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ガリア戦記 第5巻

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

ガリア戦記> 第5巻 >注解

 C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI 

 LIBER QVINTVS 

ガリア戦記 第5巻の情勢図(BC54年)。
黄色の領域がローマ領。桃色が同盟部族領。
ガリア戦記 第5巻 目次

ブリタンニア再遠征の準備:
第二次ブリタンニア遠征:


アンビオリークスとエブローネース族の蜂起:

ネルウィイー族らベルガエ人同盟の蜂起:


インドゥーティオマールスとトレーウェリー族の蜂起:





01節 | 02節 | 03節 | 04節 | 05節 | 06節 | 07節 |
08節 | 09節 | 10節
11節 | 12節 | 13節 | 14節 | 15節 | 16節 | 17節 | 18節 | 19節 | 20節
21節 | 22節 | 23節
24節 | 25節 | 26節 | 27節 | 28節 | 29節 | 30節
31節 | 32節 | 33節 | 34節 | 35節 | 36節 | 37節
38節 | 39節 | 40節
41節 | 42節 | 43節 | 44節 | 45節 | 46節 | 47節 | 48節 | 49節 | 50節
51節 | 52節
53節 | 54節 | 55節 | 56節 | 57節 | 58節 |


37節 訳注:アドゥアトゥカの戦いについて
38節 訳注:ネルウィイー族とアトゥアトゥキー族について
40節 訳注:キケロー兄弟とカエサル
参考リンク



はじめに

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鉄器時代のブリテン島について

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鉄器時代後期のブリテン島南部の部族の配置。

ブリタンニア再遠征の準備

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1節

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造船計画、ピールスタエ族の問題


   カエサルが副官たちに造船の詳細を指示する
  • Earum modum formamque demonstrat.
    • (カエサルは)それら〔船団〕の仕様と外形を示す。
  • Ad celeritatem onerandi subductionesque
    • 荷積みすることの迅速さと(船を)陸揚げすることのために、
  • paulo facit humiliores, quam quibus in nostro mari uti consuevimus,
    • 我らの海において用いるのが常であったものよりも、(船体を)少しより低くする。
      (訳注:ローマ人は、地中海のことを Mare Nostrum我らの海」などと呼んでいた。)
  • atque id eo magis, quod propter crebras commutationes aestuum minus magnos ibi fluctus fieri cognoverat;
    • の頻繁な変動のゆえに、そこでは波浪があまり大きくならないことを知っていたので、なおさらである。
  • ad onera, ad multitudinem iumentorum transportandam
    • 積荷と役畜の多数を運搬するために、
  • paulo latiores, quam quibus in reliquis utimur maribus.
    • ほかの海で我々が用いているものよりも、(船体を)ややより幅広く。
Wikipedia
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ウィキペディアActuaria (英語)の記事がありまへん。
  • Has omnes actuarias imperat fieri,
  • quam ad rem multum humilitas adiuvat.
    • それらの事情において、(船体の)低さが大いに役立つ。


  • Ea, quae sunt usui ad armandas naves,
    • 船団を武装するために役立つものを、
  • ex Hispania adportari iubet.
    • ヒスパーニアから運んで来ることを、命じる。
      (訳注:ヒスパーニアは、ほぼ現在のイベリア半島
          この年(BC54年)は盟友ポンペーイウスが前執政官として
          ヒスパーニア総督だったので、便宜が図られたと考えられる。)


ローマ期(BC2~1世紀)のイッリュリクムパンノニアにおける部族の分布図。
図の右側中央に、PIRUSTAE(ピールスタエ族)の名が見える。
   ピールスタエ族の問題
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ウィキペディアConventus (独語)の記事がありまへん。
  • Ipse conventibus Galliae citerioris peractis
    • (カエサル)自身は、ガッリア・キテリオルでの法廷を完了してから、
      (訳注:Gallia citerior は Gallia Cisalpina と同じ。)
      (訳注:一部の属州では、総督が巡回して裁判を行うことがあった。)
  • in Illyricum proficiscitur,
  • quod a Pirustis finitimam partem provinciae
    • というのは、ピールスタエ族により、属州(イッリュリクム)に隣接する地方が、
      (訳注:ピールースタエ  Pīrūstae [1](ギリシア語では Πιροῦσται )とも
          ペールースタエ  Pērūstae (ギリシア語では Πειροῦσται )[2] とも呼ばれる。)
  • incursionibus vastari audiebat.
    • 襲撃され荒らされていると聞いていたからだ。
  • Eo cum venisset,
    • (カエサルは)そこにやって来ると、
  • civitatibus milites imperat
    • 諸部族に兵士(の供出)を命令して、
  • certumque in locum convenire iubet.
    • 定められた場所に集結することを命じた。
  • Qua re nuntiata
    • この事が報じられると、
  • Pirustae legatos ad eum mittunt,
    • ピールスタエ族は使節たちを彼(カエサル)のもとへ遣わした。
  • qui doceant nihil earum rerum publico factum consilio,
    • この者ら〔使節たち〕は、彼らの公けの事には何ら謀議をなしていない、と説いた。
  • seseque paratos esse demonstrant omnibus rationibus de iniuriis satisfacere.
    • 自分たちは、あらゆる方法で無法について償う用意があると言明した。
  • Accepta oratione eorum
    • 彼らの弁明を受け入れて、
  • Caesar obsides imperat eosque ad certam diem adduci iubet;
    • カエサルは人質(の供出)を命令して、彼ら〔人質〕を確定した日に連れて来ることを命じた。
  • nisi ita fecerint, sese bello civitatem persecuturum demonstrat.
    • もしそのように行なわなければ、戦争によって部族を懲罰するであろうと、言明した。
  • Iis ad diem adductis, ut imperaverat,
    • 彼ら〔人質〕が、命令されたように、期日までに連れて来られて、
  • arbitros inter civitates dat,
    • 部族国家間に仲裁人たちを立てて、
  • qui litem aestiment poenamque constituant.
    • 訴訟(の罰金)を見積もって、罰を決定させるようにした。

2節

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造船の進捗状況、トレーウェリー族の問題

  • His confectis rebus conventibusque peractis,
    • (カエサルは)これらの事柄を成し遂げ、(イッリュリクムの各地で)法廷を完了して、
      (訳注:属州イッリュリクムでも巡回裁判が行われていた。)
  • in citeriorem Galliam revertitur atque inde ad exercitum proficiscitur.
    • ガッリア・キテリオルに戻り、そこから軍隊のもとへ出発する。
      (訳注:軍隊は、ガッリア北部で冬営していた。
          カエサルが出発したのは、古代ローマの暦で5月末頃のこと。)
  • Eo cum venisset, circuitis omnibus hibernis,
    • (カエサルは)そこにやって来ると、すべての冬営地を巡察して、
      (訳注:α系写本の記述は circuitis だが、
          β系写本の記述は circumitis となっているが、意味は同じ。)
  • singulari militum studio in summa omnium rerum inopia
    • あらゆる物資のこのうえない欠乏において、兵士たちの格別の熱意により、
  • circiter DC(sescentas) eius generis, cuius supra demonstravimus, naves
    • 前に説明した種類の約600隻の船
      (訳注:1節で述べられた快速船のこと。)
  • et longas XXVIII(duodetriginta) invenit instructas
    • および長船〔軍船〕28隻が建造されているのを見出して、
  • neque multum abesse ab eo quin paucis diebus deduci possint.
    • わずかの日々で出帆させられ得ることからあまり遠からずであることを(も見出した)


  • Conlaudatis militibus atque iis, qui negotio praefuerant,
    • (カエサルは)兵士たちと職務を指揮していた者たちを誉めそやし、
  • quid fieri velit, ostendit
    • (彼らにより)何が行なわれることを(カエサルが)欲しているかを示し、
Wikipedia
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ウィキペディア Itius Portus (英語)の記事がありまへん。
Wikisource
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ウィキソース1911年ブリタニカ百科事典の「Itius_Portus」英語記事があります。
  • atque omnes ad portum Itium convenire iubet,
    • かつすべて(の船団)がイティウス港へ集結することを命じた。
      (訳注:「イティウス港」について述べているカエサル以外の古代の著述家は、
          地理学者ストラボーンがギリシア語で引用しているのみ。
          ブーローニュなどが有力とされてきたが、正確な場所は不明。
          北仏カレーに近いフランドル海岸のどこかと考えられているようだ。)
  • quo ex portu commodissimum in Britanniam traiectum esse cognoverat,
    • かの港からブリタンニアに渡らせることが非常に好都合であることを知っていたのだ。
  • circiter milium passuum XXX(triginta) transmissum a continenti:
    • 大陸から渡航するには、約30ローママイルである。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、30マイルは約44 km)
  • huic rei, quod satis esse visum est, militum relinquit.
    • この事〔船団の集結〕に十分であると思われるだけの兵士を残留させた。


   トレーウェリー族の問題
  • Ipse cum legionibus expeditis IIII(quattuor) et equitibus DCCC(octingentis)
    • (カエサル)自身は、軽武装の4個軍団騎兵800騎とともに
  • in fines Treverorum proficiscitur,
    • トレーウェリー族の領土に出発した。
  • quod hi neque ad concilia veniebant
    • というのは、彼らは(ガッリアの首長)会合に来たこともなかったし
  • neque imperio parebant
    • (ローマの)威令にも服従しなかったし、
  • Germanosque Transrhenanos sollicitare dicebantur.
    • レーヌス川ライン川)の向こう側のゲルマーニア人をそそのかしていると言われていたためであった。
      (訳注:Germani Transrhenani 「レーヌスの向こう側のゲルマーニア人」は、ライン川東岸の諸部族の総称。
          Germani Cisrhenani「レーヌスのこちら側のゲルマーニア人」(西岸の諸部族) の対義語で、
           西岸の諸部族が東岸の諸部族を招き寄せているというのが『ガリア戦記』の主張である。)
      (訳注:第2巻24節では、トレーウェリー族は、カエサルの同盟部族として参戦していたが、
          戦況に絶望して、故国へ急いで帰ってしまった、と述べられた。)

3節

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トレーウェリー族の再現された住居(Altburg)

トレーウェリー族の動向、インドゥーティオマールスとキンゲトリークス

  • Haec civitas longe plurimum totius Galliae equitatu valet
    • この部族〔トレーウェリー族〕は、ガッリア全体でも非常に有力な騎兵隊
  • magnasque habet copias peditum
    • 歩兵の大軍勢を保有し、
      (訳注:第2巻24節では、カエサルの援軍として来ていたが、
          「彼らの武勇の評判は、ガッリア人の間では比類なきものである」
          と述べられていた。)
  • Rhenumque, ut supra demonstravimus, tangit.
    • 前述したように、レーヌス川ライン川に接していた。
  • In ea civitate duo de principatu inter se contendebant, Indutiomarus et Cingetorix;
    • その部族において、インドゥーティオマールスとキンゲトリークスの二人が覇権をめぐり争っていた。
      (訳注:CingetorixIndutiomarus の義理の息子(gener)である。56節参照。)


   キンゲトリークスがカエサルに恭順の意を示す
  • e quibus alter, simul atque de Caesaris legionumque adventu cognitum est,
    • 後者〔キンゲトリークス〕は、カエサルと諸軍団の到着について知られるや否や、
  • ad eum venit,
    • 〔カエサル〕のもとへ来て、
  • se suosque omnes in officio futuros
    • 自分と配下の皆が(カエサルに)忠節であるだろうし、
  • neque ab amicitia populi Romani defecturos confirmavit
    • ローマ人民との盟約から離脱することはないだろう、と断言して、
  • quaeque in Treveris gererentur, ostendit.
    • トレーウェリー族でなされていることを、知らせた。


アルドゥエンナ(アルデンヌ)の森林地帯
トレーウェリー族の城砦跡(ルクセンブルクTitelberg
   インドゥーティオマールスの動き
  • At Indutiomarus equitatum peditatumque cogere,
    • 一方、インドゥーティオマールスは、騎兵隊と歩兵隊を徴集すること(を決め)、
  • iisque, qui per aetatem in armis esse non poterant,
    • 年齢のゆえに武装することができなかった者たちを
  • in silvam Arduennam abditis,
  • quae ingenti magnitudine
    • ──それ〔森〕はたいへん広大で、
  • per medios fines Treverorum
    • トレーウェリー族領の中央を介し、
  • a flumine Rheno ad initium Remorum pertinet,
    • レーヌス川からレーミー族領の始まりまで及んでいるが、──
      (訳注:レーミー族は、第2巻3節から言及されている、
          カエサルの有力な同盟部族。)
  • bellum parare instituit.
    • 戦争を準備することを、決断した。
 
  • Sed postea quam non nulli principes ex ea civitate
    • けれども、その部族国家のうちの幾人かの領袖たちが(以下の行動を)した後で、
  • et familiaritate Cingetorigis adducti
    • (すなわち)キンゲトリークスの懇意によっても動かされて、
      (訳注:下線部は、α系写本では familiaritate 「懇意、親交」だが、
               β系写本では auctoritate 「名声、影響力」となっている。)
  • et adventu nostri exercitus perterriti,
    • 我らの軍隊〔ローマ軍〕の到来によっても脅かされて、
  • ad Caesarem venerunt
    • (領袖たちが)カエサルのもとへやって来て、
  • et de suis privatim rebus ab eo petere coeperunt,
    • 自分らの事情について、個人的に彼〔カエサル〕に嘆願し始めた後で、
  • quoniam civitati consulere non posse<n>t,
    • 部族国家の世話をすることができないので、
  • veritus ne ab omnibus desereretur Indutiomarus
    • インドゥーティオマールスは皆から見捨てられないかと恐れて、
  • legatos ad Caesarem mittit:
    • 使節たちをカエサルのもとへ派遣する。(使節は以下のように告げた。)


   インドゥーティオマールスの弁明
  • sese idcirco ab suis discedere atque ad eum venire noluisse,
    • 自分〔インドゥーティオマールス〕が同胞から離れて彼〔カエサル〕のもとへ来ることを欲しなかった理由は、
  • quo facilius civitatem in officio contineret,
    • そのことによってより容易に部族国家を忠節に保つためであり、
  • ne omnis nobilitatis discessu plebs propter imprudentiam laberetur.
    • すべての貴族が離れることにより、民衆が無分別のゆえにつまづくことがないようにである。
  • Itaque esse civitatem in sua potestate,
    • このように、部族国家を自分の支配下においているから、
  • seque, si Caesar permitteret, ad eum in castra venturum,
    • もしカエサルが許すならば、自分は陣営にいる彼〔カエサル〕のもとへ来るだろうし、
  • suas civitatisque fortunas eius fidei permissurum.
    • 自らと部族国家の命運を彼〔カエサル〕の庇護に委ねるだろう。

4節

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カエサルとインドゥーティオマールス

  • Caesar,
    • カエサルは、
  • etsi intellegebat, qua de causa ea dicerentur quaeque eum res ab instituto consilio deterreret,
    • (インドゥーティオマールスにより)いかなる理由でそのことが語られたのか、
       いかなる事情が彼を策定した計画から遠ざけたのかを、理解していたけれども、
  • tamen, ne aestatem in Treveris consumere cogeretur
    • それでもなお、夏季をトレーウェリー族のところで費やすことを強いられないように、
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
  • omnibus ad Britannicum bellum rebus comparatis,
    • (その理由は)万事をブリタンニア人との戦争のために準備していたからであるが、
      (訳注:α系写本では、下線部が ad Britannicum bellum rebus となっているが、
          β系写本では、語順が rebus ad Britannicum bellum となっている。)
  • Indutiomarum ad se cum CC(ducentis) obsidibus venire iussit.
    • インドゥーティオマールスに、自分〔カエサル〕のもとへ200人の人質とともに来ることを命じた。
 
  • His adductis,
    • これらの者たち〔人質〕が連れて来られ、
  • in iis filio propinquisque eius omnibus, quos nominatim evocaverat,
    • その中には(カエサルが)指名して呼び出していたところの
      〔インドゥーティオマールス〕の息子やすべての近親者たちがいたのだが、
  • consolatus Indutiomarum hortatusque est, uti in officio maneret;
    • (カエサルは)インドゥーティオマールスをなだめて、務め〔忠節〕に留まるように励ました。
  • nihilo tamen setius principibus Treverorum ad se convocatis
    • それでもやはり、トレーウェリー族の領袖たちを自分〔カエサル〕のもとへ召し出して、
      (訳注:nihilo (tamen) setius「それでもなお、それでもやはり」)
  • hos singillatim Cingetorigi conciliavit,
    • 彼らを個別にキンゲトリークスと和解するように取り持った。
  • quod cum merito eius a se fieri intellegebat,
    • ──というのは、彼〔キンゲトリークス〕の功績に自分〔カエサル〕によって報いられることがふさわしいと考えていたとともに、
  • tum magni interesse arbitrabatur eius auctoritatem inter suos quam plurimum valere,
    • 彼の声望が同胞の間でできるだけ大きな力を持つことが、大いに重要であると(カエサルは)思っていたし、
  • cuius tam egregiam in se voluntatem perspexisset.
    • かの者〔キンゲトリークス〕の自分へのそれほど抜群の好意を(カエサルは)見通していたのだ。──
 
  • Id tulit factum graviter Indutiomarus,
    • その行為に激しく立腹したインドゥーティオマールスは、
      (訳注:α系写本では、下線部が tulit factum graviter となっているが、
          β系写本では、語順が factum graviter tulit となっている。)
  • suam gratiam inter suos minui,
    • 自らの影響力が同胞の間で弱められて、
  • et, qui iam ante inimico in nos animo fuisset,
    • すでに以前から我ら〔ローマ人〕に敵愾てきがい心を抱いていたが、
  • multo gravius hoc dolore exarsit.
    • このことに対する憤りから、さらに激しく激昂げきこうした。

5節

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イティウス港へ到着、ガッリア領袖たちの召集

  • His rebus constitutis
    • これらの事柄が片付くと、
  • Caesar ad portum Itium cum legionibus pervenit.
    • カエサルは諸軍団とともにイティウス港へ到着する。
イティウス港の所在地として、ブーローニュとともに有力な候補であるウィサント(Wissant
  • Ibi cognoscit
    • そこで(カエサルが)知ったのは、
  • LX(sexaginta) naves, quae in Meldis factae erant,
    • メルディー族のところで造られていた60隻の船団が、
      (訳注:メルディー族とは、現在の北仏マルヌ川沿岸のモー周辺に居たとされる部族。
          大西洋岸に出るには、マルヌ川からセーヌ川を下る必要がある。)
  • tempestate reiectas cursum tenere non potuisse
    • 嵐で押し戻されて、航路を保つことができなくて、
  • atque eodem, unde erant profectae, revertisse;
    • そこから出発していたのと同じところに戻ったということであった。
      (訳注:イティウス港にたどり着けず、上流へ帰って行ったということ。)
  • reliquas paratas ad navigandum atque omnibus rebus instructas invenit.
    • 残り(の船)は、航行するための用意ができていて、準備万端を整えていたのを見出した。
 
  • Eodem equitatus totius Galliae convenit, numero milium quattuor,
  • principesque ex omnibus civitatibus;
    • すべての部族の領袖たちも(集まって来た)。
  • ex quibus perpaucos, quorum in se fidem perspexerat, relinquere in Gallia,
    • それらのうち、自分〔カエサル〕への忠節を見通していた非常にわずかな者たちをガッリアに残すこと、
  • reliquos obsidum loco secum ducere decreverat,
    • ほかの者たちを人質の立場として、自分とともに(ブリタンニアに)連れて行くこと、を決定した。
  • quod, cum ipse abesset, motum Galliae verebatur.
    • というのは、自身〔カエサル〕が(大陸を)離れたときの、ガッリアの動乱を恐れていたからである。

6節

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ハエドゥイー族のドゥムノリークス

  • Erat una cum ceteris Dumnorix Haeduus,
    • 他の者〔ガッリアの領袖〕たちと一緒に、ハエドゥイー族のドゥムノリークスがいた。
  • de quo ante ab nobis dictum est.
    • この者〔ドゥムノリークス〕については以前に述べた。
      (訳注:第1巻3節以下で述べられた。
          ドゥムノリークス Dumnorix は反ローマ派の人物だったが、
          カエサルの盟友である兄ディーウィキアークス Diviciacusかばわれていた。
          だが、その後の言及がないことからこの兄は亡くなったと考えられている。)
  • Hunc secum habere in primis constituerat,
    • (カエサルは)とりわけ彼を自分と一緒に留めておくことを決めていた。
  • quod eum cupidum rerum novarum,
    • ──というのは、彼〔ドゥムノリークス〕は新奇な事〔政変〕を熱望し、
  • cupidum imperii, magni animi,
    • 覇権を熱望しており、高慢な心で、
  • magnae inter Gallos auctoritatis cognoverat.
    • ガッリア人の間で人望が大きいことを、(カエサルは)知っていたからだ──。
 
  • Accedebat huc,
    • それに付け加えて、
  • quod in concilio Haeduorum Dumnorix dixerat sibi a Caesare regnum civitatis deferri;
    • ハエドゥイー族の会合において、ドゥムノリークスは、カエサルにより自分に部族国家の支配権を譲られていると言っていた。
  • quod dictum Haedui graviter ferebant,
    • かかる発言に、ハエドゥイー族の者たちは激しく立腹していたが、
  • neque recusandi aut deprecandi causa legatos ad Caesarem mittere audebant.
    • (そのことを)拒絶するため、または哀願するために、
       使節たちをカエサルのもとへ派遣することをあえてしなかった。
 
 
   ドゥムノリークスが、大陸に残留させてくれるように、カエサルに嘆願する
  • Ille omnibus primo precibus
    • 〔ドゥムノリークス〕は、当初はあらゆる嘆願により
  • petere contendit, ut in Gallia relinqueretur,
    • ガッリアに残してくれるよう求めることに努めた。
  • partim quod insuetus navigandi mare timeret,
    • (その嘆願の中には)航行することに慣れていないので海を恐れる、というものもあれば、
  • partim quod religionibus impediri sese diceret.
    • 自分は信仰的義務により(航海を)妨げられていると述べている、というものもあった。
      (訳注:partim ~ partim ・・・ 「~もあれば、・・・もある(some ~ others)」)
 
   ドゥムノリークスが、カエサルの計略を示して、領袖たちを鼓舞する
  • Postea quam id obstinate sibi negari vidit, omni spe impetrandi adempta,
    • それ〔残留することの嘆願〕が自分に対して断固として拒否されるの見て、
      達成することのすべての期待を否認された後で、
  • principes Galliae sollicitare,
    • (ドゥムノリークスは)ガッリアの領袖たちをそそのかし、
  • sevocare singulos
    • 一人ずつを別々に呼び出し、
  • hortarique coepit, uti in continenti remanerent;
    • 大陸に残留するように鼓舞し始めて、
  • metu territare:
    • (以下に挙げられる)恐れによって戦慄させ(始め)た。
 
  • non sine causa fieri, ut Gallia omni nobilitate spoliaretur;
    • 理由もなしに、ガッリアがすべての高貴な者たちを奪われるようにはなされない。
      (訳注:カエサルがガッリアの全貴族を渡海させようとすることには、明確な理由があるのだ。)
  • id esse consilium Caesaris,
    • 以下のことが、カエサルの計略である。
  • ut, quos in conspectu Galliae interficere vereretur, hos omnes in Britanniam traductos necaret;
    • ガッリア(の群衆)の視ている中で殺害することがはばかられる者たちを、
      彼ら皆をブリタンニアに渡らせてから(カエサルが秘かに)殺すのである。
  • fidem reliquis interponere, ius iurandum poscere,
    • ほかの者たちに信義を誓い、(以下のことを)誓約することを要求する。
  • ut, quod esse ex usu Galliae intellexissent, communi consilio administrarent.
    • ガッリアに有益であると理解したことを、共通の考えによって処置するように(と誓約するように)。
      (訳注:カエサルの命令ではなく、ガッリアのために領袖たちが共同して対処するように。)
 
  • Haec a compluribus ad Caesarem deferebantur.
    • このことは、多くの者たちによって、カエサルのもとへ報知されていた。

7節

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ドゥムノリークスの最期

  • Qua re cognita Caesar,
    • かかる事態を知ると、カエサルは、
  • quod tantum civitati Haeduae dignitatis tribuerat,
  • coercendum atque deterrendum, quibuscumque rebus posset, Dumnorigem statuebat;
    • できるかぎりのあらゆる事でドゥムノリークスを抑止するべきであり、制止するべきであると決意していた。
  • quod longius eius amentiam progredi videbat,
    • ──というのは、彼の軽挙妄動がはるかに進行していると見ていたので、──
      (訳注:領袖たちとともにカエサルの隷属下から出奔しようという企てのことか。)
  • prospiciendum, ne quid sibi ac rei publicae nocere posset.
    • (カエサル)自身と公儀〔ローマ国家〕にとって害に成り得ないように、用心するべきである(と見ていた)。
 
