コンテンツにスキップ

ガリア戦記 第6巻

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

ガリア戦記> 第6巻 >注解

 C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI 

 LIBER SEXTVS 

ガリア戦記 第6巻の情勢図(BC53年)。
黄色の領域がローマ領。桃色が同盟部族領。
ガリア戦記 第6巻 目次

ガッリア北部の平定:
第二次ゲルマーニア遠征:
ガッリア人の社会と風習について:
ゲルマーニアの風習と自然について:
対エブロネス族追討戦(1):
スガンブリー族のアドゥアトゥカ攻略戦:
対エブロネス族追討戦(2):





01節 | 02節 | 03節 | 04節 | 05節 | 06節 | 07節 | 08節
09節 | 10節
11節 | 12節 | 13節 | 14節 | 15節 | 16節 | 17節 | 18節 | 19節 | 20節
21節 | 22節 | 23節 | 24節 | 25節 | 26節 | 27節 | 28節
29節 | 30節 | 31節 | 32節 | 33節 | 34節
35節 | 36節 | 37節 | 38節 | 39節 | 40節 | 41節 | 42節
43節 | 44節
  1節 コラム「カエサルの軍団」
10節 コラム「スエービー族とカッティー族・ケールスキー族・ウビイー族について」
10節 コラム「ガッリア・ゲルマーニアの地誌・民族誌について」
脚注
参考リンク



はじめに

[編集]
カエサルは、第1巻の年(紀元前58年)から前執政官プロコンスルとして属州総督に赴任した。が、これはガッリア・キサルピーナイッリュリクムおよびガッリア・トラーンサルピーナの三属州の統治、および4個軍団を5年間にもわたって任されるというローマ史上前代未聞のものであった。これはカエサルがクラッススポンペイウスと非公式な盟約を結んだ三頭政治の成果であった。カエサルには属州の行政に従事する気持ちははじめからなく、任期のほとんどを夏季はガッリア侵攻に、冬季は首都ローマへの政界工作に費やした。第3巻の年(紀元前56年)に3人はルカLuca)の会談を行い、カエサルはクラッススとポンペイウスが翌年に執政官になること、カエサルの総督の任期をさらに5年間延長されることを求めた。会談の結果、任期が大幅に延長されることになったカエサルは、もはや軍事的征服の野望を隠そうとせず、ガッリアに止まらず、ゲルマーニアブリタンニアの征服へと向かっていく。一方、第4巻の年(前55年)に再び執政官になった二人は、パルティアを攻略するためにクラッススがシュリア総督になること、ポンペイウスがカエサルと同様に両ヒスパーニアアフリカの三属州の総督になって4個軍団を任されることを決める。
後に三頭政治Triumviratus)と呼ばれることになる非公式な盟約を結んでいた、左からカエサルクラッススポンペイウス
3人の同盟はついに破綻の時を迎える。
第5巻の年(前54年)、カエサルは満を持して二回目のブリタンニア侵攻を敢行するが、大した戦果は得られず、背後のガッリア情勢を気にしながら帰還する。ついにアンビオリークス率いるエブローネース族、ついでネルウィイー族が反乱を起こし、カエサルは何とか動乱を鎮めるが、ガッリア諸部族の動きは不穏であり、カエサルは諸軍団とともに越冬することを決める。
カエサルがブリタンニア遠征で不在の間に、ポンペイウスに嫁していたカエサルの一人娘ユーリア産褥で命を落とす。一方、クラッススは属州シュリアに向かうが、これはクラッススの命運とともに三頭政治の瓦解、カエサルとポンペイウスの関係悪化を招来することになる。
本巻の年(前53年)、カエサルはエブローネース族追討戦に向かうが、これは大きな嵐の前の出来事に過ぎない。


ガッリア北部の平定

[編集]

1節

[編集]
カエサルがポンペイウスの助けにより新兵を徴募する
 
  • simul ab Gnaeo Pompeio proconsule petit,
  • quoniam ipse ad urbem cum imperio rei publicae causa remaneret,
    • (ポンペイウス)自身は首都ローマ市の辺りに、軍隊司令権インペリウムを伴って、国務のために留まっていたので、
      (訳注:urbs (urbem) は普通名詞として「都市・街」を意味するが、特に首都ローマ市を指す。)
      (訳注:ポンペイウスは、第4巻の年(前55年)にクラッススとともに執政官を務め、
          第5巻の年(昨年=前54年)には両ヒスパーニアアフリカの属州総督となったが、
          首都ローマの政局が気がかりであったため、任地には副官を派遣して、
          自らはローマ郊外に滞在していた。ただ彼は属州総督であったため、
          ポメリウムと呼ばれるローマ市中心部に立ち入ることは禁じられていた。)
  • quos ex Cisalpina Gallia consulis sacramento rogavisset,
    • ガッリア・キサルピーナの内から、執政官コンスルのための宣誓を求めていた者たちに、
      (訳注:ポンペイウスは執政官のときに元老院の許可を得て、
          カエサルの属州で、自らの属州に派遣するための4個軍団の徴募を行った。
          徴集された新兵たちは執政官に宣誓したようである。)
      (訳注:下線部は、主要写本ω では consulis「執政官の」だが、
               Ciacconiusconsul「執政官が」と修正提案している。)
  • ad signa convenire et ad se proficisci iuberet,
    • 軍旗のもとに集まって、自分〔カエサル〕のもとへ進発することを命じるようにと。
      (訳注:カエサルは、ポンペイウスに軍団兵の融通を求めたわけだ。
          ポンペイウスが執政官のときに徴募していたうちの1個軍団がカエサルに貸し出された。
          ところがその後、第8巻54節の記述によれば [1][2]クラッススの死後に、元老院は、
          対パルティア戦争のために、カエサルとポンペイウスがそれぞれ1個軍団を供出することを可決したが、
          ポンペイウスはカエサルに1個軍団の返還を求めたので、
          カエサルは計2個軍団の引き渡しを求められることになる。
          このことは、『内乱記』第1巻2節以降でも言及される。)
 
  • magni interesse etiam in reliquum tempus ad opinionem Galliae existimans
    • ガッリアの世論に対して、これから後の時期にさえも、(カエサルが)大いに重要であると考えていたのは、
  • tantas videri Italiae facultates
    • (以下の程度に)イタリアの(動員)能力が豊富であると見えることである。
      (訳注:Italiaという語は多義的でさまざまに解釈できるが、
          本書ではガッリア・キサルピーナを指すことが多い。)
  • ut, si quid esset in bello detrimenti acceptum,
    • もし、戦争において何がしかの(兵員の)損害を蒙ったとしても、
  • non modo id brevi tempore sarciri,
    • それが短期間で修復(できる)だけでなく、
  • sed etiam maioribus augeri copiis posset.
    • より多く軍勢で増されることが可能だ
      (とガッリアの世論に思われることが重要であるとカエサルは考えたのである)。
 
  • Quod cum Pompeius et rei publicae et amicitiae tribuisset,
    • そのことを、ポンペイウスは公儀〔ローマ国家〕のためにも(三頭政治の)盟約のためにも認めたので、
  • celeriter confecto per suos dilectu
    • (カエサルの)配下の者たちを介して速やかに徴募が成し遂げられて
  • tribus ante exactam hiemem et constitutis et adductis legionibus
    • 冬が過ぎ去る前に、3個軍団が組織されて(カエサルのもとへ)もたらされ、
  • duplicatoque earum cohortium numero, quas cum Quinto Titurio amiserat,
  • et celeritate et copiis docuit,
    • (徴兵の)迅速さと軍勢(の多さ)において(ガッリア人たちに)示したのは、
  • quid populi Romani disciplina atque opes possent.
    • ローマ国民の規律と能力がいかに有力であるかということである。
グナエウス・ポンペイウスの胸像。カエサルおよびマルクス・クラッススとともに三頭政治を行ない、共和政末期のローマを支配した。この巻の年にクラッススが戦死し、ポンペイウスに嫁いでいたカエサルの娘ユーリアが前年に病没、三頭政治は瓦解して、やがて内戦へ向かう。
ポンペイウス劇場の復元図。ポンペイウスの名を冠したこの劇場は、彼が執政官であった紀元前55年頃に竣工し、当時最大の劇場であった。
 伝記作家プルータルコスは以下のように伝えている[3]:「クラッススは執政官の任期が切れるとすぐに属州へと出発したが、ポンペイウスはローマで劇場の開館式や奉献式に出席し、その式にはあらゆる競技・ショー・運動・体操・音楽などで人々を楽しませた。野獣の狩猟や餌付け、野獣との闘いもあり、500頭のライオンが殺された。しかし何よりも、象の闘いは、恐怖と驚きに満ちた見世物であった」と。

 カエサルの最期の場所でもあり、血みどろのカエサルはポンペイウスの胸像の前で絶命したとされている。

コラム「カエサルの軍団」

[編集]
カエサルは第1巻の年(紀元前58年)に三属州の総督に任官するとともに4個軍団(VI・VII・VIIIIX)を任された。ヘルウェーティイー族Helvetii)と対峙するうちに、元老院に諮らずに独断で2個軍団(XXI)を徴募する(1巻10節)。
 第2巻の年(紀元前57年)に3個軍団(XIIXIIIXIV)を徴募して、計9個軍団。

 『第5巻』24節の時点で、カエサルは8個軍団と5個歩兵大隊を保持していると記されている。最古参の第6軍団が半減していると考えると、アドゥアトゥカの戦いアンビオリークスによって、サビーヌスやコッタらとともに滅ぼされたのは、第14軍団(XIV)と古い第6軍団(VI)の生き残りの5個歩兵大隊と考えることができる。

 本巻の年(紀元前53年)では、ポンペイウスの第1軍団がカエサルに譲られ、後にカエサルの軍団の番号系列に合わせて第6軍団(VI)と改称されたようだ。「第14軍団」は全滅させられたので通常は欠番にするところだが、カエサルはあえて再建して第14軍団と第15軍団が徴募され、これら3個軍団を加えると、カエサルが保持するのは計10個軍団となる。
 もっとも本巻ではカエサルは明瞭な記述をしておらず、上述のように後に2個軍団を引き渡すことになるためか、伝記作家プルータルコスは、ポンペイウスがカエサルに2個軍団を貸し出した、と説明している。

2節

[編集]
ガッリア北部の不穏な情勢、トレーウェリー族がライン川東岸のゲルマーニア人を勧誘
 
 
  • Quibus rebus cognitis Caesar,
    • それらの事情を知るや、カエサルは、
  • cum undique bellum parari videret,
    • 至る所で戦争が準備されていることを見ていたので、
  • Nervios, Atuatucos ac Menapios adiunctis
    • (すなわち)ネルウィイー族、アトゥアトゥキー族とメナピイー族を加盟させたうえに
  • Cisrhenanis omnibus Germanis esse in armis,
    • レーヌスライン川のこちら側のすべてのゲルマーニア人たちが武装していて、
      (訳注:Germani Cisrhenani「レーヌスのこちら側のゲルマーニア人」(西岸の諸部族) は西岸部族の総称。
          Germani Transrhenani 「レーヌスの向こう側のゲルマーニア人」(東岸の諸部族) の対義語で、
           西岸の諸部族が東岸の諸部族を招き寄せているというのが『ガリア戦記』の主張である。)
  • Senones ad imperatum non venire
    • セノネース族は(カエサルから)命令されたことに従わずに
  • et cum Carnutibus finitimisque civitatibus consilia communicare,
    • カルヌーテース族および隣接する諸部族とともに謀計を共有しており、
  • a Treveris Germanos crebris legationibus sollicitari,
    • ゲルマーニア人たちがたびたびトレーウェリー族の使節団によってそそのかされていたので、
  • maturius sibi de bello cogitandum putavit.
    • (カエサルは)自分にとって(例年)より早めに戦争を計画するべきだと見なした。

3節

[編集]

ネルウィイ族を降し、ガッリアの領袖たちを召集する

  • ① Itaque nondum hieme confecta
    • (カエサルは)こうして、まだ冬が終わらないうちに、
  • proximis quattuor coactis legionibus
    • 近隣の4個軍団を集めて、
  • de improviso in fines Nerviorum contendit
  • ② et, priusquam illi aut convenire aut profugere possent,
    • そして、彼ら(の軍勢)が集結したり、あるいは逃亡したりできるより前に、
  • magno pecoris atque hominum numero capto
    • 家畜たちおよび人間たちの多数を捕らえて、
  • atque ea praeda militibus concessa vastatisque agris
    • それらの戦利品を兵士たちに譲り、耕地を荒らして、
  • in deditionem venire atque obsides sibi dare coegit.
    • (ネルウィイ族に、ローマ勢へ)降伏すること、さらに人質たちを自分(カエサル)に供出することを強いた。
  • ③ Eo celeriter confecto negotio rursus in hiberna legiones reduxit.
    • その戦役は速やかに成し遂げられたので、再び諸軍団を冬営に連れ戻した。
  • ガッリアの領袖たちの会合
  • ④ Concilio Galliae primo vere, ut instituerat, indicto,
    • ガッリアの(領袖たちの)会合を、定めていたように春の初めに通告した。
  • cum reliqui praeter Senones, Carnutes Treverosque venissent,
    • セノネス族カルヌテス族とトレーウェリー族を除いて、ほかの者たちは(会合に)現われた。
      (訳注:ガッリア北部では、このほかエブロネス族とメナピイ族が参加していないはずである。)
  • initium belli ac defectionis hoc esse arbitratus,
    • これら(3部族の不参加)は戦争と背反の始まりであると思われて、
  • ut omnia postponere videretur,
    • (他の)すべて(の事柄)を後回しにすることと見なされたので、
  • concilium Lutetiam Parisiorum transfert.
    • 会合をパリスィイ族の(城市である)ルテティアに移した。
      (訳注:ルテティア Lutetia は、写本によってはルテキア Lutecia とも表記されている。
      ラテン語では Lutetia Parisiorum「パリスィイ族の泥土」と呼ばれ、現在のパリ市である。
      ストラボンなどによればケルト語でルコテキア Lukotekia と呼ばれていたらしい。)
ルテティア周辺の地図(18世紀頃)
  • ⑤ Confines erant hi Senonibus
    • これら(パリスィイ族)はセノネス族に隣接していて、
  • civitatemque patrum memoria coniunxerant,
    • 父祖の伝承では(一つの)部族として結びついていた。
  • sed ab hoc consilio afuisse existimabantur.
    • しかし(パリスィイ族は)これらの謀計には関与していないと考えられた。
  • ⑥ Hac re pro suggestu pronuntiata
    • (カエサルは)この事を演壇の前で演説するや、
  • eodem die cum legionibus in Senones proficiscitur
    • 同日に諸軍団とともにセノネス族のところに出発して、
  • magnisque itineribus eo pervenit.
    • 強行軍でもってそこに到着した。

4節

[編集]

アッコの造反、セノネス族とカルヌテス族を降す

  • ① Cognito eius adventu Acco,
    • 彼(カエサル)の到来を知って、(セノネス族の)アッコは、
  • qui princeps eius consilii fuerat,
    • その者はその謀計の首謀者であったが、
  • iubet in oppida multitudinem convenire.
    • 大勢の者に諸城市に集結することを命じた。
  • Conantibus, priusquam id effici posset, adesse Romanos nuntiatur.
    • それが遂行され得るより前に、ローマ人が近づいていることが、企てている者たちに報告された。
  • ② Necessario sententia desistunt
    • (セノネス族は)やむを得ずに(カエサルへの造反の)意図を捨てて、
  • legatosque deprecandi causa ad Caesarem mittunt:
    • (和平を)嘆願することのために、使節たちをカエサルのところへ遣わして、
  • adeunt per Haeduos, quorum antiquitus erat in fide civitas.
    • 昔から(ローマ人民に対する)信義にあったハエドゥイ族を介して請い求めた。
      (訳注:この部分は、セノネス族がハエドゥイ族の庇護下にあったように訳されることも多いが、
      第5巻54節における両部族とローマ人の関係の記述を考慮して、上のように訳した[4]。)
  • ③ Libenter Caesar petentibus Haeduis dat veniam excusationemque accipit,
    • ハエドゥイ族の嘆願により、カエサルは喜んで(セノネス族に)許しを与え、弁明を受け入れた。
  • quod aestivum tempus instantis belli,
    • というのは、夏の時期は切迫している(エブロネス族らとの)戦争の(ための)ものであり、
  • non quaestionis esse arbitrabatur.
    • (造反者に対する)審問の(ための)ものではないと思われたからである。
      (訳注:エブロネス族との戦争が終わった後に、造反者への審問が行なわれることになる。44節参照。)
  • ④ Obsidibus imperatis centum hos Haeduis custodiendos tradit.
    • 100人の人質(の供出)を命令して、彼らをハエドゥイ族の監視役たちに委ねた。
  • ⑤ Eodem Carnutes legatos obsidesque mittunt
    • ちょうどそこに、カルヌテス族が使節たちと人質たちを遣わして、
  • usi deprecatoribus Remis, quorum erant in clientela:
    • (カルヌテス族が)保護を受ける関係にあったレミ族を仲裁者として利用して、
  • eadem ferunt responsa.
    • (セノネス族のときと)同じ回答を獲得した。
  • ⑥ Peragit concilium Caesar
    • カエサルは(ガッリアの領袖たちの)会合を済ませて、
  • equitesque imperat civitatibus.
    • 騎兵たち(の供出)を諸部族に命令した。

5節

[編集]

アンビオリクスへの策を練り、メナピイ族へ向かう

  • ① Hac parte Galliae pacata
    • ガッリアのこの方面が平定されたので、
    • (訳注:前節でセノネス族とカルヌテス族がカエサルに降伏したことを指す。)
  • totus et mente et animo in bellum Treverorum et Ambiorigis insistit.
    • (カエサルは)判断力と意思のすべてをもって、トレーウェリー族とアンビオリクスとの戦争に取り組んだ。
  • ② Cavarinum cum equitatu Senonum secum proficisci iubet,
  • ne quis aut ex huius iracundia aut ex eo, quod meruerat, odio civitatis motus exsistat.
    • 彼の激しやすさから、あるいは彼が招来した反感から、何らかの部族の動乱が起こらないようにである。
      (訳注:第5巻54節で前述のように、彼はカエサルにより王とされていたが、造反勢力により追放された。
      前節でアッコら造反勢力がカエサルに降ったので、王位に戻されたために、反感をかったのであろう。)
  • ③ His rebus constitutis,
    • これらの事が確立されたが、
  • quod pro explorato habebat Ambiorigem proelio non esse concertaturum,
    • (カエサルは)アンビオリクスが戦闘で争うつもりではないことが確実と見なしたので、
      (訳注:habeo ~ pro explorato;~を確実と見なす)
  • reliqua eius consilia animo circumspiciebat.
    • 彼(アンビオリクス)のほかの計略に思いをめぐらせた。
復元されたメナピイ族の住居(再掲)

