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日本国憲法第13条

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条文

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【個人の尊厳と公共の福祉】

第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

解説

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公共の福祉に反しない限り

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参照条文

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判例

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  1. 尊属殺、殺人、死体遺棄(最高裁判決 昭和23年3月12日)第31条, 第36条
    死刑の合憲性
    憲法第13条においては、すべて国民は個人として尊重せられ、生命に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨を規定している。しかし、同時に同条においては、公共の福祉に反しない限りという厳格な枠をはめているから、もし公共の福祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限乃至剥奪されることを当然予想しているものといわねばならぬ。
  2. 賭場開張図利(最高裁判決 昭和25年11月22日)刑法第186条
    刑法第186条第2項賭場開張図利罪規定の合憲性
    刑法第186条第2項賭場開張図利罪の規定は、憲法第13条に違反しない。
    • 賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであつて、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従つて、一見各人に任かされた自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法27条1項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである。これわが国においては一時の娯楽に供する物を賭した場合の外単なる賭博でもこれを犯罪としその他常習賭博、賭場開張等又は富籖に関する行為を罰する所以であつて、これ等の行為は畢竟公益に関する犯罪中の風俗を害する罪であり、新憲法にいわゆる公共の福祉に反するものといわなければならない。
    政府乃至都道府縣が賭場開張図利乃至富籤罪と本質上同一の行為を為すことによつて右犯罪行為を公認したものといえるか
    賭博及び富籤に関する行為が風俗を害し、公共の福祉に反するものと認むべきことは前に説明したとおりであるから、所論は全く本末を顛倒した議論といわなければならない。すなわち、政府乃至都道府縣が自ら賭場開張図利乃至富籤罪と同一の行為を為すこと自体が適法であるか否か、これを認める立法の当否は問題となり得るが、現に犯罪行為と本質上同一である或る種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利乃至富籤罪を公認したものということはできない。
  3. 電車顛覆致死、偽証(三鷹事件 最高裁判決 昭和30年06月22日)
    刑法第127条が、刑法第126条第3項の例により汽車または電車の顛覆若しくは破壊による人の致死の場合に、死刑をもつて処断し得ることを定めても、憲法第13条、第36条に違反しない。
    • 刑法が刑罰として死刑を存置するのは、死刑の威嚇力によつて重大犯罪に対する一般予防をなし、死刑の執行によつて特殊な社会悪を根絶し、これによつて社会を防衛せんとするものであつて、結局社会公共の福祉のため死刑制度の存置の必要性を承認しているものと解せられるのである。そして死刑の存置は憲法13条36条に違反するものでないことは、既に当裁判所判例の示すところである(最判昭和23年3月12日)。
    • 刑法127条125条の犯罪に内在する広汎な危険性が具体的に実現された危害の程度に応じ、その処断の軽重を区別しようとするものであり、単なる過失致死の罪に対して死刑を科するものとは全く趣を異にするものであつて、違憲とすることはできない。
  4. 強盗殺人、死体遺棄等(最高裁判決 昭和31年12月25日)
    無期懲役刑の合憲性
    無期懲役刑は憲法第13条第31条に違反しない。
    • 昭和23年最高裁大法廷判決により、死刑すら「残虐な刑罰」とされていないのであるから、無期懲役を残虐な刑罰ということはできない。
  5. 職業安定法違反(最高裁判決 昭和33年5月6日 刑集12巻7号1351頁)憲法11条憲法18条刑法第18条
    刑法第18条は、憲法第11条、第13条、第18条に違反するか
    刑法第18条(労役場留置)は、憲法第11条、第13条、第18条に違反しない。
    • 本判決が引用する昭和24年10月5日大法廷判決
      罰金刑の言渡を受けた者が罰金を完納することができない場合の労役場における留置は、刑の執行に準ずべきものであるから、(旧刑訴565条、刑訴505条)留置1日に相応する金銭的換価率は、必ずしも自由な社会における勤労の報酬額と同率に決定されるべきものではない。本件は、いわゆる旧法事件であるからこれに適用されるのは旧刑事訴訟法であるが、同法は、本刑に通算すべき未決勾留1日を金額の1円に見積つているにすぎないのであり(旧刑訴556条)、原審が本件につき判決をした直前に制定された新刑事訴訟法においてさえ、本刑に通算すべき未決勾留1日を金額の20円に見積るにとゞめているのである(新刑訴495条)。されば、原審が被告人両名において罰金を完納することができないときは金20円を1日に換算した期間被告人等を労役場に留置すると言渡したことは、基本的人権と法の下における国民の平等を保障した憲法の所論条規に反するものではない。
  6. 広島市集団行進及び集団示威運動に関する条例違反、公務執行妨害(最高裁判決 昭和35年7月20日 刑集14巻9号1197頁)憲法21条,憲法11条
    昭和25年広島市条例第32号集団行進及び集団示威運動に関する条例の合憲性。
    昭和25年広島市条例第32号集団行進及び集団示威運動に関する条例は、憲法第21条、第11条、第13条に違反しない。
    • 本条例の対象とする集団行動、とくに集団示威運動は、本来平穏に、秩序を重んじてなさるべき純粋なる表現の自由の行使の範囲を逸脱し、静ひつを乱し、暴力に発展する危険性のある物理的力を内包しているものであり、従つてこれに関するある程度の法的規制は必要でないとはいえない。その運用の如何によつては憲法21条の保障する表現の自由の保障を侵す危険を絶対に包蔵しないとはいえないが、濫用の虞れがあり得るからといつて、本条例を憲法21条に違反するものとはいえない。してみれば本条例が憲法11条、13条に違反するといえないことも明らかである。
