国家賠償法第1条
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条文
[編集]【公務員の不法行為と賠償責任、求償権】
- 第1条
- 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
- 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
解説
[編集]損害賠償責任は、過失責任であると規定している。
損害賠償
[編集]要件
[編集]最高裁判決令和5年9月12日憲法53条違憲国家賠償等請求事件 宇賀克也裁判官反対意見より
- 国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員による作為又は不作為であること
- 職務関連性があること
- 違法性があること
- 故意又は過失があること
- 他人に損害が生じていること
- 違法な作為又は不作為と損害の間に相当因果関係があること
- 損害は、法的保護に値するものであること
主体:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員
[編集]契機:その職務を行うについて
[編集]行政上の不作為
[編集]行為者の主観:故意又は過失によつて
[編集](参考)違法性
[編集]効果
[編集]国又は公共団体が賠償する
[編集]求償
[編集]要件
[編集]行為者の故意又は重大な過失
[編集]参照条文
[編集]判例
[編集]- 農地委員会解散命令無効確認並に慰藉料請求(最高裁判決 昭和30年04月19日)民法第709条
- 公権力の行使に当る公務員の職務行為に基く損害については、国または公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行に当つた公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない。
- 損害賠償請求、同附帯控訴(最高裁判決 昭和43年06月27日)民法第724条,民法第147条1号,国家賠償法第4条
- 1項
- 建物および工作物除去等請求(最高裁判決 昭和46年11月30日)国家賠償法第4条、国家賠償法第5条、土地区画整理法第77条、土地区画整理法第99条、特別都市計画法14条、特別都市計画法15条、民法第145条、地方自治法第236条2項
- 損害賠償(最高裁判所判決昭和53年7月17日)失火ノ責任ニ関スル法律,国家賠償法第4条
- 公権力の行使にあたる公務員の失火と「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用
- 公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、失火の責任に関する法律が適用される。
- 国又は公共団体の損害賠償の責任について、国家賠償法4条は、同法1条1項の規定が適用される場合においても、民法の規定が補充的に適用されることを明らかにしているところ、失火責任法は、失火者の責任条件について民法709条の特則を規定したものであるから、国家賠償法4条の「民法」に含まれると解するのが相当である。また、失火責任法の趣旨にかんがみても、公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任についてのみ同法の適用を排除すべき合理的理由も存しない。したがつて、公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、国家賠償法4条により失火責任法が適用され、当該公務員に重大な過失のあることを必要とするものといわなければならない。
- 損害賠償(最高裁判決 昭和56年01月27日)民法第709条
- 損害賠償等(最高裁判決昭和56年4月14日)弁護士法第23条の2
- いわゆる政令指定都市の区長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告したことが過失による公権力の違法な行使にあたるとされた事例
- 弁護士法23条の2に基づき前科及び犯罪経歴の照会を受けたいわゆる政令指定都市の区長が、照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」との記載があつたにすぎないのに、漫然と右照会に応じて前科及び犯罪経歴のすべてを報告することは、前科及び犯罪経歴については、従来通達により一般の身元照会には応じない取扱いであり、弁護士法23条の2に基づく照会にも回答できないとの趣旨の自治省行政課長回答があつたなど、原判示の事実関係のもとにおいては、過失による違法な公権力の行使にあたる。
- 損害賠償(最高裁判決 昭和57年04月01日)民法第715条1項
- 損害賠償(最高裁判決 昭和57年04月23日)
- 損害賠償(最高裁判決 昭和57年04月23日)道路法第47条4項,車両制限令12条
- 損害賠償(最高裁判決 昭和58年02月18日)
- 損害賠償(最高裁判決 昭和60年07月16日)建築基準法第6条3項、4項
- 損害賠償(在宅投票制度廃止事件 最高裁判決 昭和60年11月21日)公職選挙法第49条1項
- 国会議員の立法行為と国家賠償責任
- 国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。
- 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為の違法性の有無
- 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為は、国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たらない。
- 国会議員の立法行為と国家賠償責任
- 損害賠償(最高裁判決 昭和62年02月06日 )民法第417条,民法第722条1項
- 法廷メモ訴訟(最高裁判決 平成1年03月08日)憲法14条、憲法21条、憲法82条、裁判所法71条、刑訴法288条
- 法廷警察権の行使は、法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使ということはできない。
- 損害賠償(最高裁判決 平成5年03月11日)
- 損害賠償(最高裁判決 平成9年09月09日)民法第710条,w:憲法第51条,衆議院規則第45条1項
- 損害賠償,民訴法第260条2項による仮執行の原状回復請求事件(最高裁判決 平成16年04月27日)鉱山保安法第1条,鉱山保安法第4条,鉱山保安法(昭和37年法第律第105号による改正前のもの)30条,じん肺法(昭和52年法律第76号による改正前のもの)2条1項1号,石炭鉱山保安規則(昭和61年通商産業省令第74号による改正前のもの)284条の2,民法第724条
- 通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
- 炭鉱で粉じん作業に従事した労働者が粉じんの吸入によりじん肺にり患した場合において、炭鉱労働者のじん肺り患の深刻な実情及びじん肺に関する医学的知見の変遷を踏まえて、じん肺を炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じたものを広く含むものとして定義し、これを施策の対象とするじん肺法が成立したこと、そのころまでには、さく岩機の湿式型化によりじん肺の発生の原因となる粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかとなっており、金属鉱山と同様に、すべての石炭鉱山におけるさく岩機の湿式型化を図ることに特段の障害はなかったのに、同法成立の時までに、鉱山保安法に基づく省令の改正を行わず、さく岩機の湿式型化等を一般的な保安規制とはしなかったことなど判示の事実関係の下では、じん肺法が成立した後、通商産業大臣が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
