民法第90条
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(公序良俗 から転送)
法学>民事法>コンメンタール民法>第1編 総則 (コンメンタール民法)
条文
[編集](公序良俗)
改正経緯
[編集]2017年改正
[編集]改正前文言は以下のとおり。
- 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
平成16年改正
[編集]現代語化に伴う改正。改正前文言は以下のとおり。
- 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス。
意義
[編集]要件
[編集]ある法律行為が公の秩序又は善良の風俗に反する事項であること。厳密に分ける実益はない。
- 「公の秩序」:法秩序に代表される社会の一般的秩序 (例)人を殺す契約
- 法令が全て「公の秩序」というものでもない。
- 逆に法令で規制されていなくても、反社会性の強い行為であることの社会的認識が明らかであれば「公の秩序」に反するものと認定されうる(最判平成9年9月4日)、「公の秩序」に反する旨の社会的認識が形成される以前の行為は無効を問い得ないが、社会的認識の形成後は無効を問い得る(最判平成15年4月18日)。
- 統治行為と「公の秩序」の関係
- 百里基地訴訟判決 最判平成元年6月20日
- 憲法9条の宣明する国家の統治活動に対する規範は、そのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはなく、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、「公ノ秩序」の内容の一部を形成する。
- 百里基地訴訟判決 最判平成元年6月20日
- 「善良の風俗」:法規制はされていないが社会の一般的道徳観念となっているもの (例)両性の合意によらない結婚の契約
具体例
[編集]- 強行法規又はその精神に反する行為
- 個別の法規がある場合は第91条の解釈によることが通例、禁止の表現が明確でない場合に援用される(最判昭和38年6月13日、最判昭和39年1月23日、最判昭和46年4月20日)。
- 反対解釈として、当該法規が取締法規であると解釈された場合、私法上は有効であると解される(最判昭和35年3月18日、最判昭和49年3月1日)。
- 但し、強行法規か取締法規かの差異は明確とは言い難い。
- 基本的には取締法規であるが、状況によっては強行性を認める例(最判昭和52年6月20日)
- いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反する場合でも、その違反により、貸付契約が直ちに私法上無効になるとはいえず、また、右契約が公序良俗に反するともいえないが、両建預金及び超過貸付があるために実質金利が利息制限法所定の制限利率を超過しているときは、右超過する限度で貸付契約中の利息、損害金についての約定は、同法1条、4条により無効になるものと解すべきである。
- 基本的には取締法規であるが、状況によっては強行性を認める例(最判昭和52年6月20日)
- 人倫に反する行為
- (例1)愛人契約
- 愛人関係に関する契約を締結したとしても、そのことのみで対価を求めることはできない。また、一方が契約に反した行動をとったとしても、関係の修復や契約違反を原因とした損害賠償の請求はできない。これは当事者が、双方独身である場合でも同じ結論となる。
- 不倫関係
- 配偶者があるものが、不倫関係にある相手方に対し財産移転や遺贈を行ったとしても、そのことのみをもって公序良俗に反し無効とは言えない(最判昭和61年11月20日)。
- 不倫関係
- 愛人関係に関する契約を締結したとしても、そのことのみで対価を求めることはできない。また、一方が契約に反した行動をとったとしても、関係の修復や契約違反を原因とした損害賠償の請求はできない。これは当事者が、双方独身である場合でも同じ結論となる。
- (例2)両性の合意によらない結婚の契約
- (例1)愛人契約
- 射倖行為
- 日本においては賭博行為は原則として禁止されているので、射倖行為にかかる法律行為は無効となる(最判昭和46年4月9日、最判平成9年11月11日)。
- 正義の観念に反する行為
- 不正な行為を助長する行為
- 非行を行わないことの対価として利益を与える旨の契約
- (例1)総会屋
- (例2)偽証の撤回に対する報酬(最判昭和45年4月21日)
- 不公平な契約
- (例1) ワンクリック詐欺
- 自由を極度に制限する行為
- 芸娼妓契約(前借金無効判決 最判昭和30年10月07日)
- 営業自由・就業の自由の制限
- 就業の自由の制限ではないとされた例:最判昭和52年8月9日
- 財産権行使の制限
- 団体の退会の制限(最判平成11年2月23日)
- 日本国憲法に定める基本的人権を損なう行為
- 憲法においては、政府等公に対する基本的人権の保障をしており、私人間の関係において直接適用されるものではないが、正当な理由なく基本的人権を損なうものであれば、公序良俗に反するものとして無効とされる。
- 不当な性差別(憲法第14条の精神に悖る)
- 日産自動車女子定年制事件(最判昭和56年3月24日)
- 入会集団において女性であることを理由とした排除するとした慣習(最判平成18年3月17日)
- 資格要件を世帯主に限るとした慣習(会則)は公序良俗に反しないとされた。
- 労働基本権の侵害(憲法第28条の精神に悖る)
- 賞与等の計算の基礎から組合活動の日や出産休暇に日数を差し引くことについて無効とした例(最判平成元年12月14日、最判平成15年12月4日)