  7. 傷害致死(最高裁判決昭和38年5月15日)憲法第20条,刑法第205条
    加持祈祷の結果人を死亡させた行為と憲法第20条第1項
    精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加持祈祷行為がなされた場合でも、それが原判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、それにより被害者を死に致したものである以上、憲法第20条第1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを刑法第205条に該当するものとして処罰することは、何ら憲法の右条項に反するものではない。
    • 憲法20条1項は信教の自由を何人に対してもこれを保障することを、同2項は何人も宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されないことを規定しており、信教の自由が基本的人権の一として極めて重要なものであることはいうまでもない。しかし、およそ基本的人権は、国民はこれを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うべきことは憲法12条の定めるところであり、また同13条は、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする旨を定めており、これら憲法の規定は、決して所論のような教訓的規定というべきものではなく、従つて、信教の自由の保障も絶対無制限のものではない。
  8. 公務執行妨害、傷害(京都府学連事件 最高裁判決 昭和44年12月24日 刑集23巻12号1625頁)憲法35条
    1. 昭和29年京都市条例第10号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例の合憲性
      昭和29年京都市条例第10号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例は、憲法21条に違反しない。
    2. みだりに容ぼう等を撮影されない自由と憲法13条
      何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し許されない。
      • 憲法13条は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護している。
      • 個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・態姿を撮影されない自由を有する。
    3. 犯罪捜査のため容ぼう等の写真撮影が許容される限度と憲法13条、35条
      警察官による個人の容ぼう等の写真撮影は、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、証拠保全の必要性および緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、憲法一三条、三五条に違反しない。
      • 警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際に、犯人のみならず第三者である個人が含まれているとしても、許容される場合があり得る。
  9. 損害賠償等(前科照会事件 最高裁判決 昭和56年4月14日 民集35巻3号620頁)
    いわゆる政令指定都市の区長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告したことが過失による公権力の違法な行使にあたるとされた事例
    弁護士法23条の2に基づき前科及び犯罪経歴の照会を受けたいわゆる政令指定都市の区長が、照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」との記載があつたにすぎないのに、漫然と右照会に応じて前科及び犯罪経歴のすべてを報告することは、前科及び犯罪経歴については、従来通達により一般の身元照会には応じない取扱いであり、弁護士法23条の2に基づく照会にも回答できないとの趣旨の自治省行政課長回答があつたなど、原判示の事実関係のもとにおいては、過失による違法な公権力の行使にあたる。
    • 会社の解雇を巡る争訟で京都市中京区長が犯罪歴を開示した事件、およびその是非について争われた
      • 「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接に関わる事項であり、前科等のあるものもこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」
      • 「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」
  10. 損害賠償等(堀木訴訟 最高裁判決 昭和57年7月7日 民集36巻7号1235頁)憲法14条憲法25条、児童扶養手当法(昭和48年法律第93号による改正前のもの)4条3項3号
    1. 児童扶養手当法4条3項3号と憲法25条
      児童扶養手当法4条3項3号は憲法25条に違反しない。
    2. 児童扶養手当法4条3項3号と憲法14条、13条
      児童扶養手当法4条3項3号は憲法14条、13条に違反しない。
      • 本件併給調整条項がその受給する障害福祉年金と児童扶養手当との併給を禁じたことが憲法14条及び13条に違反するか。
        受給者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をしたり、あるいは個人の尊厳を毀損するような内容の定めを設けているときは、憲法14条及び13条違反の問題を生じうるが、総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえない。また、本件併給調整条項が児童の個人としての尊厳を害し、憲法13条に違反する恣意的かつ不合理な立法であるといえない。
  11. 道路交通法違反(オービス事件 最高裁判決 昭和61年2月14日 刑集40巻1号48頁)
    自動速度監視装置による速度違反車両運転者及び同乗者の容ぼうの写真撮影の合憲性
    自動速度監視装置により速度違反車両の運転者及び同乗者の容ぼうを写真撮影することは、憲法13条に違反しない。
    • 速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法13条、21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決の趣旨に徴して明らか。
  12. 損害賠償(北方ジャーナル事件 最高裁判決 昭和61年6月11日 民集40巻4号872頁)憲法21条
    1. 出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めと憲法21条2項前段にいう検閲
      雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項前段にいう検閲に当たらない。
    2. 名誉侵害と侵害行為の差止請求権
      名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
    3. 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否
      人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
    4. 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋
      公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法21条の趣旨に反するものとはいえない。
  13. 慰藉料(ノンフィクション「逆転」事件 最高裁判決 平成6年2月8日 民集48巻2号149頁)
    ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合における損害賠償請求の可否
    ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。
  14. 外国人登録法違反(外国人指紋押捺制度の合憲性 最高裁判決 平成7年12月15日 刑集49巻10号842頁)外国人登録法(昭和57年法律第75号による改正前のもの)14条1項、18条1項8号
    1. みだりに指紋の押なつを強制されない自由と憲法13条
      何人も個人の私生活上の自由の一つとしてみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有し、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、憲法13条の趣旨に反し許されない。
      • 憲法一三条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される。
    2. 我が国に在留する外国人について指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号と憲法13条
      我が国に在留する外国人について指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号は、憲法13条はに違反しない。
      • 外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度は、昭和27年に外国人登録法が立法された際に、同法1条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定できる。
      • 具体的な制度内容については、社会の状況変化に応じた改正が行われているが、本件当時の制度内容は、押なつ義務が三年に一度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。
  15. 損害賠償等請求事件(「石に泳ぐ魚」出版差止請求事件 最高裁判決 平成14年9月24日 民集207号243頁)
    名誉,プライバシー等の侵害に基づく小説の出版の差止めを認めた原審の判断に違法がないとされた事例
    甲をモデルとし,経歴,身体的特徴,家族関係等によって甲と同定可能な乙が全編にわたって登場する小説において,乙が顔面にしゅようを有すること,これについて通常人が嫌う生物や原形を残さない水死体の顔などに例えて表現されていること,乙の父親が逮捕された経歴を有していることなどの記述がされていることなど判示の事実関係の下では,公共の利益にかかわらない甲のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む同小説の出版により公的立場にない甲の名誉,プライバシー及び名誉感情が侵害され,甲に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるとして,同小説の出版の差止めを認めた原審の判断には,違法がない。
  16. 損害賠償請求事件(夫婦別姓を求めたもの 最高裁判決 平成27年12月16日 民集第69巻8号2586頁)憲法14条1項、憲法24条民法第750条
    民法750条と憲法13条
    民法750条は憲法13条に違反しない。
    • 氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
    • これらの婚姻前に築いた個人の信用,評価,名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は,憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの,後記のとおり,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり,憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる。
  17. 性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件(最高裁決定令和5年10月25日)
    • 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条
      家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
      1. 18歳以上であること。
      2. 現に婚姻をしていないこと。
      3. 現に未成年の子がいないこと。
      4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
      5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
        • 原審では、第5号の違憲性についても判断されたが(合憲判決)、本決定では第4号違憲決定・破棄差戻となったため憲法判断はなされていない。
    性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する
    • 自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由(「身体への侵襲を受けない自由」)が、人格的生存に関わる重要な権利として、憲法第13条によって保障されていることは明らかである。
    • 本件規定は、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対して、性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を実現するために、同手術を受けることを余儀なくさせるという点において、身体への侵襲を受けない自由を制約するものということができ、このような制約は、性同一性障害を有する者一般に対して生殖腺除去手術を受けることを直接的に強制するものではないことを考慮しても、身体への侵襲を受けない自由の重要性に照らし、必要かつ合理的なものということができない限り、許されないというべきである。