- 加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合における民法724条後段所定の除斥期間の起算点
- 民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する。
- 通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成17年04月21日)
- 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件(在外日本人選挙権訴訟 最高裁判決平成17年9月14日)憲法第15条,憲法第41条,憲法第43条1項,憲法第44条,公職選挙法第4章の2 在外選挙人名簿,公職選挙法第42条,公職選挙法第49条の2,公職選挙法附則8項,公職選挙法(平成12年法律第62号による改正前のもの)21条1項,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)42条,住民基本台帳法15条1項,行政事件訴訟法4条
- 公職選挙法が,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が国政選挙において投票をするのを全く認めていなかったことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。
- 公職選挙法附則8項の規定のうち国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。
- 在外国民が次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。
- 在外国民と次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができる地位にある。
- 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合
- 国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。
- 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙までに国会が在外国民の国政選挙における投票を可能にするための立法措置を執らなかったことについて国家賠償請求が認容された事例
- 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには,上記国民に上記選挙権の行使を認める制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,上記国民の国政選挙における投票を可能にするための法律案が廃案となった後,平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が上記投票を可能にするための立法措置を執らなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきであり,国は,上記選挙において投票をすることができなかったことにより精神的苦痛を被った上記国民に対し,慰謝料各5000円の支払義務を負う。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成19年01月25日)民法第715条
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成27年12月16日)民法第733条(cf.憲法第81条)
- 立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合
- 法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがある。
- 国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとされた事例
- 平成20年当時において国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことは,(1)同項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分が合理性を欠くに至ったのが昭和22年民法改正後の医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等によるものであり,(2)平成7年には国会が同条を改廃しなかったことにつき直ちにその立法不作為が違法となる例外的な場合に当たると解する余地のないことは明らかであるとの最高裁判所第三小法廷の判断が示され,(3)その後も上記部分について違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかったなど判示の事情の下では,上記部分が違憲であることが国会にとって明白であったということは困難であり,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
- 立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合
- 国家賠償請求事件(最高裁判決令和6年7月3日)
- 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条1項)は、憲法13条及び14条1項に違反する
- 優生保護法中のいわゆる優生規定
- 優生保護法はその目的に「不良な子孫の出生防止」(同法第1条)を掲げ、障害等を理由に本人の同意なしでも不妊手術(優生手術)を認めていた。手術の必要性は医師が判断し、都道府県が設置する優生保護審査会が諾否を決めたが、不適とされる例は少なかった。また、政府は審査を要件とする優生手術を行う際には身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある旨の昭和28年厚生事務次官知を各都道府県知事宛てに発出するなどして、優生手術を行うことを積極的に推進していた。厚生労働省の保管する資料によれば、昭和24年以降平成8年改正までの間に本件規定に基づいて不妊手術を受けた者の数は約2万5000人であるとされている。
- 優生保護法中のいわゆる優生規定
- 憲法13条違反;憲法第13条判例参照
- 憲法14条違反;憲法第14条判例参照
- 上記優生規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける
- 本件規定の内容は、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であったというべきであるから、本件規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けると解するのが相当である(最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。
- 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる
- 同条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例
- 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条1項)は、憲法13条及び14条1項に違反する
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