- 不当な性差別(憲法第14条の精神に悖る)
- 憲法においては、政府等公に対する基本的人権の保障をしており、私人間の関係において直接適用されるものではないが、正当な理由なく基本的人権を損なうものであれば、公序良俗に反するものとして無効とされる。
限界事例
[編集]- 動機の違法:「動機に違法があるが、法律行為の内容として表示されていない場合」(最判昭和29年8月31日)
効果
[編集]英文
[編集]英文
[編集](Public Policy)
- Article 90 A juridical act that is against public policy is void.
(出典: 法学/英文引用元)
判例
[編集]- 強制執行異議(最高裁判決 昭和25年4月28日)旧民法第1133条
- 家督相続開始前相続人以外の者に対してなした被相続人の全財産の贈与の効力
- 家督相続開始前、被相続人がその所有に係る一切の動産、不動産を挙げて相続人以外の者に贈与したとしても、これをもつてただちに公序良俗に違反する無効の契約とすることはできない。
- 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和27年11月20日)民訴法第258条(現180条), 民法第482条
- 代物弁済の予約が公序良俗に反すると認められる一事例
- 代物弁済の予約につき、後記事由(「予謀によつて無智な弱い控訴人を陥穽に誘致した案件」)があるときは、公序良俗に反し無効である。
- 約束手形金請求(最高裁判決 昭和28年1月22日)民法第708条
- 不法原因給付の返還の特約の効力
- 不法原因給付の返還の特約は、有効である。
- 元来708条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、先に給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、708条の禁ずるところでない。
- 貸金請求(最高裁判決 昭和29年8月31日)民法第587条, 民法第708条
- 消費貸借成立のいきさつに不法の点があつた場合における貸金返還請求と民法第90条および第708条の適用の有無
- 消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第90条および第708条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。
- 当初、貸主は借主と、不法な密輸を企てたが思いとどまり出資を拒絶、借主に懇願され経費の一部として金銭を貸与した。借主はこれを遊蕩に消費、返済を求めると不法の原因により給付された金銭であるとし返済を拒否した事案。
- 預金返還請求(前借金無効判決 最高裁判決 昭和30年10月07日)民法第708条
- 酌婦としての稼働契約に伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求の許容
- 酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
- 売掛代金請求(最高裁判決 昭和35年3月18日)食品衛生法第21条, 食品衛生法第施行令5条9号
- 食品衛生法第21条による食肉販売の営業許可を受けない者のした食肉買入契約の効力。
- 食品衛生法第21条による食肉販売の営業許可を受けない者のした食肉の買入契約は無効ではない。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年6月13日)弁護士法第72条
- 弁護士法第72条本文前段に抵触する委任契約の効力。
- 弁護士法第72条本文前段に抵触する委任契約は、民法第90条に照して無効である。
- 上告人が右Dから債権の取立を委任され、更にDから右債権の取立の目的を達成するためDの提起する訴訟につき弁護士を選任し、仮差押並びに仮処分申請の手続をなすの件及びこれらの事件につき和解等による解決の一切を委任され、右債権の取立に成功すれば取立金額から訴訟費用を控除した残額の半額を報酬として受取るという趣旨のものであると認定した上、弁護士の資格のない上告人が右趣旨のような契約をなすことは弁護士法72条本文前段同77条に抵触するが故に民法90条に照しその効力を生ずるに由なきものといわなければならないとし、このような場合右契約をなすこと自体が前示弁護士法の各法条に抵触するものであつて、右は上告人が右のような契約をなすことを業とする場合に拘らないものであるとした原判決の判断は、当裁判所もこれを正当として是認する。
- 為替手形金請求(最高裁判決 昭和39年1月23日)食品衛生法第4条2号,食品衛生法第30条
- 有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法第90条により無効とされた事例。
- アラレ菓子の製造販売業者が硼砂の有毒性物質であることを知り、これを混入して製造したアラレ菓子の販売を食品衛生法が禁止していることを知りながら、あえてこれを製造のうえ、その販売業者に継続的に売り渡す契約は、民法第90条により無効である。
- 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年4月21日)民法第190条
- 証人または当事者本人として真実を陳述することに対する対価として金員を支払う旨の契約が公序良俗に反するとされた事例