メナピイ族

  • ④ Erant Menapii propinqui Eburonum finibus,
  • perpetuis paludibus silvisque muniti,
    • 絶え間ない沼地と森林に守られており、
  • qui uni ex Gallia de pace ad Caesarem legatos numquam miserant.
    • 彼らはガッリアのうちでカエサルへ和平についての使節たちを決して遣わさなかった唯一の者たちであった。
  • Cum his esse hospitium Ambiorigi sciebat;
    • (カエサルは)アンビオリクスが彼らのもとで厚遇されていることを知ったし、
  • item per Treveros venisse Germanis in amicitiam cognoverat.
    • 同様にトレーウェリー族を通じてゲルマーニア人と友好関係になったことも認識した。
  • ⑤ Haec prius illi detrahenda auxilia existimabat, quam ipsum bello lacesseret,
    • これらの支援は(アンビオリクス)自身に戦争で挑みかかるより前に彼から引き離されるべきだと考えた。
  • ne desperata salute aut se in Menapios abderet,
    • (アンビオリクスが)身の安全に絶望して、メナピイ族のところに身を隠したりしないように、
  • aut cum Transrhenanis congredi cogeretur.
    • あるいはレヌス(ライン川)の向こう側の者たちと合同することに駆り立てられないようにである。
  • ⑥ Hoc inito consilio
    • この計略を決意すると、
  • totius exercitus impedimenta ad Labienum in Treveros mittit
    • すべての軍隊の輜重を、トレーウェリー族(の領土)にいるラビエヌスのところへ送り、
  • duasque legiones ad eum proficisci iubet;
    • 2個軍団に彼のところへ出発することを命じた。
  • ipse cum legionibus expeditis quinque in Menapios proficiscitur.
    • (カエサル)自身は軽装の5個軍団とともにメナピイ族のところに出発した。
  • ⑦ Illi nulla coacta manu
    • あの者らは、何ら手勢を集めず、
  • loci praesidio freti in silvas paludesque confugiunt
    • 地勢の要害を信頼して、森林や沼地に避難して、
  • suaque eodem conferunt.
    • 自分たちの家財を同じところに運び集めた。

6節

[編集]

メナピイ族を降す

  • ① Caesar partitis copiis cum C.(Gaio) Fabio legato et M.(Marco) Crasso quaestore
  • celeriterque effectis pontibus adit tripertito,
    • 速やかに橋梁を造って、三方面から(メナピイ族の領土に)接近して、
      (訳注:橋梁は軽装の軍団兵が沼地を渡るためのものなので、丸太道のようなものであろうか。)
  • aedificia vicosque incendit,
    • 建物や村々を焼き打ちして、
  • magno pecoris atque hominum numero potitur.
    • 家畜や人間の多数を(戦利品として)獲得した。
  • ② Quibus rebus coacti
    • そのような事態に強いられて、
  • Menapii legatos ad eum pacis petendae causa mittunt.
    • メナピイ族は和平を求めるための使節たちを彼(カエサル)のところへ遣わした。
  • ③ Ille obsidibus acceptis
    • 彼(カエサル)は人質たちを受け取って、
  • hostium se habiturum numero confirmat, si aut Ambiorigem aut eius legatos finibus suis recepissent.
    • もしアンビオリクスか彼の使節を自領に迎え入れたら、自分は(メナピイ族を)敵として見なすだろうと断言した。
      (訳注:属格の名詞 + numero;~として)
  • His confirmatis rebus
    • これらの事柄を確立すると、
  • Commium Atrebatem cum equitatu custodis loco in Menapiis relinquit;
    • アトレバテス族であるコンミウス騎兵隊とともに、見張り役として、メナピイ族のところに残して、
      (訳注:コンミウスは、カエサルがアトレバテス族の王にすえて、ブリタンニア遠征の先導役として遣わし、
      カッスィウェッラウヌスの降伏の仲介を果たしていた。第4巻21節・27節や第5巻22節などを参照。)
  • ipse in Treveros proficiscitur.
    • (カエサル)自身はトレーウェリー族のところに出発した。

7節

[編集]
トレーウェリー族の城砦跡(再掲)

トレーウェリー族の開戦準備、ラビエヌスの計略

  • ① Dum haec a Caesare geruntur,
    • これらがカエサルによって遂行されている間に、
  • Treveri magnis coactis peditatus equitatusque copiis
    • トレーウェリー族は、歩兵隊と騎兵隊の大軍勢を徴集して、
  • Labienum cum una legione, quae in eorum finibus hiemaverat, adoriri parabant,
    • 彼らの領土において越冬していた1個軍団とともにラビエヌスを、襲撃することを準備していた。
  • ② iamque ab eo non longius bidui via aberant,
    • すでに、そこ(=ラビエヌスの冬営)から2日間の道のりより遠く離れていなかったが、
  • cum duas venisse legiones missu Caesaris cognoscunt.
    • そのときに、カエサルが派遣した2個軍団が到着したことを知った。
      (訳注:5節で既述のように、カエサルはラビエヌスのところへ全軍の輜重と2個軍団を派遣していた。
      こうして、ラビエヌスはローマ全軍の輜重と3個軍団を任されることになった。)
  • ③ Positis castris a milibus passuum XV(quindecim)
    • (トレーウェリー勢は、ラビエヌスの冬営から)15ローママイル(約22km)のところに陣営(=野営)を設置して、
  • auxilia Germanorum exspectare constituunt.
  • ④ Labienus hostium cognito consilio
    • ラビエヌスは敵勢の計略を知って、
  • sperans temeritate eorum fore aliquam dimicandi facultatem,
    • 彼らの軽率さにより何らかの争闘する機会が生ずるであろうと期待して、
  • praesidio V(quinque) cohortium impedimentis relicto
  • cum XXV(viginti quinque) cohortibus magnoque equitatu contra hostem proficiscitur
    • 25個歩兵大隊および騎兵隊の多くとともに、敵に対抗して出発して、
  • et mille passuum intermisso spatio castra communit.
    • (敵から)1ローママイル(約1.5km)の間隔を置いて、陣営(=野営)を固めた。
  • ⑤ Erat inter Labienum atque hostem difficili transitu flumen ripisque praeruptis.
    • ラビエヌスと敵の間には、渡るのが困難な川と切り立った岸があった。
  • Hoc neque ipse transire habebat in animo
    • これを(ラビエヌス)自身は渡河するつもりではなかったし、
      (訳注:~ habeo in animo;~するつもりである)
  • neque hostes transituros existimabat.
    • 敵勢も渡河して来るだろうとは(ラビエヌスは)考えていなかった。
  • ⑥ Augebatur auxiliorum cotidie spes.
    • (トレーウェリー勢にとって、ゲルマーニア人の)援軍の期待は日ごとに増されるばかりであった。
  • Loquitur in consilio palam,
    • (ラビエヌスは)会議において公然と(以下のように)話した。
  • quoniam Germani adpropinquare dicantur,
    • ゲルマーニア人(の軍勢)が近づいていることが言われているので、
  • sese suas exercitusque fortunas in dubium non devocaturum
    • 自分は自らと軍隊の命運を不確実さの中に引きずり込まないであろうし、
  • et postero die prima luce castra moturum.
    • 翌日の夜明けには陣営を引き払うであろう。
  • ⑦ Celeriter haec ad hostes deferuntur,
    • これ(=ラビエヌスの発言)は速やかに敵勢のところへ報じられた。
  • ut ex magno Gallorum equitum numero nonnullos Gallicis rebus favere natura cogebat.
    • (ローマ側)ガッリア人騎兵の多数のうち、若干名が(敵側)ガッリア人の境遇を想う気質に駆られたがゆえである。
  • ⑧ Labienus noctu tribunis militum primisque ordinibus convocatis,
    • ラビエヌスは夜間に兵士長官トリブヌス・ミリトゥムたちと上級百人隊長たちを召集して、
      (訳注:1個軍団当たりの軍団次官は計6名、上級百人隊長も計6名が定員である。)
  • quid sui sit consilii proponit
    • 自分の計略がいかなるものであるかを呈示して、
  • et, quo facilius hostibus timoris det suspicionem,
    • それ(計略)によって、たやすく敵勢に(ローマ勢の)恐怖心という推測を起こすものであること(を示し)、
  • maiore strepitu et tumultu, quam populi Romani fert consuetudo
    • ローマ人民の習慣としているよりもより大きな騒音や騒動でもって
  • castra moveri iubet.
    • 陣営を引き払うことを命じた。
  • His rebus fugae similem profectionem effecit.
    • これらの事柄によって、逃亡に似た出発を実現した。
  • ⑨ Haec quoque per exploratores
    • これら(ラビエヌスの発言や出発騒ぎの)おのおのが、偵察者たちを通じて、
  • ante lucem in tanta propinquitate castrorum ad hostes deferuntur.
    • 明け方の前には、両陣営のこれほどの近さにより、敵勢へ報じられた。

8節

[編集]

ラビエヌスがトレーウェリー族を降す

  • ① Vix agmen novissimum extra munitiones processerat,
    • やっと(ローマ勢の)隊列の最後尾が城砦の外側に進み出ようとしていた、
  • cum Galli cohortati inter se, ne speratam praedam ex manibus dimitterent
    • そのときにガッリア人たちは、期待していた戦利品を(彼らの)手から逸しないように、互いに鼓舞し合って、
  • ─ longum esse perterritis Romanis Germanorum auxilium exspectare,
    • <ローマ人が脅かされているのに、ゲルマーニア人の援軍を待つことは長たらしいものである。
  • neque suam pati dignitatem,
    • (以下のことは)自分たちの品格が耐えられない。
  • ut tantis copiis tam exiguam manum, praesertim fugientem atque impeditam,
    • これほどの大軍勢で(ローマの)手勢のそれほどの貧弱さを、とりわけ逃げ出して足手まといになっている者たちを
  • adoriri non audeant ─
    • あえて襲撃しないとは。>(と鼓舞し合って)
  • flumen transire et iniquo loco committere proelium non dubitant.
    • 川を渡って、(切り立った岸を登りながら)不利な場所で交戦することをためらわなかった。
  • ② Quae fore suspicatus Labienus,
    • そのようなことになることを想像していたラビエヌスは、
  • ut omnes citra flumen eliceret,
    • (敵の)総勢を川のこちら側に誘い出すように、
  • eadem usus simulatione itineris placide progrediebatur.
    • 行軍の同じ見せかけを用いて、穏やかに前進した。
  • ③ Tum praemissis paulum impedimentis atque in tumulo quodam conlocatis
    • それから、輜重(の隊列)を少し先に遣わして、ある丘に配置した。
  • "Habetis," inquit, "milites, quam petistis facultatem;
    • (ラビエヌスは)「兵士らよ、汝らは求めていた機会を持っているぞ。」と言った。
  • hostem impedito atque iniquo loco tenetis:
    • 「敵たちは(岸で)妨げられて、不利な場所を占めている。」
  • ④ praestate eandem nobis ducibus virtutem, quam saepe numero imperatori praestitistis,
    • 「我々指導者たちに、しばしば将軍(カエサル)に示したのと同じ武勇を示してくれ。」
  • atque illum adesse et haec coram cernere existimate."
    • 「彼(カエサル)が訪れて、これ(=武勇)を目の前で見ていると考えてくれ。」
  • ⑤ Simul signa ad hostem converti aciemque dirigi iubet,
    • 同時に、敵の方へ軍旗が向きを変えられること(=軍勢を反転すること)、戦列が整えられることを命じた。
  • et paucis turmis praesidio ad impedimenta dimissis
    • かつ若干の騎兵小隊を輜重のための守備隊として送り出して、
    • (訳注:騎兵小隊 turma はローマ軍の支援軍における中規模の編成単位で、各30騎ほどと考えられている。)
  • reliquos equites ad latera disponit.
    • 残りの騎兵たちを(軍勢の)側面へ分置した。
  • ⑥ Celeriter nostri clamore sublato pila in hostes immittunt.
    • 速やかに、我が方(=ローマ勢)は雄叫びを上げて、ピルム(投槍)を敵勢へ放り入れた。
  • Illi, ubi praeter spem, quos {modo} fugere credebant, infestis signis ad se ire viderunt,
    • 彼らは、ただ逃げると信じていた者たちが、期待に反して、軍旗を攻勢にして自分らの方へ来るのを見るや否や、
ピルム(投槍)を投げるローマ軍兵士(帝政期)の再演
  • impetum modo ferre non potuerunt
    • (ローマ勢の)突撃を持ちこたえることができずに、
  • ac primo concursu in fugam coniecti proximas silvas petierunt.
    • 最初の戦闘で逃亡に追い込まれて、近隣の森へ急いだ。
  • ⑦ Quos Labienus equitatu consectatus,
    • その(敗走した)者たちを、ラビエヌスは騎兵隊で追い付いて、
  • magno numero interfecto, compluribus captis,
    • 多数を殺戮して、かなりの者たちを捕らえて、
  • paucis post diebus civitatem recepit.
    • わずかな日々の後に(トレーウェリーの)部族を(インドゥーティオマールスらの蜂起の前のように)元に戻した。
トレーウェリー族の再現された住居(再掲)
トレーウェリー族(Treveri)の名を現代に伝えるドイツのトリーア市(Trier)に残るローマ時代の浴場跡
  • Nam Germani qui auxilio veniebant
    • 一方で、援軍として来ようとしていたゲルマーニア人たちは、
  • percepta Treverorum fuga sese domum receperunt.
    • トレーウェリー族の逃亡を把握したので、故国に撤退していった。
  • ⑧ Cum his propinqui Indutiomari,
    • 彼ら(ゲルマーニア人)とともに、インドゥーティオマールスの縁者たちは、
  • qui defectionis auctores fuerant,
    • その者らは(トレーウェリー族におけるカエサルへの)背反の張本人であったが、
  • comitati eos ex civitate excesserunt.
    • 彼ら(ゲルマーニア人)を伴って、部族(の領内)から出て行った。
  • ⑨ Cingetorigi,
    • キンゲトリークスに対しては、
  • quem ab initio permansisse in officio demonstravimus,
    • その者は前述したように始めから(ローマへの)忠節に留まり続けていた者であるが、
      (訳注:キンゲトリークスについては、第5巻3節~4節・56節~57節で述べられている。)
  • principatus atque imperium est traditum.
    • 首長の地位と軍隊司令権が委託された。

第二次ゲルマーニア遠征

[編集]

9節

[編集]

再びレーヌスを渡河、ウビイー族を調べる

  • ① Caesar, postquam ex Menapiis in Treveros venit,
    • カエサルは、メナピイー族のところからトレーウェリー族のところに来た後で、
  • duabus de causis Rhenum transire constituit;
    • 二つの理由からレーヌス(=ライン川)を渡ることを決めた。
  • ② quarum una erat, quod auxilia contra se Treveris miserant,
    • その(理由の)一つは、(ゲルマーニア人が)自分(カエサル)に対抗して、トレーウェリー族に援軍を派遣していたことであった。
  • altera, ne ad eos Ambiorix receptum haberet.
    • もう一つ(の理由)は、彼らのところへアンビオリクスが避難所を持たないように、ということであった。
  • ③ His constitutis rebus
    • これらの事柄を決定すると、
  • paulum supra eum locum, quo ante exercitum traduxerat,
    • 以前に軍隊を渡らせていた場所の少し上流に、
  • facere pontem instituit.
    • 橋を造ることを決意した。
  • ④ Nota atque instituta ratione
    • 経験しかつ建造していた方法で、
  • magno militum studio
    • 兵士の大きな熱意により
  • paucis diebus opus efficitur.
    • わずかな日数で作業が完遂された。
  • ⑤ Firmo in Treveris ad pontem praesidio relicto,
    • トレーウェリー族(の領内)の橋のたもとへ強力な守備隊を残した。
  • ne quis ab his subito motus oreretur,
    • 彼らによる何らかの動乱が突然に起こされないように。
  • reliquas copias equitatumque traducit.
    • 残りの軍勢と騎兵隊を(レヌスの東岸へ)渡らせた。
  • ⑥ Ubii, qui ante obsides dederant atque in deditionem venerant,
    • ウビイー族は、以前に(カエサルに対して)人質たちを供出していて、降伏していたが、
    • (訳注:この事はすでに第4巻16節で述べられている。)
  • purgandi sui causa ad eum legatos mittunt,
    • 自分たちの申し開きをすることのために、彼(カエサル)のところへ使節たちを遣わして、
  • qui doceant
    • (以下のように)説かせた。
  • neque auxilia ex sua civitate in Treveros missa
    • 自分たちの部族から援軍をトレーウェリー族のところに派遣してもいないし、
  • neque ab se fidem laesam:
    • 自分らにより(ローマへの)信義を傷つけてもいない、と。
  • ⑦ petunt atque orant ut
    • (ウビイー族の使節たちは、以下のように)求め、かつ願った。
  • sibi parcat,
    • 自分たちを容赦し、
  • ne communi odio Germanorum innocentes pro nocentibus poenas pendant;
    • ゲルマーニア人一般への憎しみから、潔白な者たちが加害者たちのために罰を償うことがないように、と。
  • si amplius obsidum vellet, dare pollicentur.
    • もし、より多くの人質を欲するのなら、供出することを約束する、と。
  • ⑧ Cognita Caesar causa
    • カエサルは事情を調査して、
  • reperit ab Suebis auxilia missa esse;
    • スエービー族により(トレーウェリー族に)援軍が派遣されていたことを見出した。
  • Ubiorum satisfactionem accipit,
    • ウビイー族の弁解を受け入れて、
  • aditus viasque in Suebos perquirit.
    • スエービー族のところに出入りする道筋を問い質した。

10節

[編集]