    • 「必要かつ合理的なもの」か否かの判定
      1. 本件規定は、性別変更審判を受けた者について変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば、親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じさせかねないこと、長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で急激な形での変化を避ける必要があること等の配慮に基づくものと解される。
        →特例法の制定当時に考慮されていた本件規定による制約の必要性は、その前提となる諸事情の変化により低減している。
      2. 制定当時、生殖腺除去手術を含む性別適合手術は段階的治療における最終段階の治療として位置付けられていたことからすれば、性別変更審判を求める者について生殖腺除去手術を受けたことを前提とする要件を課すことは、性同一性障害についての必要な治療を受けた者を対象とする点で医学的にも合理的関連性を有するものであったということができる。
        →特例法の制定後、性同一性障害に対する医学的知見が進展し、性同一性障害を有する者の示す症状及びこれに対する治療の在り方の多様性に関する認識が一般化して段階的治療という考え方が採られなくなり、性同一性障害に対する治療として、どのような身体的治療を必要とするかは患者によって異なるものとされたことにより、必要な治療を受けたか否かは性別適合手術を受けたか否かによって決まるものではなくなり、上記要件を課すことは、医学的にみて合理的関連性を欠くに至っている。
      身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るもの。
  18. 国家賠償請求事件(最高裁判決令和6年7月3日)
    1. 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条1項)は、憲法13条及び14条1項に違反する
      • 優生保護法中のいわゆる優生規定
        優生保護法はその目的に「不良な子孫の出生防止」(同法第1条)を掲げ、障害等を理由に本人の同意なしでも不妊手術(優生手術)を認めていた。手術の必要性は医師が判断し、都道府県が設置する優生保護審査会が諾否を決めたが、不適とされる例は少なかった。また、政府は審査を要件とする優生手術を行う際には身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある旨の昭和28年厚生事務次官知を各都道府県知事宛てに発出するなどして、優生手術を行うことを積極的に推進していた。厚生労働省の保管する資料によれば、昭和24年以降平成8年改正までの間に本件規定に基づいて不妊手術を受けた者の数は約2万5000人であるとされている。
      • 憲法13条は、人格的生存に関わる重要な権利として、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障しているところ(最高裁令和2年(ク)第993号同5年10月25日大法廷決定・民集77巻7号1792頁参照)、不妊手術は、生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であるから、不妊手術を受けることを強制することは、上記自由に対する重大な制約に当たる。したがって、正当な理由に基づかずに不妊手術を受けることを強制することは、同条に反し許されないというべきである。これを本件規定についてみると、平成8年改正前の優生保護法1条の規定内容等に照らせば、本件規定の立法目的は、専ら、優生上の見地、すなわち、不良な遺伝形質を淘汰し優良な遺伝形質を保存することによって集団としての国民全体の遺伝的素質を向上させるという見地から、特定の障害等を有する者が不良であるという評価を前提に、その者又はその者と一定の親族関係を有する者に不妊手術を受けさせることによって、同じ疾病や障害を有する子孫が出生することを防止することにあると解される。しかしながら、憲法13条は個人の尊厳と人格の尊重を宣言しているところ、本件規定の立法目的は、特定の障害等を有する者が不良であり、そのような者の出生を防止する必要があるとする点において、立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても、正当とはいえないものであることが明らかであり、本件規定は、そのような立法目的の下で特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反するものといわざるを得ない。したがって、本件規定により不妊手術を行うことに正当な理由があるとは認められず、本件規定により不妊手術を受けることを強制することは、憲法13条に反し許されないというべきである。なお、本件規定中の優生保護法3条1項1号から3号までの規定は、本人の同意を不妊手術実施の要件としている。しかし、同規定は、本件規定中のその余の規定と同様に、専ら優生上の見地から特定の個人に重大な犠牲を払わせようとするものであり、そのような規定により行われる不妊手術について本人に同意を求めるということ自体が、個人の尊厳と人格の尊重の精神に反し許されないのであって、これに応じてされた同意があることをもって当該不妊手術が強制にわたらないということはできない。加えて、優生上の見地から行われる不妊手術を本人が自ら希望することは通常考えられないが、周囲からの圧力等によって本人がその真意に反して不妊手術に同意せざるを得ない事態も容易に想定されるところ、同法には本人の同意がその自由な意思に基づくものであることを担保する規定が置かれていなかったことにも鑑みれば、本件規定中の同法3条1項1号から3号までの規定により本人の同意を得て行われる不妊手術についても、これを受けさせることは、その実質において、不妊手術を受けることを強制するものであることに変わりはないというべきである。
      • 憲法14条違反;憲法第14条判例参照
    2. 上記優生規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける
      国家賠償法第1条判例参照
    3. 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる
      民法第1条判例参照
    4. 同条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例
      民法第1条判例参照

前条:
日本国憲法第12条
【自由・権利の保持責任とその濫用の禁止】
日本国憲法
第3章 国民の権利及び義務
次条:
日本国憲法第14条
【法の下の平等、貴族政治の廃止、栄典】
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