- 民事訴訟において、証人または当事者本人として、一方の当事者(甲)に不利な虚偽の陳述をした者(乙)が、その後翻意し、甲に対し、真実を陳述する旨申し出るとともに、その対価として金員を要求した場合に、甲が自己の権利を守るため必要であると考えて、乙との間で、真実を陳述することに対する対価として金員を支払う旨の契約を締結したとしても、右契約は、公序良俗に反するものというべきである。
- 小切手金請求(最高裁判決 昭和46年4月9日)民法第696条, 小切手法第22条
- 賭博による債務の履行のために交付された第三者振出の小切手の支払につき所持人と振出人との間に成立した和解の効力
- 賭博による債務の履行のために第三者振出の小切手の交付を受けた所持人が、振出人との間で小切手金の支払に関し和解契約を締結した場合においては、右契約の内容である振出人の所持人に対する金銭支払の約定は、公序良俗に違反し無効である。
- 土地所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和46年4月20日)司法書士法第9条
- 司法書士法9条に違反するとされた事例
- 司法書士が、即決和解申立書作成の嘱託を受け、その行為に関連して、即決和解申立の対象となつた法律関係について、和解契約締結の委任を受け、相手方との間に和解契約を締結することは、司法書士法9条に違反して司法書士がその業務の範囲を越えて他人問の事件に関与したことにあたる。
- 司法書士法9条に違反する行為の効力
- 司法書士が司法書士法9条に違反して、和解契約締結の委任を受け相手方との間に和解契約を締結した場合であつても、右和解契約は、同条に違反するのゆえをもつてただちに無効であるとすることはできない。
- 司法書士法9条に違反するとされた事例
- 定期預金支払請求(最高裁判決 昭和49年3月1日)預金等に係る不当契約の取締に関する法第律第2条1項
- 預金等に係る不当契約の取締に関する法律2条1項に違反するいわゆる導入預金契約と民法90条
- 預金等に係る不当契約の取締に関する法律2条1項に違反するいわゆる導入預金契約であつても、右預金契約自体は民法90条に該当する無効のものということはできない。
- 秋田相互銀行女子賃金差別(秋田地方裁判所裁判決 昭和50年4月10日)日本国憲法第14条, 労働基準法第4条
- 労働契約において、使用者が、労働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱いをした場合には、労働契約の右の部分は、労働基準法4条に違反して無効であるから、女子は男子に支払われた金額との差額を請求することができるものと解するのを相当とする。
- 労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とされ、この無効となつた部分は、労働基準法で定める基準による旨の労働基準法13条の趣旨は、同法4条違反のような重大な違反がある契約については、より一層この無効となつた空白の部分を補充するためのものとして援用することができる
- 労働契約において、使用者が、労働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱いをした場合には、労働契約の右の部分は、労働基準法4条に違反して無効であるから、女子は男子に支払われた金額との差額を請求することができるものと解するのを相当とする。
- 金銭消費貸借契約無効確認(最高裁判決 昭和52年6月20日)私的独占の禁止及び公正取引の確保関する法第律第2条7項5号, 私的独占の禁止及び公正取引の確保関する法第律9条,昭和28年公正取引委員会告示11号10,利息制限法第1条1項,利息制限法第2条,利息制限法第4条1項
- いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反するとされた事例
- 信用協同組合が、組合員に現実に借受を必要とする実質貸付額550万円を貸し付けるにあたり、右貸付について十分な物的・人的担保があるのに、実質金利を高める等のため、取引条件として、組合員に、貸付額750万円の本件貸付契約及び同400万円の別口貸付契約を締結させて実質貸付額を超過する600万円を貸し付け、その600万円を即時200万円の定期預金及び400万円の割増金付定期預金として組合に預託させ、これに担保権を設定して払戻を制限し、また、実質金利が年1割7分1厘入毛余になるなど、判示の事情のもとにおいては、右各貸付契約及び各定期預金契約は、昭和28年公正取引委員会告示第11号(不公正な取引方法)の10にあたり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反するというべきである。
- いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反する場合と貸付契約の私法上の効力
- いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反する場合でも、その違反により、貸付契約が直ちに私法上無効になるとはいえず、また、右契約が公序良俗に反するともいえないが、両建預金及び超過貸付があるために実質金利が利息制限法所定の制限利率を超過しているときは、右超過する限度で貸付契約中の利息、損害金についての約定は、同法1条、4条により無効になるものと解すべきである。
- いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条に違反するとされた事例
- 退職金返還(最高裁判決 昭和52年8月9日)労働基準法第3条, 労働基準法第16条, 労働基準法第24条