ウビイー族を通じてスエービー族の動静を探る

  • ① Interim paucis post diebus fit ab Ubiis certior
    • わずかな日々の後の間に、ウビイー族によって報告されたことには、
  • Suebos omnes in unum locum copias cogere
  • スエービー族は、すべての軍勢を一か所に集めて、
    • (訳注:後述するように、これはカッティー族 Chatti のことであろう。)
  • atque iis nationibus, quae sub eorum sint imperio,
    • 彼らの支配下にある種族たちに
  • denuntiare, ut auxilia peditatus equitatusque mittant.
    • 歩兵隊と騎兵隊の援軍を派遣するように指示した。
  • ② His cognitis rebus
    • (カエサルは)これらの事情を知ると、
  • rem frumentariam providet, castris idoneum locum deligit;
    • 糧食調達を準備して、陣営(を設置するの)に適切な場所を選んだ。
  • Ubiis imperat, ut pecora deducant suaque omnia ex agris in oppida conferant,
    • ウビイー族には、家畜を連れ去り、自分たちの一切合財を土地から城市に運び集めるように命令した。
  • sperans barbaros atque imperitos homines
    • (カエサルが)期待したのは、野蛮で無知な連中が
  • inopia cibariorum adductos ad iniquam pugnandi condicionem posse deduci;
    • 糧秣の欠乏に動かされて、不都合な条件のもとで戦うことがあり得るように誘引されることであった。
  • ③ mandat, ut crebros exploratores in Suebos mittant quaeque apud eos gerantur cognoscant.
    • 偵察者たちをたびたびスエービー族内に遣わして、彼らのもとで遂行されていることを知るように(ウビイー族に)委ねた。
  • ④ Illi imperata faciunt et paucis diebus intermissis referunt:
    • 彼ら(ウビイー族)は、命令されたことを実行して、わずかな日々を間に置いて(以下のことを)報告する。
  • Suebos omnes, posteaquam certiores nuntii de exercitu Romanorum venerint,
    • スエービー族は皆、ローマ人の軍隊についてより確実な報告がもたらされた後で、
  • cum omnibus suis sociorumque copiis, quas coegissent,
    • 自分たちの軍勢と集結していた同盟者たちの軍勢とともに、
  • penitus ad extremos fines se recepisse;
    • 領土の最も遠い奥深くまで撤退していた。
  • ⑤ silvam esse ibi infinita magnitudine, quae appellatur Bacenis;
    • そこには、バケニスと呼ばれている限りない大きさの森林がある。
  • hanc longe introrsus pertinere et pro nativo muro obiectam
    • これは、はるか内陸に及んでいて、天然の防壁として横たわっており、
  • Cheruscos ab Suebis Suebosque ab Cheruscis iniuriis incursionibusque prohibere:
    • ケールスキー族をスエービー族から、スエービー族をケールスキー族から、無法行為や襲撃から防いでいる。
  • ad eius initium silvae Suebos adventum Romanorum exspectare constituisse.
    • その森の始まりのところで、スエービー族はローマ人の到来を待ち構えることを決定した。

コラム「スエービー族とカッティー族・ケールスキー族・ウビイー族について」

[編集]
ウァルスの戦い(Varusschlacht)ことトイトブルク森の戦い(AD9年)で戦う、ゲルマーニア軍とローマ軍(Johann Peter Theodor Janssen画、1870~1873年頃)。中央上の人物はケールスキー族の名将アルミニウス
アルミニウスが率いるケールスキー族・カッティー族らゲルマーニア諸部族同盟軍は、P.クィン(ク)ティリウス・ウァルス麾下ローマ3個軍団を壊滅させ、アウグストゥスに「ウァルスよ諸軍団を返せ(Quintili Vare, legiones redde!)」と嘆かせた。


  スエービー族とカッティー族
『ガリア戦記』では、第1巻・第4巻および第6巻でたびたびスエービー族の名が言及される。タキトゥス[5]など多くの史家が伝えるようにスエービー族 Suēbī またはスエウィ族 Suēvī とは、単一の部族名ではなく、多くの独立した部族国家から構成される連合体の総称とされる。
19世紀のローマ史家テオドール・モムゼンによれば[6]、カエサルの時代のローマ人には

「スエービー」とは遊牧民を指す一般的な呼称で、カエサルがスエービーと呼ぶのはカッティー族だという。

カッティー族とスエービー系諸部族の異同は明確ではないが、多くの史家は両者を区別して伝えている。
 第1巻37節・51節・53節~54節、第4巻1節~4節・7節などで言及され、「百の郷を持つ」と

されている「スエービー族」は、スエービー系諸部族の総称、あるいは遊牧系の部族を指すのであろう。

 他方、第4巻16節・19節・第6巻9節~10節・29節で、ウビイー族を圧迫する存在として言及される
「スエービー族」はモムゼンの指摘のように、カッティー族 Chatti であることが考えられる。
タキトゥス著『ゲルマーニア』[7]でも、カッティー族はケールスキー族と隣接する宿敵として描写され、本節の説明に合致する。
  ケールスキー族
ケールスキー族は、『ガリア戦記』では本節でカッティー族と隣接する部族として名を挙げられる
のみである。しかしながら、本巻の年(BC53年)から61年後(AD9年)には、帝政ローマの
アウグストゥス帝がゲルマーニアに派遣していたプブリウス・クィンクティリウス・ウァルス
Publius Quinctilius Varus)が率いるローマ軍3個軍団に対して、名将アルミニウス
指導者とするケールスキー族は、カッティー族ら諸部族の同盟軍を組織して、ウァルスの3個軍団を
トイトブルク森の戦いにおいて壊滅させ、老帝アウグストゥスを嘆かせたという。
  ウビイー族
ウビイー族は『ガリア戦記』の第4巻・第6巻でも説明されているように、ローマ人への忠節を
認められていた。そのため、タキトゥスによれば[8]、ゲルマニアへのローマ人の守りとして
BC38年頃にレヌス(ライン川)左岸のコロニア(Colonia;植民市)すなわち現在のケルン市に移された。)

ガッリア人の社会と風習について

[編集]

コラム「ガッリア・ゲルマーニアの地誌・民族誌について」

[編集]
アパメアのポセイドニオスの胸像。地中海世界やガッリアなどを広く訪れて、膨大な著作を残した。
『ガリア戦記』の地誌・民族誌的な説明も、その多くを彼の著作に依拠していると考えられている。
これ以降、11節~20節の10節にわたってガッリアの地誌・民族誌的な説明が展開され、さらには、ゲルマーニアの地誌・民族誌的な説明などが21節~28節の8節にわたって続く。ガッリア戦争の背景説明となるこのような地誌・民族誌は、本来ならば第1巻の冒頭に置かれてもおかしくはない。しかしながら、この第6巻の年(BC53年)は、カエサル指揮下のローマ勢にとってはよほど書かれるべき戦果が上がらなかったためか、ガッリア北部の平定とエブロネス族の追討戦だけでは非常に短い巻となってしまうため、このような位置に置いたとも考えられる。ゲルマーニアの森にどんな獣が住んでいるかなど、本筋にほとんど影響のないと思われる記述も見られる。
『ガリア戦記』におけるガッリアの地誌・民族誌的な説明、特にこの11節以降の部分は、文化史的に重要なものと見なされ、考古学やケルトの伝承などからも裏付けられる。しかし、これらの記述はカエサル自身が見聞したというよりも、むしろ先人の記述、とりわけBC2~1世紀のギリシア哲学ストア派の哲学者・地理学者・歴史学者であったポセイドニオスPosidonius Apameus)の著作に依拠していたと考えられている[9]。ポセイドニオスは、ローマが支配する地中海世界やガッリア地域などを広く旅行した。彼の52巻からなる膨大な歴史書は現存しないが、その第23巻にガッリアに関する詳細な記述があったとされ、ディオドロスストラボンアテナイオスらによって引用され、同時代および近代のケルト人観に多大な影響を与えたと考えられている。
現存するガッリアの地誌・民族誌は、ストラボン[10]、ディオドロス[11]、ポンポニウス・メラ[12]のものなどがある。現存するゲルマーニアの地誌・民族誌は、ストラボン、タキトゥス[13]、ポンポニウス・メラなどのものがある。

11節

[編集]

ガッリア人の派閥性

  • ① Quoniam ad hunc locum perventum est,
    • この地(ゲルマーニア)にまで到達したので、
  • non alienum esse videtur de Galliae Germaniaeque moribus et, quo differant hae nationes inter sese proponere.
    • ガッリアゲルマーニアの風習について、これらの種族が互いにどのように異なるか述べることは不適切でないと思われる。
  • ② In Gallia non solum in omnibus civitatibus atque in omnibus pagis partibusque,
    • ガッリアにおいては、すべての部族において、さらにすべてのや地方においてのみならず、
      (訳注:pagus (郷) はここでは、部族の領土の農村区画を指す行政用語[14]。)
  • sed paene etiam in singulis domibus factiones sunt,
    • ほとんどの個々の氏族においてさえも、派閥があり、
  • earumque factionum principes sunt,
    • それらの派閥には、領袖がいる。
  • ③ qui summam auctoritatem eorum iudicio habere existimantur,
    • その者(領袖)らは、彼ら(派閥)の判断に対して、最高の影響力を持っていると考えられている。
  • quorum ad arbitrium iudiciumque summa omnium rerum consiliorumque redeat.
    • すべての事柄と協議は結局のところ、その者(領袖)らの裁量や判断へ帰する。
  • ④ Idque eius rei causa antiquitus institutum videtur,
    • それは、それらの事柄のために昔から取り決められたものと見られ、
  • ne quis ex plebe contra potentiorem auxilii egeret:
    • 平民のある者が、より権力のある者に対して、援助を欠くことがないように、ということである。
  • suos enim quisque opprimi et circumveniri non patitur,
    • すなわち(領袖たちの)誰も、身内の者たちが抑圧されたり欺かれたりすることを容認しない。
  • neque, aliter si faciat, ullam inter suos habet auctoritatem.
    • もし(領袖が)そうでなくふるまったならば、身内の者たちの間で何ら影響力を持てない。
  • ⑤ Haec eadem ratio est in summa totius Galliae;
    • これと同じ理屈が、ガッリア全体の究極において存在する。
  • namque omnes civitates in partes divisae sunt duas.
    • すなわち、すべての部族が二つの党派に分けられているのである。

12節

[編集]

ハエドゥイ族、セクァニ族、レミ族の覇権争い

  • ① Cum Caesar in Galliam venit,
    • カエサルがガッリアに来たときに、
  • alterius factionis principes erant Haedui, alterius Sequani.
    • (二つの)派閥の一方の盟主はハエドゥイ族であり、他方はセクァニ族であった。
      (訳注:第1巻31節の記述によれば、ハエドゥイ族とアルウェルニ族がそれぞれの盟主であった。
      カエサルが本節でアルウェルニ族の名を伏せている理由は不明である。
      また、ストラボンによれば[15]、ハエドゥイ族とセクァニ族の敵対関係においては、
      両部族を隔てるアラル川の水利権(川舟の通行税)をめぐる争いが敵意を助長していたという。)
  • ② Hi cum per se minus valerent,
    • 後者(セクァニ族)は自力ではあまり優勢ではなかったので、
  • quod summa auctoritas antiquitus erat in Haeduis
    • というのは、昔から最大の影響力はハエドゥイ族にあって、
  • magnaeque eorum erant clientelae,
    • 彼ら(ハエドゥイ族)には多くの庇護民があったからであるが、
  • Germanos atque Ariovistum sibi adiunxerant
  • eosque ad se magnis iacturis pollicitationibusque perduxerant.
    • 多くの負担と約束で 彼らを自分たちのところに引き入れた。
  • ③ Proeliis vero compluribus factis secundis
    • 実にいくつもの戦闘を順調に行なって、
  • atque omni nobilitate Haeduorum interfecta
    • ハエドゥイ族のすべての高貴な者たちを殺害して、
  • tantum potentia antecesserant,
    • かなりの勢力で抜きん出たので、
  • ④ ut magnam partem clientium ab Haeduis ad se traducerent
    • 結果として、ハエドゥイ族から庇護民の大部分を自分たちへ味方に付けて、
  • obsidesque ab iis principum filios acciperent
    • 彼らから領袖の息子たちを人質として受け取り、
  • et publice iurare cogerent nihil se contra Sequanos consilii inituros,
    • 自分たち(ハエドゥイ族)がセクァニ族に対して何ら謀計を始めるつもりではない、と公に誓うことを強いて、
  • et partem finitimi agri per vim occupatam possiderent
    • 近隣の土地の一部を力ずくで占領して所有地とした。
  • Galliaeque totius principatum obtinerent.
    • ガッリア全体の指導権を手に入れた。
  • ⑤ Qua necessitate adductus
    • それにより、やむを得ずに動かされて、
  • Diviciacus auxilii petendi causa Romam ad senatum profectus infecta re redierat.
  • ⑥ Adventu Caesaris facta commutatione rerum,
    • カエサルの到来で事態の変化がなされて、
  • obsidibus Haeduis redditis,
    • ハエドゥイ族の人質たちは戻されて、
  • veteribus clientelis restitutis,
    • 昔からの庇護民が復帰して、
  • novis per Caesarem comparatis,
    • カエサルを通じて新参者たちを仲間にした。
  • quod ii qui se ad eorum amicitiam adgregaverant,
    • というのは、彼ら(ハエドゥイ族)の友好のもとに仲間となっていた者たちが、
  • ⑦ meliore condicione atque aequiore imperio se uti videbant,
    • (セクァニ族)より良い条件とより公平な支配を享受しているように見えて、
  • reliquis rebus eorum gratia dignitateque amplificata
    • ほかの事柄においても彼ら(ハエドゥイ族)の信望と品格がより増されて、
  • Sequani principatum dimiserant.
    • セクァニ族は指導権を放棄したのだ。
  • In eorum locum Remi successerant:
    • 彼ら(セクァニ族)の地位において、レミ族が取って代わった。
  • quos quod adaequare apud Caesarem gratia intellegebatur,
    • その者ら(レミ族)はカエサルのもとで信望において(ハエドゥイ族と)同等であると認識されたので、
  • ii qui propter veteres inimicitias nullo modo cum Haeduis coniungi poterant,
    • 昔からの敵対関係のためにハエドゥイ族とどのようなやり方でも結ぶことができなかった者たちは、
  • se Remis in clientelam dicabant.
    • レミ族との庇護関係に自らを委ねたのだ。
  • ⑧ Hos illi diligenter tuebantur;
    • この者ら(レミ族)はあの者ら(庇護民)を誠実に保護して、
  • ita et novam et repente collectam auctoritatem tenebant.
    • このようにして、最近に得られた新しい影響力を保持した。
  • ⑨ Eo tum statu res erat, ut longe principes haberentur Haedui,
    • 当時、ハエドゥイ族の位置付けは、まったく盟主と見なされるような状態であって、
  • secundum locum dignitatis Remi obtinerent.
    • レミ族の品格は第二の地位を占めたのだ。

13節

[編集]

ガッリア人の社会階級、平民およびドルイドについて(1)

  • ① In omni Gallia eorum hominum, qui aliquo sunt numero atque honore, genera sunt duo.
    • 全ガッリアにおいて、何らかの地位や顕職にある人々の階級は二つである。

平民について

  • Nam plebes paene servorum habetur loco,
    • これに対して、平民はほとんど奴隷の地位として扱われており、
  • quae nihil audet per se, nullo adhibetur consilio.
    • 自分たちを通じては何らあえてすることはないし、誰も相談をされることもない。
  • ② Plerique, cum aut aere alieno aut magnitudine tributorum aut iniuria potentiorum premuntur,
    • 多くの者は、あるいは負債、あるいは貢納の多さ、あるいはより権力のある者に抑圧されているので、
  • sese in servitutem dicant.
    • 自らを奴隷身分に差し出している。
  • Nobilibus in hos eadem omnia sunt iura, quae dominis in servos.
    • 高貴な者たちには彼ら(平民)において、奴隷において主人にあるのと同様なすべての権利がある。

ドルイドについて

  • ③ Sed de his duobus generibus alterum est druidum, alterum equitum.
    • ともかく、これら二つの階級について、一方はドルイド(神官)であり、他方は騎士である。
  • ④ Illi rebus divinis intersunt, sacrificia publica ac privata procurant, religiones interpretantur:
    • 前者(ドルイド)は神事に介在し、公・私の供犠くぎを司り、信仰のことを講釈する。
      (訳注:供犠とは、人や獣を生け贄として神前に捧げることである。人身御供ひとみごくうとも。)
二人のドルイド。フランスのオータン、すなわちガッリア中部のビブラクテ辺りで発見されたレリーフ
  • ad hos magnus adulescentium numerus disciplinae causa concurrit,
    • この者ら(ドルイド)のもとへ、若者の多数が教えのために群り集まり、
  • magnoque hi sunt apud eos honore.
    • この者ら(ドルイド)は、彼ら(ガッリア人)のもとで大いなる地位にある。
  • ⑤ Nam fere de omnibus controversiis publicis privatisque constituunt,
    • なぜなら(ドルイドは)ほとんどすべての公・私の訴訟ごとに判決をするのである。
  • et, si quod est admissum facinus, si caedes facta,
    • もし何らかの罪悪が犯されれば、もし殺害がなされれば、
  • si de hereditate, de finibus controversia est,
    • もし、遺産について、地所について、訴訟ごとがあれば、
  • idem decernunt, praemia poenasque constituunt;
    • 同じ人たち(ドルイド)が裁決し、補償や懲罰を判決するのである。
  • ⑥ si qui aut privatus aut populus eorum decreto non stetit, sacrificiis interdicunt.
    • もし何らかの個人あるいは集団が彼ら(ドルイド)の裁決を遵守しなければ、(その者らに)供犠を禁じる。
  • Haec poena apud eos est gravissima.
    • これは、彼ら(ガッリア人)のもとでは、非常に重い懲罰である。
  • ⑦ Quibus ita est interdictum,
    • このように(供犠を)禁じられた者たちは、
  • hi numero impiorum ac sceleratorum habentur,
    • 彼らは、不信心で不浄な輩と見なされて、
  • his omnes decedunt, aditum sermonemque defugiunt,
    • 皆が彼らを忌避して、近づくことや会話を避ける。
  • ne quid ex contagione incommodi accipiant,
    • (彼らとの)接触から、何らかの災厄を負うことがないようにである。
  • neque his petentibus ius redditur
    • 彼らが請願しても(元通りの)権利は戻されないし、
  • neque honos ullus communicatur.
    • いかなる地位(に就くこと)も許されない。
  • ⑧ His autem omnibus druidibus praeest unus,
    • ところで、これらすべてのドルイドを一人が指導しており、
  • qui summam inter eos habet auctoritatem.
    • その者は彼ら(ドルイドたち)の間に最高の影響力を持っている。
  • ⑨ Hoc mortuo
    • この者が死んだならば、
  • aut, si qui ex reliquis excellit dignitate, succedit,
    • あるいは、もし残りの者たちの中から品格に秀でた者がおれば、継承して、
  • aut, si sunt plures pares, suffragio druidum {adlegitur}[16];
    • あるいは、もしより多くの者たちが同等であれば、ドルイドの投票で{選ばれる}。
  • nonnumquam etiam armis de principatu contendunt.
    • ときどきは、武力でさえも首座を争うことがある。
  • ⑩ Hi certo anni tempore
    • 彼ら(ドルイド)は年間の定められた時期に
  • in finibus Carnutum, quae regio totius Galliae media habetur, considunt in loco consecrato.
    • ガッリア全体の中心地方と見なされているカルヌテス族の領土において、聖地に集合する。
      (訳注:これはカエサルが支配する「ガッリア全体」の話で、他の地方には別の中心地があったようである。)
  • Huc omnes undique, qui controversias habent, conveniunt
    • ここへ、至る所から訴訟などを持つあらゆる者たちが集まって、
  • eorumque decretis iudiciisque parent.
    • 彼ら(ドルイド)の裁決や判断に服従する。
  • ⑪ Disciplina in Britannia reperta atque inde in Galliam translata esse existimatur,
  • ⑫ et nunc, qui diligentius eam rem cognoscere volunt,
    • 今でも、その事柄をより入念に探究することを欲する者たちは、
  • plerumque illo discendi causa proficiscuntur.
    • たいてい、かの地に研究するために旅立つ。

