不動産登記法第60条
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条文
[編集](共同申請)
- 第60条
- 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
解説
[編集]本条の趣旨
[編集]本条は、共同申請の原則について定めたものである。
登記権利者の定義は不動産登記法第2条第12号に、登記義務者の定義は同法第2条第13号に規定がある。
更に詳しい解説は、w:不動産登記#登記権利者と登記義務者を参照。
例外としての単独申請
[編集]登記権利者・登記義務者という構造が存在しないもの
[編集]登記義務者が存在しない場合、登記権利者は「登記申請人」として、単独で権利に関する登記を申請できる。その場合で、主なものは以下のとおりである。
- 相続又は法人の合併による権利の移転の登記(不動産登記法63条第2項)
- 登記名義人の氏名・名称・住所の変更登記・更正登記(同法第64条第1項)
- 抵当証券が発行されている抵当権についての債務者氏名・名称・住所の表示変更・更正登記(同法第64条第2項)
- 所有権の保存の登記(同法第74条)
- 所有権の保存の登記の抹消の登記(同法第77条)
登記権利者又は登記義務者の意思を擬制するもの
[編集]登記権利者又は登記義務者の登記申請意思を、何らかの方法で擬制できる場合、一方のみからの申請により、事実上の単独申請が可能である。その場合で、主なものは以下のとおりである。
- 登記手続きを命ずる確定判決による登記(不動産登記法63条第1項)
- 人の死亡又は法人の解散による権利の抹消の登記同法第69条)
- 登記義務者の所在が知れない場合で、除権決定を得てする権利の抹消の登記(同法第70条第2項)
- 休眠担保権の抹消の登記(同法第70条第3項)
- 根抵当権又は根質権の元本の確定の登記で一定の場合(同法第93条・同法第95条第2項)
- 信託に関する登記の一部(同法第98条第2項・第3項、同法第99条、同法第100条、同法第103条第2項、同法第104条)
- 処分禁止の登記に遅れる登記の抹消の登記(同法第111条第1項・第2項、同法第113条)
- 嘱託による登記(同法第116条第1項・第2項)
- 不動産の収用による所有権の移転の登記(同法第118条第1項)
- 不動産に関する所有権以外の権利の収用による権利の抹消の登記(同法第118条第3項。なお、土地収用法第5条第1項第1号も参照。)
- 採石法第12条又は同法15条第1項もしくは同法第28条の決定に基づく採石権等に関する登記(採石法第31条)
- 特別縁故者(民法第958条の3)への移転の登記で、審判書正本を提供してする場合(1962年(昭和37年)6月15日民甲1606号通達第5-1)
仮登記の特則
[編集]仮登記については、共同申請の原則は大幅に緩和されている。仮登記に関する登記で、単独申請が認められているものは、以下のとおりである。
- 仮登記の登記義務者の承諾があるとき又は仮登記を命ずる処分があるときの、登記権利者から申請する仮登記(不動産登記法第107条)
- 仮登記の登記名義人から申請する、当該仮登記の抹消の登記(同法第110条前段)
- 仮登記の登記名義人の承諾があるときの、当該仮登記の登記上の利害関係人から申請する仮登記の抹消の登記(同法第110条後段)
- 仮登記の登記義務者の承諾があるとき又は仮登記を命ずる処分があるときの、登記権利者から申請する仮登記の変更登記・更正登記(1967年(昭和42年)8月23日民甲2437号回答)
登記義務者・登記権利者という区別が存在しないもの
[編集]登記義務者と登記権利者の厳然たる区別が存在せず、関係する登記名義人が共同して申請するもの(いわゆる合同申請)は、以下のとおりである。
- 共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記(不動産登記法第65条)
- 担保物権の順位の変更の登記(同法第89条第1項)
- 民法第398条の14第1項ただし書の定め(以下「優先弁済の定め」という)の登記(同法第89条第2項)
- 順位変更の登記を更正する登記(書式解説2-510頁)
- 順位変更の登記を抹消する登記(1971年(昭和46年)10月4日民甲3230号通達第1-5)
- 優先弁済の定めの登記を変更する登記(書式解説2-937頁)
- 優先弁済の定めの登記を更正する登記及び抹消する登記
なお、順位の変更の登記については、不動産登記法第89条第1項の文言からは、抵当権しかできないように読めるが、不動産登記令第8条第1項第6号の文言には質権が含まれており、更に、不動産登記規則第164条においては「担保権」とあることから、登記できる担保物権はすべて順位の変更の登記が可能である。
その他
[編集]登記権利者と登記義務者が同一人である場合(混同による権利の抹消の登記が典型例である)や、登記権利者が登記義務者から登記申請の代理権限を得た場合(登記権利者兼登記義務者代理人となる)及びその逆の場合は、事実上の単独申請が可能である。
参照条文
[編集]- 不動産登記法第93条(根抵当権の元本の確定の登記)
参考文献
[編集]- 香川保一編著 『新不動産登記書式解説(二)』 テイハン、2006年、510頁・937頁、ISBN 978-4860960315
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