  • Itaque dies circiter XXV(viginti quinque) in eo loco commoratus,
    • そのようにして、およそ25日にわたってその地に滞留して、
  • quod c[h]orus ventus navigationem impediebat,
    • ──というのは、北西風が航海を妨げており、
      (訳注:下線部は、写本では chorus であるが、
          cōrus または caurus と修正提案され、「北西風」と解釈される。)
  • qui magnam partem omnis temporis in iis locis flare consuevit,
    • それ〔北西風〕はあらゆる時季の大半にわたってこの地に吹くのが常であるからであるが、──
  • dabat operam, ut in officio Dumnorigem contineret,
    • (カエサルは)ドゥムノリークスを義務〔忠義〕に留めるように尽力していた。
      (訳注:カエサルは、ローマ人でない者がローマ人に隷属するのは当然と考えていた。)
  • nihilo tamen setius omnia eius consilia cognosceret;
    • それでもやはり、彼〔ドゥムノリークス〕のあらゆる策略を知ろうとした。
  • tandem idoneam nactus tempestatem milites equitesque conscendere in naves iubet.
    • ついに、適切な天候を手に入れて、兵士〔歩兵〕たちと騎兵たちに船に乗船することを命じた。
 
   ドゥムノリークスが騎兵隊とともに逐電
  • At omnium impeditis animis
    • 一方、皆が(乗船に)忙殺されているので、
  • Dumnorix cum equitibus Haeduorum a castris insciente Caesare domum discedere coepit.
    • ドゥムノリークスはハエドゥイー族の騎兵たちとともに、カエサルが知らぬうちに、陣営から郷里に立ち去り始めた。
 
   カエサルがドゥムノリークスを追捕、殺害させる
  • Qua re nuntiata
    • かかる事態が報告されると、
  • Caesar, intermissa profectione atque omnibus rebus postpositis,
    • カエサルは(ブリタンニアへの)出発を中断し、かつ(遠征の)すべての事を後回しにして、
  • magnam partem equitatus ad eum insequendum mittit retrahique imperat;
    • 騎兵隊の大部分を、彼〔ドゥムノリークス〕を追捕するために派遣して、連れ戻すことを命令する。
  • si vim faciat neque pareat, interfici iubet,
    • もし、力ずくでも服従しないのであれば、殺害するように命じる。
  • nihil hunc se absente pro sano facturum arbitratus, qui praesentis imperium neglexisset.
    • (カエサル自身が)居合わせても、その命令をないがしろにしていたほどの者であるから、
      〔ドゥムノリークス〕は自分〔カエサル〕が不在なら、何ら健全な者としてふるまわないだろうと思ったのだ。
 
  • Ille enim revocatus resistere
    • まさしく、彼奴きゃつ〔ドゥムノリークス〕は、呼び戻されても抵抗し(始め)、
  • ac se manu defendere suorumque fidem implorare coepit,
    • 手ずから身を守り、同胞の者たちの信義に懇願し始めた。
  • saepe clamitans liberum se liberaeque esse civitatis.
    • たびたび「我は自由であり、自由な部族に属する者である」と叫びながら。
 
  • Illi, ut erat imperatum, circumsistunt hominem atque interficiunt:
    • あの者ら〔ガッリア人の騎兵たち〕は、命令されていたように、その男を取り囲んで、殺害した。
  • at equites Haedui ad Caesarem omnes revertuntur.
    • 他方で、ハエドゥイー族の騎兵たちは、カエサルのもとへ全員が帰還した。
      (訳注:だが結局、ハエドゥイー族もカエサルから離反することになる。)
      (訳注:カエサルは、この節ではふれていないが、
          有力部族ハエドゥイーの大立者ドゥムノリークスが叫んだ事と無惨な最期は、
          ガッリア全土に知れ渡ったことであろう。
          彼と誓約を交わした部族の領袖たちがブリタンニアから帰還すると、
          カエサル自身が危惧していたように、ガッリア各地で暴動や大反乱が多発し、
          これは2年後のウェルキンゲトリークスの大反乱につながったと考えられる。)

第二次ブリタンニア遠征

[編集]
鉄器時代後期のブリテン島南部の部族の配置。
カエサルの第二次ブリタンニア遠征の経路。
Commons
ウィキメディア・コモンズに、Caesar's invasions of Britainに関連するマルチメディアがあります。
関連記事: Julius Caesar's invasions of Britain(ユリウス・カエサルのブリタンニア侵攻、英語)
 カエサルの第二次ブリタンニア侵攻は、紀元前54年の、当時のローマの暦で8~9月頃に遂行された。
カエサルや幕僚たちは、遠征先のブリタンニアからローマの知人などに手紙を出しており、なかでも
カエサルの副官クィーントゥス・キケローが雄弁家の兄マールクス・キケローと交わした往復書簡[3]
伝存するため、9月下旬にはローマ軍が大陸へ向けて帰還しつつあったことが明確になっている。
キケロー兄は、ブリタンニアで金・銀などの豊富な鉱物資源が見つかることを当てにしていたが、
奴隷(捕虜)ぐらいしか目ぼしい戦利品がないことに失望を表明している。

8節

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ブリタンニアへ再び渡海

ドーバー海峡の衛星写真。右がガッリア(フランス)、左がカエサルらが上陸したドーバー付近の海岸。
大陸側から見えるブリタンニアの海岸
  • His rebus gestis,
    • これらの事が遂げられると、
  • Labieno in continenti cum tribus(III) legionibus et equitum milibus duobus relicto,
    • (カエサルは)ラビエーヌスを、3個軍団および騎兵2000騎とともに、大陸に残して、
      (訳注:当時、カエサルは8個軍団(そのうち軍団兵は約4万)を保有しており、
          前年の遠征では2個(約1万)を渡海させ、6個(約3万)を大陸に残したが、
          今回は5個(約2万5千)を渡海させ、3個(約1万5千)を大陸に残す。
          大陸側におけるローマの兵力はかなり手薄なものになり、
          本巻の後半でガッリアの大動乱を引き起こすことになる。)
  • ut portus tueretur et re frumentaria provideret,
    • (イティウス)港を守って、糧食を調達するように、
  • quaeque in Gallia gererentur cognosceret,
    • かつ、ガッリアで行なわれていることを認識して、
  • consiliumque pro tempore et pro re caperet,
    • 時機と状況に応じて協議するようにと(命じた)。
  • ipse cum quinque(V) legionibus
    • (カエサル)自身は5個軍団、
  • et pari numero equitum, quem in continenti reliquerat,
    • および大陸に残していたものと同数の騎兵とともに、
      (訳注:5節では、全ガッリアから4000騎が集まったと述べられた。
          上述のように2000騎を大陸に残し、同数の2000騎を島に随行させた。)
  • ad solis occasum naves solvit
    • 日没頃に船団を出帆させる。
  • et leni Africo provectus,
    • おだやかなアフリカ風〔西南風〕で前進したが、
      (訳注:西南風は Africus, ī と呼ばれたが、
          これはカルタゴの故地であるアフリカ地方
          イタリアから見て西南方向にあるためだと思われる。)
  • media circiter nocte vento intermisso,
    • 真夜中あたりに風がやむと、
  • cursum non tenuit,
    • 航路を保てず、
  • et longius delatus aestu
    • より遠くへにより運ばれて、
  • orta luce sub sinistra Britanniam relictam conspexit.
    • (日の)光が昇ると、左の方へブリタンニアを置き去りにしているのに気付いた。
 
  • Tum rursus aestus commutationem secutus remis contendit,
    • それから再び潮の変動に従って、櫂によって(ブリタンニア島を)目指す。
  • ut eam partem insulae caperet, qua optimum esse egressum superiore aestate cognoverat.
    • その島のうち、下船するのに最も良いと前の夏に知っていた、ところの方面を捉えるように。
 
  • Qua in re admodum fuit militum virtus laudanda,
    • その事において、兵士たちの果敢さは大いに賞賛されるべきものであった。
  • qui vectoriis gravibusque navigiis
    • その者ら〔兵士たち〕は、輸送用かつ重い船舶で、
  • non intermisso remigandi labore
    • (櫂を)漕ぐことの労苦を中断せずに、
  • longarum navium cursum adaequarunt.
    • 長船〔軍船〕の航行速度に匹敵したのだ。
 
   ローマ大艦隊の到着を見て、ブリタンニア勢が姿を隠す
  • Accessum est ad Britanniam omnibus navibus meridiano fere tempore,
    • ブリタンニアへは、すべての船がほぼ正午の時に到着したが、
  • neque in eo loco hostis est visus;
    • その場所に敵(の姿)は見られなかった。
  • sed, ut postea Caesar ex captivis cognovit,
    • けれども、後にカエサルが捕虜から知ったように、
  • cum magnae manus eo convenissent,
    • (ブリタンニア人の)かなりの手勢がそこに集結していたけれども、
  • multitudine navium perterritae,
    • (ローマ軍の)船団の多さに畏怖させられており、
  • quae cum annotinis privatisque, quas sui quisque commodi (causa) fecerat,
    • それら〔船団〕は、前年の(遠征の)ものや
      おのおのが自分に利便性のために造らせていた私用のものを伴っていたが、
      (訳注:causā は β系写本の記述で、α系写本にはない。)
  • amplius octingentae(DCCC) uno erant visae tempore,
    • 800隻より多いものが、一時に眺められていたので、
  • a litore discesserant
    • (ブリタンニア勢は)海岸から立ち去って、
  • ac se in superiora loca abdiderant.
    • より高い場所に身を隠していたのだった。
ローマ人の大艦隊を見て断崖絶壁の上に身を隠したブリタンニア人たちの想像画
(A.S. Forrest画、1905年。H.E. Marshall: "Our Island Story" の挿絵)。


9節

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ブリタンニア再上陸、敵の砦を夜襲

 
   カエサルが、アートリウス率いる10個歩兵大隊と騎兵300騎に船団の守備を任せて、夜襲に出発
  • Caesar, exposito exercitu et loco castris idoneo capto,
    • カエサルは、軍隊を(船から)上陸させて、陣営に適切な場所を占領したが、
  • ubi ex captivis cognovit, quo in loco hostium copiae consedissent,
    • 〔ブリタンニア人〕の軍勢が陣取っている場所を捕虜たちから知るや否や、
  • cohortibus decem ad mare relictis et equitibus trecentis,
  • qui praesidio navibus essent,
    • その者らが船団の守備隊となるようにして、
  • de tertia vigilia ad hostes contendit,
    • (カエサル自らは)第三夜警時の頃に、敵の方へと急いだ。
      (訳注:第三夜警時は、真夜中を過ぎた頃「未明」。#夜警時 を参照。)
  • eo minus veritus navibus,
    • 船団についてはあまり心配していなかったが、それは
      (訳注:quod ・・・「・・・であるので、それだけ~」)
  • quod in litore molli atque aperto deligatas ad ancoram relinquebat,
    • 軟らかく開けた海岸においてに固定して残しておいたためであり、
      (訳注:α系写本では ancoram (単数) だが、
          β系写本では ancorās (複数) となっている。)
Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディアQuintus Atrius(英語)の記事がありまへん。
  • et praesidio navibus Quintum Atrium praefecit.
    • かつ、船団の守備隊をクィーントゥス・アートリウスが指揮したからだ。
      (訳注:α系写本では et praesidio navibus だが、
          β系写本では et praesidio navibusque となっており、
          これにより   ei praesidio navibusque とする修正提案がある。)
 
  • Ipse noctu progressus milia passuum circiter XII(duodecim)
    • (カエサル)自身は夜間に約12ローママイル前進して、
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、12マイルは約18km)
  • hostium copias conspicatus est.
    • 敵の軍勢を見つけた。
 
   ブリタンニア勢が騎兵と戦車でローマ勢と交戦を開始する
ストゥール川の支流の一つ
  • Illi equitatu atque essedis ad flumen progressi
    • あの者たちは、騎兵隊と戦車隊を擁してのほとりへ進んで来て、
      (訳注:この川は、現在のケント州を流れるストゥール川 Stour
          支流の一つと推定されている。)
  • ex loco superiore nostros prohibere et proelium committere coeperunt.
    • より高い地点から我が方〔ローマ勢〕を阻んで、交戦し始めた。
 
   ブリタンニア勢が、森の中の堡塁に籠城して防戦する
  • Repulsi ab equitatu
    • (ブリタンニア勢はローマ方の)騎兵隊により撃退されて、
  • se in silvas abdiderunt,
    • 森の中に身を隠して、
  • locum nacti egregie et natura et opere munitum,
    • 天然によっても、工事によっても見事に要害化された場所を手に入れた。
  • quem domestici belli, ut videbantur, causa iam ante praeparaverant:
    • それは、内輪の戦争のために、すでに以前に準備していたと思われる。
      (訳注:下線部は、写本B・M・Sでは videbantur だが、
              χ系・L・N・β系写本では videbatur となっている。)
  • nam crebris arboribus succisis omnes introitus erant praeclusi.
    • なぜなら、濃密な木々が伐採されて、進入路が塞がれていたためである。
  • Ipsi ex silvis rari propugnabant
    • (ブリタンニア勢)自身は森からまれに抗戦して、
  • nostrosque intra munitiones ingredi prohibebant.
    • 我が方がその防塁の内部に侵入することを阻止していた。
 
   ローマ第7軍団の亀甲隊形がブリタンニア勢を駆逐する
  • At milites legionis septimae,
    • だが、第7軍団の兵士たちは、
  • testudine facta et aggere ad munitiones adiecto,
    • 亀甲隊形を編成して、土塁(を築くこと)によって防塁に突入して、
  • locum ceperunt eosque ex silvis expulerunt
    • その場所を占領して、彼ら〔ブリタンニア勢〕を森から駆逐したが、
  • paucis vulneribus acceptis.
    • (ローマ勢は)わずかな者が傷を受けただけであった。
ローマ軍の亀甲隊形(テストゥド
防壁(図中の左端)を攻略するために築かれた土塁アッゲル の復元画(再掲)。
 
   カエサルが深追いを禁ずる
  • Sed eos fugientes longius Caesar prosequi vetuit,
    • けれども、逃亡する彼らを、カエサルはより遠くへ追撃することを禁じた。
  • et quod loci naturam ignorabat,
    • 地勢を知らなかったためでもあり、
  • et quod magna parte diei consumpta
    • 日中の大部分が(戦闘に)費やされたためもあって、
  • munitioni castrorum tempus relinqui volebat.
    • 野営の防備の時間を残しておくことを欲していたのだ。

10節

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再び嵐が船団を破損

  • Postridie eius diei mane
    • (カエサルは)その日の翌日の早朝に、
  • tripertito milites equitesque in expeditionem misit,
    • 兵士たちと騎兵たちを三つ(の分遣隊)に分けて、遠征に派遣した。
      (訳注:milites (兵士)という語は、equites (騎兵)に対して歩兵、
          特に軍団の正規構成員である重装歩兵を指す。)
  • ut eos, qui fugerant, persequerentur.
    • 逃亡していた者たち〔ブリタンニア勢〕を追撃するようにと。
 
  • His aliquantum itineris progressis,
    • この者ら〔遠征部隊〕がかなりの道程を前進して、
  • cum iam extremi essent in prospectu,
    • すでにその末尾が視野に入っていたときに、
      (訳注:末尾とは、敗走する敵の後衛とも考えられるが、
          ローマ方の遠征部隊の後衛と見る解釈もある。)
  • equites a Quinto Atrio ad Caesarem venerunt,
    • クィーントゥス・アートリウスにより(派遣されて)騎兵たちがカエサルのもとへやって来た。
      (訳注:アートリウスは、前節で、船団の守備の指揮を任された、とある。)
  • qui nuntiarent superiore nocte maxima coorta tempestate
    • その者たちが報告したのは、前の夜に大きな嵐が突発して、
  • prope omnes naves adflictas atque in litore eiectas esse,
    • ほぼすべての船が転覆して、海岸に座礁したことであった。
      (訳注:下線部は、α系写本では litore だが、β系写本では litus となっている。)
  • quod neque ancorae funesque subsisterent,
    • というのは、縄 索フーニスも持ちこたえられず、
  • neque nautae gubernatoresque vim tempestatis pati possent;
    • 船員や操舵手が嵐の勢いに耐えることもできなかったからだ。
  • itaque ex eo concursu navium magnum esse incommodum acceptum.
    • こうして、その船団の混乱から、大きな災害を受けたのである。

11節

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船団の修理と陣営の防備の手配。最高司令官カッスィウェッラウヌス登場

 
   船団の修理、陣営の防備および大陸からの支援を手配する
  • His rebus cognitis
    • これらの事態〔嵐による災害〕を知ると、
  • Caesar legiones equitatumque revocari atque in itinere resistere iubet,
    • カエサルは(遠征に派遣した)諸軍団と騎兵隊を呼び止めて、行軍を留まることを命じて、
  • ipse ad naves revertitur;
    • (カエサル)自身は船団のところへ戻る。
  • eadem fere, quae ex nuntiis litterisque cognoverat, coram perspicit,
    • (カエサルは)伝令たちと書状から知っていたのとほぼ同じものを、はっきりと視る。
  • sic ut amissis circiter XL(quadraginta) navibus
    • およそ40隻の船を喪失したけれども、
  • reliquae tamen refici posse magno negotio viderentur.
    • 残りは大きな労力によって修理できると見られた。
 
  • Itaque ex legionibus fabros deligit
    • こうして、諸軍団の内から工兵を選別して
      (訳注:ローマ軍には元来は専任の武具職人としての工兵がいたが、
          カエサルの時代には軍団兵から選任していたことが判る記述である。
          #古代ローマの工兵 参照。)
  • et ex continenti alios arcessi iubet;
    • 大陸からほかの者たちを呼び寄せることを命じた。
  • Labieno scribit,
    • ラビエーヌスに(書状を)書いた。
      (訳注:8節で、ラビエーヌスは港湾の守備や糧食の調達などのために大陸に残された。)
  • ut quam plurimas posset iis legionibus, quae sunt apud eum, naves instituat.
    • 〔ラビエーヌス〕のもとにいる軍団により、できるかぎり多くの船を建造するように、と。
 
  • Ipse, etsi res erat multae operae ac laboris,
    • (カエサル)自身は、たとえ事が多くの作業や労苦であろうとも、
  • tamen commodissimum esse statuit omnes naves subduci et cum castris una munitione coniungi.
    • けれども、すべての船を引き揚げて陣営と一緒に防壁に結びつけることが、最も都合良いと判断した。
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
 
  • In his rebus circiter dies X(decem) consumit,
    • これらの事に約10日を費やし、
  • ne nocturnis quidem temporibus ad laborem militum intermissis.
    • 夜の時間でさえも、兵士の労役が中断されることはなかった
      (訳注:nē ~ quidem「~でさえない」)
 
   船団と陣営の防備を遂げ、カエサルが遠征に再出発
  • Subductis navibus castrisque egregie munitis
    • 船団を引き揚げて、陣営に見事な防備をし、
  • easdem copias, quas ante, praesidio navibus reliquit:
    • 以前のと同じ軍勢を、船団のための守備隊として残すと、
  • ipse eodem, unde redierat, proficiscitur.
    • (カエサル)自身は、そこから戻って来ていたのと、同じところへ出発する。
      (訳注:カエサル自身は、そこから船団のところへ戻って来ていた出発点、本節冒頭の場所へ向かった。)
 
   カッスィウェッラウヌスに、ブリタンニア諸部族の最高指揮権が委ねられる
カッスィウェッラウヌスCassivellaunus)の近代の想像画。
タメスィス川Tamesis)、すなわち現在のテムズ川Thames)。
現在のバークシャー州のパンボーン(Pangbourne)付近。
 
  • Huic superiore tempore cum reliquis civitatibus continentia bella intercesserant;
    • この者にとって、往時は、ほかの部族たちとの絶え間のない戦争が介在していたが、
  • sed nostro adventu permoti
    • しかし我が方〔ローマ軍〕の到来に脅かされて、
  • Britanni hunc toti bello imperioque praefeceraut.
    • ブリタンニア人はこの者を戦争全体の司令権の長に任じたのだ。

12節

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ブリタンニアの地理(1)──部族と風土

(訳注:この12節から14節までは、唐突に地理的説明が続くため、
    後世の人による注釈の書き込みとする見方もあるが、
    『ガリア戦記』ではたびたび見られる類いのものである。
    カエサルが間違いを記すはずがないと思う人たちもいたが、
    ブリタンニアに関して当時のローマ人はかなり無知であったらしい。)
 
   内陸地方の住民
 
   沿海地方の住民
  • maritima pars ab iis, qui praedae ac belli inferendi causa ex Belgio transierant,
    • 海岸部には、略奪と戦争をしかけるためにベルギウムから渡来していた者たちが(住む)。
      (訳注:カエサルはこのように記すが、ローマ人の征服によって追われた
          ケルト系難民がベルガエの地から流入して来たという現代の見方がある [4]。)
      (訳注:ベルギウム Belgium という地名は「ベルギーBelgium)」の語源で、
          カエサルはこの箇所でしか用いていないが、
          これまでベルガエ  Belgae  と呼んで来た諸部族が居住していた地域で、
          ガッリア・ベルギカ Gallia Belgica に同じ。)
  • qui omnes fere iis nominibus civitatum appellantur, quibus orti ex civitatibus eo pervenerunt,
    • その者らほぼすべては、そこに到来した(大陸の)出身部族に由来する部族の名前で呼ばれている。
      (訳注:カエサルのこのような記述から、島の諸部族はケルト系とされ、
          近代になって、「島のケルト」と「大陸のケルト」というケルト観が形成されたが、
          このような見方には、近年のイギリスの考古学界から異論が出ている[5]。)
  • et bello inlato ibi permanserunt atque agros colere coeperunt.
    • (彼らは)戦争をしかけて、そこに留まり続け、土地を耕し始めた。
      (訳注:permānsērunt は α系写本の記述で、β系写本では remānsērunt となっている。)
古代ブリタンニア南部の部族分布。大陸と同じ部族名が見られる。
 
  • Hominum est infinita multitudo
    • 人々は限りなき多数であり、
  • creberrimaque aedificia fere Gallicis consimilia,
    • 建物は密集してほぼガッリアのものによく似ており、
  • pecorum magnus numerus.
    • 家畜の数も多い。
      (訳注:pecorum (複数) は α系写本の記述で、β系写本では pecoris (単数) となっている。)
      (訳注:magnus numerus は α系写本の記述で、β系写本では numerus ingens となっている。)
再現されたケルト系部族の住居(英ウェールズセント・ファガンズ国立歴史博物館内)。
再現されたケルト系部族の集落(英ウェールズセント・ファガンズ国立歴史博物館内)。
 
   鉱物の使用
トリノウァンテース族(後出)の青銅の貨幣。
ガッリアから輸入された鉄器時代の金貨(大英博物館 Room 50所蔵)。
ケルト系部族が貨幣として用いていた鉄製の棒(英ドーセット州ドーセット州博物館蔵)。
 
ブリテン島の南西に突き出た半島部コーンウォール地方から産出した名産の錫石
世界遺産コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観」として登録されるほど世界的に有名。
  • Nascitur ibi plumbum album in mediterraneis regionibus,
    • そこでは、内陸地方においてスズ(錫) が産出するし、
      (訳注:plumbum は通常「鉛(Pb)」と訳されるが、古くは
          plumbum nigrum(黒い鉛)が「鉛」
          plumbum album (白い鉛)が「錫」を意味した。)
      (訳注:スズ(錫) の産地はコーンウォール半島で、
          太古の昔からフェニキア人によって採掘されていたが、
          当時のローマ人が正確な知識を持たなくても不思議ではない。)
  • in maritimis ferrum, sed eius exigua est copia;
    • 沿海部においては鉄(が産出するの)だが、その量は微少である。
  • aere utuntur importato.
    • (ブリタンニア人は)輸入された青銅を用いている。
      (訳注:銅や青銅は出土しているが、
          カエサルの時代に採掘されていたかは不詳で、
          議論のあるところ。)
 
ヨーロッパブナの分布図。
ブナ属Fagus)の樹木で、ブリテン島南部を含むヨーロッパに広く自生する。
ヨーロッパモミの自生分布(緑)と外来種としての分布(橙)。モミ属Abies)の樹木でヨーロッパ中・東部に広く自生するが、ブリテン島には自生しない。
   家畜を飼う
ヨーロッパノウサギ(英ケント州)。ヨーロッパに広く生息するが、ブリテン島では外来種とされている。
雌鶏(右)と雄鶏(左)。
ハイイロガン(学名 Anser anser)。ニワトリと並ぶ古くからの家禽であるガチョウはこの種などを家畜化したものとされている。
 