14節

[編集]

ドルイドについて(2)

  • ① Druides a bello abesse consuerunt
    • ドルイドたちは、戦争に関与しない習慣であり、
  • neque tributa una cum reliquis pendunt;
    • ほかの者と一緒に貢納(租税)を支払うこともない。
  • militiae vacationem omniumque rerum habent immunitatem.
    • 兵役の免除や、すべての事柄において免除特権を持っているのである。
現代イギリスのドルイド教復興主義者たち
  • ② Tantis excitati praemiis
    • このような特典に駆り立てられて
  • et sua sponte multi in disciplinam conveniunt
    • 自らの意思で多くの者が教え(の場)に集まっても来るし、
  • et a parentibus propinquisque mittuntur.
    • 親たちや縁者たちによって送られても来る。
  • ③ Magnum ibi numerum versuum ediscere dicuntur.
    • (彼らは)そこで詩句の多数を習得すると言われている。
  • Itaque annos nonnulli vicenos in disciplina permanent.
    • こうして、少なからぬ者たちが、20年にもわたって教え(の場)に残留する。
ギリシア文字で刻まれたガッリアの碑文
  • Neque fas esse existimant ea litteris mandare,
    • それら(の詩句)を文字で刻み込むことは、神意に背くと考えている。
  • cum in reliquis fere rebus, publicis privatisque rationibus, Graecis litteris utantur.
    • もっとも、ほかの事柄においては、公・私の用件にギリシア文字を用いる。
  • ④ Id mihi duabus de causis instituisse videntur,
    • それは、私(カエサル)には、二つの理由で(ドルイドが)定めたことと思われる。
      (訳注:これは、カエサルが自らを一人称で示している珍しい個所である。)
  • quod neque in vulgum disciplinam efferri velint
    • というのは、教えが一般大衆にもたらされることは欲していないし、
  • neque eos, qui discunt, litteris confisos minus memoriae studere:
    • (教えを)学ぶ者が、文字を頼りにして、あまり暗記することに努めなくならないようにである。
瀕死のガリア人』(Dying Gaul)像(ローマ市のカピトリーノ美術館
  • quod fere plerisque accidit, ut
    • というのも、ほとんど多くの場合に起こることには、
  • praesidio litterarum diligentiam in perdiscendo ac memoriam remittant.
    • 文字の助けによって、入念に猛勉強することや暗記することを放棄してしまうのである。
  • ⑤ In primis hoc volunt persuadere,
    • とりわけ、彼ら(ドルイド)が説くことを欲しているのは、
  • non interire animas, sed ab aliis post mortem transire ad alios,
  • atque hoc maxime ad virtutem excitari putant metu mortis neglecto.
    • これによって(ガッリア人は)死の恐怖に無頓着になって最も武勇へ駆り立てられると(ドルイドは)思っている。
古代以来の伝統的な世界観における天空と平らな大地。カルデアやギリシアを除けば、丸い地球という観念は知られていなかった。
  • Multa praeterea de sideribus atque eorum motu,
    • さらに多く、星々とその動きについて、
  • de mundi ac terrarum magnitudine, de rerum natura,
    • 天空と大地の大きさについて、物事の本質について、
  • de deorum immortalium vi ac potestate
    • 不死の神々の力と支配について、
  • disputant et iuventuti tradunt.
    • 研究して、青年たちに教示するのである。



  • 訳注:ドルイドについて
ケルト社会の神官・祭司・僧などとされるドルイドについては、おそらくはポセイドニオス、そしてカエサル、
およびディオドロス[20]ストラボン[21]、ポンポニウス・メラ[22]などのギリシア人・ローマ人の著述家たちがそれぞれ
書き残しているために同時代や現代に知られている。しかし、本節にもあるように、その秘密主義からか、
古代ギリシア・ローマの著作にあるほかには、その詳細については不明である。)

15節

[編集]
ケルト系の王ビアテック(Biatec)の騎馬像(スロバキア国立銀行)。彼はBC1世紀のケルトの硬貨に刻まれた人物で、現代スロバキアの5コルナ硬貨にも刻まれている。
二頭立て二輪馬車(戦車)に乗るガリア人像(仏・ラン博物館)

ガッリア人の騎士階級について

  • ① Alterum genus est equitum.
    • (ドルイドと並ぶ)もう一つの階級は、騎士である。
  • Hi, cum est usus atque aliquod bellum incidit
    • 彼らは、必要とされ、かつ何らかの戦争が勃発したときには、
  • ─ quod fere ante Caesaris adventum quotannis accidere solebat,
    • ─ それ(戦争)はカエサルの到来以前にはほとんど毎年のように起こるのが常であり、
  • uti aut ipsi iniurias inferrent aut inlatas propulsarent ─,
    • 自身が侵犯行為を引き起こすためか、あるいは引き起こされて撃退するためであったが、─
  • omnes in bello versantur,
    • 総勢が戦争に従事した。
  • ② atque eorum ut quisque est genere copiisque amplissimus,
    • さらに彼らは、高貴な生まれで財産が非常に大きければ大きいほど、
      (訳注:ut quisque ~ ita;おのおのが~であればあるほどますます)
  • ita plurimos circum se ambactos clientesque habet.
    • 自らの周囲に非常に多くの臣下や庇護民たちを侍らせる。
  • Hanc unam gratiam potentiamque noverunt.
    • (騎士たちは)これが信望や権勢(を示すこと)の一つであると認識しているのである。

16節

[編集]

ガッリア人の信仰と生け贄、ウィッカーマン

  • ① Natio est omnis Gallorum admodum dedita religionibus,
    • ガッリア人のすべての部族民は、まったく信仰行為に身を捧げている。
  • ② atque ob eam causam,
    • その理由のために、
  • qui sunt adfecti gravioribus morbis
    • 非常に重い病気を患った者たち
  • quique in proeliis periculisque versantur,
    • および戦闘において危険に苦しめられる者たちは、
  • aut pro victimis homines immolant
    • あるいは生け贄いけにえの獣(犠牲獣)の代わりに人間を供えたり、
  • aut se immolaturos vovent,
    • あるいは自らを犠牲にするつもりであると誓願し、
  • administrisque ad ea sacrificia druidibus utuntur,
    • その供犠くぎを執り行う者としてドルイドを利用するのである。
  • ③ quod, pro vita hominis nisi hominis vita reddatur,
    • というのは(一人の)人間の生命のためには、(もう一人の)人間の生命が償われない限り、
  • non posse deorum immortalium numen placari arbitrantur,
    • 不死の神々の御霊みたまがなだめられることができないと思われているからである。
  • publiceque eiusdem generis habent instituta sacrificia.
    • 同じような類いの供儀が公けに定められているのである。
柳の枝で編んだ巨人ウィッカーマンWicker Man)の想像画(18世紀)。この特異な風習は、近代になって人々の興味をかき立て、いくつもの想像画が描かれた[23]。1973年にはイギリスで映画化され[24]、2006年にはアメリカなどでも映画化された[25]
スコットランドの野外博物館で燃やされるウィッカーマン(2008年)

ウィッカーマン

  • ④ Alii immani magnitudine simulacra habent,
    • ある者たちは、恐ろしく大規模な像を持って、
  • quorum contexta viminibus membra vivis hominibus complent;
    • その柳の枝で編み込まれた肢体を人間たちで満杯にして、
  • quibus succensis
    • それらを燃やして、
  • circumventi flamma exanimantur homines.
    • 人々は炎に取り巻かれて息絶えさせられるのである。
  • ⑤ Supplicia eorum qui in furto aut in latrocinio
    • 窃盗あるいは追い剥ぎに関わった者たちを処刑することにより、
  • aut aliqua noxia sint comprehensi,
    • あるいは何らかの罪状により捕らわれた者たち(の処刑)により、
  • gratiora dis immortalibus esse arbitrantur;
    • 不死の神々に感謝されると思っている。
  • sed, cum eius generis copia defecit,
    • しかしながら、その類いの量が欠けたときには、
  • etiam ad innocentium supplicia descendunt.
    • 潔白な者たちさえも犠牲にすることに頼るのである。



訳注:このようなウィッカーマンの供犠についてはストラボンも伝えており[26]
人身御供の種類の一つとして、干し草やたきぎで巨像を作り、その中へあらゆる
家畜・野生動物や人間たちを投げ込んで丸焼きにする習慣があったという。
 また、ディオドロス[27]やストラボンによれば、ドルイドはむしろ予言者占い師
であるという。ドルイドが重要な問題について占うときには、供犠される人間の
腹または背中を剣などで刺して、犠牲者の倒れ方、肢体のけいれん、出血の様子
などを観察して、将来の出来事を占うのだという。)

17節

[編集]

ガッリアの神々(ローマ風解釈)

  • ① Deum maxime Mercurium colunt.
    • (ガッリア人は)神々のうちでとりわけメルクリウスを崇拝する。
      (訳注:メルクリウスはローマ神話の神名であり、本節の神名はすべてローマ風解釈である。)
  • Huius sunt plurima simulacra:
    • 彼の偶像が最も多い。
  • hunc omnium inventorem artium ferunt,
    • (ガッリア人は)彼をすべての技芸の発明者であると言い伝えており、
  • hunc viarum atque itinerum ducem,
    • 彼を道および旅の案内者として、
  • hunc ad quaestus pecuniae mercaturasque habere vim maximam arbitrantur.
    • 彼が金銭の利得や商取引で絶大な力を持つと思われている。
ガッリアの雷神タラニス(Taranis)の神像(フランス国立考古学博物館)。雷を司ることからローマ神話のユピテルと同一視された。左手に車輪、右手に稲妻を持っている。
ガッリアの神ケルヌンノス(Cernunnos)の神像(フランス国立考古学博物館)。
  • Post hunc Apollinem et Martem et Iovem et Minervam.
  • ② De his eandem fere, quam reliquae gentes, habent opinionem:
    • これら(の神々)について、ほかの種族とほぼ同じ見解を持っている。
  • Apollinem morbos depellere,
    • アポロは病気を追い払い、
  • Minervam operum atque artificiorum initia tradere,
    • ミネルウァは工芸や技術の初歩を教示し、
  • Iovem imperium caelestium tenere,
    • ユピテルは天界の統治を司り、
  • Martem bella regere.
    • マルスは戦争を支配する。
  • ③ Huic, cum proelio dimicare constituerunt,
    • 彼(マルス)には、(ガッリア人が)戦闘で干戈を交えることを決心したときに、
  • ea quae bello ceperint, plerumque devovent:
    • 戦争で捕獲したものを、たいていは奉納するものである。
  • cum superaverunt, animalia capta immolant
    • (戦闘で)打ち勝ったときには、捕獲された獣を生け贄に供えて、
  • reliquasque res in unum locum conferunt.
    • 残りの物を1か所に運び集める。
  • ④ Multis in civitatibus harum rerum ex(s)tructos tumulos locis consecratis conspicari licet;
    • 多くの部族において、これらの物が積み上げられた塚を、神聖な地で見ることができる。
  • ⑤ neque saepe accidit, ut neglecta quispiam religione
    • 何らかの者が信仰を軽視するようなことが、しばしば起こることはない。
  • aut capta apud se occultare aut posita tollere auderet,
    • 捕獲されたものを自分のもとに隠すこと、あるいは(塚に)置かれたものをあえて運び去ることは。
  • gravissimumque ei rei supplicium cum cruciatu constitutum est.
    • そんな事には、拷問を伴う最も重い刑罰が決められている。
      (訳注:最も重い刑罰とは、処刑であると思われる。)


(訳注:ローマ風解釈について
ガッリアなどケルト文化の社会においては、非常に多くの神々が信仰されており、
ケルト語による多くの神名が知られており、考古学的にも多くの神像が遺されている。
しかしながら、これらの神々がどのような性格や権能を持っていたのか、詳しくは判っていない。
ローマ人は、数多くのケルトの神々をローマ神話の神々の型に当てはめて解釈した。
タキトゥスはこれを「ローマ風解釈Interpretatio Romana [28]と呼んでいる[29]。)

18節

[編集]
ガッリアの神スケッルス(Sucellus)の神像。冥界の神とされ、ディス・パテルと同一視されたと考えられている。

ガッリア人の時間や子供についての観念

  • ① Galli se omnes ab Dite patre prognatos praedicant
    • ガッリア人は、自分たちは皆、ディス・パテルの末裔であると公言しており、
      (訳注:ディス・パテル Dis Pater も前節と同様にローマ神話の神名である。)
  • idque ab druidibus proditum dicunt.
    • それはドルイドたちにより伝えられたと言う。
時間の観念
  • ② Ob eam causam spatia omnis temporis non numero dierum, sed noctium finiunt;
    • その理由のために、すべての時間の間隔を、昼間の数ではなく、夜間(の数)で区切る。
  • dies natales et mensum et annorum initia sic observant, ut noctem dies subsequatur.
    • 誕生日も、月や年の初めも、夜間に昼間が続くように注意を払っている。
子供についての観念
  • ③ In reliquis vitae institutis hoc fere ab reliquis differunt,
    • 人生のほかの風習において、以下の点でほかの者たち(種族)からほぼ異なっている。
  • quod suos liberos, nisi cum adoleverunt, ut munus militiae sustinere possint,
    • 自分の子供たちが、兵役の義務を果たすことができるように成長したときでない限り、
  • palam ad se adire non patiuntur
    • 公然と自分のところへ近づくことは許されないし、
  • filiumque puerili aetate in publico in conspectu patris adsistere turpe ducunt.
    • 少年期の息子が公けに父親の見ているところでそばに立つことは恥ずべきと見なしている。

19節

[編集]

ガッリア人の婚姻と財産・葬儀の制度

  • ① Viri, quantas pecunias ab uxoribus dotis nomine acceperunt,
    • 夫は、妻から持参金の名目で受け取った金銭の分だけ、
  • tantas ex suis bonis aestimatione facta cum dotibus communicant.
    • 自分の財産のうちから見積もられた分を、持参金とともに一つにする。
  • ② Huius omnis pecuniae coniunctim ratio habetur fructusque servantur:
    • これらのすべての金銭は共同に算定が行なわれて、利子が貯蓄される。
  • uter eorum vita superarit,
    • 彼ら2人のいずれかが、人生において生き残ったら、
  • ad eum pars utriusque cum fructibus superiorum temporum pervenit.
    • 双方の分がかつての期間の利子とともに(生き残った)その者(の所有)に帰する。
ハルシュタット文化墳丘墓から発掘された遺骸と副葬品(19世紀の模写)。ガッリアなどではハルシュタット文化後期から土葬が普及したが、ラ・テーヌ文化中期から再び火葬が主流になったと考えられている。
  • ③ Viri in uxores, sicuti in liberos, vitae necisque habent potestatem;
    • 夫は、妻において、子供におけるのと同様に、生かすも殺すも勝手である。
  • et cum pater familiae inllustriore loco natus decessit, eius propinqui conveniunt
    • 上流身分に生まれた家族の父親が死去したとき、彼の近縁の者たちが集まって、
  • et de morte, si res in suspicionem venit, de uxoribus in servilem modum quaestionem habent,
    • 死について、もし疑念が出来したならば、妻について、奴隷におけるようなやり方で審問して、
  • et si compertum est, igni atque omnibus tormentis excruciatas interficiunt.
    • もし(疑念が)確認されたならば、火やあらゆる責め道具によって拷問にかけて誅殺する。
  • ④ Funera sunt pro cultu Gallorum magnifica et sumptuosa;
    • 葬儀は、ガッリア人の生活習慣の割には派手でぜいたくなものである。
  • omniaque quae vivis cordi fuisse arbitrantur in ignem inferunt, etiam animalia,
    • 生前に大切であったと思われるもの一切合財を、獣でさえも、火の中に投げ入れる。
  • ac paulo supra hanc memoriam servi et clientes, quos ab his dilectos esse constabat,
    • さらに、より以前のこの記憶では、彼ら(亡者)により寵愛されていたことが知られていた奴隷や庇護民をも、
  • iustis funeribus confectis una cremabantur.
    • 慣習による葬儀が成し遂げられたら、一緒に火葬されていたのである。

20節

[編集]

