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民法第891条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第5編 相続

条文

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相続人の欠格事由)

第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
  1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

解説

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Wikipedia
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ウィキペディア相続欠格の記事があります。
相続人の欠格事由について定めた規定。被相続人を殺害して相続の原因を作ったり、先順位・同順位の相続人の殺害や被相続人の真意によらない遺言を現出させたりし、相続における利益を得ようとした者に相続人の地位を認めることは、正義に反することにより、それらの者の相続人の地位を奪うもの。家督相続に関する明治民法第969条とそれを準用する遺産相続に関する明治民法第997条を継承する。

欠格の要件

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  1. 以下のいずれかの行為があること。
    1. 被相続人等を殺害又はその未遂又は予備を犯し刑に処せられたもの(第1号)
      • 「故意」とは、殺人の故意を指す。殺人の故意が認められない傷害致死・過失致死等の場合は該当しない(大判大11.9.25)ので、欠格とはならない。また、殺害の動機に、相続において自己への利益を得る目的などは必要ない。
      • 「刑に処せられた者」
        1. 有罪の確定判決を得た者。
          1. 正当防衛等で違法性がない場合や責任がない場合(責任能力がない、期待可能性がない)は、殺人等が有罪とならないので欠格とならない。
          2. 判決が確定する前に被相続人が死亡した場合、欠格とならない。
            被相続人を殺し係争中に相続が開始された場合、確定判決を得ていないので相続人の地位は失われない。この場合、確定判決まで遺産分割を停止するか、一旦分割し、確定判決後、相続回復請求により遺産を取り戻す等の手段を講じうる。
        2. 「実刑」の確定判決と多くは解されているが、根拠は不明。なお、「(前に禁錮以上の)刑に処せられ」の文言を有する刑法第25条及び第26条においては、「執行猶予の有無を問わない」というのが判例(最決昭和54年3月27日等)・通説である。
      • 「同順位にある者」とあるので、例えば子が父を殺せば、父の相続について欠格事由に該当し、かつ、母の相続についても(父と子は母の相続について同順位であるため)欠格事由に該当する。従って、母の相続に関しても相続人となることはできない。
    2. 被相続人が殺害されたことを知って告発又は告訴をしなかった者(第2号)
      現在では、私訴に関わらず公訴がなされるため存在意義については疑問が呈せられている[1]
      但書は、たとえば被相続人を殺害した者が自分の息子であった場合、これを告発・告訴しなくても欠格事由にはあたらないことを意味する。刑法第105条の立法趣旨に通じる。
      隠秘の動機に、相続において自己への利益を得る目的などは必要ない。
    3. 詐欺・強迫による、自由な遺言作成の妨害(第3号)。
    4. 詐欺・強迫による、不正な遺言作成の強制(第4号)。
    5. 遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿(第5号)。
      本号の行為においては、実行行為を認識していることの他、相続を有利にする目的を認知している必要がある(二重の故意:最決 平成9年1月28日)。
  2. 欠格の宥恕
    上記行為があった場合に、被相続人等が許し、相続人の地位を回復させる意思を示した場合。
    規定はなく、賛成反対両説あるが、「廃除民法第892条)」と異なり、それを覆す「廃除の取消し(民法第894条)」は規定されていないため、「無効・取消し」のアナロジーから、法的に宥恕は認められないと解するのが適当であろう。なお、欠格者は受遺権は失うが受贈権は奪われるものではないので、被相続人の生前における贈与で宥恕の目的を達することができる。

欠格の効果

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  • 相続人から除かれる。
    • 遺留分の請求権も喪失する。
    • 遺言の受遺者としての能力も失う(民法第965条)。
    • 相続開始以後に、第1号に関して確定判決が出た場合やその他欠格原因が発覚した場合、相続開始時に遡って、相続資格を失う。
  • 欠格者に子又はその直系卑属がある場合、欠格者の相続権は代襲される(第887条)。
    即ち、欠格者は相続において死亡したものとみなされているのと同様である。

参照条文

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判例

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  1. (大判大11.9.25)
    被相続人又は先順位相続人を殺人の故意なく傷害し死に致らしめた場合は相続欠格事由とならない。
    被相続人又ハ先順位者ヲ死ニ致スノ意思ナク単ニ傷害ノ結果其ノ死ヲ誘致シタル者ハ民法第969条(現行本条)第1号ニ該当セス
  2. 相続権不存在確認等、所有権移転登記抹消登記手続 (最高裁判決 平成9年01月28日)
    相続に関する不当な利益を目的としない遺言書の破棄隠匿行為と相続欠格事由
    相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に当たらない。

脚注

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  1. ^ 第2号は民法起草時から論点になった。法典調査会では穂積陳重が説明した。その中で日本では讐討(かたきうち)は許されなくなったが「法律ニ訴ヘルコトハ少ナクモ徳義上ノ義務デアルト思フ」といい、これに対して委員高木豊三、横田国臣は削除説を主張し、穂積八束はこれに反対した。評議の結果少数で否決された(採用)。起草委員の富井、梅は削除して構わぬという態度であった。この規定については外国でもフランス法以外にはあまり類がない規定であり、穂積重遠は「相続法大意」(大正15年)で、この条項は削除すべしとし「いつまでに告発告訴しなければ欠格になるのか、他から告訴告発があった場合は如何、指定又は選定家督相続人にも適用があるか、等解釈上の疑問があるのみならず、此等の疑問に対しては相当な解決を下し得るとしても、元来此規定は血族復讐の観念に由来する私訴公訴混同時代の産物で、告発及び告訴が私人の法律上の義務でない今日の制度たるべきでない」と説いている。(穂積陳重『続法窓夜話』 岩波書店1980.3.17 P.354巻末脚注)

参考

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明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第829条に継承された。

前条但書ノ規定ハ無償ニテ子ニ財産ヲ与フル第三者カ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ其財産ニ付テハ之ヲ適用セス

前条:
民法第890条
(配偶者の相続権)
民法
第5編 相続
第2章 相続
次条:
民法第892条
(推定相続人の廃除)
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