  • Loca sunt temperatiora quam in Gallia,
    • ガッリアにおけるよりも気候がよりおだやかな土地で、
  • remissioribus[9] frigoribus.
    • (冬季の)寒さはあまり激しくない。

13節

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ブリタンニアの地理(2)──島々と地形

カエサルが三角形の島として描写したブリタンニア島(ブリテン島)の概略図。
 
 (イ)ガッリアを向く第一の辺:500マイル
  • Huius lateris alter angulus, qui est ad Cantium,
    • この辺の一方の角は、カンティウムの辺りにあり、
      (訳注:カンティウム Cantium は、現在のケント州にほぼ相当する。)
  • quo fere omnes ex Gallia naves appelluntur,
    • そこへはガッリアからのほぼすべての船が接岸し、
  • ad orientem solem,
    • 昇る日の方向〔東方〕へ向いている。
  • inferior (angulus) ad meridiem spectat.
    • 下方の(角)は、南方に面している。
      (訳注:inferus「下方の」あるいは「南方の」。)
 
  • Hoc (latus) pertinet circiter milia passuum quingenta(D).
    • この辺は、約500ローママイルに及ぶ。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、500マイルは約740 km)
      (訳注:latus はβ系写本の記述で、α系写本にはない。)
 
 (ロ)ヒスパーニアやヒベルニアを向く第二の辺:700マイル
 
   ヒベルニア島(アイルランド)
  • qua ex parte est Hibernia (insula),
    • その方角には、ヒベルニア(島)があり、
      (訳注:ヒベルニア Hibernia は、現在のアイルランド島
      (訳注:insula はβ系写本の記述で、α系写本にはない。)
  • dimidio minor, ut existimatur, quam Britannia,
    • 見積もられているように、ブリタンニアよりも半分ぐらい小さい。
  • sed pari spatio transmissus atque ex Gallia est in Britanniam.
    • けれども(ヒベルニアから)ブリタンニアへの渡航の距離は、ガッリアからのそれと等しい。
 
モナ島(マン島)は、ブリタンニア島(右)とヒベルニア島(左)の間に位置する。
冬至のラテン語による図解。
   極夜の島々?
  • de quibus insulis non nulli scripserunt
    • それらの島々について、幾人かが著述しているのは、
      (訳注:カエサルは、マッシリアの航海者ピュテアス
          あるいはポセイドニオスなどギリシア人たちが著した地理書の影響を受けていたと考えられる。)
  • dies continuos triginta(XXX) sub bruma esse noctem.
    • 冬至の頃には、連続30日間も夜になる、ということである。
      (訳注:冬至の頃に夜が続く極夜は、北緯66度以北の北極圏でしか起こらない。
          アイスランドノルウェーなど北極圏にかかる島々と混同しているのであろうか。)
  • Nos nihil de eo percontationibus reperiebamus,
    • 我々は、そのことについて(島民に)尋ねたが、何も見い出せなかった。
  • nisi certis ex aqua mensuris breviores esse quam in continenti noctes videbamus.
    • 水による正確な計測によって、大陸で我々が思っていたよりも夜がより短い(ことが判った)ということを除いては
      (訳注:ローマ軍の陣営には、夜警時を計るための水時計が備えられていた、ということらしい。)
  • Huius est longitudo lateris, ut fert illorum opinio,
    • この(第二の)辺の長さは、あの者たちの見解が説くように、
  • septingentorum(DCC) milium.
    • 700ローママイルである。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、700マイルは約1000 km)
水時計の例。
ブリテン島(画像中央)と欧州大陸(手前)を上空から見下ろした衛星写真。
北海(右)が本節の第三の辺の側で、陸地はない。北海油田に130億バレルもの原油が埋蔵されていると推定されている。
 
 (ハ)北海を向く第三の辺:800マイル
  • Tertium (latus) est contra septentriones;
    • 第三(の辺)は、北方を向いている。
  • cui parti nulla est obiecta terra,
    • その方角には、陸地は何ら位置していない。
  • sed eius angulus lateris maxime ad Germaniam spectat.
    • けれども、その辺の一角は、とりわけゲルマーニアの方に面している。
  • Hoc milia passuum octingenta(DCCC) in longitudinem esse existimatur.
    • これ〔第三の辺〕は、長さにおいて、800ローママイルであると見積もられている。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、800マイルは約1200 km)
 
  • Ita omnis insula est in circuitu vicies centum milium passuum.
    • このように、島のすべての周囲は2000ローママイルである。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、2000マイルは約3000 km)
本節の記述に基づくヨーロッパの地図(出典:ケルシーの注釈書)。
ブリタンニア島(ブリテン島)から見て、ヒスパーニアイベリア半島)とヒベルニア(アイルランド島)が同じ方角にあると書かれているため、イベリア半島が肥大化して見える。
ほぼ同時代のギリシア人地理学者ストラボーンの記述に基づくヨーロッパの地図。中央に三角形のブリタンニア島(Brettania)が見える。ヒベルニア島=イエルネ(Ierne)の位置が北方へずれていることなどを除けば、本節の記述とおおむね合致する。

14節

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ブリタンニアの地理(3)──生活習慣

  • Ex iis omnibus longe sunt humanissimi,
    • 彼らすべて(の諸部族)のうちで、はるかに人間的であるのは、
      (訳注:humanus (人間的) とは、ヒト属 Homo ヒト (種) Gens humana の生き物であるだけでなく、
          文化・文明 Cultus humanus によって洗練され、教養のある者などを指す。[10]
現在のケント州の位置
 
   牧畜を営む内陸の住民の風習
  • Interiores plerique frumenta non serunt,
    • 内陸の多くの者たちは、穀物の種を播かない。
      (訳注:第4巻32節には穀物の耕地をめぐる攻防について述べられているが、
          カンティウム以外の内陸の部族はこれに関与していないということか。)
  • sed lacte et carne vivunt
    • けれども(を摂取すること)によって暮らしており、
  • pellibusque sunt vestiti.
 
ホソバタイセイ(学名 Isatis tinctoria)の黄色い花。
ホソバタイセイから作られた藍色の染料。
古代ブリタンニア人の武人の想像画(16世紀)。
右の男は藍色の染料で身を染めているが、左の男は入れ墨をしている。
  • Omnes vero se Britanni vitro inficiunt,
  • quod caeruleum efficit colorem,
    • それは青みがかった色を生じるので、
  • atque hoc horridiores sunt in pugna a(d)spectu;
    • これによって、戦いにおいては見かけが非常に恐ろしいのである。
      (訳注:下線部は、α系写本では horridiores だが、
               β系写本では horribiliores となっている。)
  • capilloque sunt promisso
    • 髪の毛は伸びるにまかせていて、
  • atque omni parte corporis rasa, praeter caput et labrum superius.
    • 頭部と上唇のあたりを除いて、体のすべての部位(の毛)を剃り落としている。
      (訳注:labrum superius「上唇」。なお「下唇」は labrum īnferius。)
 
   一妻多夫制 (ポリアンドリー)[11]
  • Uxores habent deni duodenique inter se communes,
    • (ブリタンニアの男たちは)妻たちを互いに10人ずつや12人ずつが共有でめとっており、
  • et maxime fratres cum fratribus parentesque cum liberis;
    • たいていは兄弟どうしや親子どうしが(妻を共有しているので)ある。
  • sed qui sunt ex iis nati,
    • けれども、彼女たちから生まれた者〔こども〕たちは、
  • eorum habentur liberi, quo primum virgo quaeque deducta est.
    • 処女めいめいが初めに娶られた者〔最初の夫〕の子どもたちと見なされているのである。

15節

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ブリタンニア勢がローマ陣営を襲撃
 
   ブリタンニア勢が、ローマ方の騎兵隊の行軍を襲うが、撃退されて山林に逃げ込む
  • Equites hostium essedariique
  • acriter proelio cum equitatu nostro in itinere conflixerunt,
    • 行軍中の我が方〔ローマ勢〕の騎兵隊と戦闘で激しく衝突した。
  • (ita) tamen ut nostri omnibus partibus superiores fuerint
    • それでも結果として、我が方があらゆる面で上回り、
      (訳注:ita はβ系写本の記述で、α系写本にはない。
          ita ... ut ~「(結果として)~ほどであった」。)
  • atque eos in silvas collesque compulerint;
    • 彼ら〔ブリタンニア勢〕を山林に追い込んだ(ほどであった)。
 
 
陣営の近くで歩哨に立つローマ軍団兵たち。
   しばらく後でブリタンニア勢が、ローマ方が構築中の陣営に殺到
 
    カエサルが精鋭2個大隊を増援に繰り出す
  • duabusque missis subsidio cohortibus a Caesare,
    • カエサルによって2個歩兵大隊が増援として派遣され、
  • atque iis primis legionum duarum,
    • しかも彼らは(それぞれ)2個の軍団の第一(大隊)であり、
      (訳注:各軍団の 第一歩兵大隊コホルスcohors primus)は、
          首位百人隊長プリームスピールスPrimus pilus)に率いられる最精鋭部隊であったと考えられている。)
  • cum eae perexiguo intermisso loci spatio inter se constitissent,
    • それら(の2個大隊)は非常に狭い場所の間隔を互いに置いて留まっていたが、
  • novo genere pugnae perterritis nostris
    • (ブリタンニア勢の)新奇な類いの戦いに我が方〔ローマ勢〕が動揺していたので、
      (訳注:そのブリタンニア勢の戦い方については、次節(16節)で述べられる。)
  • per medios audacissime perruperunt
    • (敵勢は)非常に果敢にも(ローマ勢を)中央突破して、
      (訳注:ローマ勢の2個大隊の間に突破可能な間隙があったということか。)
  • seque inde incolumes receperunt.
    • そこから、無傷のままで引き返した。
 
  • Eo die Quintus Laberius Durus, tribunus militum, interficitur.
    • その日に、兵士長官トリブーヌス・ミリトゥムであるクィーントゥス・ラベリウス・ドゥールスが討ち死にする。
      (訳注:この Quintus Laberius Durus という人物はここで名が挙げられているだけだが、
          5世紀の史家 オロシウスOrosius)が「ラビエーヌス」と誤って伝え、
          「ラビエーヌス」と混同されたままで永く後世に語り継がれた。)
  • Illi pluribus submissis cohortibus repelluntur.
    • あの者ら〔ブリタンニア勢〕は、増派された(ローマの)より多くの歩兵大隊によって撃退される。

16節

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ブリタンニア勢との戦術の優劣をカエサルが分析
  • Toto hoc in genere pugnae,
    • (ブリタンニア勢の)この戦いのやり方の全体について、
  • cum sub oculis omnium ac pro castris dimicaretur,
    • (ローマ勢の)皆の眼下でしかも陣営の前で闘われたので、
  • intellectum est
    • (以下のことが)理解された。
 
   ブリタンニア勢VSローマ重装歩兵
  • nostros propter gravitatem armorum,
    • 我が方〔ローマ軍団兵〕は武具が重いことのゆえに、
      (訳注:軍団の主力は重装歩兵で、重い甲冑を装着して、重い盾などを持っていたので、
          甲冑のないブリタンニア兵より敏捷性に劣っていたであろう。)
  • quod neque insequi cedentes possent neque ab signis discedere auderent,
    • 退却する者たちを追撃することできなかったし、軍旗のもとからあえて離れることもしなかったので、
  • minus aptos esse ad huius generis hostem,
    • この類いの敵には、あまり相応しくないこと(が理解された)。
 
   ブリタンニア戦車兵VSローマ騎兵
 
   ブリタンニア騎兵VSローマ騎兵
 
     ブリタンニア勢の兵力散開戦術
  • Accedebat huc,
    • これに加えて、
  • ut numquam conferti, sed rari magnisque intervallis proeliarentur
    • (ブリタンニア勢は)決して密集せずに、散らばって大きな間隔をとって戦っていた。
  • stationesque dispositas haberent,
    • (彼らはいくつもの小さな)分遣隊を配置させており、
  • atque alios alii deinceps exciperent,
    • (散らばっていた分遣隊の)一方の者たちを他方の者たちが、次から次へと引き継いで、
  • integrique et recentes defatigatis succederent.
    • 無傷かつ潑剌はつらつとした者たちが(戦闘で)疲弊した者たちと交代していたのだ。

17節

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副官トレボーニウスが敵の奇襲を撃退

  • Postero die procul a castris hostes in collibus constiterunt
    • 翌日に、敵勢は(ローマ方の)陣営から遠くに、丘に留まって、
  • rarique se ostendere
    • まばらに自らの姿を見せ(始め)、
  • et lenius quam pridie
    • 前日よりも穏やかに
  • nostros equites proelio lacessere coeperunt.
    • 我が方〔ローマ方〕の騎兵たちに戦闘を挑み始めた。
 
 
 
  • Ex hac fuga protinus,
    • この敗走から直ちに、
  • quae undique convenerant, auxilia discesserunt,
    • 至る所から集結していた(ブリタンニア勢の)援軍は退散した。
  • neque post id tempus umquam summis nobiscum copiis hostes contenderunt.
    • その時以後、敵勢は決して我が方〔ローマ勢〕と総勢をあげて闘うことはなかった。

18節

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後にカトゥウェッラウニー族(Catuvellauni)として知られることになる部族の推定される版図
(地図の赤い部分)。
イングランド南東部などのうち、大ロンドンの北に隣接していた旧ミドルセックス州(現在のハートフォードシャー州辺り)、北西に広がるバッキンガムシャー州などを含む。
カエサルはカッスィウェッラウヌスの出身部族についても、上の部族名にも言及していないが、やがてローマ帝国軍と戦うことになる、その部族が該当すると考えられている。

タメスィス川を渡河

現在の大ロンドンの南西部、キングストン(Kingston)を流れるテムズ川。カエサルとローマ軍が渡河したのはここか、やや上流のハリフォード(Halliford)辺りと推定されている。
 
  • Eo cum venisset,
    • (カエサルが)そこにやって来たときに、
  • animum advertit ad alteram fluminis ripam magnas esse copias hostium instructas.
    • 川のもう一方の岸のところへ敵の大軍勢が布陣していることに気が付いた。
 
 
 
  • Sed ea celeritate atque eo impetu milites ierunt,
    • けれども、(軍団の)兵士たちは速やかに突進して行ったので、
  • cum capite solo ex aqua ex(s)tarent,
    • 水から頭だけしか突き出ていなかったのに、
  • ut hostes impetum legionum atque equitum sustinere non possent
    • 結果として、敵勢は(ローマ勢の)軍団と騎兵の突撃を持ちこたえることができずに、
  • ripasque dimitterent ac se fugae mandarent.
    • 川岸を放棄して逃亡に身を委ねたのだ。
ロンドン西部のブレントフォードにある記念碑。
"B.C. 54 at this ancient fortified ford, the British tribesmen under Cassivellaunus bravely opposed Julius Caesar on his march to Verulamium."
紀元前54年、この古代の要塞化された浅瀬で、カッスィウェッラウヌス麾下のブリテン部族民が、ウェルラミウム[13]へ行軍する途上のユーリウス・カエサルに勇敢に立ち向かった。)
と刻まれている。


19節

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テムズ川上流地域に広がる森林と平原
同じくテムズ川上流地域の森林から平原を眺める

カッスィウェッラウヌスの戦車隊とローマ騎兵の交戦

  • Cassivellaunus, ut supra demonstravimus,
  • omni deposita spe contentionis,
    • 格闘戦のすべての望みを放棄して、
  • dimissis amplioribus copiis,
    • 軍勢の大半を解散させて、
  • milibus circiter quattuor(IV) essedariorum relictis,
    • 戦車兵の約4000名(だけ)を(手勢として)残した。
      (訳注:馬二頭立ての戦車4000両を動員するには、
          当時のブリテン島でポニー8000頭を必要とするが、
          それほどの馬匹を準備できたのか疑問視する見解もある[14]
           さらに、戦車の御者も4000名ほど必要だったので、
          かなりの兵員数になる。)
  • itinera nostra servabat
    • 我が方〔ローマ勢〕の行軍を監視して、
  • paulumque ex via excedebat
    • 道からわずかに離れて行き、
  • locisque impeditis ac silvestribus sese occultabat,
    • 通りにくい森林地帯に身を隠していた。
  • atque iis regionibus, quibus nos iter facturos cognoverat,
    • さらに、我が方〔ローマ勢〕が行軍しようとしていることを知っていた地域に
  • pecora atque homines ex agris in silvas compellebat
    • 家畜や人々を平原から森の中に追い込んだ。
  • et, cum equitatus noster liberius praedandi vastandique causa se in agros eiecerat,
    • 我が方〔ローマ勢〕の騎兵隊が、節度なく略奪することや荒らすことのために耕地の中に殺到していたときに、
      (訳注:下線部は、α系写本では eiecerat だが、
               β系写本では effunderet となっている。)
  • omnibus viis (notis) semitisque essedarios ex silvis emittebat
    • 森から、すべての(知られている)道や小道により戦車兵を送り出しており、
  • et magno cum periculo nostrorum equitum cum iis confligebat
    • 大きな危険を伴って我が方〔ローマ勢〕の騎兵と激突していた。
  • atque hoc metu latius vagari prohibebat.
    • さらに、この恐怖感によって(ローマ勢が)より広範囲に彷徨することを妨げていた。
 
  • Relinquebatur ut
    • その結果、(ローマ勢に)残されていたのは、
  • neque longius ab agmine legionum discedi Caesar pateretur,
    • (騎兵が)軍団の行軍隊列からより遠くに離れることをカエサルが許容していなかったこと、
  • et tantum [in] agris vastandis incendiisque faciendis hostibus noceretur,
    quantum <in> labore atque itinere legionarii milites efficere poterant.
    • 軍団の兵士たちが作業や行軍によって達成できる限りの程度で、
      耕地を荒らしたり焼き討ちしたりすることによって敵に害をなすこと、
      (訳注:tantumquantum ・・・「・・・限り~」(英訳 so much as)。)

20節

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トリノウァンテース族とマンドゥブラキウス青年がカエサルに降る

Wikipedia
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ウィキペディアla:Trinovantesの記事がありまへん。
  • Interim Trinovantes, prope firmissima earum regionum civitas,
    • その間に、その地方のほぼ最強の部族であるトリノウァンテース族といえば、
      (訳注:部族名は、α系写本では Trinobantēs トリノバンテース、
               β系写本では Trinovantēs トリノウァンテース、となっている。)
  • ex qua Mandubracius adulescens Caesaris fidem secutus ad eum in continentem [Galliam] venerat,
    • その内のマンドゥブラキウス青年がカエサルの保護を得ようとして大陸[ガッリア]の彼のところへ来ていた。
  • ── cuius pater [Inianuvetitius] in ea civitate regnum obtinuerat
    • ──その者の父[イニアヌウェティティウス]はその部族で王位に就いていたが、
      (訳注:父王の名は、β系写本の一部 (ρ·V) に Inianuvetitius, Inianuvetutus などとあり、
          Imanuentius (イマヌエンティウス)、*Mannuētios (マンヌエーティオス) などと
          推定されているが、近代の校訂者の多くは、後世の加筆として省いている。)
  • interfectusque erat a Cassivellauno,
  • ipse fuga mortem vitaverat, ──
    • (マンドゥブラキウス)自身は逃亡により死をまぬがれていた。──
トリノウァンテース族の版図と推定されている領域。
 現在のイングランド東部地方のうち、エセックス州東部からサフォーク州南部、ハートフォードシャー州大ロンドンの一部に及んだと考えられている。
  • legatos ad Caesarem mittunt
    • (そこでトリノウァンテース族は)使節たちをカエサルのところへ派遣して、
  • pollicenturque sese ei dedituros atque imperata facturos;
    • 彼〔カエサル〕に投降するであろう、かつ命令されたことを行なうであろう、と約束して、
  • petunt, ut Mandubracium ab iniuria Cassivellauni defendat
    • マンドゥブラキウスをカッスィウェッラウヌスの無法から守るように請願し、
  • atque in civitatem mittat, qui praesit imperiumque obtineat.
    • さらに、指揮しかつ統治を司らせるために部族国家へ送還するように(請願する)。
 
  • His Caesar imperat obsides XL(quadraginta) frumentumque exercitui,
    • 彼らに、カエサルは、人質40名および軍隊のための糧食(の供出)を命令して、
  • Mandubraciumque ad eos mittit.
    • マンドゥブラキウスを彼らのところへ送った。
 
  • Illi imperata celeriter fecerunt,
    • あの者らは、命令されたことを速やかに行なって、
  • obsides ad numerum frumentumque miserunt.
    • (指示された)数どおりの人質と糧食を(カエサルのところへ)送った。

21節

[編集]

諸部族の投降、城塞都市の陥落

 
  • Ab his cognoscit
    • (カエサルが)彼らから知ったことには、
  • non longe ex eo loco oppidum Cassivellauni abesse
  • silvis paludibusque munitum,
    • 森林と沼地によって守られており、
  • quo satis magnus hominum pecorisque numerus convenerit.
    • そこへは、人々と家畜の十分に多くの数が集まっていた(ということである)。
 
 
  • Eo proficiscitur cum legionibus:
  • (カエサルは)そこに軍団とともに出発して、
  • locum reperit egregie natura atque opere munitum;
    • 見事に自然と堡塁によって防備されていた場所を見出した。
  • tamen hunc duabus ex partibus oppugnare contendit.
    • それでも、これを2つの方面から攻囲することに努めた。
 
  • Hostes paulisper morati
    • 敵は、しばらく留まったが、
  • militum nostrorum impetum non tulerunt
    • 我が方〔ローマ勢〕の兵士の突撃に耐えられず、
  • seseque alia ex parte oppidi eiecerunt.
    • 城塞都市の他の方面から急ぎ出て行った。
 
  • Magnus ibi numerus pecoris repertus,
    • そこでは、多数の家畜が見出された。
  • multique in fuga sunt comprehensi atque interfecti.
    • (敵の)多くは逃亡中に捕捉されて、殺戮された。
Devil's Dyke(魔物の堤防)
カエサルがカッスィウェッラウヌスを破ったと推定される城砦跡の記念碑。
左と同じカッスィウェッラウヌス城砦跡の一部分
 デヴィルス・ダイクDevil's Dyke)は、カエサルがカッスィウェッラウヌスを打ち負かした鉄器時代の城砦の遺構と考えられている。
 イングランド東部ハートフォードシャー州シティ・オブ・セント・オールバンズ地区のホイートハムステッド(Wheathampstead)という集落の東の端にある。


22節

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カンティウム勢による急襲、カッスィウェッラウヌスの降伏

  • Dum haec in his locis geruntur,
    • これらのこと〔カエサルとの戦闘〕がこの地で行なわれている間に、
  • Cassivellaunus ad Cantium,
  • quod esse ad mare supra demonstravimus,
    • ──それ〔カンティウム地方〕が海辺にあることは、前述した通りであるが、
      (訳注:地理的説明の14節で、沿海部であることが述べられた。)
  • quibus regionibus quattuor reges praeerant, Cingetorix, Carvilius, Taximagulus, Segovax,
    • その地方は4人の王、キンゲトリークス、カルウィリウス、タクスィマグルス、セゴウァクスが支配していたが、──
      (訳注:Cingetorix という名は、3節4節で述べられたトレーウェリー族の Cingetorix と同名であり、
          ケルト語系の名前であるから、両者がケルト系であることを示唆している。
          同様に、カッスィウェッラウヌスにも、類似の名の武将が後出する。)
  • nuntios mittit atque iis imperat,
    • (カッスィウェッラウヌスは彼らに)伝令たちを派遣して、彼らに(次のように)命令した。
  • uti coactis omnibus copiis castra navalia de improviso adoriantur atque oppugnent.
    • すべての軍勢を徴集して、(ローマ軍の)船舶用の陣営を不意に襲撃して攻囲するようにと。
      (訳注:dē imprōvīsō「不意に、思いがけずに」第2巻3節で既出。)
カエサルの第二次ブリタンニア遠征の経路(再掲)。左上の赤い×印の地でカエサルと戦っている間に、カンティウム勢が右下の赤い■印の地を急襲した。
 