- 同業他社への転職者に対する退職金の支給額を一般の退職の場合の半額と定めた退職金規定の効力
- 会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限し、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給する退職金の額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることは、労働基準法3条、16条、24条及び民法90条に違反しない。
- この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであり、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。
- 雇傭関係存続確認等(日産自動車女子定年制事件 最高裁判決 昭和56年3月24日)日本国憲法第14条1項,民法第1条ノ2,労働基準法第1章総則, 労働基準法第1条
- 定年年齢を男子60歳女子55歳と定めた就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効とされた事例
- 会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた場合において、担当職務が相当広範囲にわたつていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく、労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず、少なくとも60歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど、原判示の事情があつて、会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは、右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である。
- 遺言無効確認等(最高裁判決 昭和61年11月20日)民法第964条
- 不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないとされた事例
- 妻子のある男性がいわば半同棲の関係にある女性に対し遺産の3分の1を包括遺贈した場合であつても、右遺贈が、妻との婚姻の実体をある程度失つた状態のもとで右の関係が約6年間継続したのちに、不倫な関係の維持継続を目的とせず、専ら同女の生活を保全するためにされたものであり、当該遺言において相続人である妻子も遺産の各3分の1を取得するものとされていて、右遺贈により相続人の生活の基盤が脅かされるものとはいえないなど判示の事情があるときは、右遺贈は公序良俗に反するものとはいえない。
- 貸金請求本訴、不当利得金請求反訴(最高裁判決 昭和61年11月20日)民法第446条
- クラブのホステスが顧客の飲食代金債務についてした保証契約が公序良俗に反するものとはいえないとされた事例
- クラブのホステスが顧客の当該クラブに対する飲食代金債務についてした保証契約は、ホステスにおいて自己独自の客としての当該顧客との関係の維持継続を図ることによりクラブから支給される報酬以外の特別の利益を得ることを目的として任意に締結したと認められるなど原判示のような事情がある場合には、公序良俗に反するものとはいえない。
- 不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加(百里基地訴訟 最高裁判決 平成元年6月20日)日本国憲法第9条, 日本国憲法第98条1項
- 国が行う私法上の行為と憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」
- 国が行う私法上の行為は、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には当たらない。
- 私法上の行為と憲法9条の適用
- 私法上の行為には憲法9条は直接適用されるものではない。
- 憲法は私人間には直接に適用されない。
- 憲法9条と民法90条にいう「公ノ秩序」との関係
- 憲法9条の宣明する国家の統治活動に対する規範は、そのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはなく、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、「公ノ秩序」の内容の一部を形成する。
- 国が行う私法上の行為と憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」
- 賃金(最高裁判決 平成元年12月14日)労働基準法第39条, 労働基準法第65条, 労働基準法第66条, 労働基準法第67条, 労働基準法第68条, 労働基準法第76条, 労働組合法第2章, 労働組合法第14条, 労働組合法第16条, 日本国憲法第28条
- 前年の稼働率によって従業員を翌年度の賃金引上げ対象者から除外する旨の労働協約条項の一部が公序に反し無効とされた事例
- すべての原因による不就労を基礎として算出した前年の稼働率が80パーセント以下の従業員を翌年度のベースアップを含む賃金引上げの対象者から除外する旨の労働協約条項は、そのうち労働基準法又は労働組合法上の権利に基づくもの以外の不就労を稼働率算定の基礎とする部分は有効であるが、右各権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎とする部分は公序に反し無効である。
