民法第372条

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

法学民事法民法コンメンタール民法第2編 物権

条文[編集]

留置権等の規定の準用

第372条
第296条第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。

解説[編集]

準用のあてはめ

  1. 抵当権の不可分性(第296条準用)
    抵当権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、抵当物件の全部についてその権利を行使することができる。
  2. 抵当権の物上代位(第304条準用)
    1. 抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、抵当権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
      • 典型例として、抵当権のついた家屋が火災にあった場合の火災保険金があげられる。
    2. 債務者が抵当権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
  3. 物上保証人の求償権(第351条準用)
    他人の債務を担保するため抵当権を設定した者は、その債務を弁済し、又は抵当権の実行によって抵当物件の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。

参照条文[編集]

判例[編集]

  1. 配当異議(最高裁判決 昭和43年09月26日)民法第145条民法第423条
    1. 物上保証人は被担保債権の消滅時効を援用することができるか
      他人の債務のために自己の所有物件に抵当権を設定した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。
    2. 債権者はその債務者に代位して他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができるか
      債権者は、自己の債権を保全するに必要な限度で、債務者に代位して、他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができる。
  2. 配当異議(最高裁判決 昭和53年07月04日)
    1. 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として数個の抵当権が設定され物上保証人所有の不動産について先に競売がされた場合における物上保証人と後順位低当権者との優劣
      債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は、物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権から優先して弁済を受けることができる。
    2. 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として数個の抵当権が設定され物上保証人所有の不動産について先に競売がされた場合における後順位抵当権者の優先弁済権と登記又は差押の要否
      債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は、物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権からの優先弁済権を主張するについて登記又は差押を必要としない。
  3. 配当異議(最高裁判決 昭和60年05月23日)民法第315条民法第392条2項、民法第500条民法第501条民法第502条1項
    1. 共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産に債権者を異にする後順位抵当権が設定され乙不動産が先に競売された場合に甲不動産から弁済を受けるときにおける甲不動産の後順位抵当権者と乙不動産の後順位抵当権者の優劣
      共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において、乙不動産が先に競売されて一番抵当権者が弁済を受けたときは、乙不動産の後順位抵当権者は、物上保証人に移転した甲不動産に対する一番抵当権から甲不動産の後順位抵当権者に優先して弁済を受けることができる。
    2. 物上保証人がその所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で代位権不行使の特約をした場合と物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者の優先弁済を受ける権利
      物上保証人が、その所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で、債権者の同意がない限り弁済等により取得する権利を行使しない旨の特約をしても、物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者は、物上保証人が弁済等により代位取得する抵当権から優先弁済を受ける権利を失わない。
    3. 債権の一部につき代位弁済がされた場合の競落代金の配当についての債権者と代位弁済者との優劣
      債権の一部につき代位弁済がされた場合、右債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当については、代位弁済者は債権者に劣後する。
  4. 不当利得返還(最高裁判決 平成1年10月27日)民法第494条
    抵当権の物上代位と抵当不動産について供託された賃料の還付請求権
    抵当不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができる。
  5. 求償金 (最高裁判決 平成2年12月18日)民法第460条
    物上保証人と求償権の事前行使の可否
    物上保証人は、被担保債権の弁済期が到来しても、あらかじめ求償権を行使することはできない。
  6. 取立債権請求事件(最高裁判所判例 平成10年01月30日):民法第467条
    抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡
    抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
  7. 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年04月14日)民法第613条
    抵当不動産の賃借人が取得する転貸賃料債権について抵当権者が物上代位権を行使することの可否
    抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
  8. 取立債権請求事件(最高裁判決 平成13年03月13日)
    抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって賃料債権に物上代位権の行使としての差押えをした抵当権者に対抗することの可否
    抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
    • 物上代位権の行使としての差押えのされる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後においては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はない。
  9. 取立債権請求事件(最高裁判決 平成14年3月28日)民法第511条民法第619条2項,民事執行法第193条
    賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当
    敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
  10. 破産債権確定請求事件(最高裁判決 平成14年09月24日)破産法第24条破産法第26条民法第502条1項
    債務者に対する破産宣告後に物上保証人から届出債権の一部の弁済を受けた破産債権者が権利を行使し得る範囲
    債権の全額を破産債権として届け出た債権者は,債務者に対する破産宣告後に物上保証人から届出債権の弁済を受けても,その全部の満足を得ない限り,届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができる。

前条:
民法第371条
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
民法
第2編 物権

第10章 抵当権

第1節 総則
次条:
民法第373条
(抵当権の順位)
このページ「民法第372条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。