  • Ii cum ad castra venissent,
    • 彼ら〔カンティウム勢〕が陣営のそばへ来ていたときに、
  • nostri eruptione facta
    • 我が方〔ローマ勢〕は、突撃をして、
  • multis eorum interfectis,
    • 彼ら〔カンティウム勢〕の多くが殺戮されて、
  • capto etiam nobili duce Lugotorige
    • 高名な将帥であるルグトリークスさえも捕らえられると、
  • suos incolumes reduxerunt.
    • 配下の者たちを無傷のままで撤収させた。
 

カッスィウェッラウヌスの降伏

  • Cassivellaunus, hoc proelio nuntiato,
    • カッスィウェッラウヌスはこの戦闘を報告されると、
  • tot detrimentis acceptis,
    • これほど多くの損害を受け、
  • vastatis finibus,
    • 領土が荒廃させられて、
  • maxime etiam permotus defectione civitatum,
    • とりわけ諸部族の離反〔カエサルへの投降〕にさえも動揺させられて、
  • legatos per Atrebatem Commium de deditione ad Caesarem mittit.
    • アトレバーテース族のコンミウスを介して、降伏についての使節たちをカエサルのところへ派遣した。
 

23節

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カエサルとローマ軍が大陸へ帰着する

  • Obsidibus acceptis
    • (カエサルは)人質たちを受け取ると、
  • exercitum reducit ad mare,
    • 軍隊を海の辺りへ連れ戻して、
  • naves invenit refectas.
    • 船団が修理されたのを見出す。
 
   船の数が減っていたので、2回に分けて輸送することを決める
  • His deductis,
    • これら(の船)を(海へ)降ろすと、
  • quod et captivorum magnum numerum habebat,
    • 多数の捕虜をかかえていたので、
  • et non nullae tempestate deperierant naves,
    • および、少なからぬ船が嵐によって(すでに)壊滅していたので、
      (訳注:10節を参照。)
  • duobus commeatibus exercitum reportare instituit.
    • 二度の輸送により軍隊を連れ帰ることを決心した。
 
   2回目の輸送船の多くが潮で流されてしまう
  • Ac sic accidit, uti
    • にもかかわらず、以下のようなことが起こったのだ。
  • ex tanto navium numero tot navigationibus
    • これほど多くの船の数でこれほど多くの航海をしながらも、
  • neque hoc neque superiore anno ulla omnino navis, quae milites portaret, desideraretur;
    • この年にも、前の年にも、兵士たちを運搬した船をまったく1つも喪失したことがなかった。
      (訳注:この年は、第二次遠征の紀元前54年
          前の年は、第一次遠征の紀元前55年。)
  • at ex iis, quae inanes ex continenti ad eum remitterentur
    • ところが、空っぽのまま大陸から彼〔カエサル〕のところへ送り返されていたもののうちで、
  • [et] prioris commeatus expositis militibus
    • (それらは)第一の航海の兵士たちを(船からガッリアの陸地に)下船させていたのだが、
  • et quas postea Labienus faciendas curaverat numero LX(sexaginta),
    • および、(嵐の)後でラビエーヌスが造ることを手配していた数60隻のもののうちで、
      (訳注:11節を参照。)
  • perpaucae locum caperent,
    • 非常にわずか(の船のみ)が当地に到達したが、
  • reliquae fere omnes reicerentur.
    • 残り(の船)はほぼすべてが押し流されてしまったのだ。
 
   凪(なぎ)を待って出帆し、大陸に帰着する
  • Quas cum aliquamdiu Caesar frustra ex<s>pectasset,
    • それら(の船団)をカエサルはしばらくの間むなしく待っていたのだけれども、
  • ne anni tempore a navigatione excluderetur,
    • 年間のその時季において(荒天により)航海が妨げられないように、
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凪の海に浮かぶ船の光景
エドゥアール・マネ画)
  • ac summa tranquillitate consecuta,
    • このうえない静けさ〔なぎ〕が続いていたときに、
  • secunda inita cum solvisset vigilia,
    • 第二夜警時が始まると、(船団で)出帆して、
      (訳注:第二夜警時 secunda vigilia は、真夜中に近い「夜遅く」。
          #夜警時 を参照。)
  • prima luce terram attigit
    • 夜明けに陸地に達して、
  • omnesque incolumes naves perduxit.
    • すべての船を無傷のままで連れ戻し終えた。
 
(訳注:カエサルは、ガッリアの情勢に不安を感じていたため、侵攻したブリタンニア南部を支配圏とせずに、人質を連れただけで大陸に帰還した。引き続くガッリアの反乱やポンペイウスとのローマ内戦により、ローマの威令が及ばなくなったブリタンニアは独立を回復した。しかしながら、カエサルの侵攻は、ほんの前兆に過ぎなかった。ローマがブリタンニアに対する本格的な侵略・支配を始めるのは、カエサルが去った年(BC54年)から98年後(AD43年)、帝政ローマ第4代のクラウディウス帝による遠征からである。)

アンビオリークスとエブローネース族の蜂起

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24節

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サマロブリーウァ(Samarobriva)すなわち現在のアミアン市の位置。

ローマ軍団8個半がガッリア北部で冬営する

  • Subductis navibus
    • (カエサルは陸に)船団を引き上げて、
  • concilioque Gallorum Samarobrivae peracto,
    • ガッリア人(領袖)たちの会合をサマロブリーウァにて済ませると、
      (訳注:サマロブリーウァ Samarobriva は、
          ガリア語の地名で「川の上の橋」を意味する。
          アンビアーニー族 Ambiani の首邑で、現在のアミアン (Amiens)。)
  • quod eo anno frumentum in Gallia propter siccitates angustius provenerat,
    • その年のガッリアにおける穀物が、旱魃かんばつのために非常に乏しく収穫されたので、
      (訳注:第4巻37節で、この地域が旱魃であるとの話が述べられた。)
  • coactus est aliter ac superioribus annis
    • (カエサルが)強いられたことは、前の年と異なり、
  • exercitum in hibernis conlocare legionesque in plures civitates distribuere.
    • 軍隊を冬営地に配置して、諸軍団をより多くの部族のところに分屯させることであった。
 
   4個軍団と副官たちをモリニー族、ネルウィイー族、エルウィイー族、レーミー族の領土に駐屯させる
スイスのバーゼル市にあるプランクスの像
 
   3個軍団をベルガエ人の領土に駐屯させる
 
   1個軍団と5個歩兵大隊をエブローネース族の領土に駐屯させる
パドゥス川(現在のポー川)
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ウィキペディアla:Ambiorixの記事がありまへん。
 
 
 
  • Atque harum tamen omnium legionum hiberna
    • それにもかかわらず、これらすべての軍団の冬営地は、
  • praeter eam, quam Lucio Roscio in pacatissimam et quietissimam partem ducendam dederat,
    • ルーキウス・ロスキウスに指揮権を委ねていた非常に平和かつ平穏な地方を除けば、
  • milibus passuum centum continebantur.
    • 100ローママイルと離さずに配置されていた。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、100マイルは約150km)
 
 
(訳注:8節より、この夏にカエサルが保持していた兵力はローマ人8個軍団とガッリア人騎兵4000騎であった。
ブリタンニアへ侵攻した5個軍団のうちから、どのくらいの兵力を失ったのかは不明であるが、
パドゥス川北岸で新たに徴集した1個軍団を併せても、カエサル率いる軍団兵は全部で8個軍団と5個大隊である。
サビーヌスとコッタに付けた5個大隊は、最前線を補強するために他の軍団から引き抜かれたのかも知れない。)

25節

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カルヌーテース族(Carnutes)の名を残す仏シャルトル(Chartres)市街の原野からの眺望

カルヌーテース族の王タスゲティウスが殺される

  • Erat in Carnutibus summo loco natus Tasgetius,
    • カルヌーテース族に、最高の地位の生まれであるタスゲティウスがいた。
  • cuius maiores in sua civitate regnum obtinuerant.
    • その者の先祖たちは、自らの部族で王位に就いていた。
 
  • Huic Caesar pro eius virtute atque in se benevolentia,
    • この者に、カエサルは、彼の武勇と自分〔カエサル〕への好意に報いて、
  • quod in omnibus bellis singulari eius opera fuerat usus,
    • ──というのは(ガッリアの)全戦役において彼の格別の働きを役立てていたので、──
  • maiorum locum restituerat.
    • (タスゲティウスを)先祖たちの地位に復位させてやっていた。
 
  • Tertium iam hunc annum regnantem
    • この者〔タスゲティウス〕が統治してすでに3年目のときに、
  • inimicis iam multis palam ex civitate et iis auctoribus, eum interfecerunt.
    • 部族国家キーウィタースと彼の支持者アウクトルたちの内からもはや公然と多くの者たちが敵対して、彼を殺害した。
      (訳注:上記は α系写本の記述で、β系写本では 下線部が異なり、
          inimici palam multis ex civitate auctoribus interfecerunt となっている。)
  • Defertur ea res ad Caesarem.
    • その事態がカエサルのもとへ報告される。
 
  • Ille veritus,
    • あの者〔カエサル〕は恐れて、
  • quod ad plures pertinebat,
    • (その殺害事件が)非常に多くの者に関係していたので、
  • ne civitas eorum impulsu deficeret,
    • 彼らの部族が扇動によって(カエサルに)背かないように、
プランクスの像。前掲と同じもの。
 
  • Interim ab omnibus legatis quaestoribusque, quibus legiones tradiderat,
    • その間に、諸軍団を委ねていたすべての副官たちと財務官たちから、
  • certior factus est in hiberna perventum locumque hibernis esse munitum.
    • 冬営に到着して、かつ冬営の地が防備されたことが報告された。

26節

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サビーヌスとコッタの冬営があったと推定される古代のアドゥアトゥカ、すなわち現在のベルギートンゲレン市内に残る古代の城壁跡

サビーヌスとコッタの冬営にエブローネース族が襲来

  • Diebus circiter XV(quindecim), quibus in hiberna ventum est,
    • (サビーヌスとコッタの軍団が)冬営に来てからおよそ15日目に、
  • initium repentini tumultus ac defectionis
    • 予期せぬ動乱や謀反の発端が、
  • ortum est ab Ambiorige et Catuvolco;
  • qui, cum ad fines regni sui Sabino Cottaeque praesto fuissent
    • かの者らは、己の王国の領土の辺りで、サビーヌスとコッタに役立っていたのに、
  • frumentumque in hiberna comportavissent,
    • 糧食を冬営に運んで来ていたのに、
  • Indutiomari Treveri nuntiis impulsi
    • トレーウェリー族のインドゥーティオマールスの伝令たちによって駆り立てられ、
      (訳注:下線部 Trēverī は、単数名詞 Trēvir の属格 Trēvirī の別形「トレーウェリーの者の」。)
  • suos concitaverunt
    • 配下の者たちを扇動して、
  • subitoque oppressis lignatoribus
    • 突然に(ローマ側の)材木伐採者たちを急襲して、
  • magna manu ad castra oppugnatum venerunt.
    • 多くの手勢で(サビーヌスとコッタの)陣営のそばへ攻囲するために到来した。
      (訳注:下線部は、α系写本では oppugnātum (目的分詞) だが、
               β系写本では oppugnanda (動形容詞) となっている。)
      (訳注:第6巻32節で後述されるように、
          この陣営はアドゥアトゥカ Aduatuca またはアトゥアトゥカ Atuatuca
          と呼ばれ、ここで勃発する戦闘は後世にアドゥアトゥカの戦いと呼ばれる。)
 
   陣営のローマ勢がヒスパーニア人騎兵を繰り出してエブローネース族を撃退する
 
   エブローネース族が、和議の話し合いを呼びかける
  • Tum suo more conclamaverunt,
    • それから、(エブローネース族は)自分たちの習慣に従って(以下の内容を)大声で呼びかけた。
  • uti aliqui ex nostris ad conloquium prodiret:
    • 我が方〔ローマ勢〕の内から誰かが話し合いをするために(陣営から)進み出て来るように:
  • habere sese, quae de re communi dicere vellent,
    • 自分たち〔エブローネース族〕は、(ローマ人と)共通の状況について申し述べたいと思っている事がある。
  • quibus rebus controversias minui posse sperarent.
    • それらの事によって、争いごとを軽減することができると期待している、と。

27節

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アンビオリークスの弁明と通告

アンビオリークスの銅像。ベルギートンゲレン(Tongeren)市街に建つ。ローマ軍の侵略と闘って撃破した郷土の英雄として、同市が彫刻家ジュール・ベルタン(Jules Bertin)に依頼し1866年に建立した。
 
 
(訳注:ここから、アンビオリークスの話が、間接話法で記される。)
  • sese pro Caesaris in se beneficiis
    • 自分〔アンビオリークス〕は、カエサルの自分への恩恵に対して
  • plurimum ei confiteri debere,
    • 彼に多大なる(恩義がある)ことを認めざるを得ない。
  • quod eius opera stipendio liberatus esset,
    • というのは、彼〔カエサル〕の尽力により貢物から解放されたのだから。
  • quod Atuatucis finitimis suis, pendere consuesset,
    • それ〔貢物〕は、自らの隣人であるアトゥアトゥキー族に貢ぐことが常であったのだ。
      (訳注:部族名は、α系写本では Aduatucī アドゥアトゥキー、
               β系写本では Atuatucī アトゥアトゥキー、
                などとなっている。)
  • quodque ei et filius et fratris filius ab Caesare remissi essent,
    • かつ、カエサルにより(自分の)息子も兄弟の息子〔甥〕も送り返されたのだから。
  • quos Atuatuci obsidum numero missos
    • アトゥアトゥキー族は、人質として(エブローネース族から)送られて来たその者たちを
  • apud se in servitute et catenis tenuissent;
    • 自分らのもとで奴隷状態にして鎖につないでいたのだ。
      (訳注:アトゥアトゥキー族は、第2巻33節でカエサルによってほぼ壊滅されたように記された。
          しかしながら、3年後の本巻では健在である。)
  • neque id, quod fecerit de oppugnatione castrorum, aut iudicio aut voluntate sua fecisse,
    • (ローマ軍の)陣営を攻囲したことについては、自分の判断あるいは意思でしたものではなかったが、
  • sed coactu civitatis,
    • だが、部族国家の強制によってのことである。
  • suaque esse eiusmodi imperia,
    • 自分の支配権は以下のようなものである。
  • ut non minus haberet iuris in se multitudo, quam ipse in multitudinem.
    • 民衆が自分に対して持っている権限は、自身が民衆に持っているものよりも、少なくないのである。
 
  • Civitati porro hanc fuisse belli causam,
    • さらに(エブローネースの)部族国家の戦争の理由は次のことであった。
  • quod repentinae Gallorum coniurationi resistere non potuerit.
    • 予期せぬガッリア人の陰謀に抗し得なかったのである。
 
  • Id se facile ex humilitate sua probare posse,
    • そのことを自分は、自らの微力さから容易に証明することができる。
  • quod non adeo sit imperitus rerum, ut suis copiis populum Romanum superari posse confidat.
    • というのは、自らの軍勢によってローマ国民を制圧できると信じるほど、事情に通じていなくはないからである。
      (訳注:adeō ~ ut ・・・「・・・ほど~」)
 
  • Sed esse Galliae commune consilium:
    • けれども、ガッリアの共同謀議は、
  • omnibus hibernis Caesaris oppugnandis hunc esse dictum diem,
    • カエサルのすべての冬営を攻囲することのために、この日が決められていたのである。
  • ne qua legio alterae legioni subsidio venire posset.
    • (それはローマ軍の)ある軍団が他の軍団の援軍に来られないように、ということである。
 
  • Non facile Gallos Gallis negare potuisse,
    • ガッリア人(であるエブローネース族)が(他の)ガッリア人(の共同計画)を容易に拒絶することはできなかった。
  • praesertim cum de recuperanda communi libertate consilium initum videretur.
    • とりわけ(ガッリア人)共通の自由を回復することについての計略が始まると思われたからである。
 
  • Quibus quoniam pro pietate satisfecerit,
    • 同胞愛に応じて、彼らに満足していたし、
  • habere nunc se rationem officii pro beneficiis Caesaris:
    • 今、自分はカエサルの恩義に対する義務という考えを持っている。
  • monere, orare Titurium pro hospitio,
    • ティトゥーリウス(・サビーヌス)に厚遇に応じて(以下を)求めることを忠告する。
      (訳注:hospitio は、アルピネーイウスとサビーヌスの友情とする解釈、あるいはエブローネース族とサビーヌスの賓客待遇とする解釈に分かれる。)
  • ut suae ac militum saluti consulat.
    • (サビーヌスが)ご自分と兵士たちの身の安全に配慮するように、と。
 
 
  • Ipsorum esse consilium, velintne
    • (サビーヌスたちが)欲する、ご自身らの考えは、どうかね?
  • prius, quam finitimi sentiant, eductos ex hibernis milites
    • 近隣の(部族の)者たちが感づくより前に、兵士たちを冬営から連れ出して、
  • aut ad Ciceronem aut ad Labienum deducere,
  • quorum alter milia passuum circiter quinquaginta, alter paulo amplius ab iis absit.
    • それらのうち前者は約50ローママイル、後者は彼ら〔サビーヌスの軍団〕から少しより遠くへ離れている。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、50マイルは約74 km)
 
  • Illud se polliceri et iure iurando confirmare,
    • 彼〔アンビオリークス〕は、(以下のことを)約束し、誓約することを断言した。
  • tutum se iter per suos fines daturum.
    • 自分は、自らの領土を介する(ローマ勢の)安全な行軍を提供するであろう、と。
      (訳注:下線部の sē は β系写本にあるが、α系写本にはない。)
 
  • Quod cum faciat,
    • そのこと〔軍団の退去〕がなされたとき、
  • et civitati sese consulere, quod hibernis levetur,
    • 冬営にて(負担が)軽減されるので、自分は部族に配慮することになるし、
  • et Caesari pro eius meritis gratiam referre.
    • カエサルの、彼の功績に対して感謝で報いることにもなる。
(訳注:間接話法で記された、アンビオリークスの話が、ここで終わる。)
 

28節

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ローマ陣営の大論争

  • Arpineius et Iunius,
    • アルピネーイウスとユーニウスは、
  • quae audierunt,
  • ad legatos deferunt.
    • 副官たち〔サビーヌスとコッタ〕へ伝えた。
 
  • Illi repentina re perturbati,
    • 彼ら〔サビーヌスとコッタ〕は、予期せぬ事柄に狼狽させられて、
  • etsi ab hoste ea dicebantur,
    • それらのことは敵によって言われていたのだとしても、
  • tamen non neglegenda existimabant
    • しかしながら軽視されるべきではない、と考えていた。
      (訳注:etsītamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
百人隊長(ケントゥリオ)の再演。
 
 
  • Itaque ad consilium rem deferunt
    • それゆえに、戦術会議へその事を報告すると、
  • magnaque inter eos exsistit controversia.
    • 彼ら〔会議の出席者たち〕の間で大きな論争に成った。
 
  • Lucius Aurunculeius
    • ルーキウス・アウルンクレーイウス(・コッタ)
  • compluresque tribuni militum
    • 兵士長官トリブヌス・ミリトゥムの多くの者たち、
      (訳注:1個軍団の定員は6名で、月ごとに2名ずつ3交替で軍団を運営した。)
  • et primorum ordinum centuriones
    • および第一序列の百人隊長ケントゥリオーたち(の多くの者たち)が、
      (訳注:第一歩兵大隊コホルスの百人隊長たちのこと。
          共和制末期においては、他の歩兵大隊の定員6名とは異なり、
          ① Primus Pilus, ② Princeps Prior, ③ Princeps Posterior, ④ Hastatus Prior, ⑤ Hastatus Posterior [16]
          の定員5名。軍団内における下士官のトップ5名であった。)
  • nihil temere agendum
    • 何らやみくもに実行するべきではないし、
  • neque ex hibernis iniussu Caesaris discedendum existimabant;
    • カエサルの命令に反して、冬営から離脱するべきではない、と考えていた。
 
  • quantasvis magnas etiam copias Germanorum
    • さらにゲルマーニア人のどれほどの大軍勢であろうが、
      (訳注:以下のような挿入提案もある。
          quantasvis <Gallorum> magnas etiam copias Germanorum
          「<ガッリア人が>どれほど多勢であろうが、ゲルマーニア人の軍勢でさえも」)
  • sustineri posse munitis hibernis docebant:
    • 防備された冬営で持ちこたえることができる、と説いた。
 
  • rem esse testimonio, quod
    • その証しとなる事とは、以下のことである。
  • primum hostium impetum
    • 最初の敵の襲撃を、
  • multis ultro vulneribus inlatis
    • 向こう側に多くの傷を負わせて、
  • fortissime sustinuerint;
    • とても勇敢に持ちこたえたのだ。
 
  • re frumentaria non premi;
    • (ローマ勢は)糧食補給に迫られていない。
 
  • interea et ex proximis hibernis et a Caesare conventura subsidia;
    • そうしている間に、近隣の冬営からも、カエサルからも、増援が集結して来るであろう。
 
  • postremo quid esset levius aut turpius, quam auctore hoste de summis rebus capere consilium?
    • 結局、敵の言い分によって最重要事態について策を立てるほど非常に軽率で不名誉なことがあるだろうか?

