民法第91条

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法学民事法民法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文[編集]

任意規定と異なる意思表示)

第91条
法律行為当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

解説[編集]

任意規定とされる規定と異なる意思表示が認められる場合にはそちらが優先されるとする規定である。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 値合金請求(最高裁判例 昭和40年4月22日)民法第642条商法第552条,証券取引法49条
    証券取引法第49条に違反して委託証拠金なしに信用取引がなされた場合における証券業者と委託者との間の契約の効力。
    証券取引法第49条に違反して委託証拠金なしに信用取引により株式が売買されても、右違反は、証券業者と委託者との間の契約の効力に影響を及ぼすものではない。
  2. 不当利得返還等請求(最高裁判例 昭和46年4月9日)民法第703条商法第641条
    保険金受領の際差し入れられた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言の効力
    火災保険の保険金を受領するにあたり、保険契約者兼被保険者が保険者に対して差し入れた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言は、保険者に対し、不当利得返還義務の範囲を特約するものであつて、有効である。
  3. 退職金請求(最高裁判例 昭和48年1月19日)労働基準法第11条労働基準法第24条1項,民法第519条
    1. 賃金にあたる退職金債権放棄の効力
      賃金にあたる退職金債権放棄の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、有効である。
    2. 賃金にあたる退職金債権の放棄が労働者の自由な意思に基づくものとして有効とされた事例
      甲会社の被用者で西日本における総責任者の地位にある乙が、退職に際し、賃金にあたる退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合において、乙が退職後ただちに競争会社に就職することが甲に判明しており、また、乙の在職中における経費の使用につき書面上つじつまの合わない点から甲が疑惑をいだいて、その疑惑にかかる損害の一部を填補させる趣旨で退職金債権の放棄を求めた等判示の事情があるときは、右退職金債権放棄の意思表示は、乙の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものとして、有効とすべきである。
  4. 金銭消費貸借契約無効確認(最高裁判例 昭和52年6月20日)私的独占の禁止及び公正取引の確保関する法律2条7項5号,私的独占の禁止及び公正取引の確保関する法律9条,昭和28年公正取引委員会告示11号10,利息制限法第1条1項,利息制限法第2条利息制限法第4条1項
    1. いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反するとされた事例
      信用協同組合が、組合員に現実に借受を必要とする実質貸付額550万円を貸し付けるにあたり、右貸付について十分な物的・人的担保があるのに、実質金利を高める等のため、取引条件として、組合員に、貸付額750万円の本件貸付契約及び同400万円の別口貸付契約を締結させて実質貸付額を超過する600万円を貸し付け、その600万円を即時200万円の定期預金及び400万円の割増金付定期預金として組合に預託させ、これに担保権を設定して払戻を制限し、また、実質金利が年1割7分1厘入毛余になるなど、判示の事情のもとにおいては、右各貸付契約及び各定期預金契約は、昭和28年公正取引委員会告示第11号(不公正な取引方法)の10にあたり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反するというべきである。
    2. いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反する場合と貸付契約の私法上の効力
      いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反する場合でも、その違反により、貸付契約が直ちに私法上無効になるとはいえず、また、右契約が公序良俗に反するともいえないが、両建預金及び超過貸付があるために実質金利が利息制限法所定の制限利率を超過しているときは、右超過する限度で貸付契約中の利息、損害金についての約定は、同法1条、4条により無効になるものと解すべきである。
  5. 退職金等、同請求参加(最高裁判例 平成2年11月26日)労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)第24条1項,民法第505条1項,破産法第72条破産法第98条
    1. 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺と労働基準法24条(改正前)1項本文
      使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、労働基準法24条(改正前)1項本文に違反しない。