ガッリア部族国家の情報統制

  • ① Quae civitates commodius suam rem publicam administrare existimantur,
    • より適切に自分たちの公儀(=国家体制)を治めると考えられているような部族は、
  • habent legibus sanctum,
    • (以下のように)定められた法度を持つ。
  • si quis quid de re publica a finitimis rumore aut fama acceperit,
    • もし、ある者が公儀に関して近隣の者たちから何らかの噂や風聞を受け取ったならば、
  • uti ad magistratum deferat neve cum quo alio communicet,
    • 官吏に報告して、他の者と伝え合ってはならないと。
  • ② quod saepe homines temerarios atque imperitos falsis rumoribus terreri
    • というのは、無分別で無知な人間たちはしばしば虚偽の噂に恐れて、
  • et ad facinus impelli et de summis rebus consilium capere cognitum est.
    • 罪業に駆り立てられ、重大な事態についての考えを企てると認識されているからである。
  • ③ Magistratus quae visa sunt occultant,
    • 官吏は、(隠すことが)良いと思われることを隠して、
  • quaeque esse ex usu iudicaverunt, multitudini produnt.
    • 有益と判断していたことを、民衆に明らかにする。
  • De re publica nisi per concilium loqui non conceditur.
    • 公儀について、集会を通じてでない限り、語ることは認められていない。

ゲルマーニアの風習と自然について

[編集]

21節

[編集]

ゲルマーニア人の信仰と性

  • ① Germani multum ab hac consuetudine differunt.
  • Nam neque druides habent, qui rebus divinis praesint, neque sacrificiis student.
    • すなわち、神事を司るドルイドも持たないし、供犠に熱心でもない。
  • ② Deorum numero
    • 神々に数えるものとして、
  • eos solos ducunt, quos cernunt et quorum aperte opibus iuvantur, Solem et Vulcanum et Lunam,
    • (彼らが)見分けるものや明らかにその力で助けられるもの、太陽ウォルカヌス(火の神)とだけを信仰して、
  • reliquos ne fama quidem acceperunt.
    • ほかのものは風聞によってさえも受け入れていない。
      (訳注:これに対して、タキトゥスは、ゲルマーニア人はメルクリウスやマルスなどを信仰すると伝えている[30]。)
  • ③ Vita omnis in venationibus atque in studiis rei militaris consistit:
    • すべての人生は、狩猟に、および軍事への執心に依拠しており、
  • ab parvulis labori ac duritiae student.
    • 幼時より労役や負担に努める。
  • ④ Qui diutissime impuberes permanserunt, maximam inter suos ferunt laudem:
    • 最も長く純潔に留まった者は、自分たちの間で最大の賞賛を得る。
  • hoc ali staturam, ali vires nervosque confirmari putant.
    • これによって、ある者には背の高さが、ある者には力と筋肉が強化されると、思っている。
  • ⑤ Intra annum vero vicesimum feminae notitiam habuisse in turpissimis habent rebus;
    • 20歳にならない内に女を知ってしまうことは、とても恥ずべきことであると見なしている。
  • cuius rei nulla est occultatio,
    • その(性の)事を何ら隠すことはない。
  • quod et promiscue in fluminibus perluuntur
    • というのは、川の中で(男女が)混じって入浴しても、
  • et pellibus aut parvis renonum tegimentis utuntur, magna corporis parte nuda.
    • なめし皮や、小さな毛皮の覆いを用いるが、体の大部分は裸なのである。

22節

[編集]

ゲルマーニア人の土地制度

  • ① Agri culturae non student,
  • maiorque pars eorum victus in lacte, caseo, carne consistit.
    • 彼らの大部分は、生活の糧がチーズで成り立っている。
  • ② Neque quisquam agri modum certum aut fines habet proprios;
    • 何者も、土地を確定した境界で、しかも持続的な領地として、持ってはいない。
  • sed magistratus ac principes in annos singulos
    • けれども、官吏や領袖たちは、各年ごとに、
  • gentibus cognationibusque hominum, quique una coierunt,
    • 一緒に集住していた種族や血縁の人々に、
  • quantum et quo loco visum est agri adtribuunt
    • 適切と思われる土地の規模と場所を割り当てて、
  • atque anno post alio transire cogunt.
    • 翌年には他(の土地)へ移ることを強いるのである。
      (訳注:第4巻1節には、スエービー族の説明として同様の記述がある。)
  • ③ Eius rei multas adferunt causas:
    • (官吏たちは)その事の多くの理由を説明する。
  • ne adsidua consuetudine capti studium belli gerendi agricultura commutent;
    • (部族民が)定住する習慣にとらわれて、戦争遂行の熱意を土地を耕すことに変えてしまわないように。
  • ne latos fines parare studeant, potentioresque humiliores possessionibus expellant;
    • 広大な領地を獲得することに熱心になって、有力者たちが弱者たちを地所から追い出さないように。
  • ne accuratius ad frigora atque aestus vitandos aedificent;
    • 寒さや暑さを避けるために(住居を)非常な入念さで建築することがないように。
  • ne qua oriatur pecuniae cupiditas, qua ex re factiones dissensionesque nascuntur;
    • 金銭への欲望が増して、その事から派閥や不和が生ずることのないように。
  • ut animi aequitate plebem contineant, cum suas quisque opes cum potentissimis aequari videat.
    • おのおのが自分の財産も最有力者のも同列に置かれていると見ることで、心の平静により民衆を抑えるように。


(訳注:ストラボン[31]タキトゥス[32]などの著述家たちも、ゲルマーニアの住民が農耕をせず、
遊牧民のように移動しながら暮らし、小さな住居に住み、食料を家畜に頼っていると記述している。)

23節

[編集]

ゲルマーニア諸部族のあり方

  • ① Civitatibus maxima laus est
    • 諸部族にとって、最も称賛されることは、
  • quam latissime circum se vastatis finibus solitudines habere.
    • できる限り広く自分たちの周辺で領土を荒らして荒野に保っておくことである。
  • ② Hoc proprium virtutis existimant,
    • 以下のことを(自分たちの)武勇の特質と考えている。
  • expulsos agris finitimos cedere,
    • 近隣の者たちが土地から追い払われて立ち去ること、
  • neque quemquam prope {se} audere consistere;
    • および、何者も自分たちの近くにあえて定住しないこと、である。
  • ③ simul hoc se fore tutiores arbitrantur, repentinae incursionis timore sublato.
    • 他方、これにより、予期せぬ襲撃の恐れを取り除いて、自分たちはより安全であろうと思われた。
  • ④ Cum bellum civitas aut inlatum defendit aut infert,
    • 部族に戦争がしかけられて防戦したり、あるいはしかけたりしたときには、
  • magistratus, qui ei bello praesint, ut vitae necisque habeant potestatem, deliguntur.
    • その戦争を指揮して、生かすも殺すも勝手な権力を持つ将官が選び出される。
  • ⑤ In pace nullus est communis magistratus,
    • 平時においては、(部族に)共通の将官は誰もいないが、
  • sed principes regionum atque pagorum inter suos ius dicunt controversiasque minuunt.
    • 地域やの領袖たちが、身内の間で判決を下して、訴訟ごとを減らす。
      (訳注:pagus (郷) はここでは、部族の領土の農村区画を指す行政用語[14]。)
  • ⑥ Latrocinia nullam habent infamiam, quae extra fines cuiusque civitatis fiunt,
    • それぞれの部族の領土の外で行なう略奪のことは、何ら恥辱とは見なしていない。
  • atque ea iuventutis exercendae ac desidiae minuendae causa fieri praedicant.
    • さらに、それ(略奪)は、青年たちを訓練することや、怠惰を減らすことのために行なわれる、と公言している。
  • ⑦ Atque ubi quis ex principibus in concilio dixit
    • そして、領袖たちのうちのある者が(次のように)言うや否や、
  • se ducem fore, qui sequi velint, profiteantur,
    • 《自分が(略奪の)引率者となるから、追随したい者は申し出るように》と(言うや否や)、
  • consurgunt ii qui et causam et hominem probant, suumque auxilium pollicentur
    • (略奪の)口実にも(引率する)人物にも賛同する者は立ち上がって、自らの支援を約束して、
  • atque ab multitudine conlaudantur:
    • 群衆から大いに誉められる。
  • ⑧ qui ex his secuti non sunt,
    • これら(約束した者)のうちで(略奪に)追随しない者は、
  • in desertorum ac proditorum numero ducuntur,
    • 逃亡兵や裏切り者と見なされて、
  • omniumque his rerum postea fides derogatur.
    • その後は、彼らにとってあらゆる事の信頼が(皆から)拒まれる。
  • ⑨ Hospitem violare fas non putant;
    • 客人に暴行することは道理に適うとは思ってはいない。
  • qui quacumque de causa ad eos venerunt,
    • 彼ら(ゲルマーニア人)のところへ理由があって来た者(=客人)は誰であれ、
  • ab iniuria prohibent, sanctos habent,
    • 無法行為から防ぎ、尊ぶべきであると思っている。
  • hisque omnium domus patent victusque communicatur.
    • 彼ら(客人)にとってすべての者の家は開放されており、生活用品は共有される。
      (訳注:客人への接待ぶりについては、タキトゥス[33]も伝えている。)

24節

[編集]
ケルト文化の広がり(BC800年~BC400年頃)。ケルト系部族の優越は、鉄器文化の発達などによると考えられている。
エラトステネスの地理観を再現した世界地図(19世紀)。左上に「Orcynia Silva(オルキュニアの森)」とある。
ハルシュタット文化期とラ・テーヌ文化期におけるケルト系部族の分布。右上にウォルカエ族(Volcae)やボイイ族(Boii)の名が見える。ボイイ族が居住していた地域はボイオハエムム(Boihaemum)と呼ばれ、ボヘミア(Bohemia)として現在に残る。

ゲルマーニア人とガッリア人

  • ① Ac fuit antea tempus,
    • かつてある時代があって、
  • cum Germanos Galli virtute superarent,
  • ultro bella inferrent, propter hominum multitudinem agrique inopiam
    • 人間の多さと土地の欠乏のために(ガッリア人は)自発的に戦争をしかけて、
  • trans Rhenum colonias mitterent.
    • レーヌス(=ライン川)の向こう側へ入植者たちを送り込んでいた。
  • ② Itaque ea quae fertilissima Germaniae sunt loca circum Hercyniam silvam,
  • quam Eratostheni et quibusdam Graecis fama notam esse video,
  • quam illi Orcyniam appellant,
    • それを彼らはオルキュニアと呼んでいるが、
  • Volcae Tectosages occupaverunt atque ibi consederunt;
    • (その地を)ウォルカエ族系のテクトサゲス族が占領して、そこに定住していた。
  • ③ quae gens ad hoc tempus his sedibus sese continet
    • その種族は、この時代までこの居場所に留まっており、
  • summamque habet iustitiae et bellicae laudis opinionem.
    • 公正さと戦いの称賛で最高の評判を得ている。
  • ④ Nunc quod in eadem inopia, egestate, patientia qua Germani permanent,
    • 今も、窮乏や貧困を、ゲルマーニア人が持ちこたえているのと同じ忍耐をもって、
  • eodem victu et cultu corporis utuntur;
    • 同じ食物および体の衣服を用いている。
  • ⑤ Gallis autem provinciarum propinquitas et transmarinarum rerum notitia
    • これに対して、ガッリア人にとって(ローマの)属州に近接していること、および海外のものを知っていることは、
  • multa ad copiam atque usus largitur,
    • 富や用品の多くが供給されている。
  • paulatim adsuefacti superari multisque victi proeliis
    • (ガッリア人は)しだいに圧倒されることや多くの戦闘で打ち負かされることに慣らされて、
  • ne se quidem ipsi cum illis virtute comparant.
    • (ガッリア人)自身でさえも彼ら(ゲルマーニア人)と武勇で肩を並べようとはしないのである。


訳注:本節の①項については、タキトゥスが著書『ゲルマーニア』28章(原文)において、次のように言及している。
Validiores olim Gallorum res fuisse summus auctorum divus Iulius tradit;
かつてガッリア人の勢力がより強力であったことは、最高の証言者である神君ユリウス(・カエサル)も伝えている。
eoque credibile est etiam Gallos in Germaniam transgressos:
それゆえに、ガッリア人でさえもゲルマーニアに渡って行ったと信ずるに値するのである。)

25節

[編集]

ヘルキュニアの森林地帯

  • ① Huius Hercyniae silvae, quae supra demonstrata est, latitudo
    • 前に述べたヘルキュニアの森の幅は、
  • novem dierum iter expedito patet:
    • 軽装の旅で9日間(かかるだけ)広がっている。
  • non enim aliter finiri potest,
    • なぜなら(ゲルマーニア人は)他に境界を定めることができないし、
  • neque mensuras itinerum noverunt.
    • 道のりの測量というものを知っていないのである。
ヘルキュニアの森林地帯(ドイツ南西部、シュヴァルツヴァルトの森の最高峰フェルドベルク山 Feldberg の眺望)
  • ② Oritur ab Helvetiorum et Nemetum et Rauracorum finibus
  • rectaque fluminis Danubii regione
    • ダヌビウス川に沿って真っ直ぐに(流れ)、
      (訳注:ダヌビウス Danubius はダヌウィウス Danuvius とも呼ばれ、現在のドナウ川である。)
  • pertinet ad fines Dacorum et Anartium;
  • ③ hinc se flectit sinistrorsus diversis ab flumine regionibus
    • ここ(ダヌビウス川)から(森は)左方へ向きを変えて、川の地域からそれて、
      (訳注:川が南へ折れるのとは逆に、森は北へそれてエルツ山地を通ってカルパティア山脈に至ると考えられている[34]。)
  • multarumque gentium fines propter magnitudinem attingit;
    • (森の)大きさのために、多くの種族の領土に接しているのである。
  • ④ neque quisquam est huius Germaniae, qui se aut adisse ad initium eius silvae dicat,
    • その森の(東の)端緒へ訪れたと言う者は、こちら(西側)のゲルマーニアに属する者では誰もいないし、
  • cum dierum iter LX processerit,
    • 60日間の旅で進んでも(いないのであるが)、
  • aut, quo ex loco oriatur, acceperit:
    • あるいは(森が)どの場所から生じているか把握した(者もいないのである)。
  • ⑤ multaque in ea genera ferarum nasci constat, quae reliquis in locis visa non sint;
    • それ(=森)の中には、ほかの地では見られない野獣の多くの種類が生息していることが知られている。
  • ex quibus quae maxime differant ab ceteris et memoriae prodenda videantur,
    • それらのうちで、ほかの(地の)ものと大きく異なったものは、記録で伝えるべきものであり、
  • haec sunt.
    • 以下のものである。

26節

[編集]
トナカイRangifer tarandus)。発達した枝角を持ち、雌雄ともに角があるという特徴は本節の説明に合致している。が、角が一本ということはないし、野生のトナカイは少なくとも現在では極北の地にしか住まない。

ヘルキュニアの野獣①

  • ① Est bos cervi figura,
    • 鹿の姿形をしたがいる。
  • cuius a media fronte inter aures unum cornu existit
    • それの両耳の間の額の真ん中から一つの角が出ており、
  • excelsius magisque derectum his, quae nobis nota sunt, cornibus;
    • 我々(ローマ人)に知られている角よりも非常に高くて真っ直ぐである。
  • ab eius summo sicut palmae ramique late diffunduntur.
    • その先端部から、手のひらや枝のように幅広く広がっている。
  • Eadem est feminae marisque natura,
    • 雌と雄の特徴は同じであり、
  • eadem forma magnitudoque cornuum.
    • 角の形や大きさも同じである。


訳注:カエサルによる本節の記述はユニコーン(一角獣)の伝説に
結び付けられている。しかし本節における発達した枝角の説明は、むしろ
トナカイヘラジカのような獣を想起させる。)

27節

[編集]
ヘラジカ(Alces alces)。
発達した枝角と大きな体を持ち、名称以外は本節の説明とまったく合致しない。
しかしながら、大プリニウスの『博物誌』第8巻(16章・39節)には、アクリスachlis)という一見ヘラジカ(alces)のような奇獣が紹介され、その特徴は本節②項以下のカエサルの説明とほぼ同じであることが知られている。
ノロジカ(Capreolus capreolus)。
ヨーロッパに広く分布する小鹿で、まだら模様で山羊にも似ているので、本節①項の説明と合致する。しかし、関節はあるし、腹ばいにもなる。

ヘルキュニアの野獣②

  • ① Sunt item, quae appellantur alces.
    • アルケスと呼ばれるものもいる。
      (訳注:アルケス alces とはヘラジカ(オオシカ)を指す単語であるが本節の説明と矛盾する。)
  • Harum est consimilis capris figura et varietas pellium,
    • これらの姿形や毛皮のまだらは雄山羊に似ている。
  • sed magnitudine paulo antecedunt
    • が、(山羊を)大きさで少し優っており、
  • mutilaeque sunt cornibus
    • 角は欠けていて、
  • et crura sine nodis articulisque habent.
    • 脚部には関節の類いがない。
      (訳注:nodus も articulus も関節の類いを意味する)
  • ② Neque quietis causa procumbunt
    • 休息のために横たわらないし、
  • neque, si quo adflictae casu conciderunt,
    • もし何か不幸なことで偶然にも倒れたならば、
  • erigere sese aut sublevare possunt.
    • 自らを起こすことも立ち上げることもできない。
  • ③ His sunt arbores pro cubilibus;
    • これらにとって木々は寝床の代わりである。
  • ad eas se adplicant
    • それら(の木々)へ自らを寄りかからせて、
  • atque ita paulum modo reclinatae quietem capiunt.
    • こうして少しだけもたれかかって休息を取るのである。
  • ④ Quarum ex vestigiis
    • それらの足跡から
  • cum est animadversum a venatoribus, quo se recipere consuerint,
    • (鹿が)どこへ戻ることを常としているかを狩人によって気付かれたときには、
  • omnes eo loco aut ab radicibus subruunt aut accidunt arbores,
    • その地のすべての木々を(狩人は)根から倒すか、あるいは傷つけて、
  • tantum ut summa species earum stantium relinquatur.
    • それらの(木々の)いちばん(外側)の見かけが、立っているかのように残して置かれる。
  • ⑤ Huc cum se consuetudine reclinaverunt,
    • そこに(鹿が)習性によってもたれかかったとき、
  • infirmas arbores pondere adfligunt atque una ipsae concidunt.
    • 弱った木々を重みで倒してしまい、自身も一緒に倒れるのである。

28節

[編集]
ヨーロッパバイソンBison bonasus)。
かつてヨーロッパに多数生息していた野牛で、相次ぐ乱獲により野生のものは20世紀初頭にいったん絶滅したが、動物園で繁殖させたものを再び野生に戻す試みが行なわれている。
疾走するバイソン
酒杯として用いられた野獣の角。銀で縁取りされている。