29節

[編集]
サビーヌスが、コッタたちの籠城すべしという主張に反駁する
 
 
  • Caesarem (se) arbitrari profectum (esse) in Italiam;
    • カエサルはイタリアに出発したと(自分=サビーヌスは)思っている。
      (訳注:ここでいうイタリアは、ガッリア・キサルピーナ Gallia Cisalpina のこと。
          属州総督は、護衛の部隊を率いて本土イタリアに入ることは許されなかった。
          しかし、この年の属州総督だったポンペイウスは属州に行かず、首都ローマ郊外に滞在し続けていた。)
  • neque aliter Carnutes interficiendi Tasgetii consilium fuisse capturos,
    • そうでなければ、カルヌーテース族がタスゲティウスを殺害することの策略を立てなかったであろうし、
  • neque Eburones, si ille adesset, tanta contemptione nostri ad castra venturos [esse].
    • エブローネース族は、もし彼〔カエサル〕がいたら、我が方〔ローマ勢〕をこれほど侮って、陣営へやって来ないだろう。
      (訳注:neque ~ neque ・・・「~でもないし、・・・でもない」)
      (訳注:文末から次の文頭の下線部は、主要写本ω では、
          ~ venturos esse non hostem ・・・ だが、
          ~ venturos. sese non hostem ・・・ とする修正提案がある。)
 
  • <Sese> non hostem auctorem, sed rem spectare:
    • <自分(サビーヌス)は>敵をりどころとするのではなく、事実を直視するのである。
  • subesse Rhenum;
    • レーヌス〔ライン川〕は近くにある。
      (訳注:ライン川西岸の諸部族 Germani cisrhenani
          ライン川東岸の諸部族 Germani Transrhenani を呼び寄せている
          というのが『ガリア戦記』の主張である。)
  • magno esse Germanis dolori Ariovisti mortem et superiores nostras victorias;
    • アリオウィストゥスの死も、先の我が方〔ローマ勢〕の勝利も、ゲルマーニア人にとっては大いなる悲嘆である。
      (訳注:第1巻53節ではアリオウィストゥスの敗走が語られたが、
          彼がいつどのように死去したかについては不明である。
          なお、アリオウィストゥス Ariovistus という呼称は、ケルト系ガリア語であると考えられる。)
  • ardere Galliam
    • ガッリアは(痛憤により)燃え上がっている。
  • tot contumeliis acceptis,
    • これほどの恥辱を耐え忍び、
  • sub populi Romani imperium redactam
    • ローマ国民の支配下に置かれて、
  • superiore gloria rei militaris ex(s)tincta.
    • 以前の軍事的な栄誉も消え失せてしまったのだから。
 
 
  • Suam sententiam in utramque partem esse tutam:
    • 自分〔サビーヌス〕の意見は、(以下の)どちらの側においても安全なものである。
  • si nihil esset durius, nullo cum periculo ad proximam legionem perventuros;
    • もし厄介なことが何もなかったならば、何らの危険を伴わずに、近隣の軍団のもとへ到着するであろう。
      (訳注:下線部は、α系写本では esset (接続法・未完了過去)
               β系写本では sit (接続法・現在) となっている。)
  • si Gallia omnis cum Germanis consentiret,
    • もし、全ガッリアがゲルマーニア人と結託しているならば、
      (訳注:下線部は、α系写本では cōnsentīret (接続法・未完了過去)
               β系写本では cōnsentiat (接続法・現在) となっている。)
  • unam esse in celeritate positam salutem.
    • 唯一の身の安全は、迅速(な行動)の中に置かれているのだ。
  • Cottae quidem atque eorum, qui dissentirent, consilium quem habere exitum?
    • 実のところ、コッタおよび(サビーヌスと意見が)相違する者たちの考えは、いかなる結末を生ずるだろうか?
      (訳注:下線部は、多くの写本では habēret (接続法・未完了過去) だが
               habēre (現在・能動・不定法) という修正提案がある。)
 
  • In quo si praesens periculum non,
    • その点において、もし当面の危険がないとしても、
  • at certe longinqua obsidione fames esset timenda.
    • だが確実に、長期の攻囲による飢えが恐れられるべきである。
      (訳注:si non ~ at certe … の構文=「もし~でなくても、いずれにしろ…。」)

30節

[編集]

サビーヌスのさらなる説得

  • Hac in utramque partem disputatione habita,
    • (サビーヌスとコッタの)双方の側において、このような討議がなされて、
  • cum a Cotta primisque ordinibus acriter resisteretur,
    • コッタと第一序列(の百人隊長)たちにより激しく抵抗されていたときに、
      (訳注:下線部は prīmōrum ōrdinum centuriōnēs のことで、
          28節の訳注でふれたように、第一歩兵大隊コホルス百人隊長ケントゥリオたち。1個軍団の定員は5名で、
          ① Primus Pilus, ② Princeps Prior, ③ Princeps Posterior, ④ Hastatus Prior, ⑤ Hastatus Posterior [17]
          今回の1個軍団と5個大隊の内に第一大隊が二つあれば、最大10名いた可能性もある。)
  • « Vincite,» inquit, « si ita vultis,» Sabinus,
    • 「もし、そのように君たちが望むのなら、勝ってみなさい」とサビーヌスは言い放った。
      (訳注:以下、 « ~ »  の箇所は、直接話法で記されている。)
  • et id clariore voce, ut magna pars militum exaudiret:
    • それは、兵士たちの大部分が聴き取れるような、はっきりとした声であった。
  • « neque is sum,» inquit, « qui gravissime ex vobis mortis periculo terrear:  
    • 「私は、君たち〔コッタら〕のうちの死の危険に酷く脅えている者ではないぞ」とも言った。
  •   hi sapient;  
    • この者たちは(事態を)理解している。
      (訳注:サビーヌスの弁舌に耳を傾けている兵士たちのこと。)
  •   si gravius quid acciderit, abs te rationem reposcent,  
    • もし非常に重大なことが起こってしまったならば、(兵士らが)君〔コッタ〕から(判断の)理由を求めることになるであろう。
  •   qui, si per te liceat,  
    • 彼らは、もし君によって許されるのならば、
  •   perendino die cum proximis hibernis coniuncti  
    • 明後日に近隣の冬営に合流して、
  •   communem cum reliquis belli casum sustineant,  
    • 別の(軍団の)者たちとともに、共通の戦争の行く末に耐えるであろう。
  •   non reiecti et relegati longe ab ceteris aut ferro aut fame intereant.» 
    • 撃退されて、他の者たちからまったく遠ざけられて鉄 剣フェッルム あるいは 飢 餓ファエースによって死滅するようなことはない。」
 
(訳注:カエサルの『ガリア戦記』は、発言などのほとんどを徹底して間接話法で記していることが知られているが、
    第4巻25節と本節・44節では珍しく直接話法で記す手法を採っている。)

31節

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論争決し、ローマ勢が陣営を発つ

  • Consurgitur ex consilio;
    • (出席者により)会議(の席)は立たれる。
      (訳注:出席者(たち)は会議の席から立ち上がった。)
  • comprehendunt utrumque et orant,
    • (彼らは)両人〔副官であるサビーヌスとコッタ〕を取り囲んで(以下のことを)懇請する。
  • ne sua dissensione et pertinacia rem in summum periculum deducant:
    • 自分ら〔両副官〕意見の衝突ディセンスィオーや強情さにより事態を極度の危険に陥らせないように、と。
 
(訳注:以下文末まで、会議の出席者たちが話した内容が間接話法の不定法で記されている。)
  • facilem esse rem, seu maneant, seu proficiscantur,
    • (彼らローマ勢が冬営に) 留まろうが、あるいは出発しようが、事態は容易である。
      (訳注:seu ~, seu ・・・;sīve ~, sīve ・・・「~か、あるいは・・・か」)
  • si modo unum omnes sentiant ac probent;
    • もし、皆の者がただ一つ(の方策)を考えて、承認するのならば、だが。
  • contra in dissensione nullam se salutem perspicere.
    • それに対し、意見の衝突ディセンスィオーにおいては、自分たちは何らの身の安全をも見出せないのである。
 
 
 
  • Pronuntiatur prima luce ituros (esse).
    • 明け方に(冬営から)出て行くであろうことが、布告される。
 
  • Consumitur vigiliis reliqua pars noctis,
    • 夜の残りの部分は、徹夜で過ごされる。
  • cum sua quisque miles circumspiceret,
    • なぜなら、めいめいの兵士たちは、自分たちのものを吟味していたからである。
  • quid secum portare posset,
    • 何を、自分とともに持ち運んで行くことができるか?
  • quid ex instrumento hibernorum relinquere cogeretur.
    • 何を、冬営の装備類のうちから置き去りにせざるを得ないのか?
 
  • Omnia excogitantur,
    • あらゆることが、考え抜かれる。
  • quare nec sine periculo maneatur,
    • なぜ(ローマ勢は)危険なしに(冬営に)留まれないのか、
  • et languore militum et vigiliis periculum augeatur.
    • かつ、兵士たちの疲弊や不眠によって危険が増されるのか。
 
  • Prima luce sic ex castris proficiscuntur,
    • (ローマ勢は)明け方に、以下のようにして、陣営から出発する。
  • ut quibus esset persuasum non ab hoste,
    • 彼らが敵により説得されていたのではなく、
      (訳注:sic ~ ut …「…のように」)
  • sed ab homine amicissimo Ambiorige consilium datum,
    • けれどもとても友好的な人物であるアンビオリークスにより忠告されていたかのように。
  • longissimo agmine maximisque impedimentis.
    • 長たらしい行軍隊列アグメンと並外れて大きな輜重を伴っていた。
      (訳注:なお、第2巻24節でも記されたように、
          軍属奴隷カーロー calo と呼ばれる奴隷が1個軍団当たり2000名ほどいたと推定され、
          輜重の運搬などのために使役されていたと考えられるが、
          第2巻以外ではその存在については言及されていない。)

32節

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エブローネース族の伏兵が待ち伏せて、峡谷の隘路でローマ勢を挟撃する(アドゥアトゥカの戦い)
トンゲレン市街の南を流れる川(Jeker)。本節の峡谷に相当すると思われるもの。
  • et, cum se maior pars agminis in magnam convallem demisisset,
    • そして(ローマ勢の)行軍隊列アグメンの大半が大きな峡谷に降りて行ったときに、
  • ex utraque parte eius vallis subito se ostenderunt,
    • その谷の両側から忽然と姿を現わして、
  • novissimosque premere et primos prohibere a(d)scensu
    • (ローマ勢の)最後尾を圧迫し、最前列が(谷を)登ることを妨害して、
  • atque iniquissimo nostris loco proelium committere coeperunt.
    • 我が方〔ローマ勢〕にとってとても不利な場所で、交戦を始めたのだ。

33節

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戦慄するローマ勢
 
   敵の伏兵を予期していなかったサビーヌスが周章狼狽する
  • Tum demum Titurius, ut qui nihil ante providisset,
  • trepidare et concursare cohortesque disponere,
    • あわてふためいて、走り回り、諸歩兵大隊コホルスを配置した。
      (訳注:下線部は、歴史的不定法  Historical Infinitive [18]。)
  • haec tamen ipsa timide
    • しかし、まさにこれらを(サビーヌスが)恐れてしたので、
  • atque ut eum omnia deficere viderentur;
    • あらゆることが彼〔サビーヌス〕を見放したように思われていたほどだった。
  • quod plerumque iis accidere consuevit, qui in ipso negotio consilium capere coguntur.
    • そういったことはたいてい、軍事行動の最中になって作戦を立てざるを得なかった者に起こるのが常である。
 
   コッタは指揮官としての任務に注力する
  • At Cotta, qui cogitasset haec posse in itinere accidere
    • 一方、コッタは、これらのことが行軍中に起こり得ると考えており、
  • atque ob eam causam profectionis auctor non fuisset,
    • かつ、その理由のために、(冬営からの)出発の張本人ではなかったので、
  • nulla in re communi saluti deerat
    • (軍団全体に)共通する身の安全の配慮において、何ら欠けることがなかった。
  • et in appellandis cohortandisque militibus imperatoris
    • 兵士たちに呼びかけて励ますことにおいて、司令官としての(職責を果たし)、
  • et in pugna militis officia praestabat.
    • 戦いにおいて、兵士としての職責を果たしていた。
 
   コッタが、輜重を捨てて、円陣を組むように号令する
  • Cum propter longitudinem agminis
    • 行軍隊列アグメンの長さのゆえに
  • minus facile omnia per se obire et quid quoque loco faciendum esset, providere possent,
    • 自らすべてに取り組むことも、各持ち場で何がなされるべきか予期することも、あまり容易たやすくはできなかったので、
  • iusserunt pronuntiare, ut impedimenta relinquerent atque in orbem consisterent.
    • 輜重を放置し、かつ円形に陣取るように、布告することを命じた。
 
  • Quod consilium
    • この方策は、
  • etsi in eiusmodi casu reprehendendum non est,
    • このような場合とはいえ、非難されるべきものではないが、
  • tamen incommode accidit:
    • それでも不利な結果となった。
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
  • nam et nostris militibus spem minuit
    • なぜなら、(この布告は)我が方〔ローマ勢〕の兵士たちにとって希望を弱めもしたし、
  • et hostes ad pugnam alacriores effecit,
    • 敵勢を戦いへと活気付かせもしたためである。
  • quod non sine summo timore et desperatione id factum videbatur.
    • というのは、この上ない恐怖と絶望なしにそれがなされたとは思われなかったからである。
 
   不安に駆られたローマ兵たちが、戦いの持ち場を離れて、輜重の中の貴重品を確保しようと必死になる
  • Praeterea accidit, quod fieri necesse erat,
    • その上に、当然起こるべきことが生じる。
      (訳注:accidere, ut ~「~ということが生じる」)
  • ut vulgo milites ab signis discederent,
    • 兵士たちが公然と軍旗のもと〔戦列〕から離脱して、
  • quaeque quisque eorum carissima haberet, ab impedimentis petere atque arripere properaret,
    • 彼らのおのおのが最も価値あると思っていたものを、輜重に求めて、かき集めようと急いだのだ。
  • clamore et fletu omnia complerentur.
    • すべてが叫び声と泣き言で満たされていた。

34節

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エブローネース族の作戦

  • At barbaris consilium non defuit.
  • Nam duces eorum tota acie pronuntiare iusserunt,
    • なぜなら、彼らの将帥たち〔アンビオリークスら〕は全戦列に布告することを命じていた。
  • ne quis ab loco discederet;
    • 誰も持ち場から離れるな、と。
  • illorum esse praedam
    • 戦利品は彼らのものであるし、
  • atque illis reservari, quaecumque Romani reliquissent:
    • ローマ人が置き去りにしたものは何であれ彼らに保持される。
  • proinde omnia in victoria posita existimarent.
    • それゆえに、すべては勝利にかかっていると思え、と。
 
  • [Erant et virtute et numero pugnandi pares.]
    • (両軍は)戦うことの武勇も兵力も同等であった。
      (訳注:この文 [ ~ ] は、壊れている箇所があると見なされ、削除する提案もある。)
  • Nostri, tametsi ab duce et a fortuna deserebantur,
    • 我が方〔ローマ勢〕は、たとえ将帥〔サビーヌス〕からも幸運(の女神)からも見捨てられていたとしても
      (訳注:fortuna は、普通名詞「幸運」とも解されるが、
          幸運を神格化した女神 Fortunaフォルトゥーナ」と訳されているものもある。)
ローマ神話の女神フォルトゥーナ(16世紀ルネサンス期のイタリア、ジローラモ・ダ・カルピ画)。気まぐれな運命の女神とも解釈される。
  • tamen omnem spem salutis in virtute ponebant,
    • しかしそれでも、身の安全のすべての希望を武勇にかけていて、
      (訳注:tametsi ~, tamen ・・・「たとえ~だとしても、しかしそれでも・・・」)
  • et quotiens quaeque cohors procurrerat,
    • おのおのの歩兵大隊コホルスが前進するたびに、
  • ab ea parte magnus numerus hostium cadebat.
    • その方面で敵〔エブローネース族〕の多数がたおれていた。
 
  • Qua re animadversa
    • かかる戦況を見て取ると、
  • Ambiorix pronuntiari iubet,
  • ut procul tela coniciant
    • (ローマ勢に対して) 遠くから飛道具を投げよ。
  • neu propius accedant,
    • また、さらに近くへは近づくな。
  • et quam in partem Romani impetum fecerint, cedant;
    • ローマ人が突撃をしている方面では、退却せよ。
  • [levitate armorum et cotidiana exercitatione nihil iis noceri posse;]
    • 武具の軽さと日頃の訓練により、彼ら〔エブローネース兵〕は何ら害されることはない、と。
      (訳注:甲冑・盾と各種の剣や槍を装備したローマの重装歩兵に対して、
          ガッリア兵は着の身姿の軽装であった。)
      (訳注:[ ~ ] の箇所には削除提案されている。)
  • rursus se ad signa recipientes insequantur.
    • 軍旗のもとへ退却する者たち〔ローマ兵〕を再び追撃せよ。
      (訳注:『ガリア戦記』の続編に当たる『内乱記』第2巻41節においても、
           ヌミディア勢がカエサルの部下クーリオーのローマ勢に同様の用兵を採用し、見事に勝っている。
           柔道の創始者 嘉納治五郎は、柔道の極意を「押さば引け、引かば押せ」と言ったという。)

35節

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戦いが続き、ローマ勢が大苦戦に陥る
 
  • Interim eam partem nudari necesse erat
    • その間に(歩兵大隊が離れた)その部分が無防備にならざるを得ず、
  • et ab latere aperto tela recipi.
    • 開けた側から飛道具(による攻撃)を受けた。
      (訳注:軍団兵=重装歩兵は長盾を持つ左手側は飛道具から守られていたが、
          剣を持つ右手側は「開けた側」で、飛道具などに弱かった。)
 
  • Rursus cum in eum locum, unde erant egressi, reverti coeperant,
    • (歩兵大隊が)出て行った当の場所〔円形陣形〕に再び戻り始めるや否や、
  • et ab iis qui cesserant, et ab iis qui proximi steterant, circumveniebantur;
    • (エブローネース勢のうち)後退していた者たちによっても、近隣に踏み止まっていた者たちによっても、攻め囲まれていた。
 
  • Sin autem locum tenere vellent,
    • 他方でもし(円形陣形の)場を保とうと欲すると、
  • nec virtuti locus relinquebatur,
    • 武勇を示す(白兵戦の)場が残されなかったし、
  • neque ab tanta multitudine coniecta tela conferti vitare poterant.
    • これほどの大勢から投げられた飛道具を、密集した状態のままでは避けることができなかった。
 
  • Tamen tot incommodis conflictati,
    • しかし(ローマ勢は)このような不利な状況で、攻撃されており、
  • multis vulneribus acceptis resistebant
    • 多くの傷を受けながら、抵抗していたが、
  • et magna parte diei consumpta,
    • 日中の大部分が費やされ、
  • cum a prima luce ad horam octavam pugnaretur,
    • 明け方から第八時〔昼過ぎ頃〕まで戦われて、
  • nihil quod ipsis esset indignum, committebant.
    • 何ら(ローマ兵たち)自身にとって不名誉なことはやらかさなかった。
 
 
  • Quintus Lucanius, eiusdem ordinis, fortissime pugnans,
    • クィーントゥス・ルーカーニウスも同じ序列にあり、とても勇敢に戦っていたが、
      (訳注:第一序列、すなわち第一歩兵大隊の百人隊長のこと。28節の訳注を参照。)
  • dum circumvento filio subvenit, interficitur;
    • 包囲された息子を救援に来ている間に、討ち取られる。
 

36節

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サビーヌスの命乞い

 
  • Ille appellatus respondet:
    • あの者〔アンビオリークス〕は要求されて(以下のように)答えた。
  • si velit secum conloqui, licere;
    • もし(サビーヌスが)自分〔アンビオリークス〕とともに話し合うことを望むのなら、許可しよう、と。
  • sperare a multitudine impetrari posse, quod ad militum salutem pertineat;
    • (ローマ人)兵士たちの安全に役立つことが(エブローネース族の)大勢によって達せられることを期待する、と。
  • ipsi vero nihil nocitum iri,
    • (サビーヌス)自身は確かに、何ら害されることはないだろうし、
      (訳注:nocitum iri は、「目的分詞+īrī」 で未来の受動態を表す。)
  • inque eam rem se suam fidem interponere.
    • かつ、その事柄に(アンビオリークスは)自らの信義を置くものである、と。
 
  • Ille cum Cotta saucio communicat,
    • 彼〔サビーヌス〕は、負傷しているコッタと協議する。
  • si videatur, pugna ut excedant et cum Ambiorige una conloquantur;
    • もしよろしいと思われるなら、戦いから離れて、アンビオリークスと一緒に話し合おう、と。
  • sperare se ab eo de sua ac militum salute impetrari posse.
    • 彼〔アンビオリークス〕によって自分たちと兵士たちの安全が達せられることを期待する、と。
  • Cotta se ad armatum hostem iturum (esse) negat atque in eo perseverat.
    • コッタは、武装している敵のところへ行くことを拒絶して、そのことに固執した。

37節

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サビーヌスとコッタの最期、ローマ軍団の壊滅
  • Sabinus,
  • quos in praesentia tribunos militum circum se habebat, et primorum ordinum centuriones
    • 目下、自らの周囲に居合わせていた兵士長官トリブヌス・ミリトゥムたち、および第一序列の百人隊長たちに、
      (訳注:28節などの訳注の繰り返しになるが、
          primorum ordinum centuriones とは、第一歩兵大隊コホルスの百人隊長たちのこと。
          共和制末期においては、他の歩兵大隊の定員6名とは異なり、
          ① Primus Pilus, ② Princeps Prior, ③ Princeps Posterior, ④ Hastatus Prior, ⑤ Hastatus Posterior [19]
          の定員5名。軍団内における下士官のトップ5名であった。)
  • se sequi iubet
    • 自分に随行することを命じる。
トンゲレン市の教会堂の前に立つアンビオリークス像(前掲と同じもの)。ヨーロッパ近代のナショナリズムの高揚とともに、彼はカエサルのローマ軍を一敗地にまみれさせたケルト人の武将、「ベルギーの英雄」として大いに祀り上げられた。
 
   サビーヌスと部下たちが殺害される
 
  • Tum vero suo more victoriam conclamant atque ululatum tollunt
    • すると実に、(エブローネース勢は)自分たちの習慣で、勝利を叫んで、雄叫びを上げ、
  • impetuque in nostros facto ordines perturbant.
    • 我が方〔ローマ勢〕に突撃して、隊列を混乱に陥れた。
 
   コッタも多くの兵とともに討ち死にする
  • Ibi Lucius Cotta pugnans interficitur cum maxima parte militum.
    • そこでルーキウス・コッタは戦っていたが、兵士たちの大半とともに殺戮される。
 
   ローマ方の敗残兵が冬営の陣営に引き返す
  • Reliqui se in castra recipiunt, unde erant egressi.
    • 残りの者たち〔敗残兵〕は、そこから出発して来ていたところの陣営に退却する。
 
鷲の徽章の旗手(アクィリフェル)を先頭に行進するローマ兵たちの再演(帝政期のAD70年頃のもの)
ローマ軍団の鷲の徽章(再掲)
  • Ex quibus Lucius Petrosidius aquilifer,
    • その者たちのうち、鷲の徽章の旗手アクィリフェルルーキウス・ペトロスィディウスは、
  • cum magna multitudine hostium premeretur,
    • 敵の大勢によって圧迫されたときに、
  • aquilam intra vallum proiecit,
    • 鷲の徽章アクィラ を防壁の内部に投げ込んで、
  • ipse pro castris fortissime pugnans occiditur.
    • 自身は陣営の前でとても勇敢に戦って、斃される。
      (訳注:第4巻25節の訳注で既述のように、
          アクィラ aquila(鷲の徽章)は軍旗類の一種で、
          その運び手(旗手)は アクィリフェル aquilifer と呼ばれる。
          アクィラは各軍団に一つしかない軍旗であったので、
          これを敵に奪われることはたいへんな恥辱とされていた。)
 
  • Illi aegre ad noctem oppugnationem sustinent;
    • 彼ら(敗残兵たち)は辛うじて夜まで攻囲を持ちこたえたが、
  • noctu ad unum omnes desperata salute se ipsi interficiunt.
    • 夜に、一人残らず身の安全に絶望して、自刃して果てる。
      (訳注:結局、軍団の軍旗であるアクィラ(鷲の徽章)は奪われたと考えられている。)
 
 
(訳注:なお、カエサルは詳しく言及していないが、この軍団は
    第14軍団 Legio XIV Gemina と呼ばれる軍団であったと考えられ、
    この壊滅後にカエサルによって再建されたと考えられている。
    残りの5個歩兵大隊については、他の古参軍団から分遣されたという見方がある。)



37節 訳注:アドゥアトゥカの戦いについて

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このように、アンビオリークスはローマ1個軍団と5個歩兵大隊をまんまと冬営地からおびき出して殲滅した。
著者カエサルはこの一部始終を、若干の敗残兵(本節参照)および敵の捕虜(54節参照)から知ったと思われる。
しかしながら、サビーヌスらの戦術会議での発言内容から投降までの実に詳細な経緯をいかにして知りえたのか?
また、ウネッリ族との戦役(第3巻17節~19節)などでは冷静沈着な智将として描かれていた有能なサビーヌスが、
このアドゥアトゥカの戦い26節~37節)では一転してコッタと対照的な愚将のように描かれているのはなぜか?
この敗戦はガッリア戦争におけるローマ軍最大の敗北であり、当然ながら最高司令官であるカエサルの敗戦責任も
ローマ本国の政敵たち、とりわけ小カトーのような元老院派(オプティマテス)によって厳しく糾弾された。
カエサルは、ガッリアにおける数々の戦闘での虐殺や捕虜売却、ドゥムノリークスの暗殺、および兵力配分の多寡など
この敗戦に結びつきうる自らの方策とは切り離して、この大きな敗戦責任を「愚将」サビーヌス一人に負わせるべく、
脚色して筆を走らせたのかも知れない。
サイドボトム
 古代西洋史研究者ハリー・サイドボトム(Harry Sidebottom)は、カエサルが自己の行動の正当さを宣伝し、
責任逃れをしようとしたと、批評している[20]
ゴールズワーシー
 さらに、評伝『カエサル』[21]を著した軍事史家エイドリアン・ゴールズワーシーAdrian Goldsworthy)は、
「『戦記』でカエサルはこの惨事の責任をすべてサビヌスに押し付けている。[22]
「カエサルはこの責任を自分の総督代理になすりつけようとしたが、それを真に受けた同時代人は、
いたとしてもわずかで、現存する史料はいずれもこれはカエサルの敗北であると理解している。[23]
 などと、この大敗北における最高司令官カエサルの責任に詳細に言及している。

ネルウィイー族らベルガエ人同盟の蜂起

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38節

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アンビオリークスがローマ軍に勝利したアドゥアトゥカの戦い直後の情勢図

アンビオリークスがアトゥアトゥキー族とネルウィイー族を説得

  • Hac victoria sublatus
    • この勝利に高揚すると、
  • Ambiorix statim cum equitatu
  • in Atuatucos, qui erant eius regno finitimi, proficiscitur;
    • 彼の支配圏に隣接していたアトゥアトゥキー族のところへ出発する。
      (訳注:この部族名は写本や巻によってかなり不統一で、
           α系写本では Aduatucī アドゥアトゥキー、
           β系写本では Atuatucī アトゥアトゥキー、
          などとなっている。)
  • neque noctem neque diem <iter> intermittit peditatumque se subsequi iubet.
    • 夜も昼も<行軍を>中断せずに、歩兵隊に対し自らに随行することを命じる。
      (訳注:写本にはないが <iter> <行軍を> の挿入提案がある。)
 
  • Re demonstrata Atuatucisque concitatis
    • 状況が説明され、アトゥアトゥキー族が駆り立てられると、
  • postero die in Nervios pervenit hortaturque,
    • (アンビオリークスは)翌日にネルウィイー族のところに到着して、(以下のように)鼓舞する。
  • ne sui in perpetuum liberandi
    • 自分たちを永久に(ローマ人の支配から)解放することの(機会)、
      (訳注:in perpetuum = in perpetuum tempusin perpetuō
  • atque ulciscendi Romanos pro iis, quas acceperint, iniuriis occasionem dimittant:
    • および彼らがこうむった侵害の報いとしてローマ人に報復することの機会、を無駄にするな、と。
      (訳注:ne ~ dimittere の構文「~を無駄にするな」)
  • interfectos esse legatos duo
    • 2名の副官誅殺ちゅうさつされたこと、
  • magnamque partem exercitus interisse demonstrat;
    • (ローマ人の)軍隊の大部分が滅んだことを、説明する。
  • nihil esse negotii subito oppressam legionem, quae cum Cicerone hiemet, interfici;
    • 不意に攻撃すれば、キケローとともに越冬している軍団が殺戮されることは、何ら面倒はない。
  • se ad eam rem profitetur adiutorem.
    • 自分〔アンビオリークス〕がその事について支援者となることを申し出る。
 
  • Facile hac oratione Nerviis persuadet.
    • (アンビオリークスは)この弁舌によって容易にネルウィイー族を説得する。



38節 訳注:ネルウィイー族とアトゥアトゥキー族について

[編集]
第2巻では、この両部族がカエサルの軍隊と戦って壊滅寸前まで追い込まれたことが記述された。
ネルウィイー族は、3年前の降伏では兵500名および非戦闘員を残してほぼ根絶された(第2巻28節を参照)。
それからわずか3年間で(次節で述べられる)従属部族を従えてローマ人に対抗するまで勢力を回復できたのであろうか。
アトゥアトゥキー族(アドゥアトゥキー族)も3年前の降伏で、生き残りの捕虜5万名余が奴隷として売却され、
衰亡したはずである(第2巻33節を参照)。これもわずか3年間で、ローマ人に背く力を復活できたのか。
あるいは、第2巻におけるカエサルの戦果報告がかなりの誇大な喧伝であったということだろうか。

39節

[編集]
ネルウィイー族がキケローの陣営に襲来
  • Itaque confestim dimissis nuntiis
    • こうして直ちに(ネルウィイー族の)伝令たちが送り出された。
  • ad Ceutrones, Grudios, Levacos, Pleumoxios, Geidumnos,
    • ケウトロネース族、グルディイー族、レウァーキー族、プレウモクスィイー族、ゲイドゥムニー族のもとへ。
      (訳注:Ceutrones は第1巻10節で言及されたアルプス方面の部族 Ceutrones とは同名の別の集団。)
  • qui omnes sub eorum imperio sunt,
    • その者らは皆、彼ら〔ネルウィイー族〕の隷下にある者たちであった。
      (訳注:これらの集団は、第2巻でベルガエ諸部族として言及されておらず、
          ネルウィイー族の支族、あるいは傘下の庇護民と考えられる。)
  • quam maximas manus possunt cogunt et de inproviso ad Ciceronis hiberna advolant,
    • できるかぎり多くの部隊を徴集して、不意にキケローの冬営に突進させるためである。
  • nondum ad eum fama de Titurii morte perlata.
 