    2. 使用者が労働者の同意の下に労働者の退職金債権等に対してした相殺が有効とされた事例
      甲会社の従業員乙が、銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には乙の退職金等により融資残債務を一括返済し、甲会社に対しその返済手続を委任する等の約定をし、甲会社が、乙の同意の下に、右委任に基づく返済費用前払請求権をもつて乙の有する退職金債権等と相殺した場合において、右返済に関する手続を乙が自発的に依頼しており、右貸付けが低利かつ相当長期の挽割弁済の約定の下にされたものであつて、その利子の一部を甲会社が負担する措置が執られるなど判示の事情があるときは、右相殺は、乙の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものとして、有効と解すべきである。
    3. 使用者が労働者の同意の下に労働者の退職金債権等に対してして相殺が否認権行使の対象とならないとされた事例
      甲会社の従業員乙が、銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には乙の退職金等により融資残債務を一括返済し、甲会社に対しその返済手続を委任する等の約定をした場合において、甲会社が、乙の破産宣告前、右約定の趣旨を確認する旨の乙の同意の下に、右委任に基づく返済費用前払請求権をもつてした乙の有する退職金債権等との相殺は、否認権行使の対象とならない。
  6. 契約金(最高裁判例 平成5年7月20日)民法第587条
    甲乙丙三者間で乙所有の冷蔵庫を乙から丙を経て甲へ順次売却し更に甲が乙に割賦販売する形式でされた甲乙間の合意が消費貸借契約又は諾成的消費貸借契約であるとされた事例
    甲乙丙の三者間で乙所有の冷凍冷蔵庫を乙から丙を経て甲へ順次売却し更に甲が乙に割賦販売する旨の合意がされた場合において、右合意が甲が乙に金融を得させる目的でされたものであり、右三者間では右冷蔵庫の所有権を真に移転する意思がなく、丙は甲から売買代金名義で受領した金員と同額の金員を乙に交付することを約したにすぎないなど判示の事情があるときは、甲乙間の合意は、右金額を元本としてその元利金を割賦販売代金の形式で返還する趣旨の甲の乙に対する消費貸借契約又は諾成的消費貸借契約である。
  7. 損害賠償(最高裁判例 平成6年4月22日)職業安定法5条1項,職業安定法32条6項,職業安定法施行規則24条14項,職業安定法施行規則別表第3,民法第90条
    1. いわゆるスカウト行為と職業安定法5条1項にいう職業紹介
      求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為は、職業安定法5条1項にいう職業紹介におけるあっ旋に当たる。
    2. 有料職業紹介において労働大臣が定める手数料の最高額を超える手数料を定めた契約の効力
      有料職業紹介における手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分は無効である。
  8. 第二次納税義務告知処分取消請求事件(最高裁判例 平成15年12月19日)国税徴収法第24条
    いわゆる一括支払システムに関する契約においてされた国税徴収法24条2項による告知書の発出の時点で譲渡担保権を実行することを内容とする合意の効力
    いわゆる一括支払システムに関する契約において譲渡担保権者と納税者との間でされた国税徴収法24条2項による告知書の発出の時点で譲渡担保権を実行することを内容とする合意は,同条5項の趣旨に反して無効である。
  9. 預金払戻請求事件(最高裁判例 平成19年4月24日)民法第166条1項, 民法第666条
    いわゆる自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効の起算点
    いわゆる自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する。
  10. 補償金請求事件(最高裁判例 平成19年7月6日)商法第2編第10章 保険,民訴法第2編第4章第1節 総則
    災害補償共済規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたこと」を補償費の支払事由と定めている場合,補償費の支払を請求する者は,被共済者の傷害が同人の疾病を原因として生じたものではないことの主張立証責任を負うか
    災害補償共済規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたこと」を補償費の支払事由と定め,これとは別に「被共済者の疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない」との規定を置いている場合,補償費の支払を請求する者は,被共済者の身体の外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,上記傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことを主張,立証すべき責任を負わない。

前条:
民法第90条
(公序良俗)
民法
第1編 総則

第5章 法律行為

第1節 総則
次条:
民法第92条
(任意規定と異なる慣習)
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