ヘルキュニアの野獣③

  • ③ Tertium est genus eorum, qui uri appellantur.
    • 第3のものは、野牛と呼ばれる種類である。
  • Hi sunt magnitudine paulo infra elephantos,
    • これらは、大きさで少しに劣るが、
  • specie et colore et figura tauri.
    • 見かけと色と姿形は雄である。
  • ② Magna vis eorum est et magna velocitas,
    • それらの力は大きく、(動きも)とても速く、
  • neque homini neque ferae, quam conspexerunt, parcunt.
    • 人間でも野獣でも、見かけたものには容赦しない。
  • Hos studiose foveis captos interficiunt.
    • (ゲルマーニア人は)これらを熱心に落とし穴で捕らえたものとして殺す。
  • ③ Hoc se labore durant adulescentes
    • この労苦により青年たちを鍛え、
  • atque hoc genere venationis exercent,
    • 狩猟のこの類いで鍛錬するのであり、
  • et qui plurimos ex his interfecerunt,
    • これら(の野牛)のうちから最も多くを殺した者は、
  • relatis in publicum cornibus, quae sint testimonio,
    • 証拠になるためのを公の場に持参して、
  • magnam ferunt laudem.
    • 大きな賞賛を得るのである。
  • ④ Sed adsuescere ad homines et mansuefieri ne parvuli quidem excepti possunt.
    • けれども(野牛は)幼くして捕らえられてさえも、人間に慣れ親しんで飼い慣らされることはできない。
  • ⑤ Amplitudo cornuum et figura et species multum a nostrorum boum cornibus differt.
    • 角の大きさや形や見かけは、我々(ローマ人)の牛の角とは大いに異なる。
  • ⑥ Haec studiose conquisita ab labris argento circumcludunt
    • これらは熱心に探し求められて、縁をで囲って、
  • atque in amplissimis epulis pro poculis utuntur.
    • とても贅沢な祝宴においてとして用いられるのである。

対エブロネス族追討戦(1)

[編集]

29節

[編集]

ゲルマーニアから撤兵、対アンビオリクス戦へ出発

  • ① Caesar, postquam per Ubios exploratores comperit Suebos sese in silvas recepisse,
    • カエサルは、ウビイー族の偵察者たちを通じてスエービー族が森に撤退したことを確報を受けた後で、
      (訳注:10節によれば、バケニス Bacenis の森。既述のように、スエービー族とはカッティー族 Chatti と考えられる。)
  • inopiam frumenti veritus,
    • 糧食の欠乏を恐れて、
  • quod, ut supra demonstravimus, minime omnes Germani agri culturae student,
    • というのは、前に説明したように、ゲルマーニア人は皆が土地を耕すことに決して熱心でないので、
      (訳注:22節を参照。耕地がなければ、ローマ軍は穀物の現地調達ができない。)
  • constituit non progredi longius;
    • より遠くへ前進しないことを決めた。
  • ② sed, ne omnino metum reditus sui barbaris tolleret
    • けれども、自分たち(ローマ軍)が戻って来る恐れを蛮族からまったく取り去ってしまわないように、
  • atque ut eorum auxilia tardaret,
    • かつ、彼ら(ゲルマーニア人)の(ガッリア人への)支援を遅らせるように、
  • reducto exercitu partem ultimam pontis, quae ripas Ubiorum contingebat,
    • ウビイー族側の岸(=レーヌス川東岸)につなげていた橋の最後の部分に軍隊を連れ戻して、
  • in longitudinem pedum ducentorum rescindit
    • (橋を)長さ200ペース(=約60m)切り裂いて、
  • ③ atque in extremo ponte turrim tabulatorum quattuor constituit
    • 橋の先端のところに4層の櫓を建てて、
  • praesidiumque cohortium duodecim pontis tuendi causa ponit
    • 12個歩兵大隊の守備隊を橋を防護するために配置して、
  • magnisque eum locum munitionibus firmat.
    • その場所を大きな城砦で固めた。
  • Ei loco praesidioque C.(Gaium) Volcacium Tullum adulescentem praeficit.
    • その場所と守備隊を青年ガイウス・ウォルカキウス・トゥッルスに指揮させた。
      (訳注:元執政官 Lucius Volcatius Tullus に対して、青年 adulescentem と区別したのであろう。
      ウォルカキウス Volcacium の綴りは、写本により相異する。)
  • ④ Ipse, cum maturescere frumenta inciperent,
    • (カエサル)自身は、穀物が熟し始めたので、
  • ad bellum Ambiorigis profectus per Arduennam silvam,
    • アンビオリクスとの戦争へ、アルドゥエンナの森を通って進発した。
      (訳注:アルドゥエンナの森については、第5巻3節ですでに説明されている。)
  • quae est totius Galliae maxima
    • それ(=森)は全ガッリアで最も大きく、
  • atque ab ripis Rheni finibusque Treverorum ad Nervios pertinet
  • milibusque amplius quingentis in longitudinem patet,
    • 長さは500ローママイル(=約740km)より大きく広がっている。
  • L.(Lucium) Minucium Basilum cum omni equitatu praemittit,
    • ルキウス・ミヌキウス・バスィルスをすべての騎兵隊とともに先遣した。
  • si quid celeritate itineris atque opportunitate temporis proficere possit;
    • 行軍の迅速さと時間の有利さによって、何かを得られるかどうかということである。
  • ⑤ monet, ut ignes in castris fieri prohibeat, ne qua eius adventus procul significatio fiat:
    • 野営において火を生じることを禁じるように、何事かにより遠くから彼の到来の予兆を生じないように、戒めた。
  • sese confestim subsequi dicit.
    • (カエサル)自らは、ただちに後から続くと言った。

30節

[編集]

アンビオリクスがバスィリスのローマ騎兵から逃れる

  • ① Basilus, ut imperatum est, facit.
    • バスィルスは、命令されたように、行なった。
  • Celeriter contraque omnium opinionem confecto itinere
    • 速やかに、かつ皆の予想に反して、行軍を成し遂げて、
  • multos in agris inopinantes deprehendit:
    • (城市でない)土地にいた気付かないでいる多くの者を捕らえた。
  • eorum indicio ad ipsum Ambiorigem contendit, quo in loco cum paucis equitibus esse dicebatur.
    • 彼らの申し立てにより、アンビオリクスその人がわずかな騎兵たちとともにいると言われていた場所に急いだ。
  • ② Multum cum in omnibus rebus, tum in re militari potest Fortuna.
    • あらゆる事柄においても、とりわけ軍事においても、運命(の女神)が大いに力がある。
  • Nam magno accidit casu,
    • 実際のところ、大きな偶然により生じたのは、
  • ut in ipsum incautum etiam atque imparatum incideret,
    • (アンビオリクス)自身でさえも油断していて不用意なところに(バスィルスが)遭遇したが、
  • priusque eius adventus ab omnibus videretur, quam fama ac nuntius adferretur:
    • 彼の到来が(ガッリア勢の)皆により見られたのが、風聞や報告により知らされるよりも早かったのである。
  • sic magnae fuit fortunae
    • 同様に(アンビオリクスにとって)大きな幸運に属したのは、
  • omni militari instrumento, quod circum se habebat, erepto,
    • 自らの周りに持っていたすべての武具を奪われて、
  • raedis equisque comprehensis
    • 四輪馬車や馬を差し押さえられても、
  • ipsum effugere mortem.
    • (アンビオリクス)自身は死を逃れたことである。
  • ③ Sed hoc quoque factum est,
    • しかし、以下のこともまた起こった。
  • quod aedificio circumdato silva,
    • (アンビオリクスの)館が森で取り巻かれており、
  • ─ ut sunt fere domicilia Gallorum, qui vitandi aestus causa
    • ─ ガッリア人の住居はほぼ、暑さを避けることのために、
  • plerumque silvarum atque fluminum petunt propinquitates ─,
    • たいてい森や川の近接したところに求めるのであるが ─
  • comites familiaresque eius angusto in loco paulisper equitum nostrorum vim sustinuerunt.
    • 彼の従者や郎党どもが、狭い場所でしばらく、我が方(ローマ勢)の騎兵の力を持ちこたえたのだ。
  • ④ His pugnantibus illum in equum quidam ex suis intulit:
    • 彼らが戦っているときに、彼(アンビオリクス)を配下のある者が馬に押し上げて、
  • fugientem silvae texerunt.
    • 逃げて行く者(アンビオリクス)を森が覆い隠した。
  • Sic et ad subeundum periculum et ad vitandum multum Fortuna valuit.
    • このように(アンビオリクスが)危険に突き進んだことや避けられたことに対して、運命(の女神)が力をもったのである。

31節

[編集]

エブロネス族の退避、カトゥウォルクスの最期

  • ① Ambiorix copias suas iudicione non conduxerit, quod proelio dimicandum non existimarit,
    • アンビオリクスは、戦闘で争闘するべきとは考えていなかったので、自らの判断で軍勢を集めなかったのか、
  • an tempore exclusus et repentino equitum adventu prohibitus,
    • あるいは、時間に阻まれ、予期せぬ騎兵の到来に妨げられて、
  • cum reliquum exercitum subsequi crederet,
    • (ローマ勢の)残りの軍隊(=軍団兵)が後続して来ることを信じたためなのか、
  • dubium est.
    • 不確かなことである。
  • ② Sed certe dimissis per agros nuntiis sibi quemque consulere iussit.
    • けれども、確かに領地を通じて伝令を四方に遣わして、おのおのに自らを助けることを命じた。
  • Quorum pars in Arduennam silvam, pars in continentes paludes profugit;
    • それらの者たち(領民)のある一部はアルドゥエンナの森に、一部は絶え間ない沼地に退避した。
  • ③ qui proximi Oceano fuerunt,
    • 大洋大西洋オーケアヌスにとても近いところにいた者たちは、
  • hi insulis sese occultaverunt, quas aestus efficere consuerunt:
    • 満潮が形成するのが常であった島々に身を隠した。
ヨーロッパイチイTaxus baccata
欧州などに広く自生するイチイ科の針葉樹。赤い果実は食用で甘い味だが、種子にはタキシン(taxine)というアルカロイド系の毒物が含まれており、種子を多量に摂ればけいれんを起こして呼吸困難で死に至る。
他方、タキサン(taxane)という成分は抗がん剤などの医薬品に用いられる。
  • ④ multi ex suis finibus egressi
    • 多くの者たちは、自分たちの領土から出て行って、
  • se suaque omnia alienissimis crediderunt.
    • 自分たちとその一切合財をまったく異邦の者たちに委ねた。
  • ⑤Catuvolcus, rex dimidiae partis Eburonum,
  • qui una cum Ambiorige consilium inierat,
    • アンビオリクスと一緒に(カエサルに造反する)企てに取りかかった者であるが、
      (訳注:第5巻26節を参照。)
  • aetate iam confectus, cum laborem aut belli aut fugae ferre non posset,
    • もはや老衰していたので、戦争の労苦、あるいは逃亡の労苦に耐えることができなかったので、
      (訳注:aetate confectus 老衰した)
  • omnibus precibus detestatus Ambiorigem, qui eius consilii auctor fuisset,
    • その企ての張本人であったアンビオリクスをあらゆる呪詛のことばで呪って、
  • taxo, cuius magna in Gallia Germaniaque copia est, se exanimavit.

32節

[編集]

ゲルマーニア部族の弁明、アドゥアトゥカに輜重を集める

  • ① Segni Condrusique, ex gente et numero Germanorum,
  • qui sunt inter Eburones Treverosque,
  • legatos ad Caesarem miserunt oratum,
    • カエサルのところへ嘆願するために使節たちを遣わした。
  • ne se in hostium numero duceret
    • 自分たちを敵として見なさないように、と。
  • neve omnium Germanorum, qui essent citra Rhenum, unam esse causam iudicaret;
    • しかも、レーヌス(=ライン川)のこちら側にいるゲルマーニア人すべての事情は1つであると裁断しないように、と。
  • nihil se de bello cogitavisse, nulla Ambiorigi auxilia misisse.
    • 自分たちは、戦争についてまったく考えたことはないし、アンビオリクスに何ら援軍を派遣したことはない、と。
  • ② Caesar explorata re quaestione captivorum,
    • カエサルは捕虜を審問することによってその事を探り出すと、
  • si qui ad eos Eburones ex fuga convenissent,
    • もし彼らのところへ逃亡しているエブロネス族の者たちの誰かが訪れたならば、
  • ad se ut reducerentur, imperavit;
    • 自分(カエサル)のところへ連れ戻されるようにと、命令した。
  • si ita fecissent, fines eorum se violaturum negavit.
    • もしそのように行なったならば、彼らの領土を自分(カエサル)が侵害することはないであろうと主張した。
  • ③ Tum copiis in tres partes distributis
    • それから、軍勢を3方面に分散して、
  • impedimenta omnium legionum Aduatucam contulit.
    • すべての軍団の輜重アドゥアトゥカに運び集めた。
      (訳注:アドゥアトゥカ Aduatuca の表記は、写本によってはアトゥアトゥカ Atuatuca となっている。現在のトンゲレン市。)
  • ④ Id castelli nomen est.
    • それは、城砦の名前である。
  • Hoc fere est in mediis Eburonum finibus,
    • これは、エブロネス族の領土のほぼ真ん中にあり、
  • ubi Titurius atque Aurunculeius hiemandi causa consederant.
  • ⑤ Hunc cum reliquis rebus locum probabat,
    • (カエサルは)この場所を、ほかの事柄によっても是認したし、
  • tum quod superioris anni munitiones integrae manebant, ut militum laborem sublevaret.
    • またとりわけ前年の防備が損なわれずに存続していたので、兵士の労苦を軽減するためでもある。
  • Praesidio impedimentis legionem quartamdecimam reliquit,
    • (全軍の)輜重の守備隊として第14軍団を(そこに)残した。
  • unam ex his tribus, quas proxime conscriptas ex Italia traduxerat.
    • (それは)最近にイタリアから徴集されたものとして連れて来られた3個(軍団)のうちの1個である。
      (訳注:1節を参照。イタリア Italia とはカエサルが総督であったガッリア・キサルピーナのことであろう。)
  • Ei legioni castrisque Q.(Quintum) Tullium Ciceronem praeficit ducentosque equites ei attribuit.

33節

[編集]

軍勢をカエサル、ラビエヌス、トレボニウスの三隊に分散

  • ① Partito exercitu
    • 軍隊を分配して、
  • T.(Titum) Labienum cum legionibus tribus ad Oceanum versus
  • in eas partes, quae Menapios attingunt, proficisci iubet;
  • ② C.(Gaium) Trebonium cum pari legionum numero
  • ad eam regionem, quae Aduatucis adiacet, depopulandam mittit;
ベルギー周辺の地図。図の左側をスヘルデ川が、右側をマース川が流れているため、両河川は離れており、カエサルがどの地に言及しているのかはわからない。
ベルギーのアントウェルペン周辺を流れるスヘルデ川河口付近の衛星画像。ラビエヌスが向かったメナピイ族に接する地方である。
  • ③ ipse cum reliquis tribus ad flumen Scaldim, quod influit in Mosam,
    • (カエサル)自身は、残りの3個(軍団)とともに、モサ(川)に流れ込むスカルディス川のところへ、
      (訳注:スカルディス Scaldis は現在のスヘルデ川 Schelde で、フランス北部からベルギー、オランダへ流れている。
      モサ川 Mosa すなわち現在のマース川 Maas とは運河でつながるが、当時の関係およびカエサルの目的地は不詳。)
  • extremasque Arduennae partes ire constituit,
  • quo cum paucis equitibus profectum Ambiorigem audiebat.
    • そこへは、アンビオリクスがわずかな騎兵たちとともに出発したと聞いていたのだ。
  • ④ Discedens post diem septimum sese reversurum confirmat;
    • (カエサルは陣営を)離れるに当たって、7日目の後(=6日後)に自分は引き返して来るであろうと断言した。
  • quam ad diem ei legioni, quae in praesidio relinquebatur, deberi frumentum sciebat.
    • その当日には、守備に残される軍団にとって糧食が必要とされることを(カエサルは)知っていたのだ。
  • ⑤ Labienum Treboniumque hortatur,
    • (カエサルは)ラビエヌスとトレボニウスを(以下のように)鼓舞した。
  • si rei publicae commodo facere possint,
    • もし(ローマ軍全体の)公務のために都合良く行動することができるならば、
  • ad eum diem revertantur,
    • その日には戻って、
  • ut rursus communicato consilio exploratisque hostium rationibus
    • 再び(互いの)考えを伝達して、敵たちの作戦を探り出し、
  • aliud initium belli capere possint.
    • 次なる戦争の端緒を捉えようではないか、と。


訳注:カエサル麾下の軍団配分について
第5巻8節の記述によれば、ブリタンニアへ2度目の遠征をする前(BC54年)のカエサルは少なくとも8個軍団と騎兵4000騎を
指揮していた。第5巻24節によれば、帰還後は8個軍団および軍団から離れた5個歩兵大隊を指揮していたが、
アンビオリクスによるアドゥアトゥカの戦いサビヌスらとともに1個軍団と5個大隊が壊滅したので、残りは7個軍団となる。
本巻1節によれば、この年(BC53年)には3個軍団を新たに徴集したので、計10個軍団となったはずである。
29節では、このうちから12個大隊をライン川に架かる橋の守備に残し、32節では輜重の守備としてアドゥアトゥカに1個軍団を残した。
本節の記述通りにラビエヌス、トレボニウス、カエサルがそれぞれ3個軍団(計9個)を受け持ったとすると、あわせて10個軍団と12個大隊という勘定になる。
したがって、この勘定が正しいのであれば、ライン川に残した12個大隊は各軍団から引き抜いたものであり、各軍団は定員を割っていると考えられる。)

34節

[編集]

夷を以って夷を制す対エブロネス族包囲網

  • ① Erat, ut supra demonstravimus, manus certa nulla,
    • 前に説明したように、(エブロネス族には)決まった手勢がなかったし、
      (訳注:31節を参照。)
  • non oppidum, non praesidium, quod se armis defenderet,
    • 自分たちが武器で防衛するような城市も、防塁もなかった。
  • sed in omnes partes dispersa multitudo.
    • けれども、あらゆる方面に大勢が分散されていた。
  • ② Ubi cuique aut valles abdita aut locus silvestris aut palus impedita
    • おのおのが、密かな峡谷、あるいは森に覆われた土地といったところに、
  • spem praesidi aut salutis aliquam offerebat, consederat.
    • 守備あるいは身の安全の何らかの希望を提供するところに、陣取っていた。
  • ③ Haec loca vicinitatibus erant nota,
    • これらの場所は、近隣の者たちは知っていたので、
      (訳注:すなわち、近隣のガッリア人には地の利があり、ローマ人には地の利がなかったので)
  • magnamque res diligentiam requirebat
    • 事態はたいへんな注意深さを必要としていた。
  • non in summa exercitus tuenda
    • (ローマ人の)軍隊全体を守るためではなく、
  • ─ nullum enim poterat universis <a> perterritis ac dispersis periculum accidere ─,
    • ─なぜなら、脅かされ分散されている者たちにより(ローマ軍)総勢が危険を生じることはありえなかったので─
  • sed in singulis militibus conservandis;
    • けれども、個々の(ローマ人の)兵士たちを守ることのために(注意深さを必要としていた)。
  • quae tamen ex parte res ad salutem exercitus pertinebat.
    • 少なくとも、ある面では、そういう事態は軍隊の安全に及んでいた。
  • ④ Nam et praedae cupiditas multos longius evocabat,
    • すなわち、略奪品への欲望が多くの者たちをより遠くへ呼び寄せていたし、
  • et silvae incertis occultisque itineribus confertos adire prohibebant.
    • 森林の不確かで隠された道のりによって密集した行軍を妨げていた。
  • ⑤ Si negotium confici stirpemque hominum sceleratorum interfici vellent,
    • もし、戦役が完遂されること、および非道な連中(=エブロネス族)の血筋が滅ぼされることを欲するならば、
  • dimittendae plures manus diducendique erant milites;
    • いくつもの部隊が分遣され、兵士たちが展開されるべきである。
  • ⑥ si continere ad signa manipulos vellent, ut instituta ratio et consuetudo exercitus Romani postulabat,
    • もし、ローマ軍が決められた流儀や慣行を要求するように、中隊が軍旗のもとにとどまることを欲するならば、
  • locus ipse erat praesidio barbaris,
    • その場所が蛮族にとって守りとなるであろう。
  • neque ex occulto insidiandi et dispersos circumveniendi
    • 隠れたところから待ち伏せするため、分散した者たち(=ローマ兵)を包囲するために、
  • singulis deerat audacia.
    • (エブロネス族の)おのおのにとって勇敢さには事欠かなかった。
  • ⑦ Ut in eiusmodi difficultatibus, quantum diligentia provideri poterat providebatur,
    • そのような困難さにおいては、できるかぎりの注意深さで用心されるほどに、用心されるものであるが、
  • ut potius in nocendo aliquid praetermitteretur,
    • 結果として、むしろ(敵勢への)何らかの加害は差し控えられることになった。
  • etsi omnium animi ad ulciscendum ardebant,
    • たとえ、皆の心が(エブロネス族に)報復するために燃え立っていたとしても、
  • quam cum aliquo militum detrimento noceretur.
    • 兵士たちの何らかの損失を伴って(敵に)加害がなされるよりも。
      (訳注:伏兵によって被害をこうむるよりは、ローマ人の安全のために、ローマ兵による攻撃は避けられた。)
  • ⑧ Dimittit ad finitimas civitates nuntios Caesar;
    • カエサルは、近隣の諸部族のところへ伝令たちを分遣した。
  • omnes ad se vocat spe praedae ad diripiendos Eburones,
    • エブロネス族に対して戦利品を略奪することの望みを呼びかけた。
  • ut potius in silvis Gallorum vita quam legionarius miles periclitetur,
    • 森の中で、軍団の兵士たちよりも、むしろガッリア人たちの生命が危険にさらされるように、
  • simul ut magna multitudine circumfusa
    • 同時にまた、たいへんな大勢で取り囲むことによって、
  • pro tali facinore stirps ac nomen civitatis tollatur.
    • (サビヌスらを滅ぼした)あれほどの罪業の報いとして、部族の血筋と名前が抹殺されるように、と。
  • Magnus undique numerus celeriter convenit.
    • 至る所から多数の者が速やかに集結した。

スガンブリー族のアドゥアトゥカ攻略戦

[編集]

35節

[編集]

スガンブリー族が略奪に駆り立てられてアドゥアトゥカへ向かう

  • ① Haec in omnibus Eburonum partibus gerebantur,
    • これらのこと(=追討戦)がエブロネス族のすべての地方で遂行されていたが、
  • diesque adpetebat septimus, quem ad diem Caesar ad impedimenta legionemque reverti constituerat.
    • カエサルがその日に輜重と(キケロの)軍団のところへ引き返すと決めていた7日目が近づいていた。
  • ② Hic quantum in bello Fortuna possit et quantos adferat casus, cognosci potuit.
    • ここに、戦争では運命(の女神)がどれほどのことに力を持ち、どれほどの結末を引き起こすかを知ることができた。
      (訳注:30節でもそうだが、カエサルは戦況が芳しくないと運命 Fortuna を持ち出すようである。42節も参照。)
  • ③ Dissipatis ac perterritis hostibus, ut demonstravimus,
    • (前節で)説明したように、追い散らされて、脅かされている敵たちには、
  • manus erat nulla quae parvam modo causam timoris adferret.
    • (ローマ勢に敵を)恐れる理由を少しの程度も引き起こすようないかなる手勢もなかった。
  • ④ Trans Rhenum ad Germanos
  • pervenit fama, diripi Eburones atque ultro omnes ad praedam evocari.
    • エブロネス族が収奪され、(近隣部族の)皆が略奪品へ向けて自発的に誘惑されているという風評が達した。
  • ⑤ Cogunt equitum duo milia Sugambri, qui sunt proximi Rheno,
    • レーヌスの近隣にいたスガンブリ族は、騎兵2000騎を徴集した。
  • a quibus receptos ex fuga Tenctheros atque Usipetes supra docuimus.
  • ⑥ Transeunt Rhenum navibus ratibusque
    • (スガンブリー族は)レーヌスを船団や筏で渡河した。
  • triginta milibus passuum infra eum locum, ubi pons erat perfectus praesidiumque ab Caesare relictum.
    • カエサルにより橋が造り上げられて守備隊が残された地点よりも下流に30ローママイル(約44km)のところを。
  • Primos Eburonum fines adeunt;
    • 手始めとしてエブロネス族の領土に殺到して、
  • multos ex fuga dispersos excipiunt,
    • 逃亡からちりぢりにさせられた多くの者たちを追い捕らえて、
  • magno pecoris numero, cuius sunt cupidissimi barbari, potiuntur.
    • 蛮族たちが最も熱望している家畜の多数をわがものにした。
  • ⑦ Invitati praeda longius procedunt.
    • (スガンブリー族の軍勢は)略奪品に誘われて、より遠くに進み出た。
  • Non hos palus ─ in bello latrociniisque natos ─, non silvae morantur.
    • 戦争や追いはぎに生まれついていたので、沼地も森林も彼らを妨げることがなかった。
  • Quibus in locis sit Caesar, ex captivis quaerunt;
    • カエサルがどの場所にいるのか、捕虜から問い質した。
  • profectum longius reperiunt omnemque exercitum discessisse cognoscunt.
    • (彼が)より遠くに旅立って、軍隊の総勢が立ち去ったことを、知った。
  • ⑧ Atque unus ex captivis "Quid vos," inquit,
    • なおかつ、捕虜たちのうちの一人が「なぜ、あんたたちは」と言い出した。
  • "hanc miseram ac tenuem sectamini praedam,
    • 「この取るに足らない、ちっぽけな略奪品を追い求めるのか。
      (訳注:sectamini はデポネンティア動詞 sector の直説法・2人称複数・現在形)
  • quibus licet iam esse fortunatissimos?
    • (あんたたちは)今や、最も富裕な者に成り得るのに。
  • ⑨ Tribus horis Aduatucam venire potestis:
    • (この場所から)3時間でアドゥアトゥカに到達できる。
      (訳注:古代ローマの時間は、不定時法であり、当地の緯度や季節により長さは異なる。)
  • huc omnes suas fortunas exercitus Romanorum contulit;
    • ここへ、ローマ軍がすべての財産を運び集めたのだ。
  • praesidii tantum est, ut ne murus quidem cingi possit,
    • 守備隊は、城壁が取り巻かれることさえできないほどの(貧弱な)ものでしかない。
  • neque quisquam egredi extra munitiones audeat."
    • 何者も防備の外側へあえて出て行こうとはしないのだ。」
  • ⑩ Oblata spe Germani,
    • ゲルマーニア人たちは(ローマ軍の財産という)望みを提示されて、
  • quam nacti erant praedam, in occulto relinquunt;
    • (すでにエブロネス族の者たちから)獲得していた略奪品を秘されたところに残しておいて、
  • ipsi Aduatucam contendunt usi eodem duce, cuius haec indicio cognoverant.
    • 自身は、このことを申告により知ったところの同じ(捕虜の)案内人を使役して、アドゥアトゥカに急いだ。


訳注:部族名・地名の表記について
スガンブリー族 Sugambri:α系写本では Sugambri、T・U写本では Sygambri、V・R写本では Sigambri
テンクテリ族 Tenctheri:β系写本では Tenctheri、α系写本では Thenctheri
アドゥアトゥカ Aduatuca:α系・T写本では Aduatuca、V・ρ系写本では Atuatuca)

36節

[編集]

アドゥアトゥカのキケロが糧秣徴発に派兵する

  • ① Cicero, qui omnes superiores dies
    • キケロは(期日の7日目)より以前の日々すべてを
  • praeceptis Caesaris cum summa diligentia milites in castris continuisset
    • カエサルの指図により、最高の入念さとともに、兵士たちを陣営の中に留めておき、
  • ac ne calonem quidem quemquam extra munitionem egredi passus esset,
    • 軍属奴隷カロネス でさえも、何者も防備の外側に出て行くことを許されなかった。
  • septimo die diffidens de numero dierum Caesarem fidem servaturum,
    • (期日の)7日目に、カエサルが日数についての約束を守るであろうか、という不信を抱いた。
  • quod longius eum[35] progressum audiebat,
    • というのは、彼(カエサル)は、はるか遠くに前進したと聞いていたのだし、
  • neque ulla de reditu eius fama adferebatur,
    • 彼の帰還については何ら伝言を届けられていなかったからである。
  • ② simul eorum permotus vocibus,
    • 同時に(キケロは)以下のような者たちの声に揺り動かされた。
  • qui illius patientiam paene obsessionem appellabant, siquidem ex castris egredi non liceret,
    • もし本当に陣営から出て行くことが許されないならば、彼の忍耐はほぼ攻囲(籠城)であるというのだ。
  • nullum eiusmodi casum exspectans,
    • 以下のような事態を予期してもいなかった。
  • quo novem oppositis legionibus maximoque equitatu,
    • 9個軍団と最大限の騎兵隊が(敵と)対峙して、
  • dispersis ac paene deletis hostibus
    • 敵たちは散らばらされて、ほとんど抹殺されたのに、
  • in milibus passuum tribus offendi posset,
    • (自陣から)3ローママイルの内で(敵対勢力から)襲撃され得るとは。
帝政期に用いられた軍旗(ウェクスィッルム)の一種を再現したもの。
  • quinque cohortes frumentatum in proximas segetes mittit,
    • 5個歩兵大隊コホルスを糧秣徴発するために、近隣の耕地に派遣した。
  • quas inter et castra unus omnino collis intererat.
    • それら(の耕地)と陣営の間には、ただ一つの丘陵が介在するだけであった。
  • ③ Complures erant in castris[36] ex legionibus aegri relicti;
    • 陣営の中には、諸軍団のうちから少なからぬ傷病者たちが残留していた。
  • ex quibus qui hoc spatio dierum convaluerant, circiter trecenti(CCC),
    • その者たちのうちから、この日々の間に回復していた約300名が、
  • sub vexillo una mittuntur;
    • 軍旗ウェクスィッルムのもとで一緒に派遣された。
  • magna praeterea multitudo calonum, magna vis iumentorum quae in castris subsederant,
    • そのうえに、軍属奴隷の大多数、陣営の中に残留していた(ロバなどの)役畜の多数が、
  • facta potestate sequitur.
    • 機会を与えられて、随行した。

37節

[編集]
ローマ式陣営castra Romana)の概略図(再掲)。が第10大隊の門(porta decumana)で、陣営の裏門に当たる。

スガンブリー族がキケロの陣営に襲来

  • ① Hoc ipso tempore et casu Germani equites interveniunt
  • protinusque eodem illo, quo venerant, cursu
    • さらに前方へ(彼らが)やって来たのと同じ突進でもって、
  • ab decumana porta in castra inrumpere conantur,
    • 第10大隊の門(=裏門)から陣営の中に突入することを試みた。
      (訳注:decumana porta は第2巻24節で既出、図を参照。)
  • ② nec prius sunt visi obiectis ab ea parte silvis, quam castris adpropinquarent,
    • その方面については森林がじゃま立てしていたので(彼らは)陣営に接近するまでは視認されなかったのだ。
  • usque eo ut qui sub vallo tenderent mercatores, recipiendi sui facultatem non haberent.
    • そこまで(敵が急に来たので)、防柵の下に宿営していた商人たちが退避する機会を持たなかったほどであった。
  • ③ Inopinantes nostri re nova perturbantur,
    • 予感していなかった我が方は、新しい事態に混乱させられて、
  • ac vix primum impetum cohors in statione sustinet.
    • やっとのことで歩哨に就いていた歩兵大隊が(敵の)最初の突撃を持ちこたえた。
  • ④ Circumfunduntur ex reliquis hostes partibus, si quem aditum reperire possent.
    • 敵たちは、何らかの入口を探り出せないかと、ほかの方面から取り囲んだ。
  • ⑤ Aegre portas nostri tuentur;
    • 我が方(=ローマ勢)は辛うじて(四方の)諸門を固守して、
  • reliquos aditus locus ipse per se munitioque defendit.
    • ほかの入口を、その位置そのものと防備が(敵の突入から)防護した。
  • ⑥ Totis trepidatur castris,
    • 陣営の全体が震撼させられて、
  • atque alius ex alio causam tumultus quaerit;
    • 各人がほかの者に騒乱の原因を尋ね合った。
      (訳注:エブロネス族を追討している最中に、スガンブリー族が来襲するとは予想だにしなかったからである。)
  • neque quo signa ferantur, neque quam in partem quisque conveniat provident.
    • が、どこへ軍旗が運ばれるのか、どの方面におのおのが集結するのか、判らなかった。
  • ⑦ Alius iam castra capta pronuntiat,
    • ある者は、すでに陣営は占拠されたと公言し、
  • alius deleto exercitu atque imperatore victores barbaros venisse contendit;
    • 別のある者は、軍隊も将軍(カエサル)も滅びて蛮族が勝利者としてやって来たのだ、と断言した。
  • ⑧ plerique novas sibi ex loco religiones fingunt
    • たいていの者たちは、その場所から、新奇な迷信的感情を創り上げ、
  • Cottaeque et Tituri calamitatem, qui in eodem occiderint castello,
  • ante oculos ponunt.
    • 眼前に想い描いた。
  • ⑨ Tali timore omnibus perterritis
    • このような怖れによって(陣営内部の)皆が脅えており、
  • confirmatur opinio barbaris, ut ex captivo audierant, nullum esse intus praesidium.
    • 蛮族にとっては、捕虜から聞いていたように、内部に守備隊が存在していないという見解が強められた。
  • ⑩ Perrumpere nituntur
    • (スガンブリー勢は、陣営の防備を)突破することに努め、
  • seque ipsi adhortantur, ne tantam fortunam ex manibus dimittant.
    • これほどの幸運を手から取りこぼさないように、自分たちが自身を鼓舞した。

38節

[編集]

バクルスと百人隊長たちが防戦する

  • ① Erat aeger cum[37] praesidio relictus P.(Publius) Sextius Baculus,
    • (キケロの陣営には)プーブリウス・セクスティウス・バクルスが傷病者として、守備兵とともに残されていた。
      (訳注:Publius Sextius Baculus などの記事を参照。)
  • qui primum pilum ad[38] Caesarem duxerat,
    • その者はカエサルのもとで首位百人隊長プリムス・ピルス の座に就いていたことがあり、
  • cuius mentionem superioribus proeliis fecimus,
  • ac diem iam quintum cibo caruerat.
    • (このとき)食物を欠いてすでに5日目であった。
  • ② Hic diffisus suae atque omnium saluti inermis ex tabernaculo prodit;
    • 彼は、自らと皆の身の安全に疑念を抱いて、非武装のまま天幕小屋から出て来て、
  • videt imminere hostes atque in summo esse rem discrimine;
    • 敵たちが迫って来ていること、および事態が重大な危急にあることを目の当たりにして、
  • capit arma a proximis atque in porta consistit.
    • すぐ近くの者から武器を取って、門のところに陣取った。
  • ③ Consequuntur hunc centuriones eius cohortis quae in statione erat;
    • 歩哨に立っていた(1個)歩兵大隊コホルス百人隊長ケントゥリオ たちが彼に追随して、
      (訳注:1個歩兵大隊の百人隊長は、定員通りであれば、6名いた。)
  • paulisper una proelium sustinent.
    • しばらく一緒に戦闘を持ちこたえた。
  • ④ Relinquit animus Sextium gravibus acceptis vulneribus;
    • セクスティウス(・バクルス)は重い傷を受けて、気を失った。
  • Deficiens[39] aegre per manus tractus servatur.
    • (彼は)衰弱して、(味方の)手から手に運ばれて辛うじて救助された。
  • ⑤ Hoc spatio interposito reliqui sese confirmant
    • こうしてしばらくした後で、ほかの者たちは意を強くした。
  • tantum, ut in munitionibus consistere audeant speciemque defensorum praebeant.
    • (それは)防壁にあえて陣取って、防戦者たちの姿を示したほどであった。

39節

[編集]

スガンブリー族が糧秣徴発部隊をも襲う

  • ① Interim confecta frumentatione milites nostri clamorem exaudiunt;
    • その間に、糧秣徴発を成し遂げると、我が方の兵士たち(=ローマ軍団兵)は叫び声を聞きつけて、
  • praecurrunt equites;
    • 騎兵たちが先駆けして、
  • quanto res sit in periculo cognoscunt.
    • 事態がどれほどの危険にあるかを認識した。
  • ② Hic vero nulla munitio est quae perterritos recipiat;
    • そこには、まさに、脅え上がった者たちを受け入れるような、いかなる防備もなかったのである。
  • modo conscripti atque usus militaris imperiti
    • やっと徴集されたばかりの者たち、なおかつ兵役の経験に通じていない者たちは、
  • ad tribunum militum centurionesque ora convertunt;
    • 兵士長官トリブヌス・ミリトゥム百人隊長ケントゥリオたちの方へ顔を向けた。
  • quid ab his praecipiatur exspectant.
    • 彼ら(上官たち)によって何を指図されるか、待っていたのである。
  • ③ Nemo est tam fortis, quin rei novitate perturbetur.
    • 新奇な事態に不安にさせられないほど勇敢な者は、誰もいなかった。
  • ④ Barbari signa procul conspicati oppugnatione desistunt,
    • 蛮族たちは、(糧秣徴発隊の)軍旗を遠くから視認すると、(陣営への)攻囲を停止した。
  • redisse primo legiones credunt, quas longius discessisse ex captivis cognoverant;
    • (彼らは)当初は、より遠くに立ち去ったことを捕虜から知っていた(ローマの)諸軍団が戻って来たと思ったが、
  • postea despecta paucitate ex omnibus partibus impetum faciunt.
    • 後には、(糧秣徴発隊の)寡勢ぶりを侮って、あらゆる方向から突撃して来た。

40節

[編集]

敵中突破して陣営へ戻る糧秣徴発部隊の明暗

  • ① Calones in proximum tumulum procurrunt.
  • Hinc celeriter deiecti
    • (彼らは)ここから、(突撃して来る敵の軍勢を眺めて)たちまち当てが外れて、
  • se in signa manipulosque coniciunt;
    • (後方にいた)軍旗と歩兵中隊のところに身を投じた。
  • eo magis timidos perterrent milites.
    • それゆえに、臆病な兵士たちを大いに脅かした。
楔(くさび)の図。本節で述べられているのは、ローマ勢が楔(図の黒い部分)のように突撃することにより、敵を中央突破しようという戦術であろう。
  • ② Alii cuneo facto ut celeriter perrumpant, censent
    • (ローマ兵の)ある者たちは、速やかに(敵中を)突破するように、楔形くさびがた隊列を形成しようと考慮した。
  • ─ quoniam tam propinqua sint castra,
    • ─ 陣営がこれほどまで近隣にあるので、
  • etsi pars aliqua circumventa ceciderit, at reliquos servari posse confidunt ─,
    • たとえ、一部の誰かが包囲されて斃れたとしても、残りの者たちは救われることが可能だと確信したのだ ─。
  • ③ alii ut in iugo consistant atque eundem omnes ferant casum.
    • 別のある者たちは、(丘の)尾根に陣取って、皆が同じ命運に耐え忍ぼうと(考えた)。
  • ④ Hoc veteres non probant milites, quos sub vexillo una profectos docuimus.
    • 既述したように軍旗のもとで一緒に発って来た古参兵たちは、後者(の案)を承認しなかった。
      (訳注:36節③項で既述のように、回復した傷病兵たちが同行してきていた。)
  • Itaque inter se cohortati
    • こうして、(古参の傷病兵たちは)互いに激励し合って、
  • duce C.(Gaio) Trebonio equite Romano, qui iis erat praepositus,
    • 彼らの指揮を委ねられていたローマ人騎士階級のガイウス・トレボニウスを統率者として、
      (訳注:33節で3個軍団を率いて出発した副官のガイウス・トレボニウスとは明らかに同名の別人である。)
  • per medios hostes perrumpunt incolumesque ad unum omnes in castra perveniunt.
    • 敵たちの中央を突破して、一人に至るまで皆が無傷で陣営に到着した。
  • ⑤ Hos subsecuti calones equitesque eodem impetu militum virtute servantur.
    • 彼らに追随して、軍属奴隷と騎兵たちが同様の突撃をして、兵士たちの武勇により救われた。
  • ⑥ At ii qui in iugo constiterant,
    • それに対して(丘の)尾根に陣取った者たちは、
  • nullo etiam nunc usu rei militaris percepto
    • 今になってさえも、軍事的行動というものを把握しておらず、
  • neque in eo quod probaverant consilio permanere, ut se loco superiore defenderent,
    • より高い場所で身を守るという、彼らが承認していた考えに留まりもせず、
  • neque eam quam prodesse aliis vim celeritatemque viderant, imitari potuerunt,
    • (彼らが)別の者たち(=古参兵)に役立ったのを見ていたところの力と迅速さを真似することもできなかった。
  • sed se in castra recipere conati iniquum in locum demiserunt.
    • けれども、陣営に退却することを試みたが、不利な場所に落ち込んで行った。
  • ⑦ Centuriones, quorum nonnulli ex inferioribus ordinibus reliquarum legionum
    • 百人隊長たちといえば、彼らの少なからぬ者たちは、ほかの軍団のより低い序列から、
  • virtutis causa in superiores erant ordines huius legionis traducti,
    • 武勇のおかげで、この軍団のより高い序列に異動させられていたが、
  • ne ante partam rei militaris laudem amitterent, fortissime pugnantes conciderunt.
    • かつて獲得した軍事的な賞賛を失わないように、とても果敢に奮戦して斃れた。
  • ⑧ Militum pars horum virtute
    • 兵士たちの一部は、これら(討ち死にした百人隊長たち)の武勇により、
  • submotis hostibus praeter spem incolumis in castra pervenit,
    • 予想に反して敵たちが撃退されたので、無傷で陣営に到着した。
  • pars a barbaris circumventa periit.
    • 別の一部は、蛮族によって包囲されて、討ち死にした。

41節

[編集]

スガンブリー族の撤退、カエサルの帰還

  • ① Germani desperata expugnatione castrorum,
  • quod nostros iam constitisse in munitionibus videbant,
    • というのは、我が方(ローマ勢)が防備のところに立っているのを見たからであるが、
  • cum ea praeda quam in silvis deposuerant, trans Rhenum sese receperunt.
    • 森の中にしまい込んでいた略奪品とともに、レヌス(=ライン川)の向こう側に撤退した。
  • ② Ac tantus fuit etiam post discessum hostium terror,
    • 敵たちの立ち去った後でさえ(ローマ勢の)畏怖はたいへんなものであったので、
  • ut ea nocte, cum C.(Gaius) Volusenus missus cum equitatu ad castra venisset,
    • その夜に、(追討戦に)派遣されていたガーイウス・ウォルセーヌスが騎兵隊とともに陣営へ帰着したときに
      (訳注:Gaius Volusenus は、第3巻5節のアルプス・オクトードゥールスの戦い、
          第4巻21節23節のブリタンニアへの先遣で既述。
          この後、さらに第8巻23節(s)、48節(s)でも活躍する。)
  • fidem non faceret adesse cum incolumi Caesarem exercitu.
    • カエサルが無傷の軍隊とともに近くに来ていることを(陣営の残留組に)信用させなかったほどである。
  • ③ Sic omnino animos timor praeoccupaverat, ut paene alienata mente
    • ほとんど気でも違ったかのように、皆の心を怖れが占めていた。
      (訳注:sic … ut ~ の構文;「~と同様に…である」)
  • deletis omnibus copiis equitatum se ex fuga recepisse dicerent
    • (残留者たちは、カエサルら)全軍勢が滅ぼされて、騎兵隊が敗走から退いて来たのだ、と言った。
  • neque incolumi exercitu Germanos castra oppugnaturos fuisse contenderent.
    • (カエサルら)軍隊が無傷であれば、ゲルマーニア人が陣営を襲撃しなかっただろう、と断言した。
      (訳注:oppugnaturos fuisse ;間接話法では非現実な条件文の帰結は「未来分詞+fuisse」で表される。)
  • ④ Quem timorem Caesaris adventus sustulit.
    • その怖れをカエサルの到着が取り除いた。
      (訳注:sustulit は tollō の完了・能動3人称単数形)

42節

[編集]

カエサルがスガンブリー族の襲来と撤退を運命に帰する

  • ① Reversus ille, eventus belli non ignorans,
    • 引き返して来た彼(カエサル)は、戦争の成り行きというものを知らないはずがないので、
  • unum quod cohortes ex statione et praesidio essent emissae,
    • ひとつ(だけ)、諸大隊コホルス歩哨や守備から(糧秣徴発に)派遣されたことを
  • questus ─ ne minimo quidem casu locum relinqui debuisse ─
    • 不慮の事態に対して最小限のいかなる余地も残されるべきではなかった、と嘆いた。
  • multum Fortunam in repentino hostium adventu potuisse iudicavit,
    • 不意の敵たちの到来においては運命(の女神)が大いに力を持つ、と断じた。
  • ② multo etiam amplius, quod paene ab ipso vallo portisque castrorum barbaros avertisset.
    • さらに、より一層大きかったのは、(運命が)ほとんど蛮族をその陣営の防柵と諸門から追い返してしまったことである。
  • ③ Quarum omnium rerum maxime admirandum videbatur,
    • それらのすべての事態でとりわけ驚くべきと思われたのは、
  • quod Germani, qui eo consilio Rhenum transierant, ut Ambiorigis fines depopularentur,
  • ad castra Romanorum delati
    • ローマ人の陣営の方へそらされて、
  • optatissimum Ambiorigi beneficium obtulerunt.
    • アンビオリクスに最も望ましい恩恵を施してしまったことである。

対エブロネス族追討戦(2)

[編集]

43節

[編集]

アンビオリクスが辛うじて追討を逃れる

  • ① Caesar rursus ad vexandos hostes profectus
    • カエサルは再び敵たちを苦しめるために出発して、
  • magno coacto <equitum> numero ex finitimis civitatibus in omnes partes dimittit.
    • 騎兵の多数を隣接する諸部族から徴集して、あらゆる方面に派遣した。
      (訳注:<equitum> 「騎兵の」は近代の校訂者による挿入である。)
  • ② Omnes vici atque omnia aedificia quae quisque conspexerat incendebantur,
    • おのおのが目にしたすべての村々およびすべての建物が焼き打ちされた。
  • pecora interficiebantur[40], praeda ex omnibus locis agebatur;
    • 家畜は屠殺され、あらゆる場所から略奪品が奪い去られた。
  • ③ frumenta non solum tanta multitudine iumentorum atque hominum consumebantur,
    • 役畜および人間たちのこれほど大勢により穀物が消費され尽くしたのみならず、
  • sed etiam anni tempore atque imbribus procubuerant,
    • 季節と豪雨によってさえも(穀物が)倒れた。
  • ut si qui etiam in praesentia se occultassent,
    • その結果、もし(エブロネス族の)何者かが現状では身を隠しているとしても、
  • tamen his deducto exercitu rerum omnium inopia pereundum videretur.
    • それでも彼らは(ローマ人の)軍隊が引き揚げれば、あらゆるものの欠乏により死滅するはずと思われた。
  • ④ Ac saepe in eum locum ventum est tanto in omnes partes diviso equitatu,
    • たいへん多くの騎兵隊があらゆる方面に分遣されて、しばしば以下のような状態に出くわした。
  • ut non modo visum ab se Ambiorigem in fuga circumspicerent captivi
    • 捕虜たちが、自分たちによって逃亡中のアンビオリクスが目撃されたと見回しただけでなく、
  • nec plane etiam abisse ex conspectu contenderent,
    • (アンビオリクスが)視界からまったく消え去ってはいないとさえ主張した。
  • ⑤ ut spe consequendi inlata atque infinito labore suscepto,
    • その結果、(アンビオリクスを)追跡する希望がもたらされて、さらに限りない労苦が従事された。
  • qui se summam ab Caesare gratiam inituros putarent,
    • カエサルから最高の恩恵を得ようと思った者たちは、
  • paene naturam studio vincerent,
    • 熱意により(身体的な)資質にほとんど打ち克ったが、
  • semperque paulum ad summam felicitatem defuisse videretur,
    • いつも最高の恵みにあと少しで足りなかったと思われる。
  • ⑥ atque ille latebris aut silvis[41] aut saltibus se eriperet
    • かつ彼(アンビオリクス)は隠れ処、あるいは森林、あるいは峡谷によって自らを救い、
  • et noctu occultatus alias regiones partesque peteret
    • 夜に秘されて、別の地方や方面をめざした。
  • non maiore equitum praesidio quam quattuor,
    • 4名より多くない騎兵の護衛によって、
  • quibus solis vitam suam committere audebat.
    • 自らの生命をその者たちだけにあえて委ねたのだ。

44節

[編集]

カエサルが撤退し、造反者アッコを処刑する

  • ① Tali modo vastatis regionibus
    • このようなやり方で(エブロネス族の)諸地域を荒廃させて、
ドゥロコルトルム(現在のランス)に建てられた帝政ローマ時代(3世紀)の凱旋門
  • exercitum Caesar duarum cohortium damno Durocortorum Remorum reducit
  • concilioque in eum locum Galliae indicto
    • その地においてガッリアの(領袖たちの)会合を公示して、
  • de coniuratione Senonum et Carnutum quaestionem habere instituit
  • ② et de Accone, qui princeps eius consilii fuerat,
    • その謀計の首謀者であったアッコについては
  • graviore sententia pronuntiata more maiorum supplicium sumpsit.
    • より重い判決が布告され、(ローマ人の)先祖の習慣により極刑に処した。
      (訳注:ローマ史家モムゼンは、アッコはローマの先導吏リクトル により斬首されたと言及している[42]
      外国から来た侵略者カエサルがこのような刑罰を下したことに、ガッリア人たちは憤激した。第7巻1節を参照。)
  • ③ Nonnulli iudicium veriti profugerunt.
    • 少なからぬ者たちは、裁判を恐れて逃走した。
  • Quibus cum aqua atque igni interdixisset,
    • その者たちには水と火が禁じられたうえで、
      (訳注:「水と火を禁じる」とは追放処分のことで、居住権や財産の没収などを指す。)
  • duas legiones ad fines Treverorum, duas in Lingonibus,
  • sex reliquas in Senonum finibus Agedinci in hibernis conlocavit
  • frumentoque exercitui proviso,
    • 軍隊の糧秣を調達してから、
  • ut instituerat, in Italiam ad conventus agendos profectus est.
    • 定めていたように、イタリアに開廷(巡回裁判)を行なうために出発した。
      (訳注:ここで「イタリア」とはカエサルが総督を務めるガッリア・キサルピーナのことと思われる。)

脚注

[編集]
  1. ^ ラテン語文は、s:la:Commentarii_de_bello_Gallico/Liber_VIII#54 などを参照。
  2. ^ 英訳は、s:en:Commentaries_on_the_Gallic_War/Book_8#54 などを参照。
  3. ^ s:en:Plutarch's_Lives_(Clough)/Life_of_Pompey より
  4. ^ 英語版ウィキソースでは「they make advances to him through the Aedui, whose state was from ancient times under the protection of Rome.」と英訳されている。
  5. ^ 『ゲルマーニア』タキトゥス著、泉井久之助訳注、岩波文庫の38章「スエービー」などを参照。
  6. ^ 『モムゼン ローマの歴史Ⅳ』長谷川博隆訳、名古屋大学出版会、のp.201, p.224, p.232などを参照。
  7. ^ 『ゲルマーニア』タキトゥス著、泉井久之助訳注、岩波文庫の36章「ケルスキー」などを参照。
  8. ^ 『ゲルマーニア』タキトゥス著、泉井久之助訳注、岩波文庫の28章などを参照。
  9. ^ 『ケルト事典』ベルンハルト・マイヤー著、鶴岡真弓監修、創元社の「ポセイドニオス」「カエサル」の項を参照。
  10. ^ 『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』ストラボン著、飯尾都人訳、龍溪書舎を参照。
  11. ^ 『神代地誌』ディオドロス著、飯尾都人訳、龍溪書舎を参照。
  12. ^ 『世界地理』ポンポニウス・メラ著、飯尾都人訳(上掲『神代地誌』に所収)
  13. ^ 『ゲルマーニア』タキトゥス著、泉井久之助訳注、岩波文庫などを参照。
  14. ^ 14.0 14.1 w:en:Pagus 等を参照。
  15. ^ ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』(前掲、p.330)
  16. ^ adlegitur はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  17. ^ ディオドロス『神代地誌』(前掲、p.408)
  18. ^ ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』(前掲、第7巻 第3章 第5節)
  19. ^ ディオドロス『神代地誌』(前掲、p.408)
  20. ^ ディオドロス『神代地誌』(前掲、p.410-p.411)
  21. ^ ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』(前掲、p.341-p.342)
  22. ^ ポンポニウス・メラ『世界地理』(前掲、p.549)
  23. ^ 例えば『ケルト人─蘇るヨーロッパ<幻の民>』C.エリュエール著、鶴岡真弓監修、創元社、p.130の挿絵などを参照。
  24. ^ The Wicker Man”はウィッカーマンを題材にした1973年のイギリスのカルト映画作品。
  25. ^ The Wicker Man”は上記作品をリメイクした2006年のアメリカ・カナダ・ドイツの映画作品。
  26. ^ ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』(前掲、p.343)
  27. ^ ディオドロス『神代地誌』(前掲、p.410~p.411)
  28. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』43章(ラテン語原文)を参照。
  29. ^ 『ケルト事典』(前掲)「ローマ風解釈」の項を参照。
  30. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』2章・9章を参照
  31. ^ ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌Ⅰ』(前掲、p.510)
  32. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』23章・16章などを参照。26章では農耕についても解説されている。
  33. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』21章を参照。
  34. ^ タキトゥス『ゲルマーニア』泉井久之助訳注、岩波文庫、p.131-132の注などを参照
  35. ^ eum はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  36. ^ in castris はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  37. ^ cum はα系写本の記述で、β系写本では in となっている。
  38. ^ ad はα系写本の記述で、β系写本では apud となっている。
  39. ^ deficiens はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  40. ^ pecora interficiebantur はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  41. ^ aut silvis はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
  42. ^ 『モムゼン ローマの歴史Ⅳ』長谷川博隆訳、名古屋大学出版会、p.233 を参照。

参考リンク

[編集]
  • ウィクショナリー フランス語版