  • Huic quoque accidit, quod fuit necesse,
    • 彼〔キケロー〕にもまた(以下のことが)生じるべくして起こる。
  • ut non nulli milites, qui lignationis munitionisque causa in silvas discessissent,
    • 材木伐採と防備のために(冬営から)森の中に離れていた、少なからぬ(ローマ方の)兵士たちが、
  • repentino equitum adventu interciperentur.
    • (ネルウィイー方の)騎兵たちの予期せぬ到来によって(冬営と)遮断されてしまう。
 
 
  • Nostri celeriter ad arma concurrunt, vallum conscendunt.
    • 我が方〔ローマ勢〕は、速やかに武器のところへ急ぎ集まって、塁壁に登る。
 
  • Aegre is dies sustentatur,
    • その日は辛うじて持ちこたえられる。
  • quod omnem spem hostes in celeritate ponebant
    • というのは、敵勢はすべての望みを迅速さにかけており、
  • atque hanc adepti victoriam in perpetuum se fore victores confidebant.
    • この勝利を得れば、永久に勝利者になるであろうと信じて込んでいたのだ。

40節

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キケローの軍団が冬営に籠城して防備を固めるが、ネルウィイー族らによって攻囲される
  • Mittuntur ad Caesarem confestim ab Cicerone litterae,
    • 直ちにキケローによってカエサルのもとへ(伝令たちを介して)書状が送られる。
  • magnis propositis praemiis, si pertulissent,
    • (伝令たちが書状をカエサルのもとへ) 運び終えた場合には、多大な恩賞が呈示されていたが、
  • obsessis omnibus viis missi intercipiuntur.
    • あらゆる道が封鎖されていて、遣わされた者たち〔伝令たち〕は、遮断される。
 
   陣営の防備のために、120基の櫓が建てられる
 
  • Hostes postero die multo maioribus coactis copiis
    • 翌日に、敵勢はさらに大軍勢を徴集して、
  • castra oppugnant, fossam complent.
    • 陣営を攻囲して、塹壕を埋め立てる。
 
  • Eadem ratione, qua pridie, ab nostris resistitur.
    • 我が方〔ローマ勢〕により前日のと同じ方法で抗戦される。
  • Hoc idem reliquis deinceps fit diebus.
    • これに続く残りの日々にも同じことが行なわれる。
 
  • Nulla pars nocturni temporis ad laborem intermittitur;
    • 作業のために、夜の時間帯は何ら中断されることがない。
  • non aegris, non vulneratis facultas quietis datur.
    • 病気の者たちにも、負傷した者たちにも、休息の機会は与えられない。
 
ローマ軍が籠城戦に用いたピールム・ムーラーリスpilum muralis: 防壁槍)の再現。
ローマ軍の防備の再現。3基の櫓(turris)と、その間に凹凸形に編み込まれた柴の壁(pinnae loricaeque ex cratibus)が見える。
pinnae loricaeque:鋸壁や胸壁(凸と凹の壁)の構成
 pinna は凹凸の凸部分で、攻め手の飛道具から身を守る。
 lōrīca は凹凸の凹部分で、攻め手に対して飛道具を投げる。
 
  • Ipse Cicero, cum tenuissima valetudine esset,
    • キケロー自身は、健康がとても虚弱であったが、
  • ne nocturnum quidem sibi tempus ad quietem relinquebat,
    • 夜の時間でさえも、自らの休息のために残しておかなかった。
      (訳注:nē ~ quidem「~ですら・・・ない」)
  • ut ultro militum concursu ac vocibus
    • その結果、兵士たちが自発的に群がり集まって声をかけたので、
  • sibi parcere cogeretur.
    • 自愛せざるを得なかった。

41節

[編集]
キケローがネルウィイー族の詭弁をはねつける
 
   キケローとネルウィイー族代表団の会談
 
  • Errare eos dicunt, si quicquam ab his praesidii sperent, qui suis rebus diffidant;
    • 彼ら〔キケローと部下たち〕が、自らの状況に確信が持てない者たち〔カエサルや副官たち〕に何らかの救援を期待するのならば、
      間違っている、と(ネルウィイー族の代表団は)言う。
  • sese tamen hoc esse in Ciceronem populumque Romanum animo,
    • それでも自分たちは、キケローとローマ国民に対して以下の心積もりでいる。
  • ut nihil nisi hiberna recusent
    • 冬営のほかには、何ら拒絶することはないし、
  • atque hanc inveterascere consuetudinem nolint:
    • (ローマ軍がガッリアに)常駐するというこの慣習を望まないということである。
 
  • licere illis incolumibus per se ex hibernis discedere
    • 自分たちは、かの者ら〔キケローの軍勢〕に、無傷のままで冬営から立ち去ることを許すし、
      (訳注:licere ~ per se …「自分は~に…を許す」)
  • et, quascumque in partes velint, sine metu proficisci.
    • どこへでも望む方面に怖れることなく出発すること(を許す)。
 
   キケローがネルウィイー族の説得に反駁する
  • Cicero ad haec unum modo respondit:
    • キケローは、これらに対して、一つのことだけを返答した。
  • non esse consuetudinem populi Romani ullam accipere ab hoste armato condicionem:
    • 武装した敵たちから何らかの条件を受け入れることは、ローマ国民の慣習ではない、と。
      (訳注:ullam はβ系写本の記述で、α系写本にはない。)
  • si ab armis discedere velint,
    • もし、(汝らが)武器を捨てることを欲するならば、
      (訳注:discedere ab ~「~を捨てる」)
  • se adiutore utantur legatosque ad Caesarem mittant;
    • 自分を介添人として役立てて、カエサルのもとへ使節たちを遣わすべし。
  • sperare pro eius iustitia, quae petierint, impetraturos (esse).
    • 彼〔カエサル〕の公正さのおかげにより、(汝らが)求めることを達成するであろう、と期待する。

42節

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ネルウィイー族らがローマ人の包囲網と攻城術をまねる
  • Ab hac spe repulsi
    • (キケローの軍団を冬営から誘い出すという)この望みから退けられると、
  • Nervii vallo pedum IX <in altitudinem >
  • et fossa pedum XV(quindecim) <in latitudinem> hiberna cingunt.
    • および <幅> 15ペースの堀で(キケローの)冬営を取り巻く。
      (訳注:堡塁の高さは、α系写本の一部では9ペース pedum IX (novem)、
                 β系写本では10ペース pedum X (decem) などとなっている。
                 なお、< > 部分を補った。)
      (訳注:1ペースは約29.6cmで、9ペースは約270cm、10ペースは約3m、15ペースは約4.4m。)
古代ローマの堡塁と堀の再現。アレスィア攻囲戦のもの(フランスのボーヌにあった考古博物館)
 
  • Haec
    • これら〔冬営を取り巻く包囲網〕は、
  • et superiorum annorum consuetudine ab nobis cognoverant
    • 先年来の習慣により我が方〔ローマ勢〕から知っていたものでもあり、
  • et, quosdam de exercitu habebant captivos, ab iis docebantur;
    • (ローマの)軍隊から捕虜にしていた何らかの者たち、彼らから教えられていたのでもある。
      (訳注:quosdam は写本の表記だが、quos clam などの修正提案がある。)
      (訳注:habebant はα系写本の記述で、β系写本では nacti となっている。)
  • sed nulla ferramentorum copia, quae esset ad hunc usum idonea,
    • しかし、これに用いる適切な鉄製器具が豊富になく、
      (訳注:ferramentum は鉄製器具の、あるいは先端が鉄製で尖っている器具で、特に農具などを指す。)
  • gladiis caespites circumcidere,
    • 長剣で芝土を刈り込んで、
  • manibus sagulisque terram exhaurire videbantur.
 
ローマ軍の攻城機械。右上に攻城櫓(tower)、左上に亀甲車(testudo)が見える。
破城鎌(falx)の想像画
  • Qua quidem ex re hominum multitudo cognosci potuit:
    • このような事情からさえも、人員の多さを知ることができた。
  • nam minus horis tribus
    • なぜなら、3時間足らずで
  • milium pedum XV(quindecim) in circuitu munitionem perfecerunt
    • 周囲15,000ペースもの(キケローの冬営を囲む)築城を成し遂げて、
      (訳注:1ペースは約29.6cmで、15,000ペースは約4.4 km。
          写本では「milium 」 となっており、
          milium passsum quindecim「15マイル(約22km)」と読めるが、
          これは冬営を囲むものとしては長大過ぎるのではないかとして、
          さまざまな修正提案がある。)
  • reliquisque diebus turres ad altitudinem valli, falces testudinesque,
    • 残りの日々で、(ローマ側の)堡塁の高さの攻城櫓や、破城鎌、亀甲車を、
  • quas idem captivi docuerant,
    • ──それらは同じ(ローマ軍の)捕虜たちが教えていたものだが──、
  • parare ac facere coeperunt.
    • 調達し、作り始めたのだ。

43節

[編集]
キケローの軍団が果敢に防戦して、ネルウィイー族らを撃退
 
   ネルウィイー勢が火攻めをしかける
 
  • Hae celeriter ignem comprehenderunt
    • これら(の小屋)はすばやく着火して、
  • et venti magnitudine in omnem locum castrorum distulerunt.
    • 風の激しさにより、陣営のすべての場所に(火を)拡げた。
 
  • Hostes maximo clamore, sicuti parta iam atque explorata victoria,
    • 敵たちは、もはや勝利が獲得されて確実になったかのように、とても大きな雄叫おたけびをあげ、
  • turres testudinesque agere et scalis vallum ascendere coeperunt.
    • 櫓と亀甲車を駆って、はしごで堡塁に登り始めた。
 
   ローマ勢が火攻めを怖れずに抗戦する
  • Ac tanta militum virtus atque ea praesentia animi fuit,
    • だが(ローマ勢の)兵士たちの武勇や冷静沈着さがこれほど素晴らしかったので、
      (訳注:tantus ~ , ut ・・・「これほどの~であるので、・・・ほどであった」)
  • ut, cum ubique flamma torrerentur maximaque telorum multitudine premerentur
    • 至る所で、火炎で焼き尽くされ、飛道具の大多数により苦しめられたのに、
      (訳注:ubique はα系写本の記述で、β系写本では undique となっている。)
  • suaque omnia impedimenta atque omnes fortunas conflagrare intellegerent,
    • かつ、自分たちのすべての輜重とすべての所持品が焼失するのを認識していたのに、
  • non modo demigrandi causa de vallo decederet nemo,
    • 誰も(持ち場から)撤収するために堡塁から離れようとしないのみならず、
  • sed paene ne respiceret quidem quisquam,
    • けれども、ほぼ誰も決して後ろを振り返ることさえせずに
  • ac tum omnes acerrime fortissimeque pugnarent.
    • そのとき皆がきわめて猛烈にかつきわめて勇敢に戦ったほどであった。
 
  • Hic dies nostris longe gravissimus fuit;
    • この日は、我が方〔ローマ勢〕にとってきわめて過酷なものであった。
  • sed tamen hunc habuit eventum,
    • にもかかわらず、以下の出来事が生じたのだ。
      (訳注:sed tamen「にもかかわらず」)
  • ut eo die maximus numerus hostium vulneraretur atque interficeretur,
    • その日は敵勢の多数が傷つけられたり、殺戮されたりした。
  • ut se sub ipso vallo constipaverant recessumque primis ultimi non dabant.
    • (敵勢は)堡塁の真下に密集していて、後列の者が前列の者の退却(の機会)を与えなかったがゆえである。
攻城櫓(turris)の例。絵は中世イギリスの物だが、古代ローマの物とあまり違わないと思われる。
 
   炎が弱まって、百人隊長たちがネルイィイー勢を挑発する
  • Paulum quidem intermissa flamma
    • 確かに火炎がいくらか止んで、
  • et quodam loco turri adacta
    • とある場所で攻城櫓が駆動されて
  • et contingente vallum,
    • 堡塁に接触すると、
  • tertiae cohortis centuriones ex eo, quo stabant, loco recesserunt
  • suosque omnes removerunt,
    • 配下たち全員を遠ざけて、
  • nutu vocibusque hostes, si introire vellent, vocare coeperunt;
    • 敵勢に対して、突入することを欲するならば(来るがいい)、と首肯と大声で呼びかけ始めた。
  • quorum progredi ausus est nemo.
    • 彼ら〔敵勢〕のうちで誰もあえて前進して来ようとはしなかった。
 
   ローマ兵の投石によって、ネルウィイー勢が撃退される
  • Tum ex omni parte lapidibus coniectis
    • そこで、すべての方面から(ローマ兵により)石が投げられて
  • deturbati,
    • (敵勢は)駆逐されて、
  • turrisque succensa est.
    • 攻城櫓は燃やされた。

44節

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百人隊長プッローとウォレーヌスの奮戦
(訳注:この節では、α系写本とβ系写本の間で語順や記述など異同が多く、
    校訂版の間でも相異している。)
 
   プッローとウォレーヌスの出世競争
 
  • Hi perpetuas inter se controversias habebant,
    • 彼らは互いに絶え間ない(昇進の)競争をしており、
  • quinam anteferretur,
    • 一体誰がより重用されるのか
      (訳注:下線部は、α系写本では quinam「一体 誰が」
               β系写本では uter alteri「どちらが他方より」となっている。)
  • omnibusque annis de locis summis simultatibus contendebant.
    • 毎年のように、最高の地位について対抗意識をもって争っていた。
      (訳注:下線部は、α系写本では de locis summis simultatibus 「最高の地位について・・・」だが、
               β系写本では de loco summis simultatibus 「最高の対抗意識をもって」となっている。)
 
ローマ軍の投槍(ピルム)と長盾(スクトゥム
  • Ex his Pullo, cum acerrime ad munitiones pugnaretur,
    • 彼らのうちプッローは、防塁のもとで激しく戦われていたときに、
  • « Quid dubitas,» inquit, « Vorene ? 
    • 「何をためらっているのだ、ウォレーヌスよ?」と言った。
      (訳注:以下、 « ~ »  の箇所は、直接話法で記されている。)
  • aut quem locum tuae probandae virtutis exspectas ?
    • 「それとも、君の武勇が認められるべき場所を待望しているのか?」
      (訳注:下線部は、α系写本では pro laude 「賞賛に見合う」
               β系写本では probandae 「認められるべき」となっている。)
  • hic dies de nostris controversiis iudicabit.»
    • 「この日こそが、我々の競争について判定するだろう。」
 
   プッローが敵勢の中に突撃
  • Haec cum dixisset,
    • (プッローは)これらのことを言うや否や
  • procedit extra munitiones,
    • 防塁の外へ進み出て、
  • quaeque pars hostium confertissima est visa, inrumpit.
    • 敵勢が最も密集していると思われた方面へ、突入する。
      (訳注:下線部は、α系写本では parti hostium
               β系写本では hostium pars
               Aldus による修正提案では pars hostium となっている。)
 
   ウォレーヌスも突撃するが、・・・
  • Ne Vorenus quidem sese (tum) vallo continet,
    • ウォレーヌスは決して堡塁に留まっていなかっただけでなく、
      (訳注:tum はβ系写本では sese と vallo の間にあるが、α系写本では下記の位置にある。)
  • sed omnium veritus existimationem subsequitur.
    • 皆の評価を恐れて(プッローに)追随するのだ。
 
  • Tum mediocri spatio relicto
    • そのとき(敵勢から)適度の距離を残したまま、
      (訳注:tum はα系写本ではこの行にあるが、β系写本では上記の位置にある。)
  • Pullo pilum in hostes inmittit
    • プッローは投槍を敵勢の中に放り入れ、
  • atque unum ex multitudine procurrentem traicit;
    • (敵の)大勢から走り出て来る一人を(プッローの投槍が)射貫く。
  • quo percusso et exanimato
    • かの者が(投槍で)刺し貫かれて息絶えると、
  • hunc scutis protegunt in hostem
    • (敵勢は)この敵を長盾で(覆って)護り、
      (訳注:下線部は、α系写本では in hostem
                β系写本では hostes in illum となっている。)
  • tela universi coniciunt neque dant regrediendi facultatem.
    • 総勢が飛道具を投げやって、(プッローに)退く機会を与えない。
      (訳注:下線部は、χ系・BMS写本では tela universi
                β系・LN写本では universi tela となっている。)
 
長剣(グラディウス)を右腰の鞘(ウァギナ)から引き抜いたローマ兵士の再演。左肩から右腰にかけて剣帯(バルテウス)が下げられ、鞘を固定している。バルテウス(balteus)はベルトbelt)の語源。
  • Transfigitur scutum Pulloni
    • プッローにとっては長盾が貫通され、
  • et verutum in balteo defigitur.
    • (敵の)投槍が剣帯に打ち付けられてしまう。
      (訳注:剣帯 balteus は、右の画像のように、
          肩から腰に掛けて、剣の鞘をぶら下げるもの。)
 
  • Avertit hic casus vaginam
    • この出来事が(剣の)さやをずらして、
  • et gladium educere conanti dextram moratur manum,
    • 長剣を引き出そうと試みる者にとって、右手を束縛して、
  • impeditumque hostes circumsistunt.
    • 妨げられている者〔プッロー〕を敵たちが取り囲む。
 
   ウォレーヌスがプッローを助けに来る
  • Succurrit inimicus illi Vorenus
    • 彼の競争相手ウォレーヌスが救援に駆けつけて、
  • et laboranti subvenit.
    • 苦戦する者を援けに来る。
 
  • Ad hunc se confestim a Pullone omnis multitudo convertit:
    • (敵の)大勢は皆、直ちにプッローから彼〔ウォレーヌス〕の方へ向きを変える。
  • illum veruto transfixum arbitrantur.
    • あの者〔プッロー〕が投槍で突き通されたと思われたのだ。
      (訳注:illum veruto arbitrantur occisum 「彼が投槍で殺されたと思われた」
          とする修正読みもある。)
  • Gladio comminus rem gerit Vorenus
    • ウォレーヌスは長剣をもって接近戦で闘い、
      (訳注:上記は α系写本の語順で、
              β系写本では Vorenus gladio rem comminus gerit となっている。)
  • atque uno interfecto
    • (敵の)1人を殺害して、
  • reliquos paulum propellit;
    • 残りの者たちを少し追い払う。
  • dum cupidius instat, in locum deiectus inferiorem concidit.
    • (ウォレーヌスは)熱中して攻め立てる間に、より低い場所に投げ落とされて倒れ込む。
 
   今度はプッローがウォレーヌスを助けて、二人で陣営に帰還する
  • Huic rursus circumvento fert subsidium Pullo,
    • 再び(敵により)包囲された彼〔ウォレーヌス〕に、プッローが救援をもたらして、
      (訳注:下線部は、α系写本の語順で、
                β系写本では subsidium fert となっている。)
  • atque ambo incolumes compluribus interfectis
    • 2人とも無傷で、かなり(の敵)を殺戮して
  • summa cum laude sese intra munitiones recipiunt.
    • 最大級の賞賛を伴って、防塁の内部に退却する。
  • Sic fortuna in contentione et certamine utrumque versavit,
    • このように運命(の女神)は、競争と闘争において両者をもてあそんだので、
  • ut alter alteri inimicus auxilio salutique esset,
    • 競争相手の一方が他方にとって救援・救助となり、
  • neque diiudicari posset, uter utri virtute anteferendus videretur.
    • 2人の一方が他方に武勇でより重んじられるべきか判定できないように思われるのである。
 
(訳注:カエサルの『ガリア戦記』は、発言などのほとんどを徹底して間接話法で記していることが知られているが、
    第4巻25節本巻30節と本節(44節)では珍しく直接話法で記す手法を採っている。)

45節

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ガッリア人伝令ウェルティコーがカエサルにキケローと軍団の危機を伝える
  • Quanto erat in dies gravior atque asperior oppugnatio,
    • 攻囲が日ごとにより激しくより苦しくなるほど、
  • et maxime quod magna parte militum confecta vulneribus res ad paucitatem defensorum pervenerat,
    • ことに、兵士の大部分が負傷により消耗し、戦況が防戦者の少なさに陥ったので、
  • tanto crebriores litterae nuntiique ad Caesarem mittebantur;
    • たびたび書状と伝令がカエサルのもとへ遣わされていた。
      (訳注:quanto ~, tanto … 「~になるほど、…になる」)
Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディアCruciatus (拷問)の記事がありまへん。
  • quorum pars deprehensa
    • その者たちの一部は、捕らえられて、
  • in conspectu nostrorum militum cum cruciatu necabatur.
    • 我が方〔ローマ勢〕の兵士たちの注視する中で 拷 問クルキアートゥス とともに殺されていた。
 
  • Erat unus intus Nervius nomine Vertico, loco natus honesto,
    • (陣営)内にウェルティコーという名のネルウィイー族の者が1人おり、高貴な身分の生まれで、
  • qui a prima obsidione ad Ciceronem perfugerat suamque ei fidem praestiterat.
    • その者は包囲の始めからキケローのもとへ逃れて来て、彼〔キケロー〕に自らの忠節を示していた。
 
  • Hic servo spe libertatis magnisque persuadet praemiis, ut litteras ad Caesarem deferat.
    • 〔キケロー〕は奴隷1人に(身分を)解放する希望と大きな恩賞により、書状をカエサルのもとへ運ぶように、説得する。
 
  • Has ille in iaculo inligatas effert
    • 〔ウェルティコー〕はこれ〔書状〕を投槍に結び付けて運び出して、
  • et Gallus inter Gallos sine ulla suspicione versatus ad Caesarem pervenit.
    • ガッリア人なので、ガッリア人の間で何ら疑われることのなしに歩き回り、カエサルのもとへ到着する。
 