- 未払賃金(最高裁判決平成5年6月25日)労働基準法第39条, 労働基準法第134条
- タクシー会社の乗務員が月ごとの勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合に皆勤手当を支給しない旨の約定が公序に反する無効なものとはいえないとされた事例
- タクシー会社の乗務員に対し、月ごとの勤務予定表どおり勤務した場合には月額3100円ないし4100円の皆勤手当を支給するが、右勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合には右手当の全部又は一部を支給しない旨の約定は、右手当の支給が代替要員の手配が困難となり自動車の実働率が低下する事態を避ける配慮をした乗務員に対する報奨としてされ、右手当の額も相対的に大きいものではないなどの判示の事情の下においては、年次有給休暇取得の権利の行使を抑制して労働基準法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものとは認められず、公序に反する無効なものとはいえない。
- 損害賠償(最高裁判例 平成6年4月22日)職業安定法5条1項,職業安定法32条6項,職業安定法施行規則24条14項,職業安定法施行規則別表第3,民法第91条
- いわゆるスカウト行為と職業安定法5条1項にいう職業紹介
- 求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為は、職業安定法5条1項にいう職業紹介におけるあっ旋に当たる。
- 有料職業紹介において労働大臣が定める手数料の最高額を超える手数料を定めた契約の効力
- 有料職業紹介における手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分は無効である。
- いわゆるスカウト行為と職業安定法5条1項にいう職業紹介
- 損失保証債務履行(最高裁判決 平成9年9月4日)証券取引法(平成3年法第律第96号による改正前のもの)50条1項3号
- 平成3年法律第96号による改正前の証券取引法の下において平成2年8月当時に締結されたいわゆる損失保証契約の効力
- 平成3年法律第96号による改正前の証券取引法の下において平成2年8月当時に締結されたいわゆる損失保証契約は、公序に反し無効である。
- 損失保証は、元来、証券市場における価格形成機能をゆがめるとともに、証券取引の公正及び証券市場に対する信頼を損なうものであって、反社会性の強い行為であるといわなければならず、このことは、右改正証券取引法の施行前においても、異なるところはなかった。
- 旧証券取引法の下においては、損失保証は違法な行為とされていたものの、行政処分を科せられていたにすぎず、学説の多くも損失保証契約は私法上有効であると解していたことからすれば、従前は、損失保証が反社会性の強い行為であると明確に認識されてはいなかったものといえる。
- 次第に、損失保証が証券取引の公正を害し、社会的に強い非難に値する行為であることの認識が形成されていったものというべきであり、遅くとも、上告人が被上告人との間で損失保証契約を締結したと主張する平成2年8月15日当時においては、既に、損失保証が証券取引秩序において許容されない反社会性の強い行為であるとの社会的認識が存在していたものとみるのが相当である。
- 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、貸金請求反訴(最高裁判決 平成9年11月11日)民法第468条
- 賭博債権の譲渡を異議なく承諾した債務者が右債権の譲受人に対して賭博契約の公序良俗違反による無効を主張することの可否
- 賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができる。
- 立替金返還等(最高裁判決 平成11年2月23日)民法第91条, 民法第678条
- やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定の効力
- やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定は、無効である。
- 売掛代金請求本訴,損害賠償請求反訴事件(最高裁判決 平成13年6月11日)不正競争防止法第2条1項1号, 不正競争防止法第13条1号(現21条2項1号), 商標法第78条
- 衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用した商品の売買契約が民法90条により無効とされた事例
- 衣料品の卸売業者と小売業者との間における周知性のある他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用した商品の売買契約は,当事者がそのような商品であることを互いに十分に認識しながら,あえてこれを消費者の購買のルートに乗せ,他人の真正な商品であると誤信させるなどして大量に販売して利益をあげようと企て,この目的を達成するために継続的かつ大量に行ったものであって,単に不正競争防止法及び商標法に違反するというだけでなく,経済取引における商品の信用の保持と公正な経済秩序の確保を害する著しく反社会性の強いものであるなど判示の事情の下においては,民法90条により無効である。
- 共謀がなく、単に不正競争防止法及び商標法に違反するだけの事案であれば取引自体を無効とまではできなかった可能性があるが、共謀の上であれば法的効力を認めるのは適当ではない。
