした原審の判断に違法があるとされた事例
- 銀行の担当者が,顧客に対し,融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案した建築会社の担当者と共に,上記計画を説明し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があることなどの問題があったなど判示の事実関係の下においては,顧客が,原告として,銀行の担当者は顧客に対して上記土地の一部の売却について取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べたなどの事情があったと主張しているにもかかわらず,上記事情の有無を審理することなく,上記担当者について,上記問題を含め上記土地の一部の売却可能性を調査し,これを顧客に説明すべき信義則上の義務がないとした原審の判断には,違法がある。
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