  • Ab eo de periculis Ciceronis legionisque cognoscitur.
    • 彼によって、キケローと軍団の危機が知られることになる。

46節

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カエサルが副官たちに伝令を派遣する
  • Caesar, acceptis litteris hora circiter undecima(Xl) diei,
    • カエサルは、昼間のおおよそ第十一時〔日没前〕 に書状を受け取るや、
  • statim nuntium in Bellovacos ad Marcum Crassum quaestorem mittit,
  • cuius hiberna aberant ab eo milia passuum XXV(viginti quinque);
    • 彼の冬営はそこから25ローママイル離れていたが、
      (訳注1:そこ、すなわちカエサルの本営は、24節および次の47節で言及されるように、
          サマロブリーウァ Samarobriva。ガリア語の地名で「川の上の橋」を意味する。
          アンビアーニー族 Ambiani の首邑で、現在のアミアン (Amiens)。)
      (訳注2:1ローママイルは約1.48 kmで、25マイルは約37 km)
  • iubet media nocte legionem proficisci celeriterque ad se venire.
    • 真夜中に軍団が出発すること、および速やかに(クラッスス自身が)自分〔カエサル〕のもとへ来ることを命じる。
 
  • Exit cum nuntio Crassus.
    • クラッススは(カエサルから遣わされた)伝令とともに(冬営から)出て行く。
 
  • Alterum ad Gaium Fabium legatum mittit,
    • もう1人(の伝令)は、副官 ガーイウス・ファビウスのもとへ遣わす。
      (訳注:このファビウスは前年(BC55年)に護民官
          この年(BC54年)から49年までカエサルの副官を務めた。[24]
  • ut in Atrebatum fines legionem adducat,
    • アトレバテース族の領土に軍団を連れて来るようにと(命じる)。
      (訳注:下線部は、α系写本では Atrebatum
               β系写本では Atrebatium となっている。)
  • qua sibi iter faciendum sciebat.
    • そのところにより、自ら〔カエサル〕によって行軍がなされることを知っていたのだ。
 
 
  • Reliquam partem exercitus, quod paulo aberat longius, non putat exspectandam;
    • (カエサルは)軍隊の残りの部分は、少しより遠くに離れていたので、期待するべきではないと思った。
  • equites circiter quadringentos ex proximis hibernis colligit.
    • 騎兵は、隣の冬営から約400騎を集めた。
      (訳注:下線部は、α系写本では colligit
               β系写本では cogit となっている。)

47節

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カエサルと副官たちの動き
  • Hora circiter tertia
    • 第三時の頃〔朝方〕に、
  • ab antecursoribus de Crassi adventu certior factus,
    • クラッススの到着について(彼の)斥候たちから報告されて、
  • eo die milia passuum XX(viginti) procedit.
    • (カエサルは)その日に20ローママイル前進する。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、20マイルは約30 km)
      (訳注:下線部は、α系写本では procedit
               β系写本では progreditur となっている。)
      (訳注:カエサル自身は、副官トレボーニウスが率いる1個軍団を伴っていたと考えられる。)
キケローを支援するカエサルと軍団の情勢図。カエサルは、本営サマロブリーウァ(Samarobriva)をクラッススに委ね、ファビウスとトレボニウスの軍団とともに東進。ラビエーヌスはトレーウェリー族を迎撃。
 
クラッスス
  • Crassum Samarobrivae praeficit legionemque ei attribuit,
    • (財務官マールクス・)クラッススをサマロブリーウァの指揮官に任じて、1個軍団を割り当てる。
      (訳注:ei はβ系写本の記述で、α系写本にはない。)
      (訳注:サマロブリーウァは、アンビアーニー族の首邑で現在のアミアン。カエサルの本営があったと思われる。)
  • quod ibi impedimenta exercitus, obsides civitatum, litteras publicas,
    • というのは、そこに、軍隊の輜重、諸部族の人質たち、公けの文書、
  • frumentumque omne, quod eo tolerandae hiemis causa devexerat, relinquebat.
    • および、そこで冬を持ちこたえるために運び込んであった糧食を、残しておいたからである。
 
ファビウス
  • Fabius, ut imperatum erat,
    • (副官ガーイウス・)ファビウスは(カエサルから)命令されていたように、
  • non ita multum moratus, in itinere cum legione occurrit.
    • こうしてあまり遅れることなく、1個軍団とともに行軍中に(カエサルと)出会った。
 
ラビエーヌス
  • Labienus, interitu Sabini et caede cohortium cognita,
  • cum omnes ad eum Treverorum copiae venissent,
    • 彼のところへトレーウェリー族の全軍勢が来襲してこようとしていたので、
  • veritus ne, si ex hibernis fugae similem profectionem fecisset, hostium impetum sustinere non posset,
    • もし冬営から逃亡に似た出発をしたならば、敵たちの襲撃を持ちこたえられない、と恐れて、
      (訳注:下線部の ne si は、Oudendorp による修正提案で、
              α系写本では ne のみ
              β系写本では si のみとなっている。)
  • praesertim quos recenti victoria efferri sciret,
    • とりわけ、かの者らが最近の(エブローネース族の)勝利で高ぶっていることを知っていたので、
  • litteras Caesari remittit:
    • カエサルに書状を返信する。
  • quanto cum periculo legionem ex hibernis educturus esset;
    • 軍団を冬営から進発させることが、どれだけ大きな危険を伴うことになるか、
  • rem gestam in Eburonibus perscribit;
  • docet omnes equitatus peditatusque copias Treverorum tria milia passuum longe ab suis castris consedisse.
    • トレーウェリー族の騎兵隊歩兵隊のすべての軍勢が自分の陣営3ローママイル遠くに陣取っていると知らせる。
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、3マイルは約4.4 km)

48節

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カエサルがキケローに返信
  • Caesar, consilio eius probato,
  • etsi opinione trium legionum deiectus ad duas redierat,
    • たとえ3個軍団の期待から当てが外れて2個になったとしても、
      (訳注:副官ファビウスとトレボニウスが率いる2個軍団であると思われる。)
  • tamen unum communis salutis auxilium in celeritate ponebat.
    • それでもなお(全軍)共通の安全にとって唯一の支援策を迅速さにかけていた。
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
 
 
  • Ibi ex captivis cognoscit,
    • そこで捕虜たちから知った。
  • quae apud Ciceronem gerantur,
    • キケローのもとでなされていること 〔攻囲戦〕 を、
  • quantoque in periculo res sit.
    • および、状況がどれほど大きな危機にあるかということを。
 
  • Tum cuidam ex equitibus Gallis magnis praemiis persuadet, uti ad Ciceronem epistolam deferat.
    • そこで、ガッリア人の騎兵隊からある者を、キケローのところへ手紙を運ぶように、大きな恩賞で説得する。
 
ギリシア文字で刻まれたガッリアの碑文
  • Hanc Graecis conscriptam litteris mittit,
  • ne intercepta epistola nostra ab hostibus consilia cognoscantur.
    • (仮に)書状が奪い取られても、我が方〔ローマ勢〕の考えが敵たちによって知られないように。
      (訳注:カエサルは、ベルガエ勢にはギリシア文字を読める者がいないと判断したのであろう。
          ただし、カエサル自身も 第6巻14節 で伝えているように、
          ドルイド僧がギリシア文字を読み書きできることは知っていた。)
 
  • Si adire non possit,
    • もし(キケローの陣営に)近付くことができないならば、
  • monet, ut tragulam cum epistola ad ammentum deligata intra munitionem castrorum abiciat.
    • 革ひもに結び付けられた手紙とともに投槍を(キケローの)陣営の防塁の内側に投げやるようにと、助言する。
      (訳注:下線部は、α系写本では munitionem (単数)
               β系写本では munitiones (複数) となっている。)
 
  • In litteris scribit se cum legionibus profectum celeriter adfore;
    • 書状には、自分〔カエサル〕は(2個)軍団とともに出発して、速やかに到着するであろう、と書いて、
  • hortatur, ut pristinam virtutem retineat.
    • かつての勇敢さを保持するように、と激励する。
 
投槍(tragula)を持ったガッリア人騎兵を復元した人形
  • Gallus periculum veritus,
    • (伝令となった騎兵の)ガッリア人は(敵中での)危険を怖れて
  • ut erat praeceptum, tragulam mittit.
    • 指図されたように、投槍を放つ。
 
  • Haec casu ad turrim adhaesit
    • これ〔投槍〕が、偶然に(キケローの陣営の)櫓に突き刺さって、
  • neque ab nostris biduo animadversa
    • 我が方〔ローマ勢〕により2日間は気付かれなかったが、
  • tertio die a quodam milite conspicitur,
    • 3日目にある兵士により気付かれて、
  • dempta ad Ciceronem defertur.
    • (櫓から)引き抜かれて、キケローのところへ運ばれる。
 
  • Ille perlectam in conventu militum recitat,
    • 彼〔キケロー〕は通読したもの〔手紙〕を兵士たちの集まりで読んで聞かせて、
  • maximaque omnes laetitia adficit.
    • 皆を大いなる歓喜(の状態)に置く。
 
  • Tum fumi incendiorum procul videbantur,
    • やがて火の煙が遠くから見られて、
  • quae res omnem dubitationem adventus legionum expulit.
    • その事が、諸軍団の到来についての疑念を一掃した。

49節

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ガッリア勢がキケローの包囲を解いて、カエサルと対峙する
  • Galli re cognita per exploratores
    • ガッリア人たちは(カエサル到来という)状況を斥候たちを介して知ると、
  • obsidionem relinquunt,
    • (キケローの陣営の)包囲を放置して、
  • ad Caesarem omnibus copiis contendunt.
    • カエサルの方へ全軍勢をあげて急ぐ。
 
  • Hae erant armatae circiter milia LX(sexaginta).
    • この軍勢は、およそ60,000名が武装していた。
 
  • Cicero data facultate
  • Gallum ab eodem Verticone, quem supra demonstravimus, repetit,
    • 前に説明した者と同じウェルティコーから(1人の)ガッリア人を再び得て、
      (訳注:ウェルティコーについては45節を参照)
  • qui litteras ad Caesarem deferat.
    • その者に書状をカエサルのところへ運ばせる。
 
  • Hunc admonet, iter caute diligenterque faciat.
    • (キケローは)この者に、用心深く入念に旅をするようにと忠告する。
 
  • Perscribit in litteris hostes ab se discessisse omnemque ad eum multitudinem convertisse.
    • 書状の中では、敵たちは自陣から立ち去って彼〔カエサル〕の方へ多勢のすべてで転進した、と記す。
 
  • Quibus litteris circiter media nocte Caesar adlatis
    • その書状を真夜中の頃に届けられたカエサルは、
  • suos facit certiores
    • 配下の者たちに報知して
  • eosque ad dimicandum animo confirmat.
    • 彼らの闘争心を鼓舞する。
 
  • Postera die luce prima movet castra
    • (カエサルは)翌日の夜明けに陣営を引き払い、
  • et circiter milia passuum quattuor progressus
    • 約4ローママイル前進すると、
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、4マイルは約6 km)
  • trans vallem et rivum multitudinem hostium conspicatur.
    • 峡谷と小川の向こう側に敵の大勢が視認する。
 
  • Erat magni periculi res tantulis copiis iniquo loco dimicare;
    • これほどわずかな軍勢で不利な場所で争闘することは、大きな危険を伴う事であった。
  • tum, quoniam obsidione liberatum Ciceronem sciebat,
    • そのうえ、キケローが (敵勢の撤収により) 包囲から解放されたのを知っていたので、
  • aequo animo remittendum de celeritate existimabat:
    • 平静な心で(行軍の)速さをゆるめるべきだと考えていた。
  • Consedit et, quam aequissimo loco potest, castra communit,
    • できるかぎり有利な場所に陣取って、陣営(の防備)を固めた。
  • atque haec, etsi erant exigua per se, vix hominum milium septem, praesertim nullis cum impedimentis,
    • そしてこれ〔陣営〕は、それ自体でやっと7000の人員、とりわけ何ら輜重を伴わない貧弱なものであったが、
      (訳注:48節の記述からカエサルは2個軍団を率いていたはずであるが、
          1個軍団の定員は約5000名であるから、その兵力が7000人とは非常に少ない。
          ブリタンニアで多くの兵士が死傷したためか、
          あるいはサビーヌスのもとに5個大隊を分遣したためであろうか。)
  • tamen angustiis viarum quam maxime potest contrahit,
    • それでもなお(陣営内部の)通路の狭さにより、できるかぎり(陣営の大きさを)縮めた。
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~としても、それでもなお・・・」)
  • eo consilio, ut in summam contemptionem hostibus veniat.
    • (これは)敵たちが(ローマ勢を)大いに軽蔑することになるように、との考えによってである。
 
  • Interim speculatoribus in omnes partes dimissis
    • その間に斥候たちがあらゆる方面に送り出されて、
  • explorat, quo commodissime itinere valles transire possit.
    • (ローマ勢に)峡谷を渡らせることができる最も都合の良い道を探索した。
      (訳注:下線部は、α系写本では  valles transire
               β系写本では  vallem transire
               Frigell の校訂は valles transiri と修正している。)

50節

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カエサルが詭計により敵勢をおびき寄せる
  • Eo die parvulis equestribus proeliis ad aquam factis
    • その日は、ごくわずかな騎兵戦が水辺で行なわれたが、
  • utrique sese suo loco continent:
    • (ガッリア勢とローマ勢)双方が自らの陣地を保持する。
 
  • Galli, quod ampliores copias, quae nondum convenerant, exspectabant;
    • というのは、ガッリア人は、まだ集結していなかった、より大きな軍勢を待っていたためである。
 
  • Caesar, si forte timoris simulatione hostes in suum locum elicere posset,
    • カエサルは、おそらく、(ローマ勢が)怖れているという見せかけが敵たちを自陣に誘い出すことができたなら、
  • ut citra vallem pro castris proelio contenderet;
    • 峡谷のこちら側の陣営の前で交戦しようとしていた。
  • si id efficere non posset,
    • もし、それがうまくできなかったならば、
  • ut exploratis itineribus minore cum periculo vallem rivumque transiret.
    • 道を探索して、(軍勢に)小さい危険とともに峡谷と小川を渡らせようとしていたのである。
 
  • Prima luce hostium equitatus ad castra accedit
    • (翌日の)夜明けに、敵の騎兵隊が(峡谷と川を渡ってローマ側の)陣営の方へ接近して、
  • proeliumque cum nostris equitibus committit.
    • 我が方〔ローマ勢〕の騎兵たちと戦闘を交える。
 
  • Caesar consulto equites cedere seque in castra recipere iubet;
    • カエサルは、故意に、騎兵たちに退くこと、および陣営に退却することを命じる。
  • simul ex omnibus partibus castra altiore vallo muniri portasque obstrui
    • すべての方面から陣営がより高い堡塁で防備され、諸門が塞がれるや否や、
  • atque in his administrandis rebus quam maxime concursari et cum simulatione agi timoris iubet.
    • これらの事に従事することにおいて、できるだけ走り回って畏怖の見せかけを伴って行なうように、と命じる。
      (訳注:simul ~ atque ・・・「~するや否や、・・・」)

51節

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カエサルがネルウィイー族らを撃退
  • Quibus omnibus rebus hostes invitati
    • このようなすべての事情に敵たちは誘惑されて、
  • copias traducunt
    • 軍勢に(川を)渡らせて、
  • aciemque iniquo loco constituunt,
    • 戦列を不利な場所に配置する。
 
  • nostris vero etiam de vallo deductis
    • だが我が方〔ローマ勢〕が堡塁からさえも引き下がったので、
  • propius accedunt
    • (ガッリア勢はローマ陣営の)より近くに接近して、
  • et tela intra munitionem ex omnibus partibus coniciunt
    • 飛道具を防壁の内側にあらゆる方面から投げ込んで、
 
  • praeconibusque circummissis pronuntiari iubent,
    • お触れ役をあちらこちらに遣わして(以下のことが)布告されることを命じる。
  • seu quis Gallus seu Romanus velit ante horam tertiam ad se transire, sine periculo licere:
    • ガッリア人あるいはローマ人でも、第三時〔朝方〕の前に当方へ渡って来ることを欲するなら誰でも、危険なく許される。
      (訳注:seu ~ seu …「あるいは~あるいは・・・」)
  • post id tempus non fore potestatem;
    • その時の後では、機会はないであろう、と。
 
  • ac sic nostros contempserunt,
    • (ガッリア勢は)我が方〔ローマ勢〕を以下のように侮っていた。
      (訳注:sīcut ・・・「・・・ように、そのように~」)
  • ut, obstructis in speciem portis singulis ordinibus caespitum,
    • (陣営の四方の)門が見せかけのために1列の芝土で塞がれるや、
  • quod ea non posse introrumpere videbantur,
    • そこ〔門〕を通って突入することはできないと思われていたので、
  • alii vallum manu scindere, alii fossas complere inciperent.
    • ある者は堡塁を手で引き裂くことに、ある者は堀を埋めることに取りかかっていたのだ。
 
  • Tum Caesar omnibus portis eruptione facta equitatuque emisso
    • すると、カエサルは(軍勢を)すべての門から出撃させて、騎兵隊を放って、
  • celeriter hostes in fugam dat,
    • 速やかに敵たちを逃亡に追いやった。
  • sic uti omnino pugnandi causa resisteret nemo,
    • (敗走するガッリア勢の)誰もまったく戦うために抵抗をしないほどであったので、
  • magnumque ex iis numerum occidit
    • 彼らのうちの多数をたおし、
  • atque omnes armis exuit.
    • (戦死した敵の)全員から武器を奪い取る。

52節

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カエサルがキケローの軍団と合流
  • Longius prosequi veritus,
    • (カエサルは)より遠くに追撃することを懸念して、
  • quod silvae paludesque intercedebant
    • というのは、森林や沼地が妨げていたので、
  • neque etiam parvulo detrimento illorum locum relinqui videbat,
    • あの者ら〔ガッリア勢〕にとても小さな損害(を与えること)の余地さえも残されているとは思っていなかったからだが、
      (訳注:下線部は、α系写本では illorum だが、
               β系写本では illum となっている。)
  • omnibus suis incolumibus copiis
    • (こうしてカエサルは)配下の全軍勢を無傷のままで、
      (訳注:β系写本では copiis を欠く。)
  • eodem die ad Ciceronem pervenit.
 
  • Institutas turres, testudines munitionesque hostium admiratur;
    • 敵たちが建造した攻城櫓亀甲車、(陣営を包囲する)防壁に驚嘆する。
  • legione producta,
    • (陣営の前に、キケローの)軍団が引き出されると、
  • cognoscit non decimum quemque esse reliquum militem sine vulnere.
    • 生き残った兵士のおのおの(10人中)10人目も負傷なしではなかったこと、を知る。
      (訳注:軍団の生存者のうち、無傷の者は10分の1もいなかった。)
 
  • Ex his omnibus iudicat rebus,
    • これらすべての事情から(カエサルが)判断したのは、
  • quanto cum periculo et quanta cum virtute res sint administratae.
    • (キケローの軍団により)どれほどの危険とともに、どれほどの武勇とともに、事態が対処されたかである。
 
  • Ciceronem pro eius merito legionemque conlaudat;
    • (カエサルは)キケローと軍団を、彼らの功績に対して、大いに賞賛する。
  • centuriones singillatim tribunosque militum appellat,
    • 百人隊長たちと兵士長官トリブヌス・ミリトゥムたちに個々に呼びかける。
      (訳注:定員通り生存していれば、各軍団には全部で百人隊長59名と兵士長官6名がいた。)
  • quorum egregiam fuisse virtutem testimonio Ciceronis cognoverat.
    • その者らの武勇が抜群であったことを、キケローの証言により(すでに)知っていたのだ。
 
 
  • Postero die contione habita rem gestam proponit;
    • 翌日に(将兵たちの)集会を催して、(サビーヌスらの)事変を公表して、
  • milites consolatur et confirmat:
    • 兵士たちをなだめて、励ます。
  • quod detrimentum culpa et temeritate legati sit acceptum,
    • このような敗戦は、副官〔サビーヌス〕の過失と軽率さにより蒙ったものであり、
      (訳注:副官を意味するlegati が単数・属格であることから、
          サビーヌス1人に敗戦責任を負わせたと考えられる。37節の訳注を参照。)
  • hoc aequiore animo ferendum docet,
    • これをより平静な心で耐えるべきである、と諭す。
 
  • quod beneficio deorum immortalium et virtute eorum expiato incommodo
    • というのは、不死なる神々の恩寵により、および彼ら〔兵士たち〕の武勇により、災厄は除かれ、
  • neque hostibus diutina laetatio
    • 敵たち〔ガッリア勢〕にとっての歓喜も永続的なものではないし、
      (訳注:下線部は、α系写本では laetatio だが、
               β系写本では laetitia となっている。)
  • neque ipsis longior dolor relinquatur.
    • 自分たち〔ローマ勢〕にとっての悲嘆もこれ以上あとに残らないからである、と。

インドゥーティオマールスとトレーウェリー族の蜂起

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53節

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サビーヌス敗死とカエサル勝利の影響
  • Interim ad Labienum per Remos
  • incredibili celeritate de victoria Caesaris fama perfertur,
    • (後述するような)信じられない迅速さで、カエサルの勝利についての話が報知されて、
  • ut, cum ab hibernis Ciceronis milia passuum abesset circiter LX(sexaginta),
    • その結果、(ラビエーヌスの冬営は)キケローの冬営から約60ローママイル離れていたのに、
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、60マイルは約90 km)
  • eoque post horam nonam diei Caesar pervenisset,
    • そこ〔キケローの冬営〕には昼間の第九時の後にカエサルが到着したのに、
      (訳注:昼間の第九時は、夕方近く。)
  • ante mediam noctem ad portas castrorum clamor oreretur,
    • 真夜中の前には(ラビエーヌスの)陣営の門の辺りで雄叫びが起こり、
      (訳注:下線部は、一部の写本では orerētur
                他の写本では orīrētur となっているが、語形の相異。)
  • quo clamore significatio victoriae gratulatioque ab Remis Labieno fieret.
    • その雄叫びにより、勝利の合図と祝意がレーミー族からラビエーヌスになされたほどであった。
 
   トレーウェリー族のインドゥーティオマールスが、ラビエーヌス攻めを一旦思いとどまる
  • Hac fama ad Treveros perlata,
    • この話はトレーウェリー族のもとへ報知されて、
  • Indutiomarus, qui postero die castra Labieni oppugnare decreverat,
    • インドゥーティオマールスは、翌日にラビエーヌスの陣営を攻撃することを決意していたが、
  • noctu profugit copiasque omnes in Treveros reducit.
    • 夜間に逃げ出して、全軍勢をトレーウェリー族(の領土)に連れ戻す。
 
   カエサルが越冬を決意
  • Caesar Fabium cum sua legione remittit in hiberna,
    • カエサルは、ファビウスを配下の軍団とともに冬営に送り返して、
  • ipse cum tribus legionibus circum Samarobrivam trinis hibernis hiemare constituit,
    • (カエサル)自身は3個軍団とともにサマロブリーウァ周辺での3つの別々の冬営で越冬することを決める。
      (訳注:サマロブリーウァは、アンビアーニー族の首邑で現在のアミアン
          カエサルの本営があったと思われる。)
  • et quod tanti motus Galliae exstiterant,
    • というのは、ガッリアでのこれほど大きな動乱が生じていたために、
  • totam hiemem ipse ad exercitum manere decrevit.
    • 冬季の全体を(カエサル)自身が軍隊のもとへ留まることを決意したからだ。
      (訳注:この年は、ブリタンニア遠征の頃に、三頭政治の盟友ポンペイウスに嫁していた
          カエサルの愛娘ユーリア Iulia が亡くなっていたので、カエサルは私人としては
          何としてもローマへ帰還したかったことであろう。)
 
   ガッリア諸部族が互いに使いを走らせ、情勢について密議を凝らす
  • Nam illo incommodo de Sabini morte perlato
    • なぜなら、サビーヌスの死についてあの敗北が報知されると、
  • omnes fere Galliae civitates de bello consultabant,
    • ガッリアのほぼすべての部族国家が戦争について協議していたし、
  • nuntios legationesque in omnes partes dimittebant,
    • 伝令たちや使節団を四方八方に送り出していたのだ。
  • et quid reliqui consilii caperent
    • (彼らは)ほかの(部族の)者たちがどのような計画を立て、
      (訳注:consilium capere 「計画・作戦を立てる」)
  • atque unde initium belli fieret, explorabant
    • どこから戦争の火ぶたが切られるのか、を探っていた。
  • nocturnaque in locis desertis concilia habebant.
    • (人里離れた)さびしい場所で夜通しの会合を催していた。
 
   カエサルが、ガッリア諸部族の動きに悩まされながら冬季を過ごす
  • Neque ullum fere totius hiemis tempus sine sollicitudine Caesaris intercessit,
    • 冬のほぼ全期間は、カエサルの不安なしには、まったく経過しなかったし、
  • quin aliquem de consiliis ac motu Gallorum nuntium acciperet.
    • ガッリア人の謀議や動きについて何らかの報告を受け取ることなしには(経過しなかった)。
 
   アレモリカエ諸部族が攻撃の動きを見せるが、撤退する
  • In his
    • これら(の報告)の中で、
  • ab Lucio Roscio [quaestore], quem legioni tertiae decimae praefecerat, certior factus est
    • 第13軍団を指揮させていた財務官 ルーキウス・ロスキウスにより(以下のことが)報告された。
      (訳注:下線部は、α系写本では quaestore財務官)だが、
               β系写本では legato副官)となっており、
               Oudendorp は削除提案している。)
アルモリカArmorica )またはアレモリカ(Aremorica)と呼ばれる地域の部族分布図。これら大西洋岸地域の諸部族は2年前(BC56年)にカエサルやサビーヌスが率いるローマ軍と戦った。
  • magnas Gallorum copias earum civitatum, quae Ar<e>moricae appellantur,
    • アレモリカエと呼ばれるガッリア人諸部族の大軍勢が、
      (訳注:大西洋岸のアルモリカ(アレモリカ) Ar(e)morica に居住し、
          第3巻でローマ軍と戦った諸部族のことである。)
 
  • oppugnandi sui causa convenisse
    • 自分〔ロスキウス〕を攻撃するために集結して、
  • neque longius milia passuum octo ab hibernis suis afuisse,
    • 自分の冬営から8ローママイルより遠く離れていなかったが、
      (訳注:1ローママイルは約1.48 kmで、8マイルは約12 km)
      (訳注:下線部は、α系写本の一部では milia だが、
               α系写本の残りでは milium
               β系写本では mil だが、
               Beroald は milibus と修正提案している。)
  • sed nuntio adlato de victoria Caesaris discessisse,
    • けれどもカエサルの勝利について報告をもたらされると、撤退し、
  • adeo ut fugae similis discessus videretur.
    • まさに逃亡に似た退散のように見えていたほどであった。
      (訳注:adeō ~ ut ・・・「・・・ほど~」)

54節

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セノネース族の背反、ガッリア諸部族の不穏
 
   カエサルが、ガッリア諸部族の代表を召集して、恐れさせ、なだめすかして盟約を固める
  • At Caesar, principibus cuiusque civitatis ad se evocatis,
    • そこでカエサルは、各部族国家の領袖たちを自分のもとへ呼び付けて、
  • alias territando, cum se scire, quae fierent, denuntiaret,
    • 一方のある者たちには、自分は何が行なわれているか知っていることを示してひどく怖がらせることによって、
      (訳注:下線部の denuntiaret は、Aldus による修正で、
             α系写本では、次の cohortando と magnam の間にあり、
             β系写本では省かれている。)
  • alias cohortando
    • 他方のある者たちには激励することによって、
  • magnam partem Galliae in officio tenuit.
    • ガッリアの大部分を義務への忠実さオッフィキウムに保った。
 
   セノネース族が、カエサルの傀儡かいらいだった王カウァリーヌスを放逐する
  • Tamen Senones,
    • しかしながら、セノネース族は、
      (訳注:セノネース族については、第2巻2節 以来の言及。
          セノネース族 Senonēs(仏語名 Sénons)は、現在のサーンスSens)近辺にいた部族で、
          都市名サーンス Sens も、この部族名に由来する。同市のラテン語名は Agedincum だが、
          これは彼らの首邑のラテン語名であり、第7巻で言及される。
          部族名は「古参の者たち」ガリア語の名前#Senones を参照。)
  • quae est civitas in primis firma et magnae inter Gallos auctoritatis,
    • とりわけ強力で、ガッリア人の間で大きな勢威を持つ部族国家であったが、
      (訳注:前4世紀、セノネース族は、族長ブレンヌスに率いられてアッリアの戦いでローマ軍を大敗させ、
          首都ローマ市街を占領・略奪したと、史家リーウィウスが伝える。)
  • Cavarinum, quem Caesar apud eos regem constituerat,
    • カエサルが彼らのもとで王として就けていたカウァリーヌスを、
  • cuius frater Moritasgus adventu in Galliam Caesaris cuiusque maiores regnum obtinuerant,
    • ──彼の兄弟モリタスグスや彼の先祖たちは、カエサルがガッリアに到来したときには、王権を保持していたのだが、──
      (訳注:モリタスグス Moritasgus は、ケルト神話において信仰されていた癒しの神の名でもある。)
  • interficere publico consilio conati,
    • (カウァリーヌスを)公けの決定により誅殺することを企てた。
  • cum ille praesensisset ac profugisset,
    • 彼〔カウァリーヌス〕は(自身の暗殺の企みを)予感していたし、さらに逃亡していたので、
  • usque ad fines insecuti regno domoque expulerunt
    • (セノネース族は領土の)境界まで追跡して(カウァリーヌスを)王位と郷土から追い出して、
 
  • et, missis ad Caesarem satisfaciendi causa legatis,
    • カエサルのもとへ申し開きをするために使節たちを遣わした。
  • cum is omnem ad se senatum venire iussisset,
    • 彼〔カエサル〕は(セノネース族の)評議会の全員に自分のもとへ来ることを命じていたけれども、
      (訳注:部族国家の合議制統治機関もローマの元老院に倣って senātus と呼ばれるが、ここでは「評議会」と訳す。)
  • dicto audientes non fuerunt.
    • (カエサルからの)指図を聞き入れた者はいなかったのだ。
 
   セノネース族造反のガッリア諸部族への影響
  • Tantum apud homines barbaros valuit esse aliquos repertos principes inferendi belli
    • 戦争をしかけることのとある立役者たちが見出されたことは、野蛮な人間たちのもとで大層な効果があったので、
      (訳注:セノネース族がカエサルの意向に背いたので、挙兵が間近と見なされ、諸部族を煽ることになったのであろう。)
  • tantamque omnibus voluntatum commutationem attulit,
    • かつ(ガッリアの)すべての者たちにとっての意思のこれほど大きな変化を引き起こしたので、以下(の事態)になった。
      (訳注:下線部は、α系写本の一部(χMcLN)では voluntatum (複数・属格)
               β系写本では voluntatis (単数・属格) となっている。
               α系写本の残り(M1BS)では voluntatem (単数・対格) である。)
  • ut praeter Haeduos et Remos, quos praecipuo semper honore Caesar habuit,
    • ──(ただし)カエサルがいつも特別な敬意を払っていたハエドゥイー族とレーミー族を除いての話で、
  • alteros pro vetere ac perpetua erga populum Romanum fide,
    • 前者〔ハエドゥイー族〕はローマ国民に対する昔からの絶えざる信義のため、
      (訳注:6節7節で言及された、カエサルがドゥムノリークスを暗殺した事件については無視されている。)
  • alteros pro recentibus Gallici belli officiis,
    • 後者〔レーミー族〕はガッリア人との戦争での最近の奉仕尽力オッフィキウムのためであるが、──
      (訳注:ガッリアの有力部族のうちで最後までカエサルに造反しなかったのは、レーミー族だけといってもいい。)
  • nulla fere civitas fuerit non suspecta nobis.
    • 我が方〔ローマ人〕にとって疑わしくない部族は、(上記2部族を除いて)ほぼ存在しなかった、ほどであった。
 
   ローマ人の軍門に降ったガッリア人たちの悲憤
  • Idque adeo haud scio mirandumne sit,
    • そのこと〔ガッリア諸部族の不穏〕を、それほど驚くべきものであるとは、私はまったく理解していないのだ。
      (訳注:scio は『ガリア戦記』では珍しい動詞の一人称による表現である。)
  • cum compluribus aliis de causis,
    • 他のいくつかの理由についてと同様に、
      (訳注:cum ~ tum … 「~であるのと同様に…である」)
  • tum maxime, quod ei, qui virtute belli omnibus gentibus praeferebantur,
    • とりわけ根拠として、戦争の武勇においてあらゆる種族に抜きん出ていた者たち〔ガッリア人たち〕が
      (訳注:下線部の ei は、β系写本にはない。)
  • tantum se eius opinionis deperdidisse, ut a populo Romano imperia perferrent,
    • ローマ国民の威令に耐え忍ばなければならないほどまでにも、彼ら自らの評判を台無しにしてしまい、
  • gravissime dolebant.
    • とても激しく悲嘆に暮れていたというわけである。

55節

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トレーウェリー族のインドゥーティオマールスが兵を集める
  • Treveri vero atque Indutiomarus
    • しかし、トレーウェリー族とインドゥーティオマールスは、
      (訳注:インドゥーティオマールスはトレーウェリー族の一方の領袖で、これまでに3節4節53節で言及されている。)
  • totius hiemis nullum tempus intermiserunt, quin
    • 冬の全体を通して、いつ何時も(以下のことに)従事した。
      (訳注:nūllum tempus intermittere, quīn ~「いかなる時も~ことを中断せず(に従事する)」)
  • trans Rhenum legatos mitterent,
    • レーヌスライン川の向こう側〔東岸=ゲルマーニア〕へ使節たちを遣わして、
  • civitates sollicitarent,
    • 諸部族をそそのかして、
  • pecunias pollicerentur,
    • 金銭(の報酬)を約束して、
  • magna parte exercitus nostri interfecta multo minorem superesse dicerent partem.
    • 我が方の軍隊〔ローマ軍〕の大部分が殲滅されて、はるかに少ない一部が生き残ったのみである、と言い放った。
      (訳注:トレーウェリー族が東岸諸部族を招き寄せているという主張は、2節でも言及されている。
            Germani Transrhenani 「レーヌスの向こう側のゲルマーニア人」は、ライン川東岸の諸部族の総称。
            Germani Cisrhenani「レーヌスのこちら側のゲルマーニア人」(西岸の諸部族) の対義語で、
            西岸の諸部族が東岸の諸部族を招き寄せているというのが『ガリア戦記』の主張である。)
 
   ゲルマーニアの諸部族は、渡河に応じず
  • Neque tamen ulli civitati Germanorum persuaderi potuit, ut Rhenum transiret,
    • しかしながら、ゲルマーニアのいかなる部族をも、レーヌスを渡河するようには説得できなかったのだ。
  • cum se bis expertos dicerent, Ariovisti bello et Tencterorum transitu:
    • 自分たちはアリオウィストゥスの戦役およびテンクテーリー族の渡河と二度も(敗北を)体験したので、と彼らは言った。
      (訳注:アリオウィストゥスの敗北は第1巻、テンクテーリー族の敗北は第4巻で述べられている。29節も参照。
          テンクテーリー族の綴りは Thincherorum, Tencherorum など写本によってかなり差異があり、表記が乱れている。)
  • non esse amplius fortunam temptaturos.
    • もうこれ以上は武運を試すことはないであろう、と。
      (訳注:トイトブルク森の戦いの大勝利でゲルマーニア勢がローマ軍3個軍団を壊滅させるのは、
          これより62年後のことである。)
 
  • Hac spe lapsus Indutiomarus
    • インドゥーティオマールスは、(ゲルマーニア人に援軍を乞うという)この希望は頓挫したが、
  • nihilo minus copias cogere, exercere,
    • それにもかかわらず、軍勢を徴集すること、訓練すること、
  • a finitimis equos parare,
    • 近隣から馬匹を調達すること、
  • exsules damnatosque tota Gallia magnis praemiis ad se adlicere coepit.
    • 追放された者たちや断罪された者たちを全ガッリアから大きな報酬で自分のもとへ誘い込むこと、を始めた。
 
  • Ac tantam sibi iam his rebus in Gallia auctoritatem comparaverat,
    • そしてもはや、これらの事柄によって、ガッリアにおいて、自らにこれほどの大きな勢威を得ていたので、
  • ut undique ad eum legationes concurrerent,
    • 四方八方から彼のもとへ(諸部族の)使節団が群がり集まって来ていたほどであり、
      (訳注:tantus ~ , ut ・・・「これほどの~であるので、・・・ほどであった」)
  • gratiam atque amicitiam publice privatimque peterent.
    • (使節たちが彼に)公的にも私的にも厚意や親交を求めたほどであった。

56節

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インドゥーティオマールスの挙兵
 
   インドゥーティオマールスが武装者たちの決起集会を宣言
  • Ubi intellexit,
    • (インドゥーティオマールスは以下のことを) 認識するや否や、
  • ultro ad se veniri,
    • (すなわち、諸部族の使節たちが) 自分のもとへ自発的に来ていること、
  • altera ex parte Senones Carnutesque conscientia facinoris instigari,
    • 一方では、セノネース族とカルヌーテース族が(カエサルに背いた)行状の意識に煽られていること、
      (訳注:セノネース族は、54節で、カエサルが王に据えたカウァリーヌスを放逐した。
          カルヌーテース族は、25節で、カエサルが王に復位させていたタスゲティウスを殺害した、と述べられた。)
  • altera Nervios Aduatucosque bellum Romanis parare,
    • 他方では、ネルウィイー族とアトゥアトゥキー族がローマ人との戦争を準備していること、
  • neque sibi voluntariorum copias defore, si ex finibus suis progredi coepisset,
    • もし(彼が)自らの領土から進軍し始めたならば、彼自身に対して志願兵たちの軍勢に事欠かないであろうこと、
  • armatum concilium indicit.
    • (以上のことを認識するや否や、インドゥーティオマールスは) 武装集会(を催すこと)を布告する。
 
  • Hoc more Gallorum est initium belli,
  • quo lege communi omnes puberes armati convenire consuerunt;
    • そこでは、慣習法に従って(ガッリアの)すべての成人たちが、武装して集結することが慣わしであった
      (訳注:下線部は、α系写本では consuerunt だが、
               β系写本では coguntur「強いられている」となっている。)
  • qui ex iis novissimus convenit,
    • 彼らのうちで最も後から集まって来る者は、
  • in conspectu multitudinis omnibus cruciatibus adfectus necatur.
    • 群集が見ている中で、あらゆる拷問にかけられて殺されるのだ。
 
   インドゥーティオマールスが、政敵キンゲトリークスを敵と宣言
  • In eo concilio
    • その集会において(インドゥーティオマールスは)、
  • Cingetorigem, alterius principem factionis, generum suum,
    • (トレーウェリー族の)もう一方の派閥の領袖であり、自分の婿むこであるキンゲトリークスを、
  • quem supra demonstravimus Caesaris secutum fidem ab eo non discessisse,
    • ──その者は前に説明したようにカエサルへの忠義を追求するために彼のもとから離れていなかったのだが、──
      (訳注:3節4節を参照。)
  • hostem iudicat bonaque eius publicat.
    • (自分の)敵と宣告して、彼〔キンゲトリークス〕の財産を没収する。
 
  • His rebus confectis,
    • これらの事柄を成し遂げると、
  • in concilio pronuntiat
    • 集会において(インドゥーティオマールスは以下のことを)宣言する。
  • arcessitum se a Senonibus et Carnutibus aliisque conpluribus Galliae civitatibus;
    • 自分はセノネース族とカルヌーテース族や他の多くのガッリアの諸部族から招かれている、と。
 
   インドゥーティオマールスが、ラビエーヌスの陣営へ攻め寄せることを下知
  • huc iturum per fines Remorum eorumque agros populaturum
    • レーミー族の領土を通ってそちらへ進軍するであろうし、彼ら〔レーミー族〕の耕地を荒廃させるであろう。
  • ac, prius quam id faciat, castra Labieni oppugnaturum.
    • さらに、それをなすより前に、ラビエーヌスの陣営を攻囲するであろう。
  • Quae fieri velit, praecipit.
    • (インドゥーティオマールスは自分が)なされると欲したことを、指示した。

57節

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インドゥーティオマールスがラビエーヌスの陣営に殺到
 
  • Itaque a Cingetorige atque eius propinquis
    • それゆえに、キンゲトリークスおよび彼の縁者たちにより、
  • oratione Indutiomari cognita, quam in concilio habuerat,
    • インドゥーティオマールスが(前述の)集会において述べた演説について知らされると、
  • nuntios mittit ad finitimas civitates equitesque undique evocat;
    • (ラビエーヌスは)近隣の諸部族国家のもとへ伝令たちを遣わして騎兵を至る所で徴募して、
      (訳注:下線部は、α系写本では nuntios mittit だが、
               β系写本では circummittit となっている。)
  • his certum diem conveniendi dicit.
    • 彼ら〔騎兵たち〕に期日に集結するように告げる。
 
  • Interim prope cotidie cum omni equitatu Indutiomarus sub castris eius vagabatur,
    • その間にほぼ毎日、インドゥーティオマールスは全騎兵隊とともに彼〔ラビエーヌス〕の陣営のもとをうろついていた。
  • alias ut situm castrorum cognosceret,
    • あるときは、陣営の状況を知るために、
  • alias conloquendi aut territandi causa;
    • あるときは、(ラビエーヌス側と)談判して、ひどく恐れさせるために。
  • equites plerumque omnes tela intra vallum coniciebant.
    • 騎兵たちは、たいてい皆で飛道具を防柵の内側に投げ込んでいた。
      (訳注:下線部は、主要系写本ωでは omnes だが、
                eminus「遠くから」という修正提案がある。)
 
  • Labienus suos intra munitionem continebat
    • ラビエーヌスは配下の者たちを防塁の内側に留めておき、
      (訳注:下線部は、α系写本では munitionem(単数・対格) だが、
               β系写本では munitiones(複数・対格) となっている。)
  • timorisque opinionem, quibuscumque poterat rebus, augebat.
    • (ローマ人がトレーウェリー族を)恐れているという風評を、可能なあらゆる手段において、増大させていた。

58節

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インドゥーティオマールスの最期
  • Cum maiore in dies contemptione Indutiomarus ad castra accederet,
    • インドゥーティオマールスは日ごとにより大きな侮りをもって(ラビエーヌスの)陣営に近づいていたので、
  • nocte una intromissis equitibus omnium finitimarum civitatum, quos accersendos curaverat,
    • (ラビエーヌスは)呼び寄せることを手配していた近隣諸部族の全騎兵を一晩のうちに(陣営内に)入れてやり、
      (訳注:下線部は、α系写本では accersendos
               β系写本では arcessendos となっているが、語形のちがい。)
  • tanta diligentia omnes suos custodiis intra castra continuit,
    • これほどにも注意深く、配下の全員を監視することによって陣営内部に留めておいたので、
  • ut nulla ratione ea res enuntiari aut ad Treveros perferri posset.
    • 結果として、その事態は、いかなる手段によってもトレーウェリー族へ漏らされたり報知されたりできなかった。
 
  • Interim ex consuetudine cotidiana Indutiomarus ad castra accedit
    • その間に、毎日の習慣から、インドゥーティオマールスは(ラビエーヌスの)陣営の辺りへ近づいて、
  • atque ibi magnam partem diei consumit;
    • 日中の大部分をそこで過ごす。
  • equites tela coniciunt
    • (トレーウェリー族の)騎兵たちは(ラビエーヌスの陣営に)飛道具を投げ込んで、
  • et magna cum contumelia verborum nostros ad pugnam evocant.
    • 激しい言葉の侮辱とともに、我が方〔ローマ勢〕を戦いへと呼びかける。
 
  • Nullo ab nostris dato responso,
    • 我が方からは何ら返答を与えなかったので、
  • ubi visum est, sub vesperum dispersi ac dissipati discedunt.
    • (トレーウェリー族は)良いと思われる頃、夕方頃に、分散して三々五々に撤収する。
 
  • Subito Labienus duabus portis omnem equitatum emittit;
  • praecipit atque interdicit,
    • (ラビエーヌスはその際に以下のように)指示し、かつ禁じる。
  • proterritis hostibus atque in fugam coniectis
    • 敵たちがひどく脅えて、逃亡に追いやられたときに、
      (訳注:下線部は、α系写本では proterritis
               β系写本では perterritis となっているが、ほぼ同義語。)
  • (quod fore, sicut accidit, videbat)
    • ──そのことは起こるべくして成るであろうと(ラビエーヌスは)思っていたが、──
  • unum omnes peterent Indutiomarum,
    • インドゥーティオマールス1人を(騎兵隊の)総勢で追い求めるように、と。
      (訳注:下線部は、α系写本では peterent (petō の3人称複数・未完了過去・接続法)
               β系写本では petant (petō の3人称複数・現在・接続法)となっている。)
  • neu quis quem (alium) prius vulneret, quam illum interfectum viderit,
    • あの者が殺されるのを見届けるより前には、(他の) 誰をも傷つけないように、と。
      (訳注:alium は β系写本の記述で、α系写本にはない。)
  • quod mora reliquorum spatium nactum illum effugere nolebat;
    • というのは(敵の)ほかの者たちが滞ることで、彼が猶予を得て逃げることを望まなかったのだ。
 
 
  • Comprobat hominis consilium fortuna,
    • 運命(の女神)はその人〔ラビエーヌス〕の考えを是認して、
  • et cum unum omnes peterent,
    • 1人を総勢が追い求めたので、
  • in ipso fluminis vado deprehensus Indutiomarus interficitur,
    • ちょうど川の浅瀬において捕捉されたインドゥーティオマールスは殺害され、
  • caputque eius refertur in castra;
    • 彼の(斬り取られた)頭部は陣営に運ばれる。
  • redeuntes equites, quos possunt, consectantur atque occidunt.
    • 引き返して行く(ローマ側の)騎兵たちは、できるかぎり(多くの敵)の者たちを追捕して、たおす。
 
 
 
 

脚注

[編集]
  1. ^ Pirustae - Latein-Deutsch Übersetzung (PONS)
  2. ^ Pirustae - Ancient Greek (LSJ)
  3. ^ マールクス・キケローから弟クィーントゥス・キケローへの手紙の記事は、ラテン語版 Epistulae ad Quintum Fratrem(誤植あり)、英語訳は Epistulae ad Quintum Fratrem(ウィキペディア英語版)s:en:Letters to his brother Quintus(ウィキソース英語版)などがある。
  4. ^ w:en:Prehistoric_Britain#Late_pre-Roman_Iron_Age_(LPRIA) などを参照。
  5. ^ 南川高志著『海のかなたのローマ帝国 古代ローマとブリテン島』(増補版2015年、岩波書店)を参照。
  6. ^ C. Julius Caesar, Gallic War, Book 5, chapter 12(英訳)等を参照せよ。
  7. ^ 真鍮しんちゅうは、は紀元前のブリテン島にも普及していたらしい。w:en:Brass#Roman_world 等を参照せよ。
  8. ^ w:en:Ancient_Celtic_religion#Animal_sacrifice などを参照。
  9. ^ remissus/remissa/remissum, AO - Latin is Simple Online Dictionary
  10. ^ Latin Definition for: humanus, humana (ID: 22379) - Latin Dictionary and Grammar Resources - Latdict
  11. ^ w:en:Polyandry#Europe を参照。
  12. ^ 英訳head over heels[1]、もんどり打った。
  13. ^ ウェルラミウム(Verulamium)は、カッスィウェッラウヌスの部族の城塞都市。
  14. ^ エイドリアン・ゴールズワーシー著『カエサル(下)』を参照。
  15. ^ Charlton T. Lewis, Charles Short, A Latin Dictionary, Cativolcus などを参照。
  16. ^ 英語版記事 w:en:Centurion#Seniority を参照。
  17. ^ 英語版記事 w:en:Centurion#Seniority を参照。
  18. ^ Other Uses of the Infinitive | Dickinson College Commentaries 等を参照。
  19. ^ 英語版記事 w:en:Centurion#Seniority を参照。
  20. ^ Ancient Warfare: A Very Short Introduction, by Harry Sidebottom, Oxford University Press, 2005, ISBN 978-0192804709.日本語訳『ギリシャ・ローマの戦争』ハリー・サイドボトム著、吉村忠典・澤田典子訳、岩波書店、2006年、ISBN 978-4-00-026886-8.
    の日本語訳p.131-140を参照。
  21. ^ 邦訳『カエサル(下)』宮坂渉 訳、白水社、ISBN 978-4-560-08230-0 (品切れ・重版未定)
  22. ^ 原文では、In the Commentaries Caesar places all the blame for the disaster on Sabinus.
  23. ^ 原文では、Caesar tried to shift the blame onto his legate, but few if any of his contemporaries were fooled and all our sources see this as his defeat.
  24. ^ w:en:Fabia_gens#Others

参考リンク

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