- 約定金,寄託金返還請求事件(最高裁判決 平成15年4月18日) 証券取引法第42条の2第1項3号
- 法律行為が公序に反することを目的とするものであるかどうかを判断する基準時
- 法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。
- 損害賠償請求,仮執行の原状回復等を命ずる裁判の申立て事件(最高裁判決 平成15年12月4日)労働基準法(平成9年法律第92号による改正前のもの)第65条,育児休業等に関する法律(平成7年法第律第107号による改正前のもの)第10条
- 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者とする旨の就業規則条項の適用に関しその基礎とする出勤した日数に産前産後休業の日数等を含めない旨の定めが公序に反し無効とされた事例
- 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者としこれに満たない者には賞与を支給しないこととする旨の就業規則条項の適用に関し,出勤率算定の基礎とする出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し,出勤した日数に上記日数及び育児を容易にするための措置により短縮された勤務時間分を含めない旨を定めた就業規則の付属文書の定めは,従業員の年間総収入額に占める賞与の比重が高いため,上記条項により賞与が支給されない者の受ける経済的不利益が大きく,従業員が産前産後休業を取得し又は勤務時間短縮措置を受けた場合には,それだけで上記条項に該当して賞与の支給を受けられなくなる可能性が高いという事情の下においては,公序に反し無効である。
- 賞与の額を欠勤日数に応じて減額することを内容とする計算式の適用に当たり産前産後休業の日数等を欠勤日数に含めた所定の減額を行わずに賞与全額の支払請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例
- 賞与の額を欠勤日数に応じて減額することを内容とする計算式及びその適用に当たりその基礎となる欠勤日数に産前産後休業の日数及び育児を容易にするための措置により短縮された勤務時間分を含める旨を定めた就業規則の付属文書の定めが無効となる理由を具体的に説示することなく,上記計算式を適用せず,産前産後休業の日数等を欠勤日数に含めた所定の減額を行わずに賞与全額の支払請求を認容した原審の判断には,違法がある。
- 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者とする旨の就業規則条項の適用に関しその基礎とする出勤した日数に産前産後休業の日数等を含めない旨の定めが公序に反し無効とされた事例
- 職員給与支出差止等請求事件(最高裁判決 平成16年1月15日)地方公務員法第24条1項, 地方公務員法第30条, 地方公務員法第35条, 職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和28年岡山県条例第49号)2条,岡山県職員給与条例(昭和26年岡山県条例第18号)14条,職務に専念する義務の特例に関する規則(昭和28年岡山県人事委員会規則第10号)2条,民法第709条,地方自治法第2条17項,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号
- いわゆる第3セクター方式により設立された株式会社に派遣された県職員に対する給与支出が違法であるとされた事例
- 県が,職務専念義務の免除をするとともに勤務しないことの承認をして,いわゆる第3セクター方式により設立された株式会社に県職員を派遣し,その給与を支出した場合において,上記派遣が,同社に事業収入がなく,同社が十分な人材を確保していないことを考慮して行われたこと,同社の事業内容は遊園施設等の経営であったこと,派遣職員が従事した職務の内容は同社の業務全般に 及んでいたこと,派遣人数は延べ13人,派遣期間は約7年間に及んだことなど判示の事実関係の下においては,上記給与支出は,違法である。
- 県といわゆる第3セクター方式により設立された株式会社との間で締結された県職員を同社に派遣してその給与を県が負担することを内容とする協定が私法上無効であるとはいえないとされた事例
- 県が,いわゆる第3セクター方式により設立された株式会社との間で,県職員を同社に派遣してその給与を負担することを内容とする協定を締結し,派遣職員につき職務専念義務の免除をするとともに勤務しないことの承認をして給与を支出した場合において,上記協定が地方公務員法24条1項,30条及び35条の趣旨に反して違法であるとしても,上記協定締結当時,地方公務員の派遣に関する法制度が整備されないまま,全国各地の地方公共団体において第3セクター等への職員派遣が行われており,職務専念義務の免除による職員派遣の場合には派遣職員の給与を支出する例が多かったこと,その適否については定説がなく,裁判例も分かれていたことなど判示の事情の下においては,上記協定が私法上無効であるということはできない。
- 県がいわゆる第3セクター方式により設立された株式会社との間で県職員を同社に派遣してその給与を負担することを内容とする協定を締結して派遣職員に給与を支出したことにつき知事に過失があるとはいえないとされた事例
- 県が,いわゆる第3セクター方式により設立された株式会社との間で,県職員を同社に派遣してその給与を負担することを内容とする協定を締結した当時,地方公務員の派遣に関する法制度が整備されないまま,全国各地の地方公共団体において第3セクター等への職員派遣が行われており,職務専念義務の免除による職員派遣の場合には派遣職員の給与を支出する例が多かったこと,その適否については定説がなく,裁判例も分かれていたこと,県の同社への職員派遣は条例等の定める職務専念義務の免除等の法的手続を踏んで行われたことなど判示の事情の下においては,上記協定を締結して派遣職員に給与を支出したことにつき知事に過失があるとはいえない。
- いわゆる第3セクター方式により設立された株式会社に派遣された県職員に対する給与支出が違法であるとされた事例
- 地位確認等請求事件(最高裁判決 平成18年3月17日)民法第2条, 民法第92条, 民法第263条, 民法第294条, 日本国憲法第14条1項
- 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格要件を一家の代表者としての世帯主に限定する部分が公序良俗に反しないとされた事例
- A入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格要件を一家の代表者としての世帯主に限定する部分は,現在においても,公序良俗に反するものということはできない。
- 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格を原則として男子孫に限定し同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分が民法第90条の規定により無効とされた事例
- A入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち,入会権者の資格を原則として男子孫に限定し,同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分は,遅くとも平成4年以降においては,性別のみによる不合理な差別として民法第90条の規定により無効である。
- 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格要件を一家の代表者としての世帯主に限定する部分が公序良俗に反しないとされた事例
- 学納金返還請求事件(最高裁判決 平成18年11月27日)民法第420条, 学校教育法第6条, 民法第1条2項, 民法第703条
- 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約と公序良俗違反
- 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約は,その目的,意義に照らして,合格者の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他合格者の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反しない。
- 私立医科大学の平成13年度の入学試験の合格者が同大学との間で納付済みの授業料等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した後に同契約を解除した場合において同特約は公序良俗に反しないなどとして同大学に対する納付済みの授業料等の返還請求が認められなかった事例
- 私立医科大学の平成13年度の入学試験の合格者が,同大学に授業料等を含む所定の納付金を納付して,同大学との間で,平成13年3月21日正午よりも後に入学辞退を申し出た場合には授業料等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した後,同月27日ころ同契約を解除した場合において,医科大学においては入学辞退によって欠員が生ずる可能性が潜在的に高く,欠員が生じた場合に生ずる損失が多額になることは否定し難いこと,上記特約が当時の私立大学の医学関係の学部におけるそれとの比較において格別合格者に不利益な内容のものであることがうかがわれないことなど判示の事情の下では,上記授業料等の金額が614万円であり,このうち教育充実費については6年間に納付することとされている合計額950万円のうち500万円を在学契約締結時に納付すべきものとされていることや,同大学に定員割れが生じていないことなどを考慮しても,上記特約は公序良俗に反するものではなく,同大学が上記授業料等の返還を拒むことが信義に反するともいえず,上記合格者から同大学に対する上記授業料等の返還請求は認められない。
- 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約と公序良俗違反
- 組合員たる地位の不存在確認等請求事件(最高裁判決平成19年2月2日)労働組合法第第2章 労働組合, 日本国憲法第21条1項, 日本国憲法第28条
- 従業員と使用者との間でされた従業員に対し特定の労働組合から脱退する権利を行使しないことを義務付ける合意と公序良俗違反
- 従業員と使用者との間において従業員が特定の労働組合に所属し続けることを義務付ける内容の合意がされた場合において,同合意のうち,従業員に上記労働組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを義務付けて脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は,公序良俗